「…兄さん、私に彼を紹介してくれない?」

「いいですけどあげませんよ?

 わかってるよ
 流石に二度も命の危険にさらされたくないし


「それでは紹介しますね
 彼の名前はジュン――…ボクの全てです」

 惚気るな


「ジュンにも改めて紹介しますね
 彼はボクの弟で名前は―――…」

ルイージ?

 違う

 さっき自己紹介したじゃないか
 って言うかベタベタなボケかまさないで…!!



「と、とにかくジュン…よろしくね?」

「ああ、こちらこそ」

「彼は何よりも愛おしい琥珀色の天使なのですよ
 ジュンが傍にいてくれるだけでボクは天にも昇る気持ちです」

「……………。」

 戻って来い
 勝手に昇天するな――…迷惑だから

 って言う、こんなセリフを堂々と言ってのける兄さんの脳内構造が信じられないよ…


「兄さん…昔から優男っぽいとは思ってたけどさ
 何もこんな行き過ぎたホストみたいにならないでよ」

「今日の夕日は沈むのが早いですね
 ジュンがあまりにも綺麗だから太陽が照れてしまったのでしょうか…ふふふ」

 話を聞いてよ


 兄さんはいつまで口説いてるつもりなんだろう…
 もしかして、これが日常会話だっていうオチは無いよね…?

 どっちにしろジュンの苦労が偲ばれる
 この兄が相手ではさぞ大変だろう…

 ちょっぴり目頭が熱くなるシルバーだった





「何だか茶飲んでたら腹減ってきたな…」

「さっき、おにぎり買ったのですよ
 シルバーも、よかったらどうぞ」

「あ、ありがとう…」

 いつの間にか空気はピクニックモード
 まぁ、殺伐としているよりは健全で良いんだけどさ…


「はい、ジュンには散らし寿司のおにぎりです」

「へえ…彩りが綺麗だな
 このピンク色のやつ、桜でんぶって言ったっけ?
 幼稚園の頃、これが弁当の中に入ってると嬉しかったな…」

 ジュンは幼稚園の頃も可愛かったんだろうね…

 弁当箱を前に瞳を輝かせている園児の姿
 想像すると心の中がほのぼのと幸せな気分になる

 シルバーは思わず表情を綻ばせた


「ボクはいつも『でんぶ』を『臀部』と脳内変換してしまうのですよ
 桜色の甘い臀部だなんて、いやんエッチ――…とか考えてるのはボクだけじゃない筈です」


 お前だけだ


 …って言うか…兄さん……
 そんな爽やかな笑顔で…下ネタって…

 ほのぼのした雰囲気がぶち壊しだよ


「若く見えても中身はオヤジか」

「兄さん、馬鹿っぷりに拍車かかったね」

「二人とも…視線が冷たいのです…」

 くすん、と泣き真似をして見せるゴールド
 今更可愛い仕草をされても…ねぇ…


「まぁ、気を取り直して食べましょう
 はい、シルバーはこれをどうぞ
 中身は舐めるように移動する無脊椎動物です」

 何を食わせる気だ


「…兄さん…このおにぎり、中で何か動いてるんだけど…?」

「よかったですね」

 よくないよ



「ジュン、頬にご飯粒がついてます
 ふふふ…本当に可愛いですねぇ…」

「え―――…って、こら
 勝手に俺の顔を舐めるな」

「ジュンが美味しそうなのがいけないのです
 今すぐにでも食べてしまいたいですよ――…」

 あーあ…
 何か二人の世界に入ってるよ

 シルバーは彼らを傍目に息を吐く
 こうなると己の存在が邪魔者だという事を認めざるを得ない

 まぁ、私だって馬に蹴られて死にたくないし―――…



   



「顔を舐められるのは嫌ですか?
 じゃあ、ここならどうでしょう―――…」

「うわっ!!
 ば、馬鹿…何するんだ」

「ふふふ…真っ赤になって、可愛いですねジュンは」

「こ、こら…止め―――…!!」


 ……………。

 二人の恋路を邪魔する気は無い
 邪魔をする気は無いんだけど―――…

 これは流石に止めるべきかな


 視覚的に考えても風俗的に考えても罪だし
 正直言って私自身、見るに耐えないし…

 うん、やっぱり止めさせよう



「ね、ねえ兄さん?
 ここは外だから――…」

「ああ…ジュン…
 夕日に照らされた貴方も素敵です…」

 聞いてよ兄さん


「ジュン…愛していますよ…」

「あっ…馬鹿、脱がすなって―――…あぁ…ん…っ!!」

 何してんだよ兄さん


「や、止め…っ…!!
 こんな所で、誰かに見られたら――…!!」

「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ、ジュン…
 ここにはボクたち二人以外は誰もいませんよ」


 目の前に私がいるんだよ兄さん…!!


「…ゴールド…俺、恥ずかしい…」

「困らせてしまいましたね…
 ジュンはこんなボクの事でも愛してくれていますか?」

「…当たり前だろ…今更聞くな、馬鹿」

「ふふふ…愚問でしたね
 ボクもジュンの事、愛していますよ」

 唐突に空気がピンクに染まる
 夕日を背景に糖度の高い会話が繰り広げられていた


「…に、兄さん…」

 あのさ…頼むから、
 他所でやってよ


「ボクの視線はジュン、貴方に釘付けです」

「俺だって、お前の事しか見えてない…」

 沈む夕日
 見つめ合う二人

 そして

 完全に無視されてる私


 良いんだ、別に
 お邪魔虫だって事は理解してるから

 やっぱりここは早々に退散した方が良い
 二人の為にも、そして自分の心の平穏の為にも

 でも―――…


「ジュンの唇はいつでも甘くて美味しいですね」

「…お前の唇の方が甘いぞ…」

 ……………。

 既に公害と化しているカップル
 これをこのまま放置して帰っても良いのだろうか


「ジュン、海より深く愛してます
 貴方の為なら、この大陸全てを地獄絵図に変えても構いません」

「ゴールド、俺だってお前の為ならこの町を破滅させてもいい…」


 何を始める気だ

 別に愛を囁きあってもいい
 甘いムードに酔い痴れてもいい

 だからさ、
 頼むからさ、

 こっちを巻き込まないで



「ち、ちょっと兄さん…」

「――…と、ボクたちの愛の深さを見せ付けた所で本題です
 ちょっとシルバーに聞きたい事があったのですよ」

 見せ付けてたの!?


「あ、あのねぇ…兄さん…
 私はこう見えても暇じゃないんだよ」

「ボクから見れば暇人丸出しに見えました
 ジュンを連れ出して襲おうとしてましたからね」

「…べ、別にあれは―――…」

 特に下心があったわけじゃない
 少しだけ話がしたかっただけ――…なのだが

 どちらにしろナンパした事に違いは無い


「こう見えてもボクは嫉妬深いのですよ
 ジュンの手前、物理的手段には訴えませんが――…」

「わ、わかったよ兄さん
 何でも聞いてよ、それでチャラだからね」

 この兄の場合、何をしでかすか予測できない
 それでなくても過去の因果で恨まれているというのに


「シルバーの主人、貿易関係の仕事をしているそうですね
 となれば裏ルートを走る船の情報も少なからず持っているでしょう?」

「う、裏ルートって…」

「あえて言葉を濁してあげているのですよ
 とにかく、そちらの方へのトランスファー・チケットの手配をお願いしますね」

 にこりと微笑む兄に黒い影が見え隠れする
 何やらよからぬ犯罪の香り―――…


「に、兄さん…
 腹黒い性格なのは薄々感じてたけど、
 まさか本当に犯罪に手を染めてるなんて…」

「いや、犯罪までは行ってないのですけど」

「ほ、本当?
 実は個人情報流出させたり、
 変な薬物とか作ったりしてない?」


「………えーっと……」

 心当たりあり過ぎ

 ゴールドの視線が宙をさまよう
 そういう聞かれ方をされると返答に詰まる


「じ、ジュン…フォローして下さい…」

「シルバー、安心してくれ
 情報を流す事は昨年から止めた
 ゴールドはこっちにの方に寝返ったからな
 まぁ、その分敵が増えたりとかはしたわけだが…」

 妙にドス黒いキーワード満載
 これでどう安心しろと!?

 って言うか、去年までの兄さんの身に一体何が!?
 何やってたんだよ兄さん―――…っ!!


「で、その代わりに昨年辺りからを始めてな
 とは言っても個人的に楽しんだり、
 友人に配布する程度だから安心してくれ」

 安心できる要素が見つからない


「に、兄さん…何があったの?」

「そうですね…簡単に言えば、
 真実の愛に目覚めたという事です」

 わかんないよ!!
 話が繋がってないよ!!


「に、兄さん…」

「シルバー、深く聞かない方が身の為です
 大人しくお願いを聞いてくれさえすれば、
 巻き添えを食ったり口封じの為に消される事は無いです」

 人はそれを脅迫と呼ぶ
 って言うか本当に私、安全なの!?



「兄さん…あの…」

「じゃあ、よろしくお願い致しますよ
 また明日伺いますから、そのつもりで」

「えっ…ち、ちょっと、そんな勝手に―――…」

「…ゴールド…いつになく強引だな…」

「身内ですし、遠慮するような相手でもないですから」

 ちょっとは遠慮してよ…兄さん…
 親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってるよね…?


「ごめんな、ゴールドの奴が色々と」

「いや、ジュンからの頼みだと思えば良いよ」

 どうせなら苦手な兄よりも、好みの青年からの頼み事を叶えたい
 兄の恋人という所が引っかかるが、考えようによっては義弟と言えるわけで

シルバーお義兄ちゃんとか呼ばれてみちゃったり…


「これはこれで…良いかもね…」

「…ゴールド、やっぱりお前の弟だな
 嗜好がイってる所がそっくりだ」

「ボクってそんなに変な趣味ですか?」

「裸エプロン姿で『アナタお帰りなさい』って言わせたり、
 白シャツに靴下のみで生活させたり―――…かなりイってるぞ」

 そんなのと私を一緒にしないで

 って言うか兄さん
 そんな事させてたんだ…


「一週間に五日は犯りますからね
 マンネリ化しない為にも必要なのですよ」

 犯る言うな

「ちなみに一日の平均回数は――…」

 聞きたくないよ


「…もう、帰っていいかな…?」

「おや…これでは不満ですか?
 もっとねっとりした濃い内容が聞きたいのですね
 シルバーが望むなら、シチュエーションから体位まで細かく――…」

 要らない


「お願いだからからもう帰らせてよ…
 日が沈むまでに戻らないと、ご主人様が心配するんだから」

「成程…夜の秘め事ですか」

 秘めてないよ
 どんな想像してるんだよ兄さん…っ!!


「弟の甘い夜を邪魔するのも忍びないですね
 心惜しいですがボクたちはここで一旦退散する事にしましょう」

「そうだな…俺たちも戻るか
 明日も忙しくなりそうだし――…」

「ええ、明日は朝一でシルバーを訪ねなければなりませんし」

来なくていいよ!!

「じゃ、また明日」

「…………。」


 ご、強引だよ兄さん…
 いつからそんな性格に――…いや、昔からこうだったのかも…

 どっと疲れが押し寄せる

「…はぁ…10年分の疲労が一気に来た気分…」

 遠ざかる二人の背を見送りながら、
 シルバーは未だかつて無いほどの盛大な溜息を吐いた



 原作とのあまりの違いに戸惑いがちなzayoにござります
 ははは…コケにされるシルバーが書きたかっただけなのじゃがな

 ゴールドはシルバーに容赦ありませぬ
 昔から弟に対してだけは強かったのじゃろうな
 笑顔の圧力が彼の最大の武器なのじゃよ(笑)

 そしてジュンもシルバーの事は良く思っておりませぬ
 彼にとっては『ゴールドを裏切った憎い相手』という認識しかござらぬからのぅ
 この点に関しては原作通りの設定にござりまするな

 ちなみに原作ではシルバー×ゴールドとかもあったのじゃが、
 web版では、ただひたすらにシルバーをコケにする事に全力を注ぎまする…コメディ全開じゃな

 シルバーのお話も、そろそろ完結致しまする
 後もう少しだけお付き合い下さりませ―――…