俺は困っていた


 先程の衝撃(?)の告白から約一時間――……

 彼は言いたい事を言い終えると、一人自棄酒をかっ食らい始めてしまった
 別に、飲みたければ飲めばいいと思う


 …ただし他人に迷惑だけはかけないでほしい


 彼は飲んでは愚痴り、愚痴っては泣き、泣いては俺に絡んでくるのだ
 ……俺、明日早いから……そろそろ寝たいんだけどな……

 この状況では、とてもじゃないけれど眠るなんて無理だった
 仕方無く俺も形だけグラスを持ち、業務的に彼に付き合っていた

 意外な事に彼は結構な話好きらしい
 自分の事を、とにかく喋る喋る……

 おかげで、彼の事を一日にしてかなり把握してしまった


 彼の名はレグルス
 土の属性を持つトラベラー、とのことだ

 両親と死別して以来、学校を中退し、国中を旅して回っているらしい
 元来、旅行好きということもあるそうだ


「……もう、オレを護ってくれる母ちゃんはいないから……自分の身は自分で守るんだ……
 でもオレの住んでいた村は治安も悪いしモンスターもいっぱい出てくるしよ……
 とてもじゃないけど一人で生きていけるような場所じゃなかったんだ……
 ……だから、旅をして探してるんだ、オレが一人でも安心して生きていける場所を……」


 今の時代、どこだって一人で生きてくのは大変だと思うけど……

 つーか、旅をして回るほうがずっと危険だと思うのは俺だけだろうか


「……以前俺が二週間ほどお世話になっていた小さな農村があるんだけど……
 そこはのんびりして平和そのものって感じだし、よかったらそこを紹介しようか?」


 たまにイノシシ爆走するけど



「…気持ちは嬉しいんだけどよ…オレ、農村はダメなんだ…
 俺の家、スラム街の外れにある畑の中にあったんだ
 農家とか見ると、何か母ちゃんの事思い出しちまってよ……」



「……そっか……」


「あんたは何で温泉嫌いなのにこんな所に来てんだ?
 まさか、本当に温泉饅頭食い放題のためにわざわざ来たってのか?」


いくら何でも、そこまで 食い意地張ってない


「……えっと……火山にちょっと用事があって……」

「へぇ〜……どんな?


 聞かないでくれ…



「……えっと、ちょっと探し物かな……」


「よし、オレが手伝 ってやるよ」


 やめて下さい


「ほら、オレあんたに悪い事しちまったし……
 それに次の船までまだ日にちあるしよ、暇潰しがてらに手伝わせてくれよ」


「いや、関わらない方が……」


「ガキが遠慮すんじゃねぇよ〜
 いいから兄ちゃんに任せておけって!!」

 俺の中には兄という存在ほど信用ならないものは無いという信念が……


「よし、そうとなったら早く寝るぞ!!」


  あんたのせいで今まで眠れなかったんだけどね……

 つーか、明日どうし よう……



「ほら、レン!!
  何もしないから安心して寝ろ!!


  あんたが明日しようとしてることが不安で眠れねぇんだよ


 絶対、断ってもついて来るよな……
 こうなったら仕方が無い


 明日、こいつが起きる前に出発しよう



「レン、明日は9時に出発するぞ!!」


  あと5時間しかないんだけど…



 レグルスが寝たらすぐ出発しよう……
 俺は頭から布団をかぶると寝たフリを決め込んだ

「……レン……」


 あれから一時間は経っただろうか
 窓の外から差し込む光が青白く色を変えている
 そんな中、レグルスはなぜか俺の寝顔をじっと見つめていた


 早く寝てくれ…… 
  寝たふりもそろそろ限界なんだけど

 レグルスの手が、俺の髪を優しく撫ぜた

「……レン……」


 熱い吐息が耳元を擽る


 ちょっと待て

  俺はこのまま寝たフリをしていていいのだろうか?




 …………でも…………


 ここでいきなり喝ッ!!とか言って飛び起きたら絶対驚かれるよな…


 ちょっとやってみたいような気もするけど



 …って、いかんいかん現実逃避 してたよ
 今はそれどころじゃ ない


 レグルスは指先で俺の髪を弄んでいる
 あぁ……俺は大丈夫なんだろうか……
 毛先を軽く引っ張られる
 あぁぁ…これは何の合図なんだろう…


「…いいなぁ…レンの、 ふわふわキューティクルヘアー…」

 ……………………。

 ……気にしてたのか……つんつんヘアースタイル……
 その後俺は実に2時間の間、延々と髪の毛を引っ張られる事となった…


 ……ぐったり……




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