「…………?」


 目覚めたそこは、暖かなベッドの中だった
 自分がどうしてこんな所にいるのかわからない

 セオフィラスは手で目を擦りながら、ゆっくりと上体を起こす

 微かな眩暈と背中の痛み
 これは完全に寝過ぎた症状だ


「…ええと…俺、どうしたんだっけ…?」

 傍らには綺麗に畳まれたマント
 そして無造作に置かれた鎧と剣

 …自分で脱いだ記憶は全く無い
 というよりベッドに入った記憶すらない


「…うーん…?」

 軽い混乱に首を傾げる
 記憶を辿ってみても何も思い出せなかった

 窓の外に視線を向ける
 しかし既に日は落ちているらしく、外の景色はわからない


 外に出て確認してみるべきか、
 それとも朝まで待つべきか

 戸惑っていると、不意にドアノブが回る音がする





「…あっ、旦那…起きてたっスか?」

 顔を覗かせたのは長い黒髪の青年、エルバイト
 そして妙に顰めた表情のノワール


「旦那が寝てる間に集落に着いたっスよ
 今、宿の手配を済ませて来たところなんスが…」

「えっ…ね、寝てる間って…?」

「若さんが旦那を背負ってここまで運んで来たっスよ」

「えええっ!?
 そんな…起こしてくれれば良かったのに…!!」


 セオフィラスは知らない

 自分が眠りから覚めそうになる度に、
 エルバイトとノワールが眠り粉たっぷりの布を
 セオフィラスの顔面に押し当てていた事を

 強制的に眠らせ続けていた罪悪感で徐に視線を逸らすノワール



「ご迷惑をおかけしました…」

 しおらしく頭を下げるセオフィラス
 そんな彼にエルバイトが笑顔で口を開く


「若さん、人の集落に来るの初めてなんスよ
 外が気になって仕方がないみたいなんで、
 朝になったら一緒に外に連れて行ってあげて欲しいっス」

「ついでに生活習慣や文化についても説明が欲しい」

「あ…はい、そんな事で宜しければ喜んで…」


 セオフィラスが頷くと、
 途端に表情を明るくさせるノワール

 そんな彼をエルバイトが肘で突く


「良かったっスね、若さん
 明日は旦那と初デートっスよ?」

「なっ…!?」

 白いノワールの頬が一瞬で赤く染まる
 それを眺めながら思わず『可愛い』と思ってしまうセオフィラス


「見た目によらず純情なんスよね?」

「う…うるさいっ!!」



 湯気が出そうなほど顔を赤らめたノワールは、
 照れ隠しなのか顔を背けると、そのままベッドに腰掛けてしまう

 そういえば

 この部屋はツインルームだ
 ベッドの数が一つ足りない

 もう一部屋とっているのだろうか
 それともエルバイトは再びモップ化させて、
 適当に立て掛けて置けば…って、流石にそれはあんまりか



「エルバイト、お前は何処で寝るんだ?」


 懐中時計を取り出して時間を確認すると、
 時刻は既に日付けが変わっている

 そろそろ眠らなければ明日に響くだろう

 しかし旅に出てから寝てばかりのセオフィラス
 流石にこれ以上の睡眠は身体が受け付けない


「…俺はもう充分寝たからさ
 エルバイトはこのベッド使えよ
 流石にもう睡魔は訪れないだろうから、朝まで起きてるし」

「そんな気遣いは無用っスよ
 旦那はそのままベッドに寝てて欲しいっス
 自分はわりと何処でも寝られるタイプっスから」

「でも…三十路男が床でゴロ寝ってのは、
 そろそろ関節にも来る辛い頃なんじゃ…」

「……………。」


 そっちの意味で気遣われていたのか…
 ちょっと背中に哀愁が漂うエルバイト

 こんな事なら多少サバを読んで年齢を告げるべきだった




「…おい、これはどう着るんだ?」

 一方のノワールは既に眠る準備を始めていた
 宿の備え付けの夜間着を片手に首を捻っている

 どうやら自分の着衣の着脱は出来るが、
 初めて見る服の着替え方はわからないらしい


「ああ、これはボタンって言うっス
 こうやって留めてあって…ほら、これで袖が通せるっスよ」

「ふぅん…人は面倒な習慣を持っているな
 何故、寝る時にまで服を着なければならない?
 人として過ごすからにはその習慣に従うが…オレには理解出来ん」

「ははは…服を着る習慣が無い、
 ワイバーンならではの意見っスね」



 苦笑を浮べながらノワールの着替えを手伝うエルバイト
 慣れない手付きでボタンと格闘するノワールの姿は実に微笑ましい

 しかしセオフィラスの視線はすぐに別の場所へと釘付けになる

 象牙のように白く滑らかな肌
 思わず歯を立てたくなるような鎖骨
 ちらちらと見え隠れする胸の突起、そして剥き出しのままの太もも…


 ごくり、と思わず唾を飲み込むセオフィラス
 欲求不満気味の身体は目の前の光景に反応してすぐに火がつく

 しかしそんなセオフィラスに気付かない二人は尚も着替えに没頭する


 着替えの手本を見せると言いながら、
 深紅の衣を肩から滑り落とすエルバイト

 ぴっちりとしたスパッツ姿の彼は、
 そのボディラインがはっきりと浮き出ている

 寝間着姿のノワールとはまた一味違った色香が漂う
 尻フェチのセオフィラスとしては、これもまた美味しい光景だ





「…眼福だな…」


 思わずそう呟くと、それが聞こえたらしい二人が
 同時にセオフィラスの方へ振り返る

 その視線に慌てて弁解するセオフィラス


「あ、い、いや、だってさ
 本当にここ最近は自分で処理する余裕も無くて…っ!!」

「………そうだな」

「へっ?」


 ノワールは何故かセオフィラスに同意する

 そして徐に立ち上がると着替え途中の寝間着姿のまま、
 セオフィラスの隣りへと腰掛けた

 ぎしっとベッドが大きく軋む



「…お、王子…?」

 ノワールの白い腕が肩に掛かる
 程無くしてセオフィラスはしっかりと両腕で抱き締められていた

 腕に力が入っていて少し息苦しい

 軽く咳き込むと、
 いつの間にか傍らに来ていたエルバイトの手が頬に掛かる

 見上げると彼は優しい眼差しで微笑んでいた


「…エルバイト―――…」

「それじゃあ旦那、お望み通り…
 自分と若さん二人でお相手するっスよ」

「………は?」

 一瞬、頭の中が真っ白になる
 しかしシャツの中に滑り込むエルバイトの手に意識が覚醒する


「えっ…ち、ちょっと…本気で!?」

「もちろん本気っスよ
 自分も若さんもそのつもりっス
 あれから若さんと二人で話し合ったっスよ
 旦那ともっと深い関係になっておくのも悪くないって…」

 そう言うとエルバイトはセオフィラスの耳朶を軽く噛みながら囁く




「…ただし、抱かれるのは旦那の方っスけどね」

「え…ええええっ!?」

 驚愕の声を上げるセオフィラス
 そんな彼をサラリと無視してベルトを外しに掛かるエルバイト

 流石にこれはマズい


「ちょっ…ちょっと待てよ!!
 抱かれる側なんて絶対に嫌だぞっ!?」

 今度はズボンを脱がそうとしてくるエルバイトを静止しようと、
 彼に向かって手を伸ばそうとする
 しかしノワールに抱き絞められているせいで思うように手が使えない


「お、王子っ!!
 手を…手を離して下さいっ!!」

「断る」

「はいっ!?」

 更に腕に力を込めるノワール
 そんな彼を前にようやくセオフィラスは理解した

 ノワールは自分を誘う為に抱き締めたのではなく、
 抵抗を封じて逃げないようにする為に自分を捕らえていたのだと



「…すまない」

「いや、そんな…!!
 謝るくらいなら助けて下さいよ!!」

「それは出来ない
 オレもセオフィラスが欲しいんだ」

「…って、王子まで私を襲われるおつもりですかっ!?」

「言っただろう
 二人で相手をすると」


 淡々と言葉を吐き出すと、
 ノワールはエルバイトに視線を向ける


「…それで、オレはいつまでセオフィラスを捕らえていれば良い?」

「そうっすね…じゃあ、そろそろ始めるっスか
 若さん、もう少し旦那の位置をずらして欲しいっス」

「…どうする気だ?」

「ベッドの柵に旦那の体を固定させるっスよ
 両手の手首と足首にそれぞれ縄を括り付けて動きを封じるっス
 ふふふ…旦那の事、二人でじっくりと可愛がってあげるっスよ?」


 マズい
 エルバイト…目がマジだ

 この目、どこかで見た事があると思ったら
 ゴールドがジュンを見つめる視線に良く似てる

 もしかして…エルバイトって、サディスト?



「ちょっ…え、エルバイト…
 お前、もしかしてSっ気あったりするか?」

「自分、真性のサディストっスよ
 何せ奴隷の調教や拷問が本職っスから
 長年培ったこの技術で旦那の肉体も立派に開発してあげるっスよ」

「な、何でそんな危険な男を寄越すんだ神族たちっ!!」


 …って、今は悠長に突っ込みを入れている場合じゃない
 エルバイトの素性を知って更なる窮地に追い込まれた気がする

 というかエルバイトってまさか、ゴールドやカルラ系のキャラ?



「さ、最悪…
 外見に騙されたっ…!!」

「こっちでは可愛く猫を被っていようと思っていたのに、
 旦那が下手に挑発するから…
 人族にも手を出してみたくなったじゃないっスか」

「い、いや、出さなくていいっ!!」

「もう遅いっスよ」


 隙を突いてエルバイトが腰に手を掛ける
 下着ごとズボンを脱がされて背筋に冷や汗が流れるセオフィラス

 反射的にエルバイトを蹴り上げようと足を上げる
 …が、逆にその足をつかまれてしまう


「はい、捕まえたっスよ」

「う、うわ…っ!!」


 そのまま足を持ち上げるとベッドの柵の上に乗せ、
 荷造りに使用していた縄でぐるぐると固定してしまう

 片足さえ封じてしまえば、残りの一本を拘束するのは簡単らしい
 あっさりと捕らえられた足は動かそうとしてもびくともしない

 それほど強く縛られている気はしないのだが…これがプロの技なのだろうか
 一瞬、自分の置かれた状況も忘れて感心してしまうセオフィラス




「自分、旦那と比べれば非力っスから
 しっかりと拘束させて貰ったっスよ
 それじゃあ次は腕の方を…若さん、右腕だけ解放して欲しいっス」

「ああ…何故右腕なんだ?」

「利き腕から封じた方が後々楽っスから
 左手の反撃なんてたかが知れてるっスよね」

「成る程な…覚えておこう」


「お、王子っ!!
 そんな事に感心していないで…助けて下さいよ、早く!!」

「だからそれは断ると言っているだろう」

 あっさりと却下される
 取り付く島も無いとはこの事だろうか



「え、エルバイト…」

「自分に助けを求めても無駄っスよ
 そんな目をされても動じないっス
 仕事柄、いつも見てる表情っスからね」


 にっこりと相変わらずの笑顔が返ってくる
 笑いながら人を殴れる人種なのだろう

 この手の輩を敵に回すと怖いという事は、
 騎士団長の姿を見て学習している

 しかし、だからと言ってされるがままというのも怖い


 腕に縄を掛けて来ようとするエルバイトの手を払いながら、
 何とか反撃の糸口を探そうと周囲を見渡す

 視界の端に愛用の剣が見える
 しかし手を伸ばしても届く距離ではなかった

 悔しさと苛立ちに唇を噛む



「くっ…」

「うーん、流石にしぶといっスね
 その反射神経と腕力、ディサ国騎士のレベルの高さが窺えるっス」


 正々堂々と戦えば勝てる相手だ
 しかし、この状態では満足に反撃する事すらままならない

 自分は必死の抵抗をしているのに、
 余裕の笑みを浮かべるエルバイトが恨めしい

 むしろ彼はこの攻防を楽しんでいるようにさえ見える


「…まぁ、夜はまだまだ長いっス
 こんな所で旦那の体力を無駄に消耗させるわけにも行かないっスよね」

 そう言うと突然エルバイトの手がセオフィラスの腰に伸びる

 ひんやりと少し冷たい手が腰や太腿を弄り始めて、
 セオフィラスの背筋に悪寒が走った



「や、止めろっ」

 エルバイトを静止させようと腕を振り被る
 その瞬間、手首に鈍い痛みが走った


「…っ…!?」

「はい、捕獲完了
 襲われている途中で隙を見せちゃダメっスよ?」

「あ…っ…!!」

 腕が動かない
 手首に食い込む縄がぎちぎちと音を立てていた


「もう片方の手もいくっス
 若さん、ちゃんと押さえて…そう、そのままっス」

 作業的に縄を掛けて行くエルバイト
 手馴れた作業は程無くして終了する

 ノワールの腕から解放されると同時に、
 今度はセオフィラスの両腕の自由が奪われた






「…準備完了っスね
 さあ、いよいよお楽しみの時間っスよ」

「楽しいわけないだろうっ!!」

「心配しなくても大丈夫っスよ
 自分の技術で充分楽しませてあげるっスから」


 余程自信があるらしい
 満面の笑みでセオフィラスの胸に手を置くエルバイト

 反応を確かめているのか、まるでピアノを奏でるかのように指先を蠢かせている


「…さあ、若さんも一緒に楽しむっスよ」

 一歩離れた所で傍観していたノワールを手招きする

 しかし当のノワールは落ち着き無く身動ぎをしたり、
 視線を宙に彷徨わせたりと挙動不審な行動を繰り返している



「……若さん?」

「お、おい…その…
 オレは何をしたら良いんだ?」

「好きにして良いっスよ」

「…好きに…って…だから、何をどうすれば…」


 躊躇っているというよりは、
 心底戸惑っているという表情のノワール

 今度は視線を地面に向け、自分の爪先だけを眺めている



「…若さん…もしかして、初めてっスか?」

 その問い掛けにノワールの頬が一気に赤く染め上がる
 素直な表情の変化で図星を指された事が一目瞭然だ


「見かけによらず純情な所があるとは思ってたっスけど…
 成る程、そういう訳だったっスね」

「う…うるさいっ!!
 仕方が無いだろうっ!!」

「恥ずかしがらなくて良いっスよ
 誰だって最初はそんなものっスから」


 そう言うとエルバイトは再びセオフィラスの身体に手を伸ばす


「じゃあ、まずは練習って事で自分がレクチャーさせて頂くっス
 特別サービスで自分の秘伝のテクニックも伝授してあげるっスよ
 大好きな旦那に実地で教えて貰えるなんて若さんも運が良いっスね」

「…………。
 そ、それで…まずは何をすれば良い?」

「自分がやって見せるっスから、
 まず若さんはそれを見て覚えるっス」

「わかった」


 素直に頷くノワール
 しかし、それとは正反対に声を荒げるセオフィラス




「ちょっと待ってっ!!
 な、何でそんな事に…!!」

「若さんを男にしてあげる為にも、
 旦那も協力しなきゃ駄目っすよ
 それに人族の事を若さんに教えるのも旦那の任務だった筈っスよね?
 身体を提供して人族の事を直接知って貰えば良いじゃないっスか」

「ふ…ふざけんなっ!!
 俺は教材じゃないっ!!」

「でも今はそうなって貰うっスよ
 調教師は奴隷を人として扱っては駄目なんスよ
 人を物として扱う事に自分はもう慣れ切ってるっス」


 そう言い捨てると、エルバイトはセオフィラスから視線を外す
 そして人懐っこい笑顔を浮かべるとノワールに向かって目配せをする



「…それじゃあ、始めるっスよ」

「あ、ああ…」

 ちらりとセオフィラスの方に視線を向けてみる

 彼はエルバイトの言葉に全てを諦めたのか、
 硬く目を閉じたまま微動だにしない


「…セオフィラス…」

「もう…いいです
 大人しくしていますから…早く済ませて下さい」

「それじゃあ、本人の了承も得た事だし…遠慮無く行くっスよ」



 エルバイトの手がセオフィラスの首筋に触れる
 そのまま鎖骨や胸まで指を滑らせると、
 唇を寄せてそこに軽く歯を立てた

 ちゅっ、と微かな音と共に、
 軽く鬱血した痕が浮かび上がる


「これがキスマーク
 別名、所有印とも言えて…
 手頃に征服感が味わえるっス」

「ふぅん…そういうものなのか」

「若さんも付けてみるっスか?
 慣れない内は難しいっスけど…」

「セオフィラスに傷を付けたくない」

 首を振るノワールにエルバイトが微かに鼻を鳴らす


「…まぁ、いいっスけどね
 でも次はやって貰うっスよ」

 指先がセオフィラスの胸の突起を摘み上げる




「乳首への愛撫は定番っスからね
 これはしっかり覚えて貰わないと…」

「そうなのか」

「そうなんスよ
 じゃあ、早速やって見せるっス」


 エルバイトの舌がゆっくりと這い回る

 周囲を円を描くように舐め上げたかと思うと、
 今度は先端をくすぐる様に舌先を動かす


「…っ…く…」

 セオフィラスが息を呑む
 元々感度が高いのか、それとも単に欲求不満だったからか

 どちらにしろ好都合とばかりにエルバイトは更なる刺激を与え続けた

 唇で啄むと強く吸い上げる
 ぷっくりと膨れ上がったそこが微かに色付き始めるのを確かめると、
 今度は胸の突起を押し潰すように舌で何度も擦り上げた



「…くっ…ぅ……ぁ…」

 セオフィラスの吐息に甘いものが混ざり始める

 不自由な身体で身動ぎを繰り返す彼の身体を軽く押さえると、
 エルバイトはノワールに向かって手招きをした


「こんな感じで可愛がってあげればいいんスよ
 さあ、若さんも一緒にやってみるっス」

「あ…ああ、わかった…」


 緊張した面持ちのままノワールは恐る恐るセオフィラスに近付く

 指先で軽く触れて感触を確かめると、
 躊躇いながらもそこを口に含んだ



 エルバイトの舌遣いを思い出しながら吸い上げていると、
 口の中で少しずつ変化して行くのがわかる

 決して上手とは言えない自分の舌にも反応してくれるセオフィラスが嬉しくて、
 ノワールは愛おしそうに何度もそこを啄む


 エルバイトは軽く歯を当ててカリカリと感触を愉しみながら、
 初々しくノワールが愛撫する様を眺めていた

 二人掛かりの刺激にセオフィラスが堪らずに呻き声を上げる


 ノワールの不慣れな舌が焦らすように、むず痒い刺激を与える一方で、
 エルバイトは痛い程の強い刺激でセオフィラスの弱い場所を的確に責め続けた

 いつ終わるとも知れない対称的な二つの刺激に気が狂いそうになる

 ぴちゃぴちゃと舌が立てる湿った音と、
 セオフィラスの噛み殺した吐息だけが静かな部屋に響いていた





「…う…っく…も、もう止めて……」

 充血した胸の突起は絶え間なく繰り返される刺激に苦痛を訴える
 軽く触れるだけでそこは痺れるような鈍い痛みが走った

「いい色になったっスね、こんなに敏感になって…
 本来ならこの状態になってからが調教の始まりっスよ
 旦那が自分の奴隷だったら、乳首を糸で縛り上げて重石をぶら下げてる所っス」

「ひぃっ…」


 青ざめるセオフィラス

 彼のそんな反応を楽しみながら、
 エルバイトは満足気な笑みを浮かべる



「…まあ…乳首の愛撫はこの位で充分っスかね
 若さんもコツがつかめて来たみたいだし…次に行くっス」

 そう言うとエルバイトはセオフィラスの下肢に手を伸ばす

 既に熱を帯び始めているそこに触れると、
 エルバイトは微かな声を立てて笑った


「乳首の刺激だけで随分と感じて貰えたみたいっスね
 旦那、案外こっちの才能もあるかも知れないっスよ
 これが任務じゃなきゃ新顔の奴隷として連れ帰っている所っス」

 手の中のセオフィラス自身に視線を落すと、
 ゆっくりとそれを握り込む


「なかなか立派なのを持ってるっスね
 この位の方が可愛がり甲斐があって楽しめそうっスよ
 じゃあ若さん、自分がお手本を見せるから覚えて欲しいっス」

「ああ」

「本当はローションなんかで濡らしてからの方が、
 より強い快感を与える事が出来るんスけど…
 今日はそんな用意していないから口で濡らすっスよ」


 その言葉通り、躊躇いなくセオフィラス自身に口付けるエルバイト

 たっぷりと唾液を含ませた舌で根元からゆっくりと舐め上げる
 赤い舌が絡み付いてぴちゃぴちゃと音を立てた



「快楽を感じる神経は先端の方に集中してるっス
 刺激を与える時は根元の方からゆっくりと焦らすようにした方が効果的っスよ」

 舌で濡らして、その上から唾液を擦り込むように手で何度も扱き上げる
 その刺激にセオフィラス自身は次第に質量を増して行く


「…っく…ん…ぅん…」

「声、堪えなくて良いっスよ?
 旦那の可愛い声を聞かせてくれれば趣も出るっス」

「い…嫌だっ…出来るか、そんな真似…っ…」

「そう言われると…自分としては無理にでも啼かせてみたくなるっスよね」


 にやりと不敵な笑みを浮かべると、
 エルバイトは薄く紅を引いた口にセオフィラス自身を含む

 そのまま深く銜え込むと、
 暖かく湿った口腔でセオフィラスを追い詰めて行く

 時折舌を絡めて強く吸い、歯を当てて刺激を与える
 その度にセオフィラスの口から悲鳴に似た声が上がった



「筋の部分は舌を押し当てて擦る感じで…
 カリの辺りは唇で挿んで吸い上げながら舌で舐めるっスよ
 先端は舌で抉じ開けるようにして舐め取ってあげるといいっス」

「あぁ…っ…ぁ…や、止め…」

「ほら、もう蜜が溢れて来たっスよ
 舐めても舐めてもきりがない…」

「あぁぁ…っ…嫌…止めろって…っ!!」

 縄の食い込んだ足がガクガクと震え始める
 限界が近い事を感付いたエルバイトはあっさりとセオフィラス自身から口を離す


「…ぁ……」

「自分から止めてくれって言ったくせに、
 そんな声出さないで欲しいっス…
 でも心配しなくてもすぐに満足させてあげるっスよ」

 くすくすと笑いながらエルバイトはノワールを振り返る



「じゃあ、これから旦那をイかせるっスよ
 旦那の反応をしっかり見てタイミングをつかむっス」

「あ、ああ…」

「イく瞬間に一気に吸い上げてあげるのが自分流っス
 普通は小分けにして出るものなんスけどね?
 強引に吸い上げてあげると、脳天に突き抜けるような快感が走って…
 まぁ、実際どうなるかは旦那の表情や反応を見ていて欲しいっス」


 再びセオフィラス自身を口に含むと、
 自らの頭を上下に動かして刺激を与えて行く

 粘度の混ざった水音とセオフィラスの嬌声が耳を劈いた

 その腰が弾かれたように跳ね上がる
 まるで電流を流されているかのように全身が一定の間隔で痙攣を繰り返す


「あぁ…ぁ…もう…ぁ…ぁ…!!」

 額から滝のように汗が流れ落ちる

 汗と涙が混ざって赤く上気した頬を汚すが、
 そんな様さえセオフィラスの艶やかさを引き立たせる彩と化す



「くぅ…っ…う…う……!!」

 歯を食いしばりながら身体を震わせる

 ノワールはそんな歪んだ顔も綺麗だと、
 うっとりとセオフィラスの表情を楽しんでいた

 しかし、突然彼が目を見開いて声を上げ始める


「ひっ…ぁ、ぁ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 今までのものとは明らかに違う、
 嬌声というよりは悲鳴に近い声

 それと同時にエルバイトの喉がごくり、と音を立てた


「あぁ…ぁぁ…ぁ…っ…ぁ…」

 エルバイトの唇が離れても、
 尚も全身を痙攣させ続けるセオフィラス

 目を開いてはいるが焦点が合っていない




「…うーん、凄く濃い…そして早い…
 これは相当禁欲生活してたみたいっスねぇ」

「お、おい…
 大丈夫なのか…?」

「勿論大丈夫に決まってるっス
 ちょっと快感が強過ぎただけっスよ」

 そう言うと未だにヒクヒクとうごめくセオフィラス自身を指で突く


「イった直後は凄く敏感になってるっス
 この状態じゃ触っても刺激が強過ぎて苦痛しか感じない状態なんスよ
 だから一度イったら手を離して、少し休ませて余韻が遠ざかるのを待つのがお約束っス」

 エルバイトは枕を手に取ると、
 それをセオフィラスの腰の下に差し入れる



「…でも、イった直後の敏感な部分こそ最も苛めて楽しい状態っス
 こうやって枕を当てて腰を突き出すように固定しておけば、
 腰を引いて逃げる事も出来ないから思う存分楽しめるっス」

 エルバイトはセオフィラス自身を再び握り込むと、
 指先でゆっくりと刺激を与え始める


「自分はいつも、許可無くイった奴隷のお仕置きにこの状態を利用しているっス
 最初はくすぐったがって暴れているだけなんスけど…
 途中から獣のような声を上げ始めて…その姿はまさに阿鼻叫喚っス」

 セオフィラス自身が放ったものを掬い取ると、
 それを戻してやるように先端に擦りつけ始めるエルバイト

 時折、意図的に爪を立ててそこを責め立てる



「いやだあああああああっ!!」

 必死の抵抗を見せるセオフィラス

 両手足を激しく動かし逃れようとするが、
 しかしベッドに硬く固定されている為に意味を成さない


「や…やめて…俺、まだ…っ…ぁ…あああぁぁぁ―――…っ!!」

 ねっとりと絡み付く舌の感触に悲鳴を上げるセオフィラス
 激しく身体をくねらせる度に飛び散る汗がシーツに染みを作る


「ひあぁぁ…ぁ…やめて…やめてくれぇ…ぁ…ぁぁ…!!」

 全身がガクガクと震え始めたのを確認してから、
 ようやくエルバイトは口腔内からセオフィラス自身を解放した





「…じゃあ、少しだけ休憩にするっスよ」

 にっこり笑うとエルバイトは水差しとグラスを手に取る

 肩で荒い呼吸を繰り返すセオフィラスにそれを近付けると、
 エルバイトは彼の顔面目掛けて水差しの水を浴びせかけた


「ぐっ…ごほっ…!!」

 激しく咳き込むセオフィラス
 そんな彼を気に留めた様子も無く、エルバイトは残りの水をグラスに注ぐ

 エルバイトは水を口に含むとセオフィラスの髪をつかむ
 そして自らの口に含んでいた水を彼の口内へと流し込んだ

 セオフィラスの喉が微かな音を立てる


「汗を沢山かいた時は必ず水分補給をさせるっス
 奴隷の体を壊してしまう調教師は失格なんスよ
 常に体調管理に気を配って健康な状態を維持させるのが腕の良い調教師っス」

 再び水を含むと、口移しでセオフィラスに水を飲ませるエルバイト

 既に抵抗する気がないのか、それとも単純に喉が渇いていたのか
 妙に大人しく与えられるがまま水を飲み続けている

 程無くしてグラスは空になった



「…そろそろ再開しても良い頃合っスかね」

 空になったグラスを置くと、
 エルバイトはノワールに向かって手招きをする

「さあ、次は若さんの番っスよ」

「…………。」


 ゆっくりとセオフィラスに近付くと、
 ノワールは躊躇いがちにそれに口付ける

 舌の上で転がしながらその感触を確かめてみる
 彼自身が微かに脈を打つのが口腔を伝わって感じ取れた


「最初の時よりも感度は上がってるっス
 だから二発目はわりと早めにイくっスよ」

 言葉通りセオフィラスは次第に質量を増して熱を帯びてくる
 彼自身を舐め上げていた舌に塩っぽい味が混ざり始めた
 口の中が妙にぬるぬるして湿った音が響く


「若さんて物覚えが良いっスね
 とても初めてとは思えないっスよ、その舌遣い…ねぇ旦那?」

 薄く開かれた唇から漏れる濡れた声
 次第に高くなって行くその声にエルバイトは絶頂が近い事を知る




「…若さん、そろそろっスよ」

 エルバイトの声に応える様に舌の動きを早めて促す
 先端を強く吸い上げるとセオフィラスの身体が大きく跳ね上がった

 息を詰まらせながら痙攣を始める肢体
 少し遅れてノワールの口の中に飛沫が散る

 それを飲み干し唇を離そうとするとエルバイトの静止が掛かった


「あ、そのまま続けて欲しいっス」

「………?」

「次は後ろを慣らす作業に入るっスから
 これは下手に力んだり暴れたりされると怪我をするんスよ
 だからここで体力を消耗させて無駄に力が入れられないようにするっス」

 ノワールは頷くと再びセオフィラス自身に舌を絡める


「やっ…いやあああぁぁっ…!!」

 舌が滑る音を打ち消すようにセオフィラスの悲鳴が上がる

「やめ…て…っ…や…ぁ…ぁ…ああぁぁぁ……!!」

 気を散らせようと激しく頭を左右に振るセオフィラス
 髪を束ねていた紐が外れて色素の薄い髪が肩や頬を打ち据える




「…ぉ…王子ぃ…お、お願…っ…やめ…っ…!!」

「旦那って髪を解いた方が綺麗っスね」

 エルバイトの手がセオフィラスに掛かる
 軽く触れる刺激にも過敏に反応して肢体が跳ね上がった


「助け…助けて下さ…っ…もう…許し…ぁぁ…いやぁぁぁ…っ!!」

 指先が宙を掻き毟る
 暴れる手足に縄が赤い痕を刻み込んだ


「もう…も…やめ…っ…いやだぁぁ…ぁ…あぁぁ―――…っ!!」

「まだ我慢しなきゃ駄目っスよ
 そうやって暴れる体力が残っている内は解放するわけに行かないっスから」

 そう言うとエルバイトはセオフィラスの胸の突起に舌を這わせる



「さあ、たっぷり泣き叫んで暴れるっスよ
 その体力が尽きたら楽にさせてあげるっスから」

 音を立てて強く吸い上げる
 赤く鬱血した突起から鈍い痛みと快感が走った

「ひぃ…ぃ…ひぁあああぁぁ……!!」

 ノワールの舌がセオフィラスを責め立てる
 指先で根元を強く扱き上げながら先端に唾液を絡ませて甘噛みを繰り返す



「うあ…あぁぁ…ぁぁっ…ぁ――――――……!!」

 水から引き上げられた魚のようにのた打ち回るセオフィラス

 その悲鳴は掠れて次第に空気を吐く音が混ざり始めた
 閉じる事を忘れた唇からは唾液の透明な筋が流れる


「…普通はここまで来たら、もう失神寸前なんスけど…
 よく意識を保っていられるっスね…見ていて飽きないっスよ
 人並み以上にある自慢の体力が裏目に出た例っスよね、可哀想に」

 さも楽しそうに笑みをこぼしながら、
 エルバイトはもう片方の胸の突起を指で挟むと躊躇い無くそれを圧し潰した