POLE POSITION Vol.22

 Message From MAZDASPEED 

(Page46〜47を原文のまま掲載)



私達マツダスピードにとって12回目のル・マンは、惨敗であったと率直に認める。もう一度、原点から見つめ直し、新たな闘いを挑もうと考えている。

かつてこのP.P.誌で、「ル・マンは毎年、同じ顔で待っていてはくれない」と述べたことがある。コースコンディションや天候の違い、他のエントラントの顔ぶればかりでなく、私達自身の技術的進歩も毎年あるわけだから、いわば毎年が未体験ゾーンへの初チャレンジということになる。経験から得たノウハウを、車両の開発やチームオーガナイズに反映させてその未体験ゾーンに挑むのであるが、裏付けをとっておかなければ、経験を充分に活かすことは難しい。

私達は12回目のル・マンに当たり、過去11回の経験と成果をもとに、
「勝つ意志」をより強固なものとした。もはや私達自身の計画や目標を仮想敵として走るのではなく、勝利を意識し、声援を送り続けてくださっているファンの皆さまの心がときめくエキサイティングなレースを展開したいと思った。そのため、今年のル・マンでは才能あるF−1パイロット達を仲間に迎えるとともに、ミスタール・マンとして名高いジャッキー・イクス氏の協力を得ることにした。かつてないほどの規模と哲学で新技術を盛り込み、勝つためのマシンを誕生させる必要があった。昨年のル・マン以後、その意志に呼応した多くのエンジニアの熱き思いと努力で、新型車の性格が決められていった。そして、広島本社や横浜研究所のエンジニアと共にル・マンに対する情熱は一丸となり、R26Bエンジンを始め、独自のマネージメントシステム、フルカーボンモノコックなど、数多くの新技術が開発された。その結果、ベースとなった767Bに比べ飛躍的な戦闘力アップを実現したニューマシンが誕生することとなった。

しかし、それらすべての考えの信頼性を証明するには、1年・365日では短すぎた。勝つための新技術を盛り込んだニューマシンの完成予定は4月上旬。3月のシーズンインから1ヶ月後であり、熟成期間はル・マンまでの2ヶ月余りであった。しかし、その過酷なスケジュールをものともせず、勝つための新技術を満身に備えたニューマシン”マツダ787”が誕生。当初の予定通り4月6日、シェイクダウン走行を行なった。

ル・マンを走りきるための一つの目安に5000kmという距離がある。この5000kmをノントラブルで走破するための信頼性を証明するには、累計10000km以上を走り込んで各部の疲労度や作動状況をチェックする必要がある。また、テストでは発生しないようなトラブルを早期発見し対応するためには、ル・マンを前に一度はレースに参加し、レーシングコンディションで実績を得ることが必須である。4月下旬ポルトガルのエストリルサーキットで行なった耐久テストは、ほぼ目的を達成し、セッティングの方向性が確認された。しかし、4月末に完成した787の2号車が参加することになっていたインターチャレンジ富士1000kmレースが、大雨と濃霧によりキャンセルされてしまい、787の開発プログラムに穴を開けてしまった。予想外の天災であった。その後、富士やシルバーストーンのテストで走行実績は蓄積されていったが、実戦経験がないという不安要素を抱えたまま、ついにル・マンウィークを迎えることになったのである。

結局、抱いていた不安が的中した。革新的ともいえる新技術のパフォーマンスを充分に発揮することなく、787は戦列を去った。熟成不足ゆえに起きたマイナートラブルによって、
「勝つ意志」を表すことができなかった。「ル・マンは新しいものを受け入れない」といわれているが、まさにこのジンクスを実証する形となってしまった。モータースポーツの世界で「if」を論ずることは無意味である。私達マツダスピードは、今年の敗因を克明に分析し、将来に反映するつもりだ。

しかし、私達の勝つことへの情熱は冷めない。むしろ、来年もまたロータリー・エンジン搭載車で6月のサルテサーキットを訪れることが可能となったいま、今年のル・マンから学んだ教訓を活かし、栄光の獲得へ向けて全力で闘い抜くことを約束したい。そうすることが、787の開発に携わった多くのスタッフや協力企業の方々の不眠不休の努力と、私達に力を貸してくれたジャッキー・イクス氏の友情に報いることだと確信している。そして、なによりも熱い声援を送っていただいたすべてのファンの皆さまに、エキサイティングで心踊るモータースポーツの醍醐味をプレゼントしたい。

The WILL for WIN

POLE POSITION ポールポジションvol.22
1990年9月15日発行
発行人:マツダ株式会社
編集室:アドインターナショナル

※90年は2台の787が共にリタイヤ、旧型767Bも総合20位という結果にとどまる