〜 プロローグ 〜



 世界は三つの空間から成り立っていた
 それぞれの空間に世界があり、その地を統治する神々がいた



 人界

 人間を主として成り立つ空間
 文明に栄え未知なる進化へ流れ行く世界
 しかし豊を築けど人の心は貧しく虚に覆われる

 その世界は光のゴッド、闇のサタンに統治されている


 魔界

 魔族を主として成り立つ空間
 血色に染まる土地にて剣と魔法の鬩ぎ合う世界
 終焉の見えぬ戦の地は滅び行けど心の絆は何より固い

 その世界は火精王ヴォルケノ、水精王ウンディーネ、
 風精王シルフィード、地精王ゴーレムにより統治されている


 天界

 古の聖獣たちの住まう何物にも異なる空間
 神に等しき魂のみがその門を潜る事を許される
 しかし光の影には闇、そして聖の影には邪もまた在る

 その世界は聖獣に選ばれし神々により統治されている




 この物語はその内のひとつ、魔界を舞台に繰り広げられる


 四人の神々が支える剣と魔法の世界、魔界
 ひとつの過ちが後の全てを破壊へと誘う終焉への階段

 罪深き魔に捧げし鎮魂歌を奏でるのは何者か――…




 火、水、風、土が柱となり魔界を支えていた
 四本の柱により世界のバランスが保たれていた


 火精王の火は世界を照らした

 水精王の水は世界を潤した

 風精王の風は世界を癒した

 土精王の土は世界を豊かにした


 しかし、いつからだろう
 魔界を取り巻く空気に不穏な影が滲み始めたのは



 争いの耐える事の無い世界
 繰り返される殺戮と悲劇

 殺し奪い滅ぼす
 それこそが生きる意味、存在する理由

 魔界に生きる物の逃れられない定め


 剣は強大な兵器を生み出した
 魔法は凶暴なモンスターを生み出した

 剣と魔法、剣と剣、魔法と魔法
 あらゆる力が鬩ぎ合い、魔界は赤く染まって行く



 戦は終わらない
 終わらせようとさえ思わない

 それが魔界なのだから
 四本の柱は、ただ世界を支えるだけの役目

 一切の干渉は許されない
 魔界を変える権利を持つ者、それは魔族たちに他ならない


 魔界の栄枯衰勢

 世界がどう動こうと、四本の柱はそれを見守るだけ
 四本の柱は魔界を支えるだけの役割しか果たさない


 彼らの存在理由は、ただそれだけ



 それだけの筈――――…だった



 しかし、魔族は力を持ち過ぎた
 魔法は身に余る発展を遂げ過ぎた

 更なる高みを望んだ彼らは四本の柱――…神々の力を得ようと動き出したのだ
 壮大なる魔力を捧げ、代わりに柱から力を借り受けようとしたのだ

 神々は最初、それを拒んだ

 しかし魔界の民たちによる祈りの声を前に、
 ついに神々はその力を分け与えた



 それが悲劇の始まりだった

 神々の力を扱う事を覚えた魔族
 しかし彼らの望みは留まる事を知らなかった

 それが魔界そのものを滅ぼす事になるとも気付かずに




 時は流れた



 そして―――…魔界の時空、そのバランスが崩れ始めた



 魔界の時空の崩壊は、他の世界にも少なからず影響を及ぼした


 決して重なる事のない時空、異なる世界
 しかし魔界の崩壊により時空の狭間に僅かな歪が生じた

 歪は時として異世界の住人をも招き入れる巨大な『扉』を生み出す
 魔族たちはその扉を潜り抜け、人界へと足を踏み入れた


 そして魔族は度々、人界より人間を連れ帰った
 異なる世界である魔界に人間が住むようになったのだ

 その事で、更に魔界の歪が大きくなる事も知らずに



 魔界の崩壊は止まらない
 音も無く、血と涙を零しながら

 神々は己の過ちを悔いた
 自らの罪を償うべく、彼らは魔界の修復を試みた

 しかし、その矢先の事だった
 魔族のひとりが取り返しの付かない過ちを犯したのだ


 その衝撃は神々に混乱と絶望に陥れるのに充分だった



 悲嘆に暮れる神々
 忠告も警告も魔界の民には届かない

 彼らは神々の力を利用するだけ
 魔族たちは近い将来、魔界を完全に破滅させるだろう――…





 もう、止められない

 諦めよう
 見捨てよう

 どう足掻いた所で修復は不可能


 やがて、一本の柱が姿を消した


 三本の柱ではとてもではないが世界を支えきれない
 崩れて行く世界を前に三本の柱は成す術も無かった

 四人の神々が見守ってきた世界
 それが崩れて砂塵となって消えて行く

 もう誰にも止められない魔界の終焉
 しかし愚かな魔界の民はその事にすら気付かなかった




 そして、更に時は流れ―――…


 魔界の民たちのほんの一握りの間で、
 世界の崩壊を感じ始める者が出てきた

 救いを訴える者
 奇跡を信じ祈る者
 終焉に絶望する者



 しかし―――…




 気付いた時には、もう遅い





 プロローグにござります

 コメディっぽくしようかと思ったのじゃが、
 出だしが肝心とも言いますし、原作小説の文章そのままにしておりまする

 これは世界観と申しますか…ちょっとした裏事情じゃな
 まあ、昔このような事があったんだ――…というような感じに受け取って下さりませ


 一応この話は全ての物語に繋がっておりまする
 他の小説の中にも似たような記述はちらほらと出て参りますがな

 ちょいと念頭においてから本編小説を読んで下されば、
 キャラたちの行動の意味、それぞれに置かれた状況、
 世界の流れなどに対して、また違った味わいが楽しめるかと…