秋といえば
 俺はやっぱり食欲の秋
 美味しくて楽しい実りの秋

 秋の空は高く遠い


 どこまでも蒼い空の下
 目前に広がるのは
 のどかな田舎の風景

 木々は少しずつ色付き始めていて
 草葉の蔭からは虫が歌う

 太陽と土の匂いに包まれて
 俺は暖かな空気に身を寄せた


「よう、にーちゃん頑張ってるかい?」

「もう少しで終わりそうだよ」

 俺、レン・ダナンはこの名も無い農村で
 自然の息吹を楽しんでいる


 ここは、なかなかいい村だ
 この村に来てよかった……

 枯葉の香りを胸いっぱいに吸い込みながら
 俺は始めてこの村を訪れた日の事を思い出していた




 思い起こせば三日前
 俺に邪神(?)が降臨あの日

 大した説明も無いままいきなり旅に出ることになった
 俺は旅どころか旅行すらまともにしたことがない

 だから、旅といっても近場をまわって終わらせるつもりでいた
 夜になれば帰ろうと思っていた


 ところが


 旅に出て一時間後、
 俺は海岸でいきなり


 でっかい津波に飲み込まれた 


 風も無ければ波もほとんど無かったのに、何で…

 いきなり海面に投げ出された俺は
 混乱しながらも岸に向かって泳ぎ始めた


 幸い、岸は見えている

 少し泳げばすぐに浜に戻れる距離だ 
 俺は泳ぎも得意だし大丈夫


 ―――と、思ったところで 

 海亀の群に遭遇した


 すいすいす〜いと、ゆったりまったりと
 それはもう憎いほどに優雅に列を作って泳いでいる、その海亀は


  一匹200センチはあった

 大迫力

 物凄く怖い



「…………。」

 俺は迷わずUターンして他のルートへ行く事にした
 思えばそれが失敗だった

 その1時間後

 海は




 海獣大戦争が起きていた



 何故か知らんが、俺の目の前では


 巨大なイカが

 鯨を丸飲みしようとしていた


 逃げるシロナガスクジラ
 迫り来る巨大イカ
 絡まる10本の足


 荒れ放題の大海原

 そして

 
 何処までも押し流されてゆく俺




「うわぁあああああ――…!!」



  



「いっ…イカが暴れちゃイカん…!!」

 わけがわからないボケをかましつつ、
 沈まないように必死に泳ぐ俺

 しかし、無常にもどんどん沖合いに流されて行く


 ああ

 岸は遥か彼方


 つーか


 もう見えねぇ



 俺は巨大な津波の背に乗っかって


 どんぶらこ


 そして―――
 流れ着いたのは小さな島国だった


 生活の殆どを自給自足で賄っている農村だ
 俺の住んでいる場所も田舎だと思うけれど

 ここは田舎とか都会だとか
 そーゆー次元の問題じゃなかった


 閉鎖的社会


 都心から来る船は月に一船あるかどうか……
 そして、観光客が来る様な所でもないから


 泊まる所が無い

 
 俺は仕方なく、村の人達に泣き付いた
 恥をしのんでこの村に流れ着く経緯を話して
 何とか船が来るまで村に置いて貰おうと思った

 村の人達は皆善い人で快く俺に二つ返事で部屋を貸してくれた


 
「兄ちゃん苦労したんだな〜こんな村でよかったらいくらでもいてくれていいだよ」

「……すみません……帰ったら宿賃を郵送します……」

「いんや、この村は自給自足だから金は役に立たないだよ」

 

 一つも店ないんかい


 どう御礼をすればいいものか悩んでいる俺に村人は笑顔で

 
「畑仕事手伝ってくれや」


 こうして俺は今、畑でひたすら


 イモを掘っている




  




「……何が悲しくて、こんな所で芋掘りしなきゃならないんだ……」


 …っていうか、疎開!?

 流れ落ちる汗は涙と同じ味がする
 しかし、タダ飯食いのごく潰しではバツが悪い 


 でも自然はたくさんあるし(自然しかないとも言う)
 食べ物は美味しいし(イモとカボチャ中心の食事だが)
 村人全員と友達になれたし(全人口数14人)
 畑仕事も慣れてくると無心でやり込んでしまう(他にする事がない)


「…………来てよかったな……いい所だし……」

 半ば自棄になりながらもそう自分に言い聞かす
 言えば言うほど悲しくなってくるが
 自己暗示でもかけなければやってられない……


「兄ちゃん、そっちが終わったら次は白菜の収穫手伝ってくれや」


 泣いちゃダメだ、俺……


 俺はイモ袋を担いで隣の畑に移動した



 あぁ……
 俺を乗せてくれる船が来るのはいつになるのだろう……

 すぐに帰るつもりだったのに、
 既に旅立ち始めてから四日間が経っている

 肌は日焼けしてボロボロだし
 手は荒れて豆だらけ……


「うぅ…美青年が台無しじゃないか
 これって国際的規模の損失だよ…」


 早く帰りたい
 だってここは

 風呂も無いしトイレも水洗じゃないし

 俺、今ちょっと臭うかも……


 自嘲気味に笑ってカッコつけても


 全身から腐った雑巾の臭いがしてる状態では悲しくなるだけだった

 帰りたい……
 もの悲しげに遠くを見れば、そこには全速力で向かってくる村人Aの姿



「おい兄ちゃん!!
 さっき山でイノシシの群がこっちに向かってくるのを見ただ!!
 早く逃げなきゃ吹っ飛ばされるぞ!!」



 ……はい?

 呆けつつも山を見てみると
 山頂から


 土砂崩れの如くイノシシの群が

 猛突進



「うわああああ…!!」



 俺は腹の底から搾り出すような悲鳴を上げて
 それこそ


 猪突猛進に逃げ出した


 泣きっ面に蜂――…もとい、イノシシ
 遠い故郷の義兄ちゃん、きっと俺は逞しくなって戻ってくるよ

 無事に帰ることが出来たらね……


 島に待望の船が来たのはそれから二週間後の事だった




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