どこからともなくわきだす様に空一面に広がり、青い空と明るい太陽を隠す。









































黒い雲。






厚い雲。





















空の低いところに、雲が広がってゆく。











やがて・・・





















ポツ・・ポツ・・





















小さな水滴が空から落ちてきた。





















雨。





















ポツ・ポツ・ポツポツポツ・・・





















次第にその水滴は量を増やしてゆく。











しずくが振りかかる、窓。






窓に振りかかるそれはだんだんと増えていき、やがてしずくが窓を伝って流れてゆく。






しずくが流れてゆく窓越しに見る世界は、ひどく抽象的だ。






全てがにじんで見える。






世界が曖昧になってゆく。






さらに雨は激しくなってゆく。






音が・・





















世界の音の全てが、雨音に包みこまれるように消えてゆく。





















まるで、この世界にその音だけが存在しているかのように。









































      雨は、お好きですか?






















100000Hit Anniversary for takeo's WebSite "No Fear!"

After the Rain...
〜かけ橋〜






















「ったくなんで突然こんな雨降ってくるのよっ」

激しい雨の中、自分のカバンをカサ代わりに頭にかぶりながらアスカは走って

いた。しかし突然降ってきたまるでスコールのように激しい雨の前には、そん

なものではとてもカサの代わりにはならない。

「こんなときに限ってシンジとは一緒じゃないし」

確か、朝シンジは言っていた。


 『アスカ、雨降るみたいだから持っていきなよ、カサ』


今となっては後の祭りだ。

「ハァ、完全な失敗ね・・」

いつになくアスカは自分の失敗を認めた。無理もない。

さっきから雨のしずくが髪の毛から滴り続けている。制服もすっかり濡れてしまっ

て色が変わってしまっている。まるで別な服のようにも見えるくらいだ。

その時アスカの走って行く先に、3階建てのビルが見えた。そのビルの1階部

分のシャッターは閉まっていたが、そこには少し長めの屋根のようなひさしが

出ていた。

「とりあえず・・」

アスカは走りながらそういうと、そのビルの向かって右側端の屋根の下に駆け

込んだ。




















「まいったわねー」

アスカはカサ代わりにしていたカバンを傍らに立て掛けると、しずくの滴る髪の毛

をかき上げ、制服に付いた水分を落とすかのように手で払った。足元はアスカ

から落ちるしずくでコンクリートにシミが広がっていた。

「ふぅ、とりあえず小降りになるまでここでしのぐしかないかな・・。ちょっ

 と寒いけど仕方ないわね」

アスカは自分の肩を抱くようにして空を見上げながらそうつぶやくと、軽くた

め息をついた。

「ん・・?」

その時人の気配を感じてアスカは右の方を見る。さっきは雨の中を走るのに必

死で、その屋根の下に他に誰かがいることなど気にもしなかった。

「あ・・・」

アスカはぎょっとして口を開けたまま止まってしまった。もっとも、雨のせい

で屋根の下は薄暗くなっていたので気付きにくくなっていたのは確かだったが

普通なら気付いただろう。











「ファースト・・?」











やっとアスカはそうつぶやく。

「あたしより先にいたのかしら・・。全然気付かなかったわ」

どうやらシャッターとシャッターの継ぎ目のところにある、出っ張ったコンク

リートの継ぎ目の影に立っていたのでよく見えなかったらしい。

アスカの視線に気づいているのかいないのか、レイは黙って雨の降る街を見つ

めているだけだった。あれだけの勢いで駆け込んできたのだから気付いていな

いはずはなかったが、レイはアスカの方をちらりとも見ないでたたずんでいる。


 ”ファーストも雨宿り・・?”


そう思いながらレイをよく見てみると、アスカと同じようにレイの髪の毛から

も雨のしずくが滴っていたし、制服もすっかり濡れて色が変わっていた。そして、

寒さのためか普段から白いレイの肌はより白くアスカの目に映った。まるで透

き通ってしまうくらいの白さね、ふとアスカはそんなことを思った。


 ”よりによって、なんで一緒のところで雨宿りなんか・・”


ハァ、と小さくため息をついてアスカはそう思う。でも・・。


 ”でも、黙ったままっていうのも変ね・・”


しかし、どうやってレイに声をかけてよいものやらアスカにはサッパリわから

ない。


 ”そうよ、それにどうしてあたしから声をかけなくちゃならないのよ”


そうは言うものの、やはり気になる。レイは最初から変わらず、立ち尽くした

まま雨を眺めている。

気持ちレイとの距離を縮める。何故か、そっと。

「たまんないわよねーこの雨。まったくどうにかならないのかしら」

アスカはレイに話し掛けるでもなく独り言のようにそう言って横目でレイの様

子を窺う。しかしレイは反応しない。


 ”・・・”


もう少し、近づく。やはり、そっと。

「もうびっしょりね。早く温かいシャワー浴びたいわー」

しかしレイから反応が帰ってくる気配はない。

徐々にアスカが近づいているのに気付いていないはずはないのだが、自分に話し

かけられているわけではないからか、なんの反応も見せない。


 ”何だっていうの?せっかく人がきっかけ作ってあげようと思ってるのにさ”


ムッとしたアスカはよっぽど、

 『何よ、少しは返事したらどうなのよっ』

といいたかったのだが、

 『・・どうして?』

と返されるのが目に見えていたので、それを言うのはあきらめた。


 ”・・もう、知らない・・”


アスカは唇を噛んでそう思う。











沈黙が二人の間に流れる。































 ”こういうのって、天使が通りすぎるって言ったかしら?たしか・・フランスで”











 ”・・・どうでもいっか、そんなこと・・”































二人の間に流れるのは、ただひたすら激しい雨のノイズだけ。































何度か話し掛けようとしたが、結局出来ないといったことを3回ほど繰り返し

た後、意を決したアスカがレイの方を向いて口を開きかける。


























 ”えっ・・?”











アスカは思わず口から出かかった言葉を飲み込んでしまった。さっきと同じ姿

勢で雨を眺めていると思っていたレイの顔がアスカの方を向いていたのだっ

た。紅い瞳と視線が交わる。

「カサ、忘れたの・・?」

レイの口から出たのは思いもかけないほど、世間話的な言葉だった。アスカは

少しの間レイが何と言ったのか理解できず止まったままだった。が、その意味

がわかると吃りながら、

「えっ、ええ、そ、そうなの」

とそれだけをやっと言った。

「・・そう」

レイはアスカの動揺を少しも気にとめず、短くそれだけ言った。

「そ、そうなのよ。シンジのやつがね、気が利かなくて。ったくいやんなっ

 ちゃうわ、気が利かなくてホントに」

同じことを繰り返していることに気付かず、ははっと引きつった笑いを浮かべ

てアスカはそう続けた。

「・・そう」

レイから返ってきたのはやはり感情のこもらない短い返事だけだった。しかし

返事をした後もレイはその紅い瞳をアスカの上から外さずにいた。無言のまま

一瞬二人は見つめあう。

時間的にはほんの2秒ほどだったが、アスカにもそしてレイにもそれはもっと

長い時間に感じられていた。

「な、何よ」

見つめあっていることに耐えきれなくなってアスカが口を開く。

「あっ・・・」

レイはそのアスカの言葉にはっとしたような、少し驚いたような顔をした。

そして、

「・・いえ、ごめんなさい」

と少し目を伏せがちにして何故か謝った。

思わず謝ったようなレイの話し方にアスカはよく知っている人物を感じて思わ

ず口を開いた。

「何あんたあやまってんのよ。別に悪いことしてないじゃない。まるでシンジ

 みたいなことしないでよね」

「・・・」

レイは何も言い返さなかった。


 ”あたし何言ってんのかしら・・”


ホントはそんなに責めるようなことを言いたかったわけじゃなかったのだ、ア

スカは。


 ”別に、悪くないって・・・言おうと思ったのに”


そう思ったとき、レイが何かをつぶやいた。

「ん?なに?」

「・・碇くんが?」

アスカの口から出たシンジの名前に反応してレイが首を少しかしげてそういう。

「そ、そうよ。ったくあいつってばすーぐに謝るのよねえ。あれはもうほとん

 ど条件反射的ね。だいたい性格がそうなのよ、内罰的すぎるのよ」

「・・そう」


 ”・・碇くんと・・同じ”


レイはまたさっきと同じような短い返事を口にしただけだった。その心が何を

思っているのかは、アスカには伺い知ることは出来ない。

顔を少しうつむき加減にしたまま、考え事をしているような表情で黙ったまま

のレイに向かってアスカが声をかける。

「あんたも忘れたの、カサ?」

レイはそのアスカの言葉にうつむいていた顔をあげてアスカを見る。


 ”アンタモワスレタノ、カサ?”


心の中で自分にかけられた言葉を反芻する。

「・・ええ」

少し間を置いてレイは続ける。

「持ってないの・・カサ」

その言葉にアスカは目を丸くする。

「はっ?持ってない・・カサを?」

コクリとうなずくレイを見ながら一瞬、ファーストだったらありうるかも・・

という考えを振り払いながら言葉を続ける。

「持ってないって・・忘れたってことでしょ?それって」

しかしアスカの思った通りというか、レイは、

「・・いいえ、持ってないの・・カサ」

とあっさり訂正した。

「ハァ・・」

アスカは自分の想像が当たってしまったことにかえってあきれてしまってため

息をついた。

「ったくわけ分かんないわねえ。買いなさいよ、カサくらい」

そのアスカの言葉にレイは意味が分からないといったふうな表情で言う。

「・・どうして?」

「ハァ・・」

その返事にやっぱりため息をついてアスカがレイに向かって言う。

「どうしてって・・雨降ったら濡れるじゃない、カサささなかったら。それく

 らいあんただって分かるでしょ」

ほとんど最後は諭すような口調になっているアスカだった。


 ”ったくなんであたしがこんな事説明しなくちゃなんないのよっ”


「でも・・」

レイはそんなアスカの心の声など気にしたふうもなく(当たり前だが)、口を

開く。

「でも・・こうやってしばらく待てばやむから・・」

レイはそう、こともなげに言うと雨を見上げるように顔を上に向けた。

「ま、まあ、そりゃそうだけど・・」

二の句が継げなくなったアスカはそう言って口ごもってしまった。


 ”なんでこんなに疲れるのかしら、ファーストと話すと”


アスカは、ふうっと軽いため息をつきながらそう思うとシャッターに寄りかか

るようにしてしゃがんだ。背中にシャッターが当たって、カシャン、と軽い音

をたてる。





















シャッターにもたれるようにしてしゃがんでいる、アスカ。






その脇に静かにたたずんでいる、レイ。





















二人の瞳に映るのは、ただひたすら雨の振っている、全てが抽象的になってし

まっている、街並。































「ねえ・・・」

ぽつりと、つぶやくようにアスカがレイに呼びかける。

「・・なに?」

「ん・・・・」






沈黙。






「あ、あの・・さ」





















『あんた・・寂しいとかってないの?』





















心の言葉、言いたい言葉。






「・・雨、なかなかやまないわね」

「・・そうね」


短い会話、長い沈黙。









































「「あ、あの・・」」











まったく同時に口を開いたことに少なからず驚いたアスカはレイのほうを見

る。するとレイも驚いたような顔をしてアスカを見ていた。目が合うとレイは

うつむくように視線をそらしてしまう。かわいいとこあるじゃない、アスカは

一瞬そう思ってから慌てて否定する。


 ”な、なに思ってるのかしらあたしは・・”


「な、なによ?」

そんなことを考えながらアスカは先を促すように、レイに声をかける。

「ええ・・・」

レイは少しうつむいたまま、短く返事を返して黙っている。その沈黙にアスカ

はなぜか不快感を感じなかった。





















『どうして・・・私に話しかけてくれるの・・?』





















心の言葉、言えない言葉。






「明日・・定例のテストね」

「・・そうね」


短い会話、長い沈黙。





















”セカンドチルドレン、惣流アスカ・ラングレー”





















”私のこと嫌ってると思ってた・・”





















”でも・・・違う感じ・・・”





















”・・心地よい感じが・・・する”









































「あ・・・」

カシャン。シャッターの音。

短く声を上げたアスカは立ち上がった。

雨脚が弱くなってきている。

レイも空を見上げていた。

弱くなるというよりも、まるでカーテンを引くようにして雨が上がってゆく。

厚く空を覆っていた雲が薄くなっていくのがわかる。

レイもアスカも黙って空を見上げていた。

それは夢散するようにちぎれてゆき、空にそして地上に明るさが戻ってくる。

そこに現われた空はまだ青い色をしていたが、日は傾いているらしく空に残っ

た白い雲がオレンジ色に染まっていた。その雲は今まで激しい雨が振っていた

ことがまるで夢であるかのように浮かび、そしてきれいなオレンジ色をして

漂っている。





アスカは、かたわらに置いてあったカバンを手にしながら、

「やっとやんだわね。ったく、あんだけふっといてやむときはさっさとやん

 じゃうんだからよくわかんない天気よね」

とレイに向かって口を開く。





















その軽い口調の台詞は、雨がやんだことにホッとしたためなのか、それとも・・・。





















軽やかにそう話し掛けるアスカに、レイはなんの返事も返さない。アスカに背

を向けたまま黙って立ったままだ。

「む・・」

なんの返事も返さないレイにムッとしたアスカはレイに近づいた。

「何よ、返事くらいしたらどうな・・・」

しかし、アスカは最後まで話すことが出来なかった。





















「あれ・・・」





















「あ・・・」





















レイの声に導かれるように視線を動かすと、そこにはレイの見ているものが

あった。その時アスカは、短く声を発したっきり言葉を失ってしまった。





















「・・・にじ・・・」





















「ええ、虹・・・ね」





















東の空に七色に輝く虹色の橋がかかっていた。それは、二人の目を惹き付ける

ほどのあざやかさを持っていた。七つの色がはっきりと区別できる、途中で途

切れるように薄くなったりしない、そして何よりも・・































「・・きれい」































レイがポツリとつぶやくように、そういった。































「・・ええ、きれいね」































アスカはそれに同意するように、しかしやはりポツリとつぶやくようにそう

いった。

二人の視線はしばらくの間、空に現われた雨上がりの奇蹟に囚われたままだった。









































「たまには雨もいいわね」





















アスカはレイの顔を見て微笑んでいった。

レイはそのアスカの微笑み混じりの言葉に少し驚いたようだった。































が・・・































「ええ」































アスカに向かってレイはぎこちない、けれど精一杯の感情を込めた微笑みを返

してそういった。









































雨上がりの空にはまだ、綺麗な七色の虹がかかっていた。

それはまるでかけ橋のようにすら感じることも出来た。

ほんの少しだけ歩み寄ることが出来たかも知れない、心の。









































     雨は、お好きですか?














「あとがき」にかえて


takeoさん、100,000Hit本当におめでとうございます!!

私がNo Fear!に初めて遊びに行った時には、もう8万ヒットを越えていました。

それを見て「うわぁ、すごいな・・」と思っていましたが、もう、すぐに10

万ヒットになりましたね。

やっぱり「すごい」です。

この先もまだまだ頑張ってくださいね。


目指せ、200,000Hit!! (^-^)/



お話について:


あんまり書くことないです。(^-^;;

レイとアスカのお話って書いてみたかったんです。できれば仲の良い・・。

仲の良い・・まではいかなかったかも知れませんが。

なるべく、オリジナルと二人の印象が変わらないように、と考えていたのですが・・。

あまりうまくいってないかも知れません。(^-^;;


このお話は「雨」っていうキーワードから、世界を広げてみました。

雨の日ボーッとしてたら、何となく浮かんだお話の筋がもとになってます。

うまくまとまっているかどうか、不安ではありますが・・。


こういうレイとアスカもありかな、と思って読んでいただけるとすっごくうれ

しいです。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!

そして・・

私のお話しの掲載を快く承諾してくれたtakeoさん、本当にありがとうございました!



神笠 那由他 [1997/9/24]




<takeoのコメント>


神笠 那由他さんから、100000hitの記念投稿を頂きました!

本当にありがとうございます。


さて、このお話ですが・・・


なんとも、心温まるお話ですね。

情景描写が細やかなので、そのシーンが鮮やかに浮かんできます。

お互いに、お互いのことを少しだけ知り、そして少しだけ打ち解けた、

      アスカ  と  レイ

アスカはやっぱりアスカで、レイもやっぱりレイなんですけど、

でも、どこか違った一面を、

知らなかった顔を、

お互いに見つけたのでは、ないでしょうか?

ラストシーンの虹がまた、印象的です。

とても、気持ちの良いお話でした。


改めて、神笠さん、ありがとうございました。



神笠さんのページは  Tree of SEPHIROTH

神笠さんへのメールは 神笠 那由他さん [Nayuta@eden.office.ne.jp]






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