スーパー耐久シリーズ2007  第5戦

OKAYAMA 500km Race


9月1日(土)〜2日(日) @岡山国際サーキット


(画像提供:にゃおにゃおさん)



 
年間7戦が予定されているGT NETスーパー耐久シリーズ 2007も、8月5日の第4戦・富士を折返し地点として、いよいよシーズン後半戦に突入しました。

 その次戦の舞台は中国地方へ。
 岡山国際サーキットでのシリーズ第5戦は、例年通り9月初旬に開催されますが、今年はレース距離が従来の400kmから500kmへ延長され、より耐久色の濃いレースとなっています。


 さて、「排気量2001cc〜3500ccの2輪駆動車」のST3クラスに属するRX−7は、現在ではスーパー耐久シリーズに唯一参戦するマツダ車となっています。
 昨シーズンは見事にトップコンテンダーとして復活し、岡部自動車からエントリーしたRX−7が念願のクラスチャンピオンを獲得するなど大活躍を見せ、RX−7ファンは久々に溜飲を下げることができました。
 その反動からか、迎えた2007年シーズンはレース距離の延長や最低車重の変更など、RX−7優遇措置と揶揄された昨年のレギュレーションが大きく見直されることに。
 RX−7の最低車重が従来の1020kgから1150kgへ130kgも引き上げられると同時に、レース距離も500km以上に延長されました。
 このため、重量増によるラップタイムの低下と、レース中の給油時間の増加が大きく響き、今シーズンのRX−7は再びZ33やBMW MEといった自然吸気エンジン勢の後塵を拝することになり、ここまでシーズン4戦で優勝はゼロ、最高位も3位がやっとという不振が続いています。
 が、マツダロータリー発祥の地・広島に程近いここ岡山国際サーキットでは、なんとかRX−7の意地を見せ、一矢を報いてもらいたいところです。


 今年もWW2は、サーキットを疾走するMAZDAのマシンを力強く応援すべく、ST‐3クラスに
#78・WW2 RX−7でスポット参戦するチームテスタスポーツへのサポート活動を行っていきます。
 

 



<スタート進行>
 13:00〜13:20


 迎えた9月2日(日)の決勝日、空模様は朝からずっと曇りで、時折り陽が射すという状況。
 長い長い500kmのレースを目前にして、このまま過ごしやすい環境でスタートの瞬間を迎えられるのか、あるいは例年通りに残暑との戦いが到来することになるのか、この時点ではまだ予断を許さないところでした。

 恒例のお昼のピットウォークが終わると、レースは間もなくスタート進行へ移ります。
 ポールポジションを獲得した
#50・PETRONAS SYNTIUM BMW Z4M COUPE を先頭に、メインストレートのダミーグリッド上には色とりどりの37台のマシンが並んでいきます。


■新たなスタートライン

 
1年ぶりにここ岡山国際サーキットのダミーグリッドに着いた#78・WW2 RX−7
 今年のグリッドは総合では37台中の27位、そしてクラス順位は16台が大挙エントリーする群雄割拠のST3クラスの中で14位というポジションです。

 今年もグリッド中位はST3クラスのマシンで占められ、クラスポールの総合12位のRX−7を先頭にして、クラス16位・総合29位のS2000まで、その間に挟まる他クラスのマシンは僅か2台と、まさにST3クラスの接戦状況を物語る順列となっています。
 事実、78号車の予選グリッドは2台のBMW M3の間に割り込んでおり、グリッド真正面にはRX−7、真後ろにはS2000が控え、直接順位を争う同クラスのライバル達に完全包囲されています。

 グリッド周囲の光景はいつもながら華やかさに満ちたものですが、今年は78号車もそれに負けずに装いを新たにして臨みました。過去4シーズン慣れ親しんだDIREZZAカラーを脱ぎ捨て、オリジナルデザインの個性的なニューカラーリングをまとっての登場です。

 予選グリッドこそサプライズはありませんでしたが、なんといっても今年の78号車の一番の目玉はタイヤ銘柄の変更。
 初めてライバル達と同じ靴を履いて戦いに挑む今回のレースは、練習走行から公式予選までの好パフォーマンスからも、ようやく同じ土俵に立てたという感覚が例年にも増して強く、決勝に向けた私達の期待は高まるばかりでした。



直前のグリッドには#43・M3と#16・RX−7





■Charles作戦の集大成■

 チームテスタスポーツは2年前のレースから、それまでの成り行き任せの消極的なレース運びからの脱却を図り、レース戦略面で積極的なチャレンジを続けてきました。

 今年もその基本コンセプトは不変であり、2005年に初めて1PIT作戦にトライした通称
「Charles大作戦」の流れを汲むものとし、レース中のPITインはレギュレーションで義務付けられた2回の最小限回数にとどめ、うち1回は4輪のタイヤ交換を予定しています。
 過去2年はことごとくマシントラブルに行く手を阻まれ、他チームに対して1回多いPITインを余儀なくされましたが、チャレンジ3年目にあたる今年こそはそれを克服し、他のライバルチーム並みのスティント割りを実現し、それをベースに、さらに状況に応じた臨機応変な戦略変更にもトライしていかなくてはなりません。


ダミーグリッド上で入念な打ち合わせ



 その1スティント目と3スティント目を担当するのが伊藤弘史選手。3年連続でスターティングドライバーを務めることになりますが、これは私達の戦略上のチャレンジと奇しくも同期しています。
 序盤に炎のオーバーテイクを見せた2005年のレースや、ライバルのRX−7と息詰まる戦いを展開した2006年のレースの記憶も新しいところですが、新たにADVANタイヤを得た78号車と伊藤選手がどんな序盤の走りを見せてくれるのか、とても興味深い
ところです。

 基本的には、トラクション方向のグリップ力やレンジ幅の広さなど、初めてのADVANタイヤに対してレースウィークを通じてポジティブなコメントを残していた伊藤選手ですが、本番レースでのタイヤパフォーマンスに関しては全くの未知数。
 第2スティントを担当する新宅選手もコクピット横に寄り添い、最後まで入念な打ち合わせを行なっていました。

 やがてスタート3分前のボードが掲示され、伊藤選手はローリングラップへと旅立って行きます。





≪決勝レース≫


<スタート直後>
 〜13:25

 レース距離の延長によって周回数が109周から135周へ変更された今年の岡山戦。レース時間も4時間前後の長丁場の戦いとなることが確実視されていました。

 
しかし、そのオープニングラップでは久々に大きなアクシデントが起きてしまいました。
 その場所は、高速S字を通過した後、バックストレートへ向けた折返し地点にあたるアットウッドカーブ。

 グリッド中位に僅差で続いていたST‐3クラス勢の中で、ベテラン大井選手の駆る
#113・カルラレーシング☆ings北海Z がオーバースピードでコーナーへ進入し、ターンイン中の#333・H.I.S.◆ings◆Zの横っ腹に激突。両車が態勢を崩してコース上に立ち往生したため、オープニングラップの超接近戦の中、周囲にいた複数のマシンがその巻き添えになってしまいました。
 私達の
#78・WW2 RX−7はアクシデントの真後ろの集団にいたため、まさに大混乱の渦中でした。咄嗟に右へ左へ逃げ惑うマシン達。運悪くスピンしたマシンと接触するマシンもあった中、78号車は伊藤選手の冷静な対処で間一髪、その場を切り抜けたのでした。
 
 ほどなく後続車が全車通過し、あらためて事故現場がモニター画面に映し出されると、そこにストップしたマシンはどうやら5台。しかしよく見ればなんと5台全車がフェアレディZという、Z33ファンや日産関係者には信じ難い惨状が展開されていました。
 
#19・バーディクラブ☆TC神戸Z33#15・岡部自動車 eeiA ディクセルZを含む4台がその場で息絶えてリタイヤ、#74・アラビアンオアシスZは大きなダメージを受けながら再スタートを切り、PITへ向かいますが、すでに勝負権は放棄せざるを得ない状況でした。

アクシデントの原因とされた 
#113・カルラレーシング☆ings北海Z
最初に#113の接触を受けた
#333・H.I.S.◆ings◆Z



 レースにアクシデントは付き物ですが、135周にもわたる岡山での戦いを僅か半周で終えなくてはならなくなったドライバーやチーム関係者の大きな落胆ぶりは察して余りあります。
 その後、
#113・カルラレーシング☆ings北海Zに対しては、ラフなドライビングが一連のアクシデントの原因とみなされ、失格という厳しい裁定が下されました。決して故意に引き起こされた類のアクシデントではないとしても、罪の無い他車を大勢巻き込んでしまった以上は、止む終えない措置でしょう。

◆     ◆     ◆     ◆     ◆


 レースはアットウッドの事故処理のため、いきなりセーフティーカーランとなりました。

 その隊列の中でゆっくりと序盤の周回を重ねていく
#78・WW2 RX−7
 もしも、年1回のスポット参戦に賭けている私達に今回のような災禍が降り掛かっていたら・・・と想像すると思わずゾッとしてしまうところですが、レースの方に目を向けるとST3クラスは実質的に
全11台となってバトルの仕切り直し。
 フェアレディZ勢6台中5台が脱落したこのアクシデントにより、78号車がポイント圏内に滑り込む確率は一気に高まったことになります。

 当初は入賞圏内の10位以内に入るためには6台ものマシンを蹴散らす必要があったので、私は決勝レースでは複数のライバルマシンの動きを徹底マークするつもりで臨んでいましたが、突如入賞のボーダーラインが急降下してきたことで、ポイント獲得に向けたプレッシャーは随分と軽くなりました。
 昨今はST3クラスのエントリー台数の急増により、ここ岡山戦でも「完走イコールポイントゲット」という甘い図式はとうに崩れ去っていて、2006年は
13分の10、2007年はさらに倍率が上がって16分の10という厳しい関門となっていたのです。


 但し、私達の直接のライバル達は全て生き残っているので、このアクシデントの結果、私達の戦いはより多くのポイント獲得を目指したバトルへと移行したことになります。





◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 0H 12M  (周回:  5/135 LAPS)
      
総合12位 #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 5LAPS
総合13位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 5LAPS
総合15位 #39  BENELOP ADVAN NSX 5LAPS
総合16位 #41  SABOTAGE Z 5LAPS
総合17位 #27  FINA GSX ADVAN M3 5LAPS
総合19位 #70  マジック スポーツ RX-7 5LAPS
総合20位 #78  WW2 RX-7 5LAPS
総合21位 #16  バウフェリス. 7 5LAPS
総合22位 #43  Shinto ARP M3 5LAPS
総合24位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 5LAPS
総合32位 #100 SANWA TK ARP M3 5LAPS
総合33位 #74  アラビアンオアシス Z 1LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS

 


 78号車の第1スティントを任された伊藤選手は、1分44秒台のラップタイムで周回を開始します。
 すぐ目の前を走行する
#70・マジック スポーツ RX−7は大野選手がドライブ。昨年の岡山戦ではPITが隣り同士だったこの#70、昨年はエンジントラブルで早くに後退してしまったのですが、今回はレースウィークを通じて快調のようです。
 クラス1−2位を占める#14と#7 のRX−7と併せ、力強い走りを披露してくれるRX−7の姿はファンとして頼もしいものですが、私達が直接順位を争うライバルとして見ると、心境はやや複雑です(笑)。

#14
協新マイロード岡部自動車RX-7
#7
アメニティホーム・エクセディRX-7
#70
マジック スポーツ RX-7


 暫くの間は78号車も秒差で付かず離れずの状態が続いたのですが、今回の78号車にはオーバーテイクを仕掛けるだけのあと一歩の速さがなかったか、時折り43秒台に飛び込む快調な#70に、その後はじわじわと差を広げられていきました。



 

<1時間経過時点>
 〜14:25〜

 

 レースはスタートから1時間が経過し、総合TOPの#50・PETRONAS SYNTIUM BMW Z4M COUPE は30周目に突入。

 この時、伊藤選手はまだ総合TOPから僅か1LAPダウンで食い下がる健闘を見せていました。
 78号車のラップタイムは46秒台まで落ちてきましたが、前を行く
#39・BENELOP ADVAN NSX#70・マジック スポーツ RX−7とほぼ同等のタイム。さらに後続の#43・Shinto ARP M3よりは1秒ほど上回っており、クラス内の順位争いはひとまず膠着状態。
 序盤で
#14・協新マイロード岡部自動車RX−7が後退したこともあって、現在のクラスポジションは6位。総合19位での快走が続きます。


 

◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 1H 00M  (周回:  30/135LAPS)
      
総合13位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 29LAPS
総合14位 #27  FINA GSX ADVAN M3 29LAPS
総合15位 #41  SABOTAGE Z 29LAPS
総合17位 #39  BENELOP ADVAN NSX 29LAPS
総合18位 #70  マジック スポーツ RX-7 29LAPS
総合19位 #78  WW2 RX-7 29LAPS
総合21位 #43  Shinto ARP M3 29LAPS
総合22位 #100 SANWA TK ARP M3 29LAPS
総合23位 #16  バウフェリス. 7 29LAPS
総合31位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 28LAPS
総合32位 #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 22LAPS
総合33位 #74  アラビアンオアシス Z 20LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS

 


燃欠症状との決別

 さて、周回数が30周を超えてくる頃といえば、過去に78号車が必ずといっていいほど持病の燃欠を発症させ、予定よりも早くPITに駆け込んできていた「魔の時間帯」にあたります。1時間を超えるロングランになって初めて顔を見せるこの持病、緊急のPITインでチームを慌てふためさせるばかりでなく、他のライバル車と同等のスティント割りを頑なまでに阻む原因となっており、大変厄介な存在でした。

 これまでチームは毎年のように燃欠対策を講じてきたわけですが、結果検証の場がいつも本番レース中の決勝ロングランとなるため、対策が遅々として進まないもどかしさを抱えていました。

 今年の対策メニューは、徹底的な燃料系統の見直し。
 吸出し・送出しで全4基ある燃料ポンプ各々のスペックバランスに注目し、思い切って一部のポンプのスペックダウンを敢行するとともに、それらの稼動条件も変更してみました。
 これらに加え、ポンプの前後に温度センサーを設置してタイムリーな燃温管理を実施。木曜の練習走行時点からずっと検証を続けてきた結果、レースウィークを通じて問題となる温度上昇の兆候は見られておらず、チームは秘かに確信めいたものを持っていたのです。

 今回のレース戦略もこの情報に基き、78号車にとって未体験ゾーンとなる連続40周超のロングスティントを軸に組み立てられています。もちろん、不慮の燃欠PITインに備えて、バックアップ用として3ストップのレース戦略も準備していたことは言うまでもありません。


1回目のPITインのスタンバイ

 14時半過ぎ、所定のPITイン時間からはまだ15分以上も早いタイミングですが、チームは1回目のPIT作業に向けたスタンバイを開始。

 メインメニューは燃料給油とタイヤ交換、そしてクールスーツの氷交換ですが、今回は念のためにエンジンオイルの残量チェックを行います。
 突如のPITインに備え、給油担当の3名はすでに耐火スーツとヘルメットで完全武装。交代予定の新宅選手もレーシングスーツ姿で待機します。

 そうするうちに、刻一刻と予定のPITイン時間が近付いてきますが、未だにコース上の伊藤選手からマシンの異変を訴える緊急連絡が来る気配は一向にありません。


 
チームの期待と不安が交錯するPIT。

 
・・・まだ行ける?・・・うん、まだ行ける!!

 はたして伊藤選手と78号車は、未踏のマイレージを果敢に突き進み、ついには予定の44周を無事消化して、我々の待つPITへ帰還してきたのでした。

 所定の位置に停車した78号車には、すぐさま新宅選手と給油クルー3名が駆け寄り、ドライバー交代と給油作業を開始します。あいにく給油側のリグの勘合がイマイチで注入にやや時間を要しましたが、給油の完了とともに即マシンはジャッキアップされ、フロント側の2本からタイヤ交換作業に移ります。

 
今回の岡山戦では、安全性確保のための暫定措置として、締結用のナットを予めホイール側に固定しておくスリーブ類の使用が一切禁止されたため、装着時には5個のナットを一本一本作業者が装填していく必要がありました。
 当然ながらこれは手間のかかる作業で、前日の練習時には思わずナットが手に付かないシーンもあったのですが、本番では各自が落ち着いた作業でミスなくこなしました。
 これと並行して氷交換とオイルチェックの作業を終えた78号車は、トータル3分弱の停止時間で、勢い良くPITを後にしました。


 事前の入念な打ち合わせ通りに、予定した作業を予定した段取りでミスなくこなしたメンバー全員に、私はPIT奥のテントから思わず大きな拍手を送りました。
 たしかに、作業スピードという点では、百戦錬磨のレギュラーチームのPITマンには遠く及ばないかもしれません。しかし、年に1回きりのレース参戦、しかも決勝レース中に1回しか予定していないフルメニュー版のPIT作業を、いきなりぶっつけ本番状態でミスなくこなすなどという芸当は、携わったメンバー全員の強い意識と集中力なしには到底実現できないことで、本当に胸のすくような素晴らしいシーンでした。

 これをあと1.5倍速でこなしたら一躍TOPチームですからね(笑)。

 


 ひとたび落ち着きを取り戻した私達のPITは、大きな安堵感と達成感に満ちていました。
 なぜなら78号車は、44周に設定した第1スティントのロングランを、あの忌まわしい燃欠症状と無縁で走り切ってみせたのですから。
 長年私達を悩ませ続けた悪い虫をようやく退治できたのは、昨年のレース直後から長いオフシーズンの間、徹底的な原因探しよって遂に決定打を導き出してくれた、ながつ氏の地道なエンジニアリング活動の勝利に他なりません。

 私はこの時点で早くも、78号車のこのロングラン達成が、チームにとって今年最大の収穫になることを強く予感しました。いつ何が起こるか予測もできないマシンでは緻密かつ大胆なレース戦略など描けるはずもなく、より上位を目指した次のチャレンジなど永遠に不可能なのですから。

 事実、この瞬間から次の2回目のPITインタイミングをアレンジする自由度は格段に広がり、戦略担当としては嬉しい悩みを抱えることになりました。





<1時間30分経過時点>
 〜14:55〜

 しかし、いつまでも浮かれているわけにはいきません。タイミングモニター上に目を移すと、78号車はPITイン直前には一時的にクラス5位まで上がっていたのですが、いざコース復帰を果たしてみると、その順位はクラス7位に逆戻りしていました。

 ここでスルスルっと順位を上げたのは、まだ一度もPITインをしていない
#43・Shinto ARP M3。何を隠そう、昨年の岡山戦で私が最後まで10位入賞の座を争う相手としてずっとマークしていたマシンでした。


逆転を許すことになった#43・Shinto ARP M3



◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 1H 31M  (周回:  50/135LAPS)
      
総合 9位 #27  FINA GSX ADVAN M3 48LAPS
総合12位 #39  BENELOP ADVAN NSX 48LAPS
総合13位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 48LAPS
総合14位 #41  SABOTAGE Z 48LAPS
総合16位 #43  Shinto ARP M3 48LAPS
総合18位 #70  マジック スポーツ RX-7 48LAPS
総合25位 #78  WW2 RX-7 47LAPS
総合28位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 46LAPS
総合29位 #16  バウフェリス. 7 46LAPS
総合30位 #100 SANWA TK ARP M3 43LAPS
総合32位 #74  アラビアンオアシス Z 37LAPS
総合33位 #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 25LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS

 


 今年のレースでは、予選グリッドこそ#43に先行されたものの、レース序盤で伊藤選手が逆転に成功、それ以降は逆に1周1秒ずつリードを広げるという良い展開に持ち込んでいました。
 ところが、15時08分になってようやく#43がPITインし、Aドライバーの番場選手に交代してコース上に舞い戻ると、
#70・マジックスポーツRX−7の後方のクラス6位に躍進。78号車は逆に30秒のビハインドを追うことになったのでした。

 予想外の展開に一瞬我が目を疑いましたが、#43がとっておきのショートカットコースでも見つけていない限り、この逆転はPITの作業時間の差がもたらしたものです。
 #43のPITの作業内容は知り得るところではありませんが、作業のスピーディーさやマシンの燃費の良さに加え、何かプラスαの積極策が打たれたのかもしれません。

 じつは後から気付いたのですが、#43は今回からマシン名もドライバーラインナップも一新されており、昨年の岡山戦のイメージを引き摺ってはならなかったようです。




■動かざること山の如し?

 第2スティントは47周のロングラン。

 そもそも戦略担当としては、第1スティントを50周近くまで延ばしたかったのですが、あいにく今年の78号車は練習走行から予選を通じてデータロガー上の燃費が予想よりも悪く、正真正銘の(笑)ガス欠を避けるためには、例年よりもマージンを余分に取らざるを得なかったのです。

 ここで1回目のPITインでの満タン給油の注入量は80リッターとの報告が入ります。
 スタート前の2周を含む46周を80リッターで走り切ったとすれば、2km/Lを軽く超える燃費値となるのですが、今回は序盤のSCランのスロー走行が含まれているため、全開走行時の燃費が想定値(2km/L弱)からどちらに振れているのかは、誰も確証が持てませんでした。

 チーム首脳陣とも相談したものの、ひとまずは当初の戦略通りに進めた方が良さそうです。




 伊藤選手からバトンタッチした新宅選手は、やや膠着状態にある中盤戦のコース上を、1分47秒台から48秒台で周回します。
 昨年までは担当スティント中に50秒台までラップタイムが落ちることもありましたが、今回はそんな心配は無用でした。練習走行時から「昨年より乗り易くなった」という新宅選手のコメント通り、決勝でのラップタイムが極めて安定しています。平均的にも1秒以上のタイムアップが確認できたことから、少なくとも今日の路面条件では、タイヤの銘柄変更が78号車のポテンシャルアップの底上げに大きく貢献しており、両ドライバーともそのメリットを確実に生かしているといえます。
 残る課題は、もっとドライ路面でマイレージを重ねて、両ドライバーの好みにあったセットアップを見つけていくことですかね・・・。

 そんな確かな手応えを感じさせてくれた第2スティントでしたが、その間もST3クラスの上位勢と伍す45秒台〜46秒台のラップタイムを揃えてきた#43の番場選手との差はじわじわと広がる一方に。
 新宅選手が実質的に最低周回数をクリアしたことになる35周経過時点で、両車の差は1分20秒に達していました。もはや相手にトラブルでも発生しない限りは、順位の逆転は難しい状況です。

 しかし、クラス8位で続く#55のS2000に対しては、新宅選手がコンスタントに1周1〜2秒ずつ差を拡げた結果、その差は1LAP以上に達しており、両車ともあと1回のPITストップを残した今の状況下では、ほぼ安全圏に突入していました。


◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 2H 22M  (周回:  80/135LAPS)
      
総合11位 #27  FINA GSX ADVAN M3 77LAPS
総合12位 #41  SABOTAGE Z 76LAPS
総合13位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 76LAPS
総合15位 #39  BENELOP ADVAN NSX 76LAPS
総合16位 #70  マジック スポーツ RX-7 76LAPS
総合17位 #43  Shinto ARP M3 75LAPS
総合18位 #78  WW2 RX-7 74LAPS
総合27位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 72LAPS
総合29位 #16  バウフェリス. 7 69LAPS
総合30位 #100 SANWA TK ARP M3 68LAPS
総合31位 #74  アラビアンオアシス Z 62LAPS
Retire #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 25LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS




<2時間55分経過時点>
 〜16:20〜


■2回目のPITストップ

 78号車の2回目のPITメニューは、燃料給油70リッターとクールスーツの氷交換のみで、タイヤ交換の予定はありません。ゆえに給油完了後には作業人員の余裕が出ることから、念には念を入れ、再度エンジンオイルの残量チェック作業を組み入れました。

 16時18分、47周の走行をきっちり終えた新宅選手がPITへと帰還します。

 今回は心配された給油リグにも問題は出ず、40秒余りで給油作業を完了。
 トータル1分30秒ほどの停止時間で、再びステアリングを託された伊藤選手がPITアウト。終盤戦のコース上へと舞い戻っていきます。


2回目のPITストップ


 すでに50周近く走ったタイヤでさらに30周、というのは一見酷な話ですが、私達のチームではタイヤ交換作業に1分半近く費やしてしまうので、残り30周でその交換時間を取り戻すには毎周3秒近いタイムアップが要る計算となり、実現は難しいと言わざるを得ません。
 さらに、タイヤ交換作業でミスが起きてタイムロスするリスクも無視できないとなると、自ずと「現状タイヤをキープ」という結論が導かれるわけです。


 

 ・・・というのが表向きの理由ですが、実は私達はタイヤレギュレーションの解釈違いから、3セット目のニュータイヤを準備していなかったのです。つまり、タイヤを交換しようにも、1スティント目の使用済みタイヤを再利用するしかありませんでした。

 曰く、マーキング済みタイヤの使用が義務付けられているのは「決勝スタートまで」であって、レース中はニュータイヤを何セット使おうが自由なのですが、我々はその点を完全に見逃していました。 
 極めて御粗末な話ですが、それに気付いた時点ではまだタイヤサービスに駆け込む時間は残されていたでしょう。しかし、47秒〜48秒台前後で安定して周回する新宅選手の状況から判断して、伊藤選手が新品タイヤを得て削り取れるタイム代はそう多く残っておらず、最終的にその必要はなしと判断しました。

 ・・・と、今回は結果的に事なきを得ましたが、次戦ではタイヤ交換時間の短縮とセットで、ぜひ計2回のタイヤ交換を念頭に置いてみたいところです。


44周を走破した1セット目のタイヤは・・・




 

 

◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 2H 55M  (周回:  102/135LAPS)
      
総合11位 #27  FINA GSX ADVAN M3 98LAPS
総合12位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 98LAPS
総合13位 #41  SABOTAGE Z 98LAPS
総合14位 #39  BENELOP ADVAN NSX 97LAPS
総合15位 #43  Shinto ARP M3 97LAPS
総合16位 #70  マジック スポーツ RX-7 97LAPS
総合22位 #78  WW2 RX-7 95LAPS
総合26位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 94LAPS
総合29位 #100 SANWA TK ARP M3 90LAPS
総合30位 #74  アラビアンオアシス Z 85LAPS
総合31位 #16  バウフェリス. 7 76LAPS
Retire #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 25LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS

 





<3時間40分経過時点>
 〜17:02〜


 この第3スティントの予定周回数は33周。ここでタイミングモニターを注視する私を驚かせたのが、まるで機械のように正確に「1分46秒台」のラップタイムを刻み続けた伊藤選手と78号車のパフォーマンスでした。

 この時点でST3クラスの上位勢のラップタイムは45秒〜46秒であり、それらと比較しても遜色ないタイムですが、すっかり汚れきったコース上で、時には上位クラスのマシンに道を譲りながらここまでタイムを揃えてきたのは特筆すべきことです。
 昨年までは終盤戦だと47秒〜48秒台の周回が精一杯で、時折り46秒台に入る程度だったことを考えると、ここでもタイヤのポテンシャルアップが抜群の安定感につながっていると言えそうです。


メインストレートを駆け抜ける78号車



 そんな快走劇の途中で、突然コース上の伊藤選手からPITに連絡が入ります。

 すわトラブルか? と一瞬PIT内の空気が張り詰め、思い思いの場所に散らばっていた首脳陣も慌てて集結。全員が固唾を飲んで耳を傾ける中、伝えられた伊藤選手の言葉は・・・


 「前を走るRX−7は抜いてもいいんですか?」


でした(笑)。

 さすがはファイター伊藤選手、終盤戦になってもなお、戦う相手を求めるポジティブなコメントに、チーム一同ホッと胸を撫で下ろしました。

 ただ残念なことに、この時点でクラス7位を走る78号車は、クラス6位の#43のM3とは1LAP、クラス8位の#55のS2000とは3LAP以上の差が付いており、極めて孤独な単独走行を続けていました。目前で射程圏内に思えたRX−7からもすでにLAPダウンされており、直接にコース上で順位を争う相手は存在していませんでした。

 実は私は最後まで、#43の2回目のPITイン時のドライバー交代に逆転の望みを繋いでいたのですが、ついにその願いは叶わず、Aドライバーの番場選手が2スティント連続でそのままコース復帰したことで、伊藤選手による猛追ストーリーもあえなく潰えていました。
 私はドライバーが最後まで燃えるレース環境作りができなかったことに責任を感じつつ、「他車は気にせず今のペースを維持してください」と伝えてもらうことにしました。


 そんな伊藤選手の闘志の源として貢献したのが、PIT裏に出現した急増オアシスのフレンディ。
 伊藤選手は第2スティントの間、冷房完備のフレンディ車中で、電動ロールカーテンを降ろし、シートをフルフラットにしてゆっくり休憩、気力・体力を十二分に回復させていたのです。豪華モーターホームの代役とまではいきませんが、予想以上の活躍をしてくれました。
 そういえばこのオアシス、レース後の撤収作業時にはオーナー家御息女さまの授乳スペースへと早代わりするから、なかなかのやり手です(笑)。

 こうして運搬以外にも思わぬ使い道が開拓できたWW2フレンディ。来年は癒し系アイテムなども配備し、オアシスの雰囲気を一層盛り上げてみましょうか(^^ゞ。

何気にマツダ車で固めてたり・・・(^^ゞ
簡易コテージが出現した4Aピット裏


 

◆ST‐3クラス順位◆

経過時間: 3H 40M  (周回:  125/135LAPS)
      
総合11位 #27  FINA GSX ADVAN M3 120LAPS
総合12位 # 7   アメニティホーム・エクセディ RX-7 119LAPS
総合13位 #41  SABOTAGE Z 119LAPS
総合14位 #39  BENELOP ADVAN NSX 118LAPS
総合15位 #70  マジック スポーツ RX-7 117LAPS
総合17位 #43  Shinto ARP M3 117LAPS
総合19位 #78  WW2 RX-7 116LAPS
総合26位 #55  BOLD MOTOR SPORTS (S2000) 112LAPS
総合29位 #100 SANWA TK ARP M3 110LAPS
総合30位 #74  アラビアンオアシス Z 104LAPS
Retire #16  バウフェリス. 7 83LAPS
Retire #14  協新マイロード岡部自動車 RX-7 25LAPS
Retire #15  岡部自動車 eeiA Z 0LAPS
Retire #19  バーディクラブ☆TC神戸 Z33 0LAPS
Retire #113 カルラレシーシング☆ings北海 Z 0LAPS
Retire #333 H.I.S. ◆ings◆Z 0LAPS




 



<ゴール>
 〜17:18〜

 13時26分のレーススタートから約4時間。夕暮れ迫る空のもと、500kmのレースもいよいよチェッカーの時を迎えました。

 総合の優勝争いでは、中盤から総合TOPに立ったST1クラスの
#3・ENDLESS ADVAN Zが追いすがる#50から1秒差で逃げ切るという薄氷の勝利。
 ST‐3クラスは、中盤からTOPに立った
#27・FINA GSX ADVAN M3が、白熱する2位争いをよそにそのまま余裕で逃げ切り、今シーズン3勝目を挙げました。


 78号車は#3から57秒遅れてコントロールラインを通過し、無事チェッカー。
 最終コーナー寄りのPITウォールから身を乗り出して迎える私達に手を上げて合図をしてくれた伊藤選手。周囲には歓喜の声が飛び交い、あちこちに笑顔が溢れます。
 私達にとっては毎年恒例となっている晴れやかなゴールシーンですが、ひとたびトラブルやクラッシュに見舞われ完走できないとなれば即お預けになるわけで、初参戦以来1回も欠かさずこの場に立ち会えていることは、本当に幸せなことかもしれません。


125周走破の瞬間!!



 総合TOPからちょうど10周遅れの「
125周」という78号車の周回数は、当初想定していた周回数を1周ほど上回りました。

 実は、レース前の私の試算結果は「総合TOPから
10.2周遅れ」というもの。
 ここで私はついつい例年通り、小数点以下を切り上げ「11周遅れ」としてしまったのですが、今回は両ドライバーとPITクルー全員の頑張り、そして応援してくれた方々の熱意が、「小数点以下切捨て」ゾーンまでリザルトを持ち上げてくれたようです。

 年々予測精度を上げてきている私の勘ピュータ(笑)ですが、次戦ではチームメンバーの頑張りに期待して、小数点以下切捨てルールを採用したいと思います(^^ゞ。



 これで78号車とチームテスタスポーツは、2001年のS耐デビュー以来の連続完走&ポイント獲得記録を「10」にまで伸ばしました。



チームメンバー&ゲストの皆さんで恒例の記念撮影

 



■初志貫徹■

 こうしてチャレンジ3年目にして初めて、当初の計画通りにレースを走り切った78号車。ようやくST3クラスのライバル勢と同条件で戦ったという確かな実感が残り、実りの多い2007年のレースでした。

 レギュラー参戦チームならば僅か数ヶ月で消化してしまう「3戦」も、私達にとっては実に3年がかり。
 ともすればその都度全ての経験がリセットされてしまうところですが、貴重なノウハウはチームの財産として確実に積み重ね、かつ、毎回毎回フレッシュな感動や新たな達成感を味わうという、絶妙なバランス感覚の上にチームテスタスポーツのS耐チャレンジは続いています。
 そのチャレンジをサポートする私達WW2メンバーの士気も年々高まるばかりで、このような素晴らしい体験の機会を与えてくださるチームオーナーさんには心から感謝しています。

 S耐初参戦から7年で、私達はようやく堂々とライバルと戦えるマシン・チーム体制を実現しました。
 ここまで辿り着くのは長い道程でしたが、今後チームが見せる進歩や成長は、そのままレースリザルトの向上に直結していくことでしょう。
 そしてそれは、今なおサーキットで戦い続けるマツダのマシンにもっともっと輝いてもらいたいという、WW2本来のサポートコンセプトとより合致してくるものと思います。

 次回は、予選通過基準タイムとか入賞圏内というキーワードは一切封印し(笑)、より大きな獲物を狙いながら、これまで以上にレースを楽しんでいきたいと思います。

(おわり)