スーパー耐久シリーズ2003 第4戦

CP MINE 500km Race


6月28日(土)〜29日(日) CP MINEサーキット(山口県)




 ポルシェ(911GT3)のクラス1への参入が話題を呼んだ2003年のスーパー耐久シリーズは、4月下旬の仙台ハイランドでシーズン開幕を告げました。5月の鈴鹿、6月の富士で全8戦中の3戦を既に消化しており、MINEサーキットでの第4戦で早くも前半戦が終了することになります。

 ここ数年、春先のシリーズ開幕戦の舞台として、数々の波乱のレースを演出してきたMINEサーキットですが、今年は夏本番を目前にした6月末の開催となりました。これにより、例年より高めになる気温や路面温度、そして梅雨という気象条件が新たな要素として加わったカタチとなりました。シーズン中盤で熟成を進めたマシン達によって、いつも以上に激しいバトルが繰り広げられることが予想されます。

 クラス3にはニッサンフェアレディZが新たに参入。これを迎え撃つマシンは、BMW M3ホンダNSX、そしてマツダRX−7。2003年はこれら4車種の2輪駆動車によってクラス3のタイトル争いが行なわれてきました。
 これまでのところ、毎年チャンピオン争いのダークホース的存在だった
BMW M3が、燃費の良さとコンスタントな速さを武器にして既に2勝。さらにNSXも鈴鹿で1勝を挙げており、ここ数年クラス3の最大勢力となっていたRX−7勢は、いまだにシーズン未勝利という思わぬ苦戦が続いています。

 今回のMINE戦のクラス3には全8台がエントリー。うち半数を占める4台のRX−7勢に、今シーズン初勝利の期待がかかります。

 

 



<決勝>

 金曜の練習走行日から土曜の予選日のかけて、うっとうしい梅雨空に覆われ続けたMINEサーキットですが、決勝日の日曜にはようやく雨も上がり、500kmの耐久戦は、待望のドライ路面でスタートの時間を迎えることになりました。
 5月のフォーミュラニッポンに続いて今年2戦目のBIGレース開催となったMINEサーキット。さすがに人気のレースとあってパドックの内外には活気が戻り、普段の閑散としたイメージは完全に払拭されています。
 前日の夜から正面ゲート前には数十台のクルマの列が出来ていましたが、明けて日曜日、サーキットを見渡せる外周路にはぎっしりとクルマの列が出来上がり、スタンドには朝早くから熱心な観客が詰め掛けていました。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 MINEで今シーズンの初戦を迎えることになったチームテスタスポーツ。マシンもデビュー以来のカラーリングを一新し、ダンロップのDIREZZAカラーへと大きく変貌を遂げました。
 しかし、事前に入念なテスト走行を重ねたチームの強い意気込み、そして周囲の人々の大きな期待とは裏腹に、
#78・WW2 ダンロップRX−7は初日から原因不明のブーストトラブルに苦しめられ、正規のパワーを失ったままの走行が続きました。ウェット路面に助けられてきわどく予選通過はしたものの、不本意な最後尾グリッドからのスタートとなってしまいました。


後ろに見えるはマーシャルカー・・・(笑)
38番グリッドについた78号車とチームスタッフ


 チームスタッフの連日の原因究明の甲斐もなく、不可解なブーストカット現象は一向に解消する気配を見せず、78号車は失意のまま決勝スタートを迎えようとしていました。
 週末のセッションを通して、絶対的パワーを欠くマシンでは、ライバルのRX−7勢から8秒以上も遅いラップタイムしか刻むことができておらず、これではまともなレース展開を組み立てるのは無理というもの・・・。走るシケインとなるのを覚悟して淡々と走り続けることだけが、この時点で78号車に残された唯一の選択肢でした。


 さらに、コースイン前のエンジン始動の際に、78号車はバラバラと不快なエンジン音を発し、PITには激しい黒煙と生ガスの強烈な匂いが立ち込めました。直前まで行なっていた部品交換作業の努力も虚しく、マシンの心臓部はこの期に及んで最悪の状態に陥っていることは明らかでした・・・。

 

 新宅選手はダミーグリッドへのアウトラップで状況の深刻さを悟り、グリッド上ではすぐにチーム首脳による協議が持たれました。その結果、原因を交換したばかりのインジェクターと断定、元の部品に付け替える作業を行なうため、チームは78号車をレーススタート直後に緊急PITインさせることを決定しました。



 12時55分過ぎのスタートの合図とともに、ポールポジションの#1・エンドレスアドバンGT−Rを先頭に、全38台のマシンの隊列はゆっくりと1周のローリングラップへと旅立っていきました。
 やがて先導するペースカーが最終コーナー先のPITロードに姿を消すと、スターティングドライバー達の駆け引きが一瞬の静寂をもたらしますが、その後、大地を揺るがすような爆音を響かせ、マシン達はメインスタンド前を全開で通過していきました。
 いよいよ、155周先のゴールを目指す戦いの火蓋が切って落とされたのです!





<レーススタート直後>
 〜
12:57

 いつもならスタッフは遠く1コーナー方向に目をやり、78号車がスタート直後の混乱を切り抜けていく様子をハラハラしながら見守るのですが、今回ばかりはコース上に78号車の姿はありません。マシンがPITロードを帰って来るのをじっと待ち受けます。

 完走狙いの「我慢の走り」を覚悟して臨んだ決勝レースで、いきなり1周目に緊急PITイン。果たしてこの先のレース展開はどうなってしまうのか・・・私達の46番PITには重苦しい雰囲気が漂っていました。

写真はあくまでイメージです(笑)
PITインする78号車

 また、インジェクターの交換は、熱を持ったエンジンルーム内で燃料ラインを外すという危険な作業を伴うため、PITには別の意味での緊張感も張り詰めていました。すぐに消火器担当の私は監督に促され、エンジンルームを覗き込むようにノズルの先を向け、息を飲んでその作業を見守りました。
 幸い、経験豊富なメカニックの慎重な作業で危険なトラブルは完全回避。不具合のあったインジェクターとその周辺部品が手際良く次々と交換されていきました。その間わずか10分という早業でした。


 13時08分過ぎ、TOPから7周遅れで78号車はコースへ復帰、チームテスタスポーツにとって2度目のレーススタートが切られました。


クラス3順位
(経過時間 0h 17min. / 10LAPS)
    
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 10LAPS
     
総合17位 #83・BP ADVAN NSX 10LAPS
総合18位 #77・TRUST ADVAN RX7 10LAPS
総合19位 #27・FINA BMW M3 10LAPS
総合20位 #39・DELPHI ADVAN NSX 10LAPS
総合22位 #23・C−WEST アドバン Z33 10LAPS
総合23位 #14・REDLINEダイトウRX−7 10LAPS
    
総合37位 #78・WW2 ダンロップRX−7 2LAPS



 序盤のクラス3に目を向けると、ただ1台#15・ORCアドバンRX−71分39秒台のラップタイムで「逃げ」に入ったと思わせる他は、稀に見る大混戦の様相を呈し始めていました。#83・BP ADVAN NSXから、#14・REDLINEダイトウRX−7までの6台のクラス3のマシンが、まるで一筋の帯をなすように連なり、概ね1分40秒〜41秒台のペースで周回を重ねています。




<50分経過時点>
 〜
12:45

 時折り雲の切れ間から太陽が顔を覗かせるものの、MINEサーキットはここまでのところ急激な気温上昇もなく、マシンやドライバーへの暑さの影響はまだ心配するレベルではないようです。
 スタートから1時間が経過する頃になっても、依然として
クラス3は超のつく混戦模様。
#83・BP ADVAN NSX#39・DELPHI ADVAN NSXの2台のNSXがそれぞれ少し順位を落とす一幕はあったものの、なんと総合18位から総合23位まで同クラスの6台のマシンがひしめいている異様な展開が続いています。
 ラップタイムは各車
1分41秒〜42秒で拮抗した状態ですが、総合13位でクラス3のTOPをひた走る#15・ORCアドバンRX−7のみ、1分40秒台での走行を続けています。

クラス3順位
(経過時間 0h 50min. / 32LAPS)
    
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 30LAPS
     
総合18位 #77・TRUST ADVAN RX7 30LAPS
総合19位 #27・FINA BMW M3 30LAPS
総合20位 #83・BP ADVAN NSX 30LAPS
総合21位 #23・C−WEST アドバン Z33 30LAPS
総合22位 #14・REDLINEダイトウRX−7 30LAPS
総合23位 #39・DELPHI ADVAN NSX 30LAPS
    
総合35位 #78・WW2 ダンロップRX−7 22LAPS



 いきなり7周のビハインドを背負って戦線復帰した#78・WW2 ダンロップRX−7は、その後は新宅選手がコンスタントに周回を重ねつつベストラップの更新を連発し、20周を消化する時点でなんと1分44秒906のタイムを記録。このタイムは、朝のフリー走行での自車のタイムを1秒2も上回っており、マシンは突如復調の兆しを見せていることが判明しました。
 スタート直後から重苦しい雰囲気だった私達のPITにも、次第に生気が戻ってくるのがハッキリと感じとれました。


決勝で突然ペースの上がった78号車
(写真提供;にゃおにゃおさん)





<1時間20分時点>
(1/3経過)
 〜14:15〜

 一進一退の攻防が続くクラス3の戦いに最初の変化が訪れたのは、14時前のことでした。
 これまでクラス3の2番手を走行していた
#77・TRUST ADVAN RX7が、急にラップタイムを1分49秒〜50秒まで落とします。6台の隊列の先頭からズルズルと後退していった#77は、ついに14時08分、スタートから40周目を走り終えたところで緊急PITイン。どうやらトランスミッションに深刻な問題を抱えてしまったようで、チームはミッション交換を決断。PITで懸命の交換作業が始まりました。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 スタート直後のPITインで突如速さを取り戻した78号車は、新宅選手がすでに30周以上のラップを重ねていますが、コンスタントに1分46秒前後のラップタイムをキープ。総合順位こそ最下位付近に沈んだままですが、この時点で総合30位以降のマシンのラップタイムは1分44秒〜46秒付近まで落ちてきており、ようやくレースに「参加」している雰囲気になってきました。


 チームは予選でのラップタイム状況から、78号車の最終周回数を総合TOPから22周遅れの133周付近に想定していました。トータル500kmのレースで440km程度しか走破できない計算ですが、手負いのマシンで淡々と走り続けるというストーリーでは、これが精一杯の数字でした。
 この133周に対し、新宅選手と伊藤選手が50周ずつを担当し、残りの33周を新人の有木選手に託す2ストップ作戦が立てられました。
 実際にはスタート直後のPITインで10分以上をロスしており、前提は大きく崩れましたが、突如復調したマシンは当初の想定ペースより3秒程速いラップタイムを刻んでおり、少なくともタイムロス分の穴埋めはできそうな状況でした。


クラス3順位
(経過時間 1h 20min. / 50LAPS)
    
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 48LAPS
     
総合18位 #27・FINA BMW M3 47LAPS
総合19位 #83・BP ADVAN NSX 47LAPS
総合20位 #23・C−WEST アドバン Z33 47LAPS
総合21位 #14・REDLINEダイトウRX−7 47LAPS
総合22位 #39・DELPHI ADVAN NSX 47LAPS
    
総合31位 #77・TRUST ADVAN RX7 41LAPS
総合35位 #78・WW2 ダンロップRX−7 38LAPS





<1時間55分経過時点>
 〜14:50〜

 次に、クラス3の戦いに大きな変化が訪れたのは、レースの折り返し地点が見えてきた14時30分前後でした。

 まず、14時29分にクラス3のTOPをひた走る
#15・ORCアドバンRX−7が1回目の給油のためにPITイン。燃費に勝り、給油回数の少ないNAエンジンのライバル勢からRX−7が勝利を奪うためには、出来る限り速いペースで周回して、PITイン1回分に相当するタイムマージンをコース上で稼ぎ出すしか方法はありません。いわば定石通りの戦略をとった#15は、常にクラス2位以下を1〜2秒上回る、1分40秒台のタイムでコンスタントな周回を続けていました。
 PITを後にした#15は、クラス3番手へ浮上した
#39・DELPHI ADVAN NSXの後方、総合18位でコース復帰すると、すぐさま1分39秒台で追撃体勢に入り#39のNSXを攻略、クラス2位まで順位を戻しました。

 ところが、同じように1回目のPITインを終えてコース復帰した
#83・BP ADVAN NSXには、大変不運な結末が待っていました。アウトラップの2ヘアピン前で、抜きにかかったスロー走行中のマシンが突如体勢を乱して両車は激しく接触、#83はそのままサンドトラップへ弾き飛ばされ、そこでストップしてしまったのです。



 
14時22分、コンスタントに周回を重ねる
#78・WW2 ダンロップRX−7は、PITでミッション交換作業中の#77・TRUST ADVAN RX7をパスし、ついにクラス7位へ浮上しました。スタート直後から続いた孤独な戦いにも、僅かながら成果が現れたカタチです。
 そして14時30分、新宅選手が47周を終えたところでルーチンのPITストップ。給油と同時にドライバー交代を行ない、新人・有木選手へステアリングが委ねられました

 
初めてS耐の決勝に臨む有木選手は、交代時間の40分以上も前から、ヘルメットを手にして一人緊張の面持ちで、見かねたスタッフがリラックスするように声をかける一幕もありました(笑)。そして、いざコースへ復帰した先がいきなり7〜8台の車群のど真ん中。見守る側も思わず冷や汗をかきましたが、僅か数周で自分のペースを掴み、
1分47秒〜48秒の安定した走行を見せ始め、周囲の不安を見事に吹き飛ばしてくれました。



78号車を駆る有木選手
(写真提供:にゃおにゃおさん)


 有木選手に課せられたパートは30周。複数クラスの混走レースは初体験ということで、終始ミラーを気にしながらの1時間は相当キツいと思いますが、若さと体力で何とか乗り切ってもらいたいものです。


クラス3順位
(経過時間 1h 55min. / 70LAPS)
    
総合13位 #27・FINA BMW M3 67LAPS
総合15位 #15・ORCアドバンRX−7 66LAPS
総合16位 #39・DELPHI ADVAN NSX 66LAPS
     
総合23位 #83・BP ADVAN NSX 65LAPS
総合25位 #23・C−WEST アドバン Z33 65LAPS
総合27位 #14・REDLINEダイトウRX−7 65LAPS
    
総合34位 #78・WW2 ダンロップRX−7 55LAPS
総合35位 #77・TRUST ADVAN RX7 44LAPS





<2時間45分時点>
(2/3経過)
 〜15:40〜

 総合TOPの#33・FALKEN☆PORSCHEが、2位の#1・エンドレス アドバン GT−Rを10秒後方に従えて100周目をクリア。500kmという長丁場のレースも2/3を消化し、残りは1/3となりました。クラス2は#11・ジアラランサーEVO[、クラス4は#21・クムホ・エクスタ・S2000、そしてNプラスは#5・5ZIGEN INTEGRAと、各クラスのリーダーには新鮮な顔ぶれが揃っています。
 この時点でコース上には33台のマシンが残っていました。



 クラス3では、驚異の好燃費で84周目までPITインタイミングを遅らせた#27・FINA BMW M3に代わり、再び#15・ORCアドバンRX−7がTOPに立ちました。
 すでに他のマシンも1回目のPITインを済ませており、このまま最後まで無給油でいけそうなNSXとM3に対し、RX−7勢は総じてあと1回のPITインが必要という戦況でした。
#15・ORCアドバンRX−7は、2回目のPITイン前にできるだけ差を広げようと、山田選手が1分38秒台のベストラップを叩き出しながら激走を続けています。
 一方で、序盤から激しい順位争いに喰い込んでいた#23・C−WEST アドバン Z33は、1回目のPITイン前後でトラブルに見舞われた模様で、その後ズルズルと順位を下げていきました。


 
15時27分、有木選手は予定通りの30周を消化し、PITロードにマシンを滑り込ませます。#78・WW2 ダンロップRX−7は2度目の再給油を行ない、ドライバーは伊藤選手に交代しました。



クラス3順位
(経過時間 2h 45min. / 100LAPS)
    
総合11位 #15・ORCアドバンRX−7 95LAPS
総合16位 #27・FINA BMW M3 95LAPS
総合17位 #14・REDLINEダイトウRX−7 94LAPS
総合19位 #39・DELPHI ADVAN NSX 94LAPS
     
総合29位 #23・C−WEST アドバン Z33 83LAPS
総合30位 #78・WW2 ダンロップRX−7 81LAPS
    
総合33位 #77・TRUST ADVAN RX7 72LAPS
    
リタイヤ #83・BP ADVAN NSX 65LAPS





 ここまで計77周を走り終えた78号車。
 最終パートを任された伊藤選手は、コースイン直後から、いきなりそれまでのベストタイムを更新する
1分43秒台のタイムを叩き出し、ハイペースを維持しながら周回を始めました。その瞬間、タイミングモニターを見つめる46番PITでは、思わず歓喜の声が上がりました。何しろ、ブースト不調のために一度も満足のいく全開アタックができなかった今週末。そんなチーム全員のストレスを一気に発散させてくれるような伊藤選手の快走劇でした。

 そして6周目には、決勝でのベストラップとなる1分42秒597の好タイムをマーク。このタイムは今週末サーキットに乗り込んでからの最高タイムとなりましたが、この時点でのクラス3のライバル勢の周回タイムと比較しても、全く遜色のない立派なものでした。
 レースも残り1/3となり、78号車にはコース上で直接順位を争う相手はいませんが、決勝レース中にここまでタイムを縮めることができたという事実は、私達に78号車の潜在ポテンシャルを再認識させ、トラブル続きの渦中で失いかけていた自信を取り戻させるものでした。




<アクシデント発生>
 〜16:12〜

 78号車が快走を見せ始めた裏で、チームテスタスポーツには悩ましい問題が急浮上していました。マシンの残燃料と、ドライバーの疲労の懸念でした。

 元々最終スティントは
50周という想定でしたが、現在の速いタイムペースで計算すると、ゴール迄の残り周回は55周を裕に超えるという状況でした。当然ながら、消費燃料もペースアップ分と周回数のプラス分とで着実に増加し、ゴール目前でのガス欠発生の懸念をも生じさせていました。さらに、雲が日差しを遮ってはいるものの気温はかなり高く、熱のこもりやすいRX−7のコクピットで、伊藤選手が残り50周以上も現在のペースで走り続けることは困難な状況でした。

 チームは過去に燃料ラインのパーコレーションが発生した苦い経験があり、様々なリスクを伴うレース終盤のPITインは、できるだけ回避したいという思いがありました。
 また、現実のレース展開に目を向ければ、クラス3の前後順位の車両(クラス5位;マイナス2周、クラス7位;プラス9周)との差も大きく、これ以上マシンとドライバーに負担をかけてPushし続ける必要性がないことも事実でした。

 エンジニアが再度燃費を計算した結果、燃料はゴールまでギリギリという状態。伊藤選手にはぜひともこのままゴールまで走り切ってもらいたい・・・。チームは総合的に状況を判断し、すぐさまサインボードで
ペースダウンの指示を出しました。

78号車の走りを見つめるスタッフ

 チームにとってはまたも不本意な決断となりましたが、今後は、こうした伊藤選手のガッツある走りが直接レース結果に結び付くような、着実なレース展開作りを目指していかなくてはならないでしょう。


 そして16時10分過ぎ、残り周回数が30周余りとなったところで大きなアクシデントが発生しました。
 突然、1台のマシンがゆるゆると白煙を上げながらメインストレートを通過。コントロールライン先のコース脇のグリーンにマシンを寄せた途端、なんとマシンから大きな火柱が・・・。あっという間にメインストレートには黒い煙が立ち込め、一瞬メインスタンドやPITは騒然となりました。
 やがて、遠く煙に霞んでいるそのマシンは、クラス3の
#23・C−WEST アドバン Z33であるという場内アナウンスが聞こえてきました。

じつはガソリン漏れ騒ぎの時の光景(笑)
騒然とするPITレーン
(イメージ画像)


 ここで、炎上を続けるマシンの消火活動を行なうため、セーフティーカーが導入されました。各コーナーポストには「SC」のボードが掲げられ、セーフティーカー先導によるスロー走行が10分以上にもわたって続けられました。
 これで各マシンの間隔は一気に詰まり、終盤の各クラスの順位争いに大きな影響を与えることになったのです。


 16時25分にレースが再開されると、まず
クラス1による総合TOP争いが激化しました。SCランを利して#33・FALKEN PORSCHEとの差を一気に縮めた#1・エンドレスアドバンGT−Rが、ひたひたと背後に忍び寄り、ついにオーバーテイク。総合TOPの座を奪取した#1は、猛然と他クラスのマシンを蹴散らしながら、#33との差をジワジワと広げていきます。

 
クラス3でもこのSCランの影響でTOPに順位変動が起こりました。
 
終始一貫「逃げ」の走りを敢行し続けていた#15・ORCアドバンRX−7は、ついにPITストップ1回分のマージンを稼ぎ出すことに成功。レース終盤には見事にクラスTOPの座に返り咲いていました。ところが、その激走のツケが廻ってきたのか、ここへ来てラップタイムを他車並みの1分41秒〜42秒台にダウンさせていました。SCランを利用して背後まで迫っていた#27・FINA BMW M3がこのチャンスを見逃さず、一気に勝負をかけて逆転に成功。#15・ORCアドバンRX−7も必死に秒差で追いすがり反撃を試みたものの、残念ながら再逆転を狙う余力は残されていませんでした。
 今シーズン初勝利を目前まで引き寄せていた#15にとっては、まさに恨みのSCランとなりました。



クラス3順位
(経過時間 3h 55min. /
140LAPS
    
総合11位 #27・FINA BMW M3 134LAPS
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 134LAPS
    
総合18位 #14・REDLINEダイトウRX−7 132LAPS
総合21位 #39・DELPHI ADVAN NSX 132LAPS
     
総合27位 #78・WW2 ダンロップRX−7 119LAPS
    
総合29位 #77・TRUST ADVAN RX7 111LAPS
    
リタイヤ #23・C−WEST アドバン Z33 104LAPS
リタイヤ #83・BP ADVAN NSX 65LAPS



 悩んだ挙句にペースダウンの決定を下したチームにとって、突如訪れたSCランによるスロー走行は、まさに絶好のタイミングでのブレイクとなり、これまでの全ての懸念を解消する福音に思えました。予断を許さない戦況に気を揉み続けていた私達にとっても、張り詰めた緊張感が思わず和らぐ一瞬でした。
 ・・・ところが、ホッとしたのも束の間、SCランが解除されようとした16時22分、78号車が
突然のPITイン! 伊藤選手は暑いコクピットの中で脱水症状を起こしかけており、まさに疲労困憊の様子でした。じつは、スロー走行が逆に走行風の自然導入を妨げる結果となり、暑いコクピットをさらに過酷な条件に至らしめていたのです。
 PIT裏で寛いでいた新宅選手が急遽スタンバイを始めると同時に、マシンには再給油が行なわれ、両側のサイドウィンドウを開け放つ応急措置がとられました。

 #23の脱落で
クラス5位まで浮上した78号車。ゴールまでの残り30周を再び新宅選手に託して、夕暮れ迫るコースへ復帰していきました。


 マシンから降りるなり、PIT裏で水道水を何度も頭から被って必死にクールダウンする伊藤選手。WW2サポート隊も、冷たいドリンクやうちわ、終いにはラジエータ冷却用の扇風機まで持ち出して、体調の回復を心配しながら見守りました。その甲斐もあってか、伊藤選手は徐々に落ち着きを取り戻していったのです。

 PITで見守る私達や、スタンドで応援するファンにとって、78号車がレース本番になって取り戻した「速さ」、そして終盤に垣間見せた「光る走り」は、今後に一筋の光明を見出す素晴らしいものでした。しかし、その激走の裏で、マシンの限界と体力の限界に挑む凄まじい格闘があったことは想像に難くありません。
 最初から完走狙いでスタートを切った苦汁のレース展開に活気を呼び戻し、観る者に感動を与えると同時に、チームに勇気と自信を呼び戻してくれた3人のドライバーの素晴らしい走りは、末永く私達の記憶に留めておきたいと思います。





<ゴール>
 〜17:15〜

 結局、155周を走破した#1・エンドレスアドバンGT−RにTOPチェッカーが振り下ろされ、4時間以上にも及ぶ長い戦いはゴールを迎えました。
 #1は開幕4連勝を飾り、ポルシェの初優勝は次戦以降にお預けとなりました。クラス2は独走に近い状態で
#11・ジアラランサーEVO[が、Nプラスは激戦の末に#36・MAZIORA Kosei ALTEZZAがそれぞれ今季2勝目を挙げました。クラス4では三船 剛こと桧井保孝選手の駆る#21・クムホ・エクスタ・S2000が念願の初勝利を挙げています。
 クラス3では着実な走りを見せた
#27・FINA BMW M3が今季3勝目をGet。ポイントランキングのリードを大きく広げています。


 #78・WW2 ダンロップRX−7は終盤エンジンに不調を来たしたものの、新宅選手が1分49秒台にペースを落として慎重に周回を重ね、チームメンバーの見守る中で、無事に132周でチェッカーを受けました。


クラス3最終結果(含ベストラップ)
(レース時間 4h 12min. /
155LAPS
      
総合11位 #27・FINA BMW M3 149LAPS 1'39.480
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 149LAPS 1'38.850
      
総合18位 #14・REDLINEダイトウRX−7 146LAPS 1'40.449
総合21位 #39・DELPHI ADVAN NSX 146LAPS 1'40.086
       
総合27位 #78・WW2 ダンロップRX−7 132LAPS 1'42.597
      
総合29位 #77・TRUST ADVAN RX7 125LAPS 1'39.519
      
リタイヤ #23・C−WEST アドバン Z33 104LAPS 1'39.764
リタイヤ #83・BP ADVAN NSX 65LAPS 1'38.652


MINE 500km Race
決勝正式結果は→
こちら

 


 チームテスタスポーツにとって、ブースト不調に翻弄されたカタチとなった今回のMINE戦でしたが、スタート後に突如マシンが復調する幸運もあり、当初覚悟していた苦しいレース展開よりはいくらか望外の好結果が残りました。結局、決勝でのベストタイム、最終周回数ともに、1年前のMINE戦のリザルトを僅かに下回る程度にまで「回復」できたわけですから。
 そして、チーム全員がミスなく確実に作業を行ない、着実に周回を積み上げることによって、不幸にもトラブルに見舞われたライバル勢を喰って、少しだけ順位を上げることにも成功したわけです。

 ただ、ブースト不調に足を引っ張られ、マシンのセットアップを全く進められなかったことが災いし、復調した後のタイムをもってしても、今回ばかりはクラス3の順位争いに加わるポジションにはあと一歩届いていませんでした。
 次戦TIまでには真のトラブル原因を解明し、78号車が再び激しい順位争いの中に戻ってくることを期待したいと思います。



最後にドライバー3人で記念撮影


 今年のスーパー耐久シリーズは、ここ数年クラス3の王座を守り続けてきたマツダRX−7が一度も表彰台の中央に登れないという不振が続いています。前半戦最後となったここMINE戦でも、ついにその流れを断ち切ることはできませんでした。
 強力なライバル勢の台頭とRX−7勢の台数減で、従来のクラス3の勢力分布図は確実に書き換えられつつありますが、マツダの象徴であるレーシングロータリーを搭載したRX−7には、ぜひともピュアスポーツカーとしての意地を見せてもらいたいところです。

 7月の十勝24時間レースから始まる後半戦では、ディフェンディングチャンピオンの#15を中心に、RX−7勢の巻き返しが期待されます。そして、第6戦のTI戦では、チームテスタスポーツの#78も、RX−7勢復活の一翼を担う大活躍をきっと演じてくれることでしょう。もちろん、私達WW2も精一杯応援していきたいと思っています。

 さて、次の部品取り車は誰の愛車になるかな?(^^)

(おわり)