夢を見た



 そこは淡い光と優しい暖かさに満ちた空間

 大きな岩に腰掛けて

 穏やかな笑みをたたえて天使が歌っている



 甘く優しく、そしてどこか切なく物悲しいメロディ

 それでも満ち足りた気分で口ずさむ愛の旋律


 サファイアとアクアマリンの光が天使を包み込む

 長い髪が、白い羽が、光に静かに揺れていた



 ―――――あぁ、ここは……海の中だ……



 海の中で、天使が歌っている

 小さな赤子に聞かせる子守唄のように暖かく

 恋人に囁くように甘い声が水の泡になって舞い上がる



 天使は海に愛されていた

 海は天使を優しく包んで護っている

 そして天使も海を愛して自愛の瞳で見守っていた



 ―――――あれは……セイレーン………?



 海の守り神である鳥の姿をした水の精霊

 澄んだ歌声が甘い疼きとなって耳をくすぐる

 その表情は本当に幸せそうだ

 良く知ったいつもの微笑がそこにあった



 ―――――レンさん…貴方は今、幸せなんですね……



 悲惨な最期を迎えた青年は今、海を守護する天使セイレーンとなった

 天使は腕に宝物を抱いていた

 この世にひとつしかない愛する者の魂を

 レンの腕の中で静かに眠るレグルスも穏やかにその歌を聴いていた


 悲しいけれど、幸せそうな二人の姿は嬉しい

 死は、愛し合う二人を別つことは無かった

 これからも永遠に二人は寄り添って生きてゆく

 そう―――彼らは生きているのだ、この海の中で……



 ―――――お幸せに………



 俺は心の底から二人を祝福した

 どうか、これからも二人の愛に永遠に幸がありますように――――……







「………ジュン…? 目が覚めましたか?」

 気がつくと、そこはゴールドの膝の上だった
 どうやら津波の衝撃で気を失っていたらしい


「あのセイレーン……レンさんだった。レグルスさんと幸せそうにしてた…っ」

 涙が溢れた
 幸せそうな二人の姿が目に焼きついている

 綺麗だった
 奇跡の様に……綺麗だった

 ゴールドは何も言わず、俺を抱きしめてくれる
 俺の見た夢に優しく頷きながら

 涙を拭おうとて―――その手に柔らかな感触があることに気づく
 それは大きな鳥の羽だった


「不思議な色の羽ですね……水中に差し込む陽光のような淡い色です……」

「…セイレーンの…レンさんの羽だ……」

 この羽の向こうで、微かに彼が微笑んだような気がした
 耳を澄ませば波の音に混じってあの歌が聞こえてくるような気さえする












「……波は穏やかになりました。二人は…どうやら遠くへ旅立ったようです……」

「そっか……二人一緒なら……幸せだな」

 ゴールドは優しく微笑むと俺の肩を抱いて立たせてくれた
 気を失ったときに打ったのだろう、微かに膝が痛んだ

「……もうすぐ船も陸に着きます……行きましょう、ボクたちも」

「ああ。あの二人に負けてられないしな……」


 俺たちは部屋を後にした
 扉を開けると少し冷たい潮風と穏やかな日差しが差し込む



 レンさん、レグルスさん
 いつまでも貴方たちは俺たちの友達です
 会えなくなったのは淋しいけれど、貴方が守護するこの海で
 俺たちはこれからも旅を続けていきます

 どうか―――変わりないその笑顔で、俺たちを見守っていて下さい

 俺たちも貴方たちの幸せを心から祈ります



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