"No Fear!" 50000Hit記念投稿
煩悩計画初号機(笑)
「決戦前夜」
                              作:河村 卓也

(まいったなぁ、このあたしが、眠れないなんて……)

 ――決戦前夜。
 最後の猛特訓で、作戦準備は完璧な筈なのに、アスカはなかなか寝つけないでいた。

(……緊張しているの、この、あたしが?)

 いくら準備が完璧でも、体調が思わしくなければ、ともすれば全てが無に帰してしまう。
 頭ではそれは解っているつもりだった。
 それでも、現実に眠れないでいる自分がここにいる。
『降ろされるかもしれない』
 そんなプレッシャーに押しつぶされそうな自分を、アスカは認めたくはなかった。
 今の自分には十分な睡眠が必要だと言い聞かせ、無理にでも眠ろうと布団を頭まで被る。
 しかし、忘れようとすればするほど、いきなり見事に呼吸をあわせたシンジとレイの
姿が脳裏から離れなかった。
 再び布団から顔を出すと、自らを落ち着かせるように激しく首を振り、長い溜息をつく。
 そして、そっと首をめぐらせ、シンジの様子を窺う。
 薄暗い部屋の中、規則正しくかすかに揺れる背中がアスカの視界に映った。
 と、その時……
 ばさっ。
 布団の落ちる音がして、シンジはむっくりと起きあがった。
(……!)
 アスカは反射的にシンジのベッドに背中を向け、寝たふりを決め込む。
 息を殺して辺りの様子を窺うと、ゆっくりとした足音が、静かな室内に奇妙に響いた。
 ぱた、ぱた、ぱた、ぱた、ぱた、ぱた。
(……シンジ?)
 ぱたん。
 ドアの閉まる音。
(……トイレかな?)

 ぱたん。
 しばらくして、再びドアの閉まる音。
 ぱた、ぱた、ぱた……
 足音は唐突に止まり、アスカの背後ではそれとは別の物音が聞こえた。
 ごそごそ。
(…………!)
 驚きのあまり声も出ない。
 振り向いたアスカの目の前には、シンジの寝顔があった。


「ち、ちょっと、どういうつもりよ!?」
 多少の落ち着きを取り戻したアスカがいくら叩いても揺すっても、シンジは一向に目を
覚ます様子がない。
「……まったく、しょうがないわね!」
 本格的にシンジを追い出すべく起きあがろうとしたアスカの腰に、するりとシンジの腕が
廻される。
「なななな何すんのよぉ!」
 寝惚けたシンジは返事もしないでもぞもぞと動き続ける。
 アスカは何とか離れようとするが、シンジの腕力は意外に強く、逃れることが出来ない。
(あれ、これって……?)
 シンジの動作が数時間前まで練習していたダンスのそれであることに、アスカは気付いた。
 寝惚けながらで、おまけに寝転がったままであるから、半ばムチャクチャな動きになって
しまっているのだが……
「……い、いい加減にしなさいよ!」
 きゅっと腰を抱き寄せられて、ついに堪忍袋の緒が切れたアスカは、思いきり握りしめた
拳を振り上げた。
「アスカぁ……」
 KO必至のアスカの左フックは、その一言でシンジの右頬手前3センチでぴたりと止まる。
「な、何よ!?」
 慣れない呼ばれ方に動揺したためだろうか、アスカはシンジの寝言に律儀に返事をして
しまう。
「これで、明日も大丈夫だよ…ね……」
 それだけ言うと、シンジは再びおとなしくなった。
 沈黙。
 そして、規則正しい呼吸音。
「ホントにバカね、何、寝ぼけてんのよ……」
 呆れたようにそう呟いたアスカの表情は、その言葉とは裏腹に柔らかなものだった。


 先程まで手におえない程の暴れようを見せたシンジも、今はアスカの膝枕で静かに眠って
いる。
「……何よ、無邪気に眠っちゃってさ。
 こっちは緊張で眠れないっていうのに……」
 愚痴りながら、アスカは指先でシンジの鼻の頭を軽くつつく。
 シンジは一瞬ぴくりと反応するが、すぐにまたすやすやと寝息をたて始めるのだった。
 そんなことを繰り返しているうちに、アスカの悪戯心がむくむくと頭をもたげ始める。
(……そうだ☆)


「えーとぉ、ここだったかな?」
 アスカはベッドサイドの引き出しをごそごそと物色する。
「そうそう、これよ、これこれ☆」
 小さなバッグの中から目的の物を見つけたアスカは、シンジの無防備な寝顔を確認し、
蒼色の瞳を輝かせてにんまりと笑った。


「明日は頑張ろうね」
 とっぷりと夢の中を漂っている緩んだ寝顔のシンジに、そっと声を掛ける。
 そして、先刻までの緊張がすっかりほぐれ、不思議な位リラックスしている自分に気付く。
 しかしそれと同時に、奇妙にくすぐったい感情がわきあがってくるのも自覚していた。
「……おやすみっ!」
 それだけ言って、アスカは勢い良く布団を被る。
 夜明けまでの時間はそう長くはないが、落ち着いて眠れそうな気がしていた。





「ほらシンジ、早く起きなさいよ!」
「ん……あと、5分……」
「何寝惚けてるの!?出撃よ、しゅ・つ・げ・き!」
「ええっ!」
 使徒の活動再開が予測より早まったため、ふたりは早朝からたたき起こされる羽目に
なったのである。
「え、え〜と……」
「もう、何してんのよ、早くしなさいよ!」
 この時、アスカがしびれを切らして強引に布団を引き剥がさなかったのは、シンジに
とってはたいへん幸運な事であっただろう。

 身支度もそこそこに、シンジはアスカに引っ張られてケイジへと向かう。
 手を引かれている事に多少気恥ずかしさを覚えつつも、アスカの横顔に見とれていた
シンジは、ふと、彼女の雰囲気がいつもと違っている事に気が付いた。
「……ねぇ、アスカ」
「何よ?」
「口紅……つけてるよね、どうして?」
 アスカの唇は鮮やかなピンク色で彩られていた。
「べ、別に……そう、出陣前の粧いってやつよ、それだけ」
「……ふぅん、そうなんだ」
 振り向いてシンジの顔を見たアスカは、一瞬だけその頬を唇と同じ色に染めたのだが、
前方に気を取られていたシンジはそれには全く気付かなかった。





 ――作戦終了後。
 帰投したシンジは周囲の反応に違和感を感じていた。
「お疲れさま、シンジ君……ぷっ☆」
「な……」
 顔を合わせるスタッフが、皆一様にシンジと挨拶を交わした後吹き出すのである。
(いったい、どうしたんだろう……)
 ぶつぶつ言いながら廊下を歩いていると、
「よう、シンジ君、お疲れさま……くくっ☆」
 加持でさえも、皆と同様に堪えきれずに笑い出してしまった。
「もう、加持さんまで……いったい何なんですか?」
「いや、大した事じゃないよ。
 ……時にシンジ君、今日は一度も鏡を見てないのかい?」

「……鏡?」
 首を傾げながら部屋に戻ったシンジは、まっすぐ洗面所に行くと急いで鏡を見た。

「あ……!」

 鏡に映ったもうひとりの自分が真っ赤になって押さえている左頬。
 そこには、綺麗なピンク色の花びらが一枚貼り付いていたのだった。



(おしまい)

☆あとがき
 どうも、河村です。
 50000Hit、おめでとうございます、takeo様。
「滑り込み」なんて言っておきながら、ぜんぜん間に合いませんでした、すみませんm(_ _)m
 ページに縁のある物をと思いまして、エースの方をネタにしてみましたが、いかがでした
でしょうか?
 丁度、今話題になっている「キス」ネタですね。まぁ私なりの回答ということで。
 こんな風になるわけ無いとは思いますけれども、元が煩悩の固まりの河村ですので、
笑って許して頂けると幸いです(*^^*)
 これからも頑張ってくださいね!いち読者として、楽しみにさせて頂きます。
 では、また。(←自爆)



50000hit記念投稿第五弾は、河村卓也さんです!
河村さん、ありがとうございました!!

私のページで盛り上がっている「エース(貞本)版エヴァ」について、書いて頂きました。

…なるほど、そう来ましたか(^^)
いいですね、これは(笑)
もちろん、小説としても非常に面白いです。
アスカが可愛らしくていいですね(*^_^*)
二人の関係がとてもいい感じに描かれていて、私はとても嬉しいです。
こういう話だったらいいなぁ…(^^;;

皆さん、是非河村卓也さんへ感想メールを!

河村さんのページは  BOULEVARD

河村さんへのメールは 河村卓也さん [patric@magical.egg.or.jp]






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