POLE POSITION Vol.20

 〜We’re Running Strong〜 

Message From Mazdaspeed
(Page35〜36をそのまま記載)



ル・マン24時間レースの主催者ACOは、独特のポリシーを持っている。時には、FISAの決定や
、世界選手権の枠を外れてでもその信念を貫くことがある。常に世界のモータースポーツ界をリードしてきたと言っても過言ではないだろう。それは、コースのユニークさであるとか、興業的に人気が高いということ以上に、ル・マンを世界的にポピュラーにしている所以である。そのポリシーとは、1923年から続くその歴史のそれぞれの時代で、モータースポーツが如何にあるべきかを考え、実践してきた姿勢である。例えば、ル・マン独特のカテゴリーの設定や近年では他に先がけて実施した燃費規制などである。その先進的な考え方が、モータースポーツを興味深いものにし、自動車工業界の発展に寄与してきたのは事実であり、ACO自身の誇りでもある。だからル・マンで勝つことは、自動車メーカーやレーシングチームにとって何物にも代えがたい栄誉となり、名車として後世まで名を残すことを意味する。私達もそのポリシーに賛同したがため、15年前はじめてかの地を踏んだ。

第57回ル・マン24時間レース。私達にとっては1974年の初参加以来11回目のチャレンジであった。過去10回のル・マンで私達は、ル・マンの偉大さを改めて知り、幾度となく辛酸をなめ、そして数々の戦うための技術をおぼえた。24時間を力強く走り抜くための機械的技術、チームを有機的に機能させるためのオーガナイズ術、そしてヨーロッパのモータースポーツ界とのコミュニケーション術などである。この技術の積み重ねによって私たちは、成長し、着実にル・マンに足跡を残し、それなりの評価を受けることができたのだと思う。11回目の今年、私達は過去10回の実績と経験をベースに、より攻撃的にル・マンにチャレンジすることを誓った。基本的に量産車と同じローターハウジングを使い、マルチローター化でレーシングエンジンとしてのパワーを得ている我達のロータリーエンジンは、大馬力レシプロ・ターボエンジンに比べ非力ではある。しかし私達は、それを認識した上で、ロータリーの特徴を最も生かせるマシンを開発し、総力を上げて100%に近い能力を発揮させる計画を立てた。気負う必要のない自信を得るため、冷静に緻密な計算を行った。目標は、攻撃的なレース展開での3台全車完走、5000km走破、予選タイム3’25”台、最高速度の20km/hアップ、であった。そして誕生したのがマツダ767Bである。結果は、ほぼ目標を満足させるものであった。攻撃的参加の第一ステップとしては、決して悪くない結果だと思う。総合力としてのマシンとチームオーガナイズの調和が、計算を現実のものとしたのだ。

現在、スポーツプロトタイプカー選手権のレギュレーションは、1991年から現行ルールに代わり、3.5LレシプロNAエンジンに統一したF−1方式に近いものになると発表されている。ル・マンもこの範ちゅうに属する。すると私達のロータリーエンジンはル・マンを走ることができなくなる。賛否両論が渦巻く中、今後の推移に注目していきたいと思う。また、ル・マンが独自のポリシーで新しいル・マンを作り出していく可能性もある。しかし、私達マツダスピードは、いかなる結論が出されようともル・マン挑戦を続けていきたい。それも、蓄積した経験と教訓を活かしたアグレッシブな体制でもってである。

1989年7月 株式会社マツダスピード


POLE POSITION ポールポジションvol.20 (1989年)
発行:マツダ株式会社


※マツダはこの年のル・マンで3台全車完走(7位/9位/12位)を果たしている