「……メルキゼ、そろそろ良い?」


 俺は家の中で締め出されていた
 メルキゼが寝室にこもったまま出てこないのだ
 いや、理由はわかっているのだから心配ないのだが―――

「おーい…メルキゼ……」

 俺は手製のマントを弄りながらメルキゼをひたすら待っている
 玄関には旅に必要と思われる道具が袋に押し込まれて転がっていた
 もういつでも旅立つことが出来る状態だ

 しかし、問題はメルキゼが部屋から出てこないことだった
 今朝ようやく仕上がったローブを手に着替えてくると寝室へ行ったきり出てこない

 …別に、ドレスの上から一枚羽織るだけなのだ
 それなのに人前で着脱するのは恥ずかしいからと部屋にこもって早10分―――……
 そろそろローブを着て、ターバンを巻き終えても良い時間だろう

「…メルキゼ〜…まだぁ〜〜?
 メル〜メルメル〜メルちゃ〜ん?」

 だんだん呼び方がいい加減になってきた
 聞き方によっては何かの呪文のようにも聞こえる

「…メルキゼ、開けて良いかな?」

「まっ…待ってくれ、今行くから……!!」

 寝室で何やらバタバタと音がする
 一体何に手間取ってるのだろう









 それから更に5分後―――……


「……すまない、髪がまとまらなくて……」

 あれだけ長い髪だ、まとめるのが大変なのは予想がつく
 よぼど苦戦したのだろう、その声は既に疲れていた

「で、どんな風になった―――…」

「…………。」

「…………。」


 しーんと静まり返る室内
 メルキゼは恥ずかしそうに俯いている

 どうしよう…何か言わなきゃならないんだろうけど、何ていったら言いのか……
 いや、似合うんだ
 よく似合ってはいるんだけど―――何ていうか……


「別人、だね……」

「そうか?」

 今までの猫耳とドレスのインパクトが強すぎたのだろう
 それが無くなった今、彼はまるで別人と化していた
 どうやら無意識中に猫耳とドレスにばかり視線が行っていたらしい
 改めて見たメルキゼの顔は妙に新鮮だった

 …以前から綺麗な顔してるとは思ってたけど、ちゃんとした服を着るとそれ以上に見える
 ドレスに包まれていたゴツい身体は不気味なだけだったけれど、今は逞しいという言葉が良く似合う
 中性的な顔は端整で凛々しいとさえ思えるような―――何処から見ても非の打ち所の無い美青年だった

「…メルキゼって…こんなに美形だったっけ…?」

「美形ではないと思うが…お世辞はありがたく受け取っておく」

 お世辞じゃない―――っ!!
 あぁもう…その淡々とした口調がまたクールで似合うんですけど……!!
 絶対モテるぞ、こいつ…ハーレムとか持ってないのが不思議なくらいだ
 恋人とか愛人が数十人単位で配属されているって聞いても違和感無いぞ…?










「…か、カーマイン…そんなに見ないでくれ…恥ずかしい……」

 ―――反応がウブ過ぎる
 真っ赤になって、もじもじと恥らう姿は相変わらずだ
 どんなに格好良く服を決めても、やっぱり中身はメルキゼなんだなぁ…当然だけど

「いや、えーっと…格好良いなーって思ってさ」

「そうか…? そう言って貰えると頑張って作った甲斐があった
 デザインに凝るようにとアドバイスを貰ったから、他にも古着を切ってみたりした」

「あ――そう言えば見覚えの無い色の布が使われてるなぁ……」

 普通にファンタジー世界に出てくる冒険者って感じだ
 曲刀を持たせて馬に乗せたら物凄くハマってるだろう……



「……じゃあ、行こうか?」

「ああ、まずは村まで行く」

 軽々と荷物を持ち上げ、先頭を切って歩くメルキゼ
 その後ろ姿を眺めつつ俺は複雑な心境を感じていた

 …ダメだ俺…メルキゼの一挙一動ごとに過剰反応しちゃってるよ…
 このまま行くと、ときめきの乙女モードに突入しそうで恐い

 ――メルキゼの新鮮な姿に驚いてるだけだよな……?
 そう、絶対そうだって!! そうに違いない!!
 だからすぐに慣れるから―――こんな風にメルキゼにドキドキする事もすぐに無くなる筈だ!!

 俺はそう自分自身に言い聞かせながら彼の後ろ姿を追った

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