それからすぐに『使い魔』という小生物が俺の部屋に届けられた




「なんつーか…『魔』っていうくらいだから、もっと凄いのを想像してたんだけど…」

 俺の手の上にちょこんと乗っている『使い魔』は『魔』というよりは『小人さん』といった感じだった



 いや、むしろ小人そのものだと思う
 小さくて可愛い人形のような生物
 観賞用として見つめている分にはいいが…いきなりこんなのを寄越されても困る



 当の使い間もロクな説明も聞かされずに俺のところに来させられたらしい
 俺たちは向かい合ったまま途方に暮れていた




  







「…えーっと…で、これをどうしろと…?」

「…いえ、あの、ボクもジュン様に仕えるようにと申し付けられただけなのですぅ…
 えっと…何かボクに御用はございますかぁ?
 何か聞きたいこととかぁ…僕の知っている範囲でならお答えしますのです」

 聞きたいことがありすぎて何を聞けばよいのやら…


「…じゃあ、とりあえず君の名前は?」

「名前はありませんのです。使い魔と呼んで欲しいのです」

「普段は何をしてるのかな?」

「城内での雑用ですぅ。お茶を淹れたり手紙を運んだりしまぁす」


 ……普通に会話できるんだな……
 まぁファンタジー世界だし…いちいちこんなことで不思議がってても仕方が無いか…
 ここは俺のいたところとは別世界、地球の常識は通用しないのだ

 リノライのローブも、カイザルのジャージ姿もきっとファンタジー世界だから…
 いや、別にジャージはファンタジーとは関係ないような気もするけど



「…そういえばカイザルさん、リノライさんに『王子』って呼ばれてなかったっけ?」

「カイザル様は王子様なのです」

「…………」


 ジャージ着てたん ですけど…



「ジャージってこの世界では偉い人の着る服なのかな?」

 相手が小さいせいで口調がどうしても子供に対するものになってしまう
 ファンタジー世界のことだからきっと、こんな姿で年齢は100歳…とかいうオチがあるんだろうけど

「カイザル様は御脚が不自由でらっしゃるんです。呪いで石になってしまったんです
 着脱の簡単なお洋服しか着ることが出来ないのだと仰っておりましたぁ」

「石になる呪いねぇ…やっぱファンタジーだなぁ…でも着替えの問題とか言われるとやたらリア だな」

「最初は足首までが石だったんです。でもここ10年で御足全てが石になってしまいましたぁ
 あともう10年で御身体全てが石になって、石像になって死んでしまうという噂なのです」

「いや、そうなることがわかってるんならさっさと呪い 解けよ

「呪いを解くことが出来るのは女王様とカイザル様の兄上様だけなのです
 女王様はカイザル様に呪いをかけた張本人ですから助けてくれません
 カイザル様の兄上様は7歳の時に国を追放されたきり行方不明なのです…」

「鬼のような母親だな」


「魔女ですから」


「……………。」


 コメントに困るん ですけど…



「カイザル様は14歳の時にこのお城を与えられました
 でもお城には女王様のスパイがたくさんいます
 カイザル様はスパイを警戒して、いつも自室から出て来られません
 一緒に遊ぶ相手も、気楽にお話をする相手もいらっしゃらないのです
 カイザル様はいつも淋しそうです。リノライ様も困ってらっしゃるのです」

 計算するとカイザルさんは現在24歳くらいか…
 俺より4歳年上…意外と年齢近いんだな
 …リノライさんは…駄目だ、年齢不詳

「リノライさんは…何か冷たそうな人だしなぁ…
 正直、あの人と一緒にいても気が休まるとは思えないような…」

「リノライ様はこのお城のスパイからカイザル様を護るお役目もございますからジュン様のことも警戒してらっしゃるので
 情報が女王様に漏れないように、常に気を張り巡らせて城中をパトロールしておられるみたいです
 ですがあまりにもスパイが多すぎてリノライ様も、へとへとなんです。ぼろぼろなんです
 何度も倒れてしまうんです。でもお医者様がスパイかもしれませんから自分で適当な治療しかできないのです
 このお城では誰もが疑心暗鬼になってしまうんです。みんな、誰が敵で誰が味方なのか探り合って毎日暮らしてます」

 …何か、物凄く居心地の悪そうな所に召喚されたんだな、俺……


「あの…ジュン様は遠い国から来たお客様だと聞きました
 この国は今はこんな風になっていますが…嫌いだと思わないで下さい
 カイザル様はとても純粋な方なんです。この国が悪く思われると悲しまれてしまいます」

 遠い国…まぁ、間違ってはいないけど…
 この使い魔は召喚魔法のことは知らないのだろうか…

 俺は今聞いた話を元に少し推理してみることにした

 カイザルは召喚魔法でワイバーンという生物を呼び出そうとしていた
 その理由は脚が石になって歩けないため、そのワイバーンに乗って移動がしたいから
 そして、おそらく使い魔が言っていた行方不明の兄を探すためにも……
 …城にはたくさんのスパイがいるらしい
 恐らくカイザルは兄を探しているということを母親に知られたくないのだろう
 何せ、呪いをかけた張本人だという話らしいから……


 …危ねぇ…うっかり使い魔に極秘情報漏らすところだった……

 つーかカイザルさん…



 口止めしろよ



 こんなんでこの国は大丈夫なんだろうか……

 今後の展開に一抹の不安を覚えた俺だった





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