俺の名前はレン・ダナン



 魔界の大学に通う21歳、美青年!!
 この可愛過ぎる美貌と豊満なバディが俺のシンボル
 チャームポイントは大きな瞳と天然パーマの長い髪

 そんな俺は、個性的過ぎる二人の義兄と共に、
 波乱万丈でわけのわからない生活をしているんだ


 本気で我が家は、いつも何かと問題だらけ
 そして今朝もやっぱり事件が起きたんだ

 何故か知らないけれど、この俺の額に目が増えたんだ
 この現象を前に、俺の兄さんセーロス・ダナン(26)は果たしてどう出るのか―――…


 …なんて、思わず心の中で前作の内容を振り返ってしまう程の、
 物凄く重くて長い沈黙が我が家のキッチンに満ちていた



「…セーロス、大丈夫?」

 彼はフライパンを握り締めた格好のまま固まっていた
 フライパンの仲の小人たち(元・ベーコン)も心配そうに成り行きを見守っている


「…レン、その目は一体何処でどのようにしてついたんだ?」

「朝起きたらあったんだよ」

「そうか…サンタクロースのプレゼントみたいだな」

 深夜寝ている相手に目を植え付けていくサンタ…嫌過ぎる
 …というか、それは既にサンタではなく、地獄の使いだ


「もう一晩出たら消えてる…って事はないか?」


 どんなトリックだ


「最悪の場合、もうひとつ増えてるって事もあるんだよ…?」

「そうか…今度増えるとしたら、バランス的に考えると顎の辺りが妥当か?」


 バランス良く配置されても困る


「頼むから、もう少し真面目に考えてよ
 あぁ…俺は大学のアイドル的存在なのに、
 可愛い顔がこんな事になっちゃって…ファンが泣いちゃうよ」

 嫌なものを隠そうと、再びタオルを額に巻くレン
 しかし冗談を言うだけの余裕はあるらしい
 セーロスも弟の精神的負担を減らそうと、レンの冗談に付き合う


「ははは…まぁ、そうだな
 レンは子供の頃から殆ど顔が変わらないものな」

「うん、まるで天使だよね
 宗教画から飛び出してきた聖母っていうかさ
 神秘的っていうか…まさに神の創った最高傑作?
 でもねぇ、超絶に可愛過ぎるってのも色々と大変なんだよ
 この美貌を妬んだ奴らがさ、俺の事をナルシスト扱いするんだよ…酷いと思わない?」


 …ちょっと待て

「お前、まさか素で自分の事をそう言ってるのか…?」

「だって、実際に俺って可愛いもん
 セーロスだってそう思ってるでしょ?
 みんな口に出しては言わないけどさ、心の中では絶対そう思ってるんだ」


 言い切った!!

 どうやら本人はジョークで言っているのではないようだ
 そして現状を和ませる為に軽口を叩いているのでもないらしい


 目がマジである




  




「…私は、どこで育て方を間違ったのだろう…」

 ナルシストも度を行き過ぎると痛々しい
 セーロスの嘆きはレンの耳には届かなかった



「一刻も早く何とかしないとね
 んー…セーロスは心当たりって無い?
 例えば何かの病気とか呪いとか……」

「むしろ、病気や呪いであってくれれば、
 どれ程良かったか…といった感じだな」

 ふぅ、と額を押さえて俯くセーロス

「な、何か意味深…
 知ってるんなら早く言ってよ」


 でも、知ってるなら一安心
 流石は世界を旅する戦士といった所か

 料理は下手でも雑学だけは豊富だ


「で、これは何?」

目だろう


 ンなこたぁ知っとるわ


「…こんな時にボケないでよっ!!
 それで、この目は何処のどなた様の物なの!?」

「書面によれば、神の物とされているな」


 …はい?

 それは、紙製っていうオチじゃないよね?

「詳しく言うなら神と言っても邪神だ
 この目は邪神の降臨を意味している」


 おい

 何か


 スケールがでけぇよ


「まさか、お前に邪神が降臨するとはな…
 いやぁ…珍しい事もあるものだ…流石はレンだな」

 全然嬉しくない

 むしろ、最大級に迷惑



「…で、俺はどうすれば良いの?」

「そうだな…今すぐに、南へ旅立て!!


 何で!?


 まさか、思いつきで言ってるわけじゃないよね!?


「あの…南って…」

「とにかく南へ旅立つんだ!!
 そして、そこで肉を焼いて来い!!


 わけわかんねぇ


「………根拠は?」

「この町に古くからある言い伝えだ」

 そんな下らない事言い伝えるな
 何処の誰だよ、伝えた奴は

 責任者、出て来い



「ほら、これを持って行け」

「これは……っ!?」


金の斧と銀の斧だ!!



 いらねー


「…って、何でそんなモノが家にあるのさ…」

「うむ、これは話せば長くなるのだが…
 以前私が剣の修行で旅をしていた時に立ち寄った村で―――…」


「あのさ、出来るだけ手短に頼むよ」

「まぁ、要約すると…貰ったんだ


 短けぇ!!



「そ、それで…それを俺に渡す意図は……?」

路銀代わりだ


 カネよこせ

 それ以前に俺は旅になんか出る気ないし
 だってほら…大学だってあるんだから


「…もう良い…俺、学校行って来る」

「その目で授業を受けるつもりか?
 三つ目小僧が現れたと言って騒動になるぞ」


 あ……


 忘れてた

 どうも存在感が薄いんだよな、この目って…


「きっと、セーロスの存在感が強過ぎるんだよ」

「私のせいにするな
 ほら、ユリィが帰ってくる前に行け
 奴が戻ってきたら騒ぎが大きくなる」

「いや、あの、行こうにも…目的地は?

「とにかく南だ!!


 それだけかよ





「――とりあえず行って来い
 私は鶏の血を煮詰めて待っている


 何の呪いを始める気だ



「せ、セーロス…」

「一人で行くのが嫌だと言うなら、
 私もこの格好で一緒について行こうか?」

「――――…☆」


 裸エプロンのマッチョと旅の空な自分を想像して、
 思わず脳裏に星が飛び交う

 南へ向かうどころか、真っ先に刑務所へ連行されるだろう




  



「…いや、一人で行けるよ…」


 しぶしぶと部屋に戻って旅の支度を始める


「あーあ…何か、話が妙な方向に行っちゃった…
 まったく、セーロスも一体何を言い出すんだか」

 でも、ここでこうしていても仕方が無い
 どうせこんな状態じゃ学校にも行けないし

 とりあえず、ちょっとだけ行ってみるかな…
 そうすればセーロスも納得するだろうし


 ユリィが戻ってきたら、改めて聞けば良いんだ
 うん、きっとユリィならマシなアドバイスをくれるに違いない

 セーロスの事を根本的に信用していないレンだった




「――言っとくけど、俺はすぐに帰ってくるからね!!」

 その言葉を象徴するように、用意した荷物はほんの僅かだ
 しかしセーロスは特に何を言うわけでもなく手を振っている

「気をつけてな」

「…うー…
 行けば良いんでしょ、行けば!!」


 とりあえずこのまま外には出られない
 俺はその辺にあったバンダナを額に巻くと押し付けられた斧二本を担ぐ

 こうして、行き先もわからないまま半ば自棄で俺の旅は始まった


 ちなみにセーロスから貰った斧は重いし、とにかく邪魔だった

 だから近所の海を泳いでいた、
 これから人間界へ向かうと言う銀の巻き髪の人魚に


 捨て値で売りつけてみた




 レンが旅立った後、セーロスは窓辺から海を眺めていた


「…ふぅ…まさか、レンが…な
 いや、これがあの子の宿命なのかも知れない…」

 セーロスは、初めてレンとであった日のことを思い出していた
 小さくて、か弱くて、今にも消えてしまいそうだった幼い少年

 ユリィと二人で、惜しみなく愛情を注いで育て上げた
 自分もユリィもレンの事を実の子のように思っている


「…だからこそ、私はレンを信じる…
 例え相手が誰だとしても、簡単に負けるような子には育てていないつもりだ…」

 どんな逆境にも負けない精神力
 柔軟な思考と発想力、そして運の良さ―――それが、レンの最大の武器だ


「レン、安心しろ
 お前には海が味方についている…」

 セーロスは踵を返すと、再びキッチンに立つ
 そして寂しさと不安を払拭するかのように、料理に没頭し始めた



TOP