時刻はきっちり七時半
 俺はきっちりと服を着込むと、物音を立てずに部屋を飛び出した
 ちょっと毛根が痛い けど気にしてる時間は無い

 ……ごめんね、レグルス……

 でも、この目の事は出来るだけ人に話したくないんだ……
 額に巻いたバンダナはここ数日外していない

 できるだけ問題を起こさない為には隠すのが一番だと思ったから


 外は抜けるような青空だった


 澄んだ空気

 暖かいそよ風


 そして……

 石垣に背凭れて、不機嫌そうに睨んでくるレグルスの姿
 斜めになった姿勢で睨まれると凄みがある

何で!?



「……出発にはまだ早ぇぞ?」

 全身から怒りのオーラが立ち上って見えるのは気のせいだろうか……

「……何処へ行こうってんだ?」


 本気で憎たらしい
  でも不機嫌そうだから逆らわない気弱な俺
 ……負けた……


「……いえ、何でもないです……」

 俺は泣く泣く宿の中へ戻ったのだった……

「……で、火山の事なんだけどよ、何か代々火山を管理してる一族ってのがいるらしいから行ってみねぇか?」


  そんな情報いつの間に仕入れた


「その情報は何処で……?」

 出所によっては怪しい

「だってここ、それなりに有名な観光地じゃん?
 宿の主人に火山観光に来たって言ったら快く教えてくれたぜ?」


  その手があったか……

  宿屋の主人なら確かな情報を持ってる筈だ


「何でもかんでも自力でやりゃあいいってもんじゃねぇぞ〜
 頼れるところでは頼っておかねぇと人生空回りして勿体ねぇ」


「……えうぅ……」


 返す言葉が見つかりません


「ついでに観光マップも譲ってもらったから他に行きたい所があるんなら遠慮すんなよ」


  手際が良すぎるよ……



「あんた、一人でこそこそ生きなくても充分にやっていけると思う……
 何か見ている限りでは人一倍世渡り上手そうに見えるんだけど……」

「ん〜……でも基本的に知らねぇ奴と話すんの嫌いなんだ
 もう対人不信症ってのが身体に染み付いちまってるみたいなんでよ〜」


 ちょっと待って


「ねぇ……俺は?

 知らない奴と話すの嫌いなんじゃないの?
 それって何か矛盾してない……?


「あぁ、 惚れた奴は特別

  …今のは聞かなかった事にしよう


 つーか、この恋はもう冷めたんじゃなかったの……?


「……じ、じゃあ、早速行ってみようか……」

 何か、物凄く疲れてるけど大丈夫かな、俺……




「ここが火山を管理してる一族の住む祠ってやつらしいぜ」


 そこは、祠と言うより土壁で出来た洞窟のような所だった
 火山がすぐ傍にあるせいか気温が高く感じられる
 人一倍炎に弱い身体は火山の熱気に早くも悲鳴を上げ始めていた


「じゃ、中入って話でも聞かせてもらおうぜ」

「う、うん……」


 祠の中は天然のサウナ状態だった
 ただでさえ寝不足で体力の無いときに、これはちょっとキツい
 セーロスの言うとおり、炎の属性の人を連れて来るんだった……
 でも、今更だし、とりあえず今は進むしかない……


 少し進むと、太古の衣装の様なものを身に纏った人達が集っていた


「おはようございます……観光の方でいらっしゃいますか……?」


 髪の長い少女が衣装を引き摺りながら出迎えてくれた
 確かこの服は炎の巫女の衣装だったような気がする
 昔、学校の教科書で見たことがある



「私達は先祖代々この火山を護っている一族でございます……
 よろしければ、この火山の歴史などを説明させていただきますが……」


 炎の巫女は観光ガイドも勤めているらしい……


「いや、別に歴史の勉強をしに来たわけじゃねぇんだ
 ちょっとオレの連れが火山で探し物があるっていうからよ」


  連れ……って、あんたが勝手について来たんじゃぁ……


「まぁ、火山で探し物ですか……?
 一体何をお探しになられてるので?」

「……えっと……」

  ここで言わなきゃダメかな?
  ……まぁ、いざとなったらレグルスにフォローしてもらえばいっか……




「えっと……何かいきなり目が増えちゃいまして……ここで取っていただけないかと……」

  自分で言ってて訳がわからない
  火山に行く発想もよく分からない


「まぁ、もしかして邪神が降臨されたのですか?
 近頃火山の動きが不穏だと感じてはおりましたが……
 そうですか……邪神が……そういうわけでしたのね……」

 この子は何で納得できるんだろう
  それとも俺が無知なだけなのか?

「それではどうぞ、こちらにおいで下さいませ……」


 何がなんだかわからないまま俺とレグルスは奥の部屋へと通された
 まぁ、あの子が知ってるってことは期待しても良いと言うことなんだろう

 少なくとも兄貴よりは詳しいに違いない


「あの、この目について知ってる事があれば教えて欲しいんですけど……」

「ええ、よろしゅうございますわ」

 即答かよ
 俺の今までの苦労って一体…

「その瞳は邪神に選ばれた証ですわ
 ……この地に伝わる伝説をご存知で?」


まるで知らない!!

 力いっぱい即答

「……昔、この地には邪神と呼ばれ恐れられた魔がおりました
 その魔は勇敢な魔女の魔法によってこの火山に封じられましたが
 まれに封印が弱まってくることがあります
 弱まった封印を強化するためには火山の中心部へ生贄を捧げなければならないのです」

「じゃあさっさと捧げてくればいいんじゃねぇの?」

 黙っているのに飽きたのか、レグルスも口を開くようになってきた


「火山の内部には邪神の力が満ちていて、とてもではありませんが近づけません
 あの中へ入る事が出来るのは、邪神の力を持つ邪眼を得た方のみですわ」

「それがレンだっていうことか?
 ……でも何でこいつなんだ?」

 レグルス、小さい子相手にはもっと優しく声をかけてあげようよ…

「申し訳ございません……それは私にもわかりません……
 ただわかるのは、選ばれた者に魔女が邪神の力を注ぎ込むと
 邪眼と呼ばれる第三の瞳が目印として浮かび上がると言う事だけです……」


「そっか、じゃあ俺が中に入って生贄を捧げてくればいいんですね?
 ……その儀式が済んだら、この目も消えますか?」

 邪神だろうがなんだろうがそれが一番重要だ


「ええ、その筈ですわ
 生贄は私達で用意してあります
 どうぞよろしくお願いいたしますわ……」




 火山内の通路は気が遠くなるほど熱かった


 俺から離れなければ大丈夫、と言われ安心したレグルスは意気揚々と
 生贄の子羊を担いで歩いている

 まぁ、今になって思えば確かに彼がいてよかったと思う
 今の俺にはとてもじゃないけれど羊を持って歩く事なんて出来ない……


 俺は倒れそうになるのを堪えつつ必死で彼の後をついていった



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