「……とりあえず、テントと火の用意をしておくかな……」


 森の中はただでさえ暗い
 そう遅くなく日は沈むだろう

 電気も水もない森の中で闇に包まれるのは危険だ



  そしてその中で手探りでテントを組み立てるのはもっと危険だ

 俺は急いで簡易式のテントを組み立てると
 その中に荷物を置いて火を熾す準備を始めた



 気分はすっかり原始人


 できるだけ木の根元から離れたところを選び、
 大きめの石を組み立てて直接地面の草葉に火が
 つき難い様にすると
安全だと以前何かのテレビで見た

 炭を持ってきてあるが、数に限りがあるので森の中を
 少し歩き回って大きめの木の枝を拾って薪とした

 焚き火が大きくなると、その分周囲の闇が強くなる
 空を見上げると、既に空は赤から紺へと色を変えて静かに闇の衣を身に着け始めている

 バスの中で酔ったための食欲も湧かず、
 かといって特に整理するほどの荷物も持ってきていない俺は
 上着のボタン
を留めると軽く散歩にでも行く事にした
 火事防止のため火は最小限に小さくしておいた



 森の中は自然がとても綺麗だった

  とてもホモ小説の舞台になった場所だとは思えない


 小さな沢を見つけたからついでに額を冷やしておく
 水は凍るように冷たかった

 気分爽やか

 出だしは最悪だったけれど、結構いいキャンプになるかもしれない

 俺は足取りも軽くテントへと戻る事にした



「…………」

 ちょっと目を離してるうちに炎でテントが燃えちゃいました、
 何てことになったらヤバいなということで、かなり離れた所
に焚き火を作っておいたら



思いっ切りテント見失ったよ


 今にも消えそうな風前の灯火状態の焚き火をやっとの事で探し出した時には既に何も見えやしねぇ

 これでこのまま焚き火が消え失せてしまったら完全なるダーク・ワールドにヘイ、らっしゃい



 ……俺、ピンチ


「何はともあれ炎を巨大化させなきゃね」

 その辺にあった木の枝や葉っぱなどをポイポイ投げ込んでいくと、
 その場にそぐわねぇ程の巨大なキャンプファイャー
が発生した



 うおう



 威力はファ○ラか、ベ○ラマ程度だろうか

 ……ネタの分からない方、すみません

 どっちにしろ、この中に飛び込んだら最後、命はないのは確かだろう


「燃〜えろよ燃えろ〜よ〜炎よ燃〜え〜ろ〜♪」


 何となく唄ってみる

 こうしていると、楽しい気分になってくるものだ

「火〜の粉を巻き上〜げ〜 山ごと燃やせ〜♪



 最後が危険過ぎる



「これくらい明るくなったらテントだって見つけられるよね」

 危険なほど毒々しい朱に染まった森の中は以前とは比べ物にならないほど明るい



  つーか早く消さないと本気でヤバい



 燃え盛る炎の中 所在無さ気に佇むテントを発見し位置を明確に把握したところで俺は炎を消した


「いやぁ〜危うく焼死するところだったよ」




 殺傷能力のない程度にまで焚き火を小さくして、ほっと一息

 意気揚揚とテントに向かう

 ちょっと重いけどテントの位置をもう少し焚き火の近くに移動させた方がいいかもしれない



 ……山が全焼す る前に




 さて、現在テントのすぐそばまで来ております

 俺はといいますと今すぐにでもこの中に入って、
 必要な荷物をとっとと持ち出してテントを移動したいのでございますが
……


 あの……

 テントが……


 さっきから、ごそごそ動いているんですけど……



――…中に何かいる!?




「何か……物凄くコワいんですけど……」


 だって宿泊客は俺一人のはずでしょ?

 ……じゃあ、この中にいるのは誰?



 何奴!?



「……何か、あんまし深く考えない方が俺の平静上よろしいかもしれない……」


 でも、このままじゃ寝られない



 俺は決死の覚悟でテントの中でもぞもぞしている物体に向かって


 手刀を放った




 どうなる、俺……



小説メニューへ戻る 前ページへ 次ページへ