「リノライさん!!」



 城に入ってすぐにその姿を見つけることが出来た
 長いマントとローブ姿は広い城内でも目立つ

「――――ジュン殿…? ああ、ご無事でおられたのですね…感無量でございます」

 穏やかな笑顔はどこかゴールドと重なる
 もっとも、リノライの笑顔はどこか凛として冷たい印象も受けるのだが

「……リノライ様、ただ今戻りました」

 ゴールドは恭しく跪くと手を胸元に添えて深々と礼をする
 その姿はまるで騎士のようで―――物凄く格好良く見えた

「リノライ、で結構ですよ。もう貴方が仕える主は我々ではないのですから
 …ジュン殿とは幸せになれましたか? …いえ、聞くまでもなさそうですね…羨ましい限りです」

 そ、そんなに傍目から見てラブラブに見えるのだろうか…
 俺とゴールドは思わず頬を赤くした

「は、はい…ジュンからゴールド≠ニいう名も授かりました」

「そうですか…良い名ですね。まさに貴方に相応しい…これからもその名と共に、彼を愛するのですよ」

 リノライは跪いたゴールドを立ち上がらせると、ゆっくりと周囲を見渡した
 その視線はレンとレグルスのところで止められる

「…見慣れない方々ですが…旅先で知り合ったお友達でしょうか…?」

「伝説のセイレーンとその恋人の方です。協力者として…同行願いました」

 厳密に言うと彼らに尾行された上に先回りされて待ち伏せされていたのだが…
 まぁこの際細かいことはどうでもいいだろう

「それは何とも心強いことで…心より感謝致します。海の守り神と神に愛されし者よ…よくぞいらして下さいました」

 リノライは近くにいた兵を呼び寄せると、カイザルを会議室に呼ぶように告げた
 俺たちも、リノライの後についてその場所へ向かう


「―――そうですか、詳しい話はもう聞いてらっしゃるのですね
 それではカイザル様が来られ次第、実験の――――あ…申し訳ございません
 心苦しいのですが、ひとつお伝えしなければならないことがございます
 我らが城主、カイザル王子のことですが――――あの、実は少し……」

「あ、大丈夫。ジャージ姿でも俺は気にしないよ」

「ペロリンキャンディ食いながらでもオレは構わねぇぜ?
 無理に王子っぽい口調もいらねぇからよ、自然体で行こうぜ」


「……………………ジュン殿と、ゴールド……
 貴方たちは一体、何を何処までお話になられたのでしょう…?」







 俺たちは思わずリノライから目をそらした
 怖くて彼を直視できない

「……ご、ごめんなさい……
 予備知識があった方がダメージが少ないと思って……」

「いえ……確かにいきなりあの方に会うよりは…何らかの知識があるほうが受け入れやすいでしょう」

 ジャージ姿の青年が出て来て王子だと名乗っても、普通は信じないだろう
 せいぜい、演劇部の練習だと思われるのが関の山だ
 しかも口調も何だかとっても怪しくて、素に戻るとまるで二重人格
 ……まだまだ王族としての喋り方が板についていないのだ


「……それでは、この部屋でしばらくお待ち下さい……」

 通された会議室は、想像していたよりもずっと小さなものだった
 それでもしっかりと防音がされており不足は無い

「王子様か…色んな意味で会うのが楽しみだよ」

 レンは足取りも軽く、会議室を歩き回っている
 先程、飲食店でゴールドに翼の消し方を教えてもらったのだ
 軽くなった背中が嬉しいのだろう、いつもよりもテンションが高い

 レグルスは落ち着き無く出された紅茶を啜っている
 緊張しているのか、いつも異常に目つきが悪く見えた

「…レグルス…紅茶、鼻から出しちゃだめだからね」

 普通しないだろう、そんな事
 ゴールドは軽く咳き込んだ後、肩を震わせた
 ……何故かツボに入ったらしい

 リノライは祈るように―――いや、実際祈っているのだろう
 ぶつぶつと「どうか、カイザーが妙なことをなさりませんように…」と繰り返している
 何か悲しい…彼の抜け毛は大丈夫だろうか


 それぞれが、実に個性的な時間を費やして約30分―――



「し、しっ…失礼致します、か、カイザル王子様が、お、おいでに…」

 妙に焦ったような兵士の声がノックとともに聞こえた
 その声は物凄く上ずっていて、ただ事ではないと周囲に知らしめる

「……何事です…?」

 早速、何か事件が起こったのだろうか
 リノライが慎重に重厚な扉を開く
 周囲に緊張が走った


「……皆の物、待たせたな」

 扉の奥には心、此処にあらずといった表情の兵士と――――威厳たっぷりのカイザルがいた


「…うわぁ……!!」

 レンが感嘆の声を上げる
 レグルスも、ゴールドも声を無くしてその姿に見入った

「かっ…カイザル王子……!? そ、その御姿は……」

「何か問題があるか? 我なりに礼儀を重んじたつもりだが」

 確かに自分の救世主とも言えるべき相手を迎えるのだ
 あのカイザルでも、それなりの礼儀を尽くそうという気持ちになるのかもしれない
 相手に対する礼儀―――それは、カイザルなりに考えたのだろう

 豪華な装飾を施された王冠に重厚なマント
 神秘的な光を放つ杖を持つその姿はまさに―――王者だった

「すっげぇ…流石、王子様ってやつだな…」

 俺たちはただ、感動してその姿に見入った
 ジャージのイメージが強すぎて―――――しかし、だからこそ感動も倍増する
 サナギから蝶に生まれ変わった瞬間に立ち会ったかのような気分だった

「か…カイザル王子…あぁ、貴方様に御仕えして24年…ついにご立派な王子に成長なされたのですね…」

 リノライは白いハンカチを噛み締めて感涙に打ち震えていた
 カイザルはそんなリノライを見つめつつ、誰にも聞かれないように呟いた

「――――何なのさ、この展開……」










 偶然そのボヤキが耳に入った俺は思った
 ……せっかく珍しく格好良いんだから、ボロが出ないようにフォローしなければ……と


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