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人間操作の時代


ヴァンス・パッカード
原書The People Shapers 1977年刊

中村保男訳
600ページ
2600円
1978年9月5日
プレジデント社刊

アメリカのジャーナリスト、パッカード(Vance Packard)が、(ちょうど、オーウェルの『一九八四年』にでてくるテレスクリーンのような)宣伝やら、事実の書き換えによる人心操作の内容、あるいはその萌芽を、具体的にアメリカの現実からすくい上げて論評している本。
あたかも、『一九八四年』『すばらしき新世界』の世界を実現する為の、広告・宣伝、人心掌握法具体論。

特に、「第一部 人間行動をコントロールする技術」の中の、
7 大衆監視と大衆コントロール
9 投票者に対する工作
原書が書かれてから約30年過ぎた現代日本に驚くほどあてはまるような気がする。
残念なことに、邦訳の入手は容易ではない。文庫になって欲しいと思う。
本書の内容の先駆として、同じ著者によるThe Hidden Persuaders邦題「隠れた説得者」および、The Naked Society 邦題「裸の社会」がある。
当のアメリカでも絶版で、古本しか購入できないというのが何とも不思議なことだ。

3、4ページ、オーウェルの『一九八四年』とハックスリーの『すばらしき新世界』に直接触れた部分は以下の通り。
引用始め -----
人間を改造ないし統制しようとする企てのなかには、ただ単に興味をそそるだけのものもあるが、なかには、心おだやかならざるものも多い。聞いただけで思わず鳥肌立つようなものもあり、その例をあげれば、人びとの体内に電波発信器を移植してその動静を監視する案とか、雑役をやらせ、かつ人体の予備の"部品"(器官)を提供してくれるロボットならざるサブヒューマン(人間以下の人間=低人)を造り出す案とか、人間の頭部を移植する計画とか、四人以上の親から一人の人間を生み出す計画とか、腕白小僧など、手に負えない人間どもをおとなしくさせるために、脳手術を行なおうという案などがある。
人間工学者が推進している"戦術"がこのようなものであることから、一部の人たちは、現代の世界は二人のイギリス人が未来の不吉なビジョンとして描いた小説中の架空の世界に向かって突進しつつあるのではないかと案じている。そのフィクションの世界とは、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』とオルダス・ハックスリーの『すばらしき新世界』に描かれているもので、ハックスリーの『新世界』は現在より六世紀先の未来世界である。オーウェルの『一九八四年』に出てくる独裁者ビッグ・ブラザーは、ハックスリーの『新世界』の統制官ムスタファ・モンドにくらべると、ずいぶんぶきっちょで単純な支配者だ。
オーウェルは、スターリン時代、ヒトラー時代にこの小説を書いたので、主に全体主義国家の治安維持テクニックを推定して描いている。ビッグ・ブラザーは、全家庭に監視用テレビ透視装置を据えつけたり、思想警察を設置したりして、プライバシー侵害によって国民を統制した。手のこんだ強圧と、大衆教化宣伝とによって統治したのである。
ハックスリーの小説は、オーウェルのよりも早く、一九三二年に構想されたものだが、世界統制官ムスタファ・モンドは、ビッグ・ブラザーよりもはるかに近代的な科学技術を駆使して世界管理を進めた。ムスタファ・モンドは、全面統制は人民の誕生時、いや、受精時から始める必要があることを見ぬき、生殖生物学の発達で可能となった"艀化所"内で胚(胎児の初期段階)がある一定のタイプの人間になるように遺伝学の方法を使って人間規格化操作を行なわせた。

引用終わり-----


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