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「メルヘン紀行」河北新報書評 テキスト


メルヘン紀行

心に残る風景
美しくつづる

盛岡の川べりから出発  

 本を開くと、懐かしく美しい日本の風景が開ける。北海道から沖縄まで、人と風景との出会いを擬古文を用い、美文調でつづった。盛岡市出身のエッセイスト、みやこうせいさん(六八)が、近著「メルヘン紀行」で叙情あふれるロマンの旅にいざなう。
 誰も心にふるさとの川を持っている。著者にとっては、盛岡の街を流れる中津川がそれだ。
 「ひいふうみい足元から四つの橋を目で数え、浅黄(あさぎ)の姫神山の切っ先を、掌(たなごころ)に包みはるか拝(おろが)む」
 中津川から見る北上山系の風景を描写した部分だ(「故郷旅情」編)。「川べりを通って高校に通った。忘れな草がいっぱいに咲いていた。ふるさとを離れても、中津川は心の支え」と懐かしむ。
 南紀(和歌山県)を旅したとき、梅の花を見た(「花旅情」編)。「淡い雲なのか、霰なのか、品良く白梅が一面にひろごり咲いている」の書き出しで始まる。
 梅は、花の姿はもちろんだが、「何より香りである」と言う。かぐわしい香りが、風に運ばれてくる。目を閉じると、楽しい思い出や、親しい人たちのしぐさが思い浮か ぶ。
 「花の哀れさ、やさしさに身を投げ、心をたくし、人はついに、花そのものになる」
 人と自然が一つになった瞬間だ。
 南紀は山国。川と出合い、小さな集落をいくつも過ぎ、著者は難の本宮に向かった。
 瀬戸内の島(広島県)を訪ねたときだ(「ロマン紀行」編)。陽光の下、レモンがいっぱいに実を付けていた。
 光太郎は、智恵子の命の証しに哀しくレモンを差し出した。また、ある詩人はレモンの存在を心の傷みになぞらえた。島でレモンを摘む。「苦く酸っぱい味がした」とつづる。 著者は書評紙を経てルポ、ノンフィクション、翻訳、写真など幅広い分野で活躍。東京都在住。
 未知谷03(5281)3751=二三一〇円。

みやこうせい著

河北新報 平成17年(2005年)11月21日(月曜日)
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