その夜、俺はぐったりしながら部屋に帰った
 カイザルとリノライには意外と好感をもたれたらしい
 第三者という立場からか、警戒心を解かれるのも早かった
 …その分、他者にはなかなか言えない様な愚痴などもげっそりするほど聞かされたが…




「ジュン様ぁ〜お帰りなさいませっ!!」

 使い魔がベッドの上から手を振って迎えてくれた
 推定身長約30cmの生物は機械仕掛けの人形のようだ



「…ただいま、使い魔…」

「ジュン様ちょっと疲れてます? カイザル様とリノライ様とはちゃんとお話できたのですか?」

「…話は十分すぎる位にできたよ…いや、一方的に話されたと言った方がいいかもしれんけど…」


 むしろ悩み相談室の相談員になったような心境
 このまま経験をつめばカウンセラーにもなれそうな勢いだ


「ジュン様凄いのです!! カイザル様とリノライ様のお友達になったのですね!!」

「いや…友達っつーか…」


 被害者と加害者の関係なんだよな…
 でもそれを使い魔に言うわけにはいかないし


「お二人とも孤独なのです。ジュン様、良いお友達でいて下さいなのです」

「あー…ここにいる間は、な」

 ……本当は早く帰りたいんだけど……
 でも正直いつになったら帰れるのか目処がつかないらしいしなぁ
 何せ二人だけで極秘に進めている実験だ
 深夜のごく短時間しか召喚魔法の実験が出来ないという状況下ではどうしても時間がかかる
 …まぁ、仕方がない
 その間、せいぜい異世界を堪能させてもらおう



「ジュン様お疲れなのですか? リラックスできるお茶を持ってきますか? お体をマッサージしますか?」

「……そんな小さな身体で出来るのかよ……」

 ティーポットに潰されるのがオチではないかと思う
 マッサージだって力が弱くて効かなそうだ


「大丈夫なのです。使い魔のお仕事は、お手伝いさんなのです
 お手伝いすることがない時は邪魔にならないように小さくなっているだけなのです
 大きなお仕事をする時には、ちゃんと大きくなれるのです。お馬にだって乗れるのです」

「へぇ…そうなのか…」

 その三頭身の姿のままでっかくなるのだろうか…
 それとも八頭身の大人のような姿に変身するのだろうか…
 …どちらにしろ、今のままの姿の方がずっと可愛いであろう事に間違いは無いだろう



「…いや、もう疲れたから寝る…使い魔はどこで寝るんだ?
 同じベッドじゃ寝返りで潰しそうだしなぁ…
 ……お、このオブジェっぽい皿がいいかな…このタオルと毛布を敷いて…」

 なんか小学生の頃、子猫を拾ってきた時のことを思い出した
 あの時も確か、こんな風にタオルとか毛布を使ってベッドを作った記憶がある

「ボク、ジュン様のお傍で寝ても良いのですか?」

「ん。サイドテーブルの上に皿を置いたからそこで寝ろよ
 …何か皿なのかオブジェなのかランプなのか良くわからん物体だな、これ」

 陶器の皿に造花が植えつけられているが、その造花の中心がランプになっているという凝った作りの物だ
 …機能的なのかどうかは激しく謎であるが


「どうもありがとうなのです。とっても嬉しいのです」

 使い魔はベッド(皿?)の上に座ると満足気に微笑んだ
 これはこれで、ひとつのインテリアとして使えそうだ
 どこから見てもベッドに寝ている人形そのもので、生きているとはとても思えない



「良く寝ろよ。…おやすみ」


 布団をかぶるとすぐに睡魔が襲ってきた
 異世界に召喚されて、まだ一日目
 それなのに、既にここでの生活が定着しつつあった

 可愛い使い魔
 どこか憎めない変わり者のカイザル王子
 外見と裏腹に意外とお喋り好きなリノライ補佐官

 この城での生活も悪くないかもしれない


 薄れ行く意識の中でぼんやりとそう思いながら俺は目を閉じた



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