「ジントニックね」 「僕はジンジャーエール」 注文をすると暫く、二人は無言となる。 彼が切り出す言葉を探しているうちに、ウェイターがグラスを運んできた。 「それじゃ、一応乾杯」 「乾杯」 彼女の言葉に、彼はグラスを合わせた。 軽く、グラスと氷の音が鳴った。 「四年振り、よね」 最初に口を開いたのは、やはり彼女だった。 「そうだね」 薄く色づいたサワーグラスを眺めながら、彼は答える。 「なにやってんの、今」 「高校生」 少し素っ気なかったかな、と彼は続けた。 「秩父って言うところに住んでて、地元の高校に通ってる」 「ふーん」 それは、とても曖昧な返答だった。色々な含みがありそうで、それでいてなにも考えてなさそうで。 「アスカは?」 「高校生」 一言だけ答えると、彼女はタンブラーに口を付ける。 やんわりと拒まれたような気がして、彼はまた、グラスに視線を戻した。 「アンタ、相変わらずね」 その声に顔を上げると、彼の方を向きながら、彼女が頬杖を突いていた。その姿に彼の心臓は瞬間、小さく鳴った。それを隠すように、シンジはジンジャーエールを口にする。炭酸が口内で弾けた。 「そういうとこ」 彼女が一瞬、笑ったような気がした。 彼女の向こうに、柱時計があった。時計の針は、約束の時間を二十分ばかり廻っていた。 「アンタ、何時に待ち合わせたの」 自分を通りすぎたシンジの視線を解して、アスカは問う。 「七時だけど……」 「ふーん、遅いわね」 左腕の腕時計をちらりと見て、彼女はまた頬杖を突いた。 彼は半ばパニックに陥っていた。目の前にはアスカがいる。綾波は未だ来ない。けれど、綾波が来たらどうなるんだろう? 「そんなに気になるんだったら、電話でも掛けてきたら」 そわそわと落ち着かない様子のシンジに、アスカは静かに言う。 「番号、知らないんだ」 「そう。じゃ、ダメね」 そしてまた、タンブラーを傾ける彼女。 なにも言わず、なにも語らず、ただ時だけが去っていく。 空いたタンブラーを軽く掲げて、アスカはギムレットを注文した。 アスカの注文を受けて、バーテンがシェーカーを振る。軽い心地よい音が、リズミカルに響く。 その様子をシンジは、ただ眺めていた。 それは、突然の告白だった。 シンジの鼓動は一瞬、止まるかに思えた。 「これから、ファーストが来るの」 |