「あー…やっぱり黒い服にしたんだな」

「でもオシャレだよ。こういうデザインも格好良いよね」


 今日はゴールドの服の仮縫いの日だ
 軽く隅を留めただけの簡単な服をゴールドは手渡されている
 寸法が合っているかどうか実際に着て確かめるのだ

「この際、髪型も変えたらどうだ?
 短く切り揃えてみても似合うと思うが」

 落ち着いたデザインの服は、どこか学者のような雰囲気を漂わせている
 これを着て歩けば何処から見てもインテリに見えるだろう

「うーん…ちょっとショートは髪質上無理なのです
 ボクの髪は硬くて広がってしまって…はねて逆立ったりもするのです」

 ほら、とその髪を結んでいる黒いリボンを解く
 次の瞬間、長いブロンドは四方八方に飛んで歌舞伎役者のような髪形になっていた
 何度か髪を解いた彼を見たことはあったが、これでショートカットにしたら―――更に重力に逆らった髪形になりそう な予感がする

 レンはその姿を想像しているのか口元を手で隠して微かな笑い声を立てていた
 その横ではレグルスが何故か神妙な顔つきで何度も頷いている

「おう、わかるぜその気持ち。オレもそうだしよ……
 短くしたらパンクだし普通に結んでも妙な方向に立っちまうんだよな
 仕方がねぇから長くのばして毛先の方でまとめるしかねぇ
 でもそうすると鬱陶しいし肩こりも起こるしよぉ、面倒臭いったらねぇぜ」

 レグルスとゴールドが何故毛先で髪をまとめているのか、その理由が今、明らかになった……
 一見繊細で柔らかそうな彼のブロンドヘアーは確かに触ると、かなり弾力があって硬い
 何となくその触感から釣り用の糸が連想させられた。更に長くのびれば釣り糸代わりになるかもしれない



「ねぇ、早くその服着て見せてよ
 絶対似合いそう…楽しみだな〜」

 レンはゴールドの持った服が気になって仕方ないらしい
 レグルスの服がまだ仮縫いの段階まで行っていないので尚更関心があるのだろう

「そうですか?
 ……じゃあ着替えますね」

 そう言ってゴールドは手の中の服を見やる
 絹製の黒を基調としたその服は暑さに弱い彼を考慮して風通しの良いデザインだ

「更衣室に―――いえ、どうせ男ばかりだし……別にいいですか」

 ゴールドは着ていたシャツとズボンを脱ぎ捨てる
 すると実に様々な感想が室内を埋め尽くした

「す、凄いよ…!! 実は物凄く着痩せするタイプなんだね〜
 いいなぁ引き締まった身体。俺なんていくら鍛えてもプニプニなのに…」

 レンは羨ましそうにゴールドの身体と自分の身体を見比べている

「もしかしてこの中じゃオレが一番貧相な身体なんじゃねぇか!?
 お前ら何食ったらそんな良い体格になるんだよ!? ぜってー世の中不公平だ!!」

 レグルスは一人で拗ねている
 華奢だと思っていたゴールドにショックを受けているらしい

 俺は既に見慣れたその身体を眺めつつ、傷が完全に癒えて消えたことを喜んでいた
 風の魔法で負った傷は刃物よりも鋭いらしく治りが早いとのことだ

 ゴールドはレンとレグルスに、どうりアクションしていいかわからないらしい
 目を閉じて何か考え事をしているように見せかけながら――――実は相当困っているに違いない










 さり気無く俺は助け舟を出すことにした
 いつまでもパンツ一枚で放置しておくわけにもいかない
 ゴールドの傍に行くと、服を頭からかけてやる

「……さっさと着ろよ」

「何かタイミングを逃してしまって……」

 照れ笑いをしながらゴールドは、もぞもぞと服を着始める
 この国特有のゆったりとしたデザインの服は意外と着やすいらしい
 頭からすっぽりとかぶると、あとは軽く紐などで結んで固定すればそれで終わりだ

「お…いいじゃんねぇ? やっぱ新鮮だな
 折角だしよ、お前も新しい服着てみろよ」

 レグルスはレンの肩を小突く
 新しい服を着た恋人の姿を見たいのだろう

「嫌だよ、豪華な服なんだし汚したくない」

 しかしそう言いながらもレンは綺麗な服を着たゴールドを羨ましそうに見ている
 あまり着る物に拘りを感じてはいなさそうだが、やっぱり目の前で豪華な服を着られると気になるらしい

「外に出なきゃ汚れねぇだろ?
 この部屋でだけでいいから、ちょっと着て見せてくれよ」

 何やら説得されているらしいレンを傍目に俺はゴールドの衣装をチェックした
 ちゃんとサイズが合っているのか確かめなければならない

「んー…元々がゆったりしたデザインだから特に小さいって事もないな」

「そうですね。大きすぎることも無いですし…大丈夫なのです」

 俺とゴールドは服のデザインを品評しながら、それなりに満足していた
 黒い光沢が金の輝きによく似合っている



 ゴールドが元の服に着替え終わる頃、例の仕立て屋が部屋に入ってきた

「失礼致します…お洋服のサイズは如何でしたか?」

「ぴったりなのです。 これでお願いします」

「ではこのサイズでお作りしますね………あら、御召し変えですか?」

 部屋の隅では結局押し切られたレンが長い絹の服を相手に格闘していた
 着慣れない裾の長い服に手間取っているらしい

「……この服、どうなってたんだっけ……
 仮縫いの時に覚えたはずなんだけどなぁ……」

「よろしければお手伝いさせて下さいな
 綺麗に着付け出来る自信はありましてよ」

 レンはお言葉に甘えて、と隣の更衣室へ仕立て屋と入っていった
 レグルスは嬉しそうにドアの前でレンが着替え終わるのを待っている

「どんな服なんだろうな」

「さぁ…どうでしょう?」

 俺たちは色々と憶測を立てながら話に花を咲かせる
 どうやらレンは数着の服を仕立ててもらったらしい
 今日着る服はレグルスも見たことの無いものだという

 期待に胸を膨らませていると、数分でレンは着替え終えて出てきた



「―――――あの、レンさん………何で、化粧してるんですか……?」

 着替えたレンは何故か化粧を塗りたくった姿で出てきた
 大量につけられたマスカラに分厚く引かれたアイライナーで大きな瞳が更に巨大化して見える
 赤いアイシャドーにピンクの口紅も妖艶だ
 髪も左右二つに分けて結んであり、性別不明と言うより他ならない

「……仕立て屋のおねぇさんが…俺の事を女の子だと思っちゃったんだよ……」

 レンは背に雨雲を背負っていた
 その姿にレグルスが爆笑する
 しかし俺は笑うに笑えなかった…ハマり過ぎていて









「あ、あの…でも似合っているのです」

「やっぱりそう思う? 意外と可愛いよね?
 新しい俺の魅力発見かな〜? なんちゃって」

 ……実は気に入ってる……というより喜んでる?
 レンって実はナルシストなんだろうか
 そしてその姿に微妙に喜んでいるレグルスって…一体……

「何か二人の世界に入ってしまいしょうな予感なのです」

「そうだな…じゃあ二人きりにさせてやるか」

 俺たちは、物音を立てずにそそくさとその場を去った
 ――――出来るだけレンの姿を見ないようにして




「……ジュンも新調した服を着ればいいのに……」

 部屋に戻ったゴールドは壁に掛けられた服を見て呟いた
 落ち着いた暖色系の服が艶やかな光沢を放っている

「―――じゃぁ、お前の服が完成したら一緒に豪華な服着てデートでもするか?」

 冗談半分で言ってみたのだが、その誘いにゴールドは目を輝かせて喜んだ
 そういえば一応恋人同士なのにデートらしいことはしていない
 ……たまには二人で高級レストランにでも行くのもいいかも知れない

 少し幸せな気分になりながら、俺は細工道具を取り出した
 初デートの日にプレゼントをしようと思ったのだ

 ゴールドに気づかれないよう毎日こつこつと作業しているので進行速度はイマイチだ
 今日は外で一気に進めてしまおう


 俺は袋に道具を隠すと、散歩に行って来ると嘯いて部屋を後にした

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