「おお、思ったより早かったではないか」



 帰宅したら、今度は時代錯誤少年の出迎え
 何かに祟られているのではないか…とさえ思えてくる状況に疲労感は尽きない


「…もう、ほっといてくれ…
 わしは疲れ果てているんだ…静かに眠らせてくれ…」

「何じゃ、辛気臭いのぅ
 外で何があったのじゃ?」


 どう話したものか…


 色々あり過ぎて、頭の中が混乱している
 これを、あえて一言でまとめるなら―――…


「海岸でオープンな暗殺者にタックルかけられたんだ」

「…それはまた、随分と珍しい災難じゃのぅ…」


 しみじみと言わないで
 一気に物悲しい気分になってくるから



「はぁ…疲れた…」

「しかし、見事に老け込んだのぅ」

「わしの老化は30そこらで止まってる筈なのだが、
 確かに、ここ数日で一気に老化が進んだ気がするな…」


 そのうち髪に白いものが混じり始めたらどうしよう
 この環境は絶対に頭髪に悪影響を与えるに違いない


「お主の頭、ハゲたら再生不可能じゃろうな
 成長止まっておるし、一度抜けたらもう二度と生えてくる事は無いと見た」


 不吉な事言うな



「顔だけはクールじゃからな
 ハゲたらきっと面白い事になるのぅ」

「もうハゲネタは良い!!
 わしは疲れてるだけだっ!!」

 一晩寝たら疲れも取れる
 そうしたら老けたともハゲるとも言われない―――に、違いない


「わしはもう寝るっ!!」

 火波は自分に割り当てられた寝室のドアを開けるとベッドに向かう
 そして、一思いに―――…激しく突っ込んだ



「――…このクマちゃんは一体…?」



 ベッドの上には何故か巨大なテディ・ベア
 ご丁寧に専用の枕まで使っていた


「だって、それが無いと眠れないじゃろう?
 遠慮しなくて良い…指差して笑ったりしないから抱いて寝るがよい」


 抱かねぇよ
 新手の嫌がらせか!?




「これ、誰の趣味だ…?」

「昔この家に住んでおったレンという自称:美青年が、
 夏休みの自由研究として縫い上げた逸品らしいぞ」


 真夏に暑苦しいもの作りやがって


「まぁ、速攻で行き場を無くして客室に追い遣られているわけじゃが」

「…って、作った本人は使わなかったのか!?」

「レンはクマちゃんを抱いて喜ぶ趣味は持ち合わせてなかったそうじゃからな」


 じゃあ作るなよ!!


 作った方も作られた方も迷惑極まりない
 もっと物事には計画性を求めたいものだ



「…やれやれ…」

「ちなみにそのクマちゃんの名前はうなぎのぼりというのじゃよ」


 うなぎのぼり!?



「な、なぜ…?」

「クマちゃんの繁栄を願ってつけられたのか、
 それともいつか自然に還れとの願いか―――…」


 クマを海に還らせてどうする



「だ、誰がつけたんだ…その名前…」

拙者


 お前かよ!!



「ネーミングセンス、皆無だな」

「まぁ良いではないか…可愛がってやっておくれ
 ニックネームはうなーちゃんじゃ」


 うな――…




   




「何か、脱力感と物悲しさが一気に押し寄せる響きだな」

「唇をあまり動かさずに発音するのがコツじゃよ
 今夜はこのうなぎのぼり≠ニ心安らぐ一夜を過ごすが良い」

 シェルはそう言い残すと足取りも軽く去っていった
 そして残されたのは火波とクマ――…もとい、うなぎのぼり




「…お前も災難だな…」

 仕方なく火波はクマの隣りで寝る事にする
 どうもこの被虐っぷりが他人事に思えない

 ぐったりとベッドに倒れ込む
 せめて夢の中でだけでも静かに眠りたい…


 そしてその晩、お約束のように
 ウナギ風呂に浸かる夢にうなされる火波であった――…


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