まえがき

 

 急激な情報通信ネットワークが我々の生活を変化させつつあります。現代は、トフラーが「第三の波」で述べているとおり、蒸気機関と工場生産を持って第1次産業革命とし、モ−タ−と内燃機関と大量生産様式の工場をもって第2次産業革命とするいう時代の流れの上に、現在の情報革命を位置づけて、農業革命、産業革命に匹敵する変革期にあります。

 情報通信ネットワークの最初は1835年のモールスにより電信の発明です。その後、電話、テレビ等の情報通信ネットワークが登場しました。

 最近では、デジタル技術の進展により、インターネットの普及、デジタル放送の開始、モバイル革命等に見られるように、急速に高度化しています。

高度化された情報通信ネットワーク、すなわち、デジタルネットワークは、いつでも、世界中のどこでも、情報発信コストが安価で、大量に多数の人と同一情報を共有できます。

本書では初めにこのようなデジタルネットワークが私たちの生活に与える変化を検証します。その後、近い将来に導入が確実視されている電子申告と既に導入が進行中のKSK(国税総合管理システム)の現状を通して、将来の税理士業務がどのように変化して行くのかを考えてみます。最後に税理士はどのように対応していけばいいのかなどについて、コンピュ−タ・リテラシ−から、情報リテラシ−の成果であるパソコンによる経営指導の報告手法を交えて将来の税理士事務所の生き残りの形態を考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

第1章 デジタル情報化の進展と私たちの生活

一、マルチメディアとは

マルチメディアとは「文字」、「音声」、「動画」「静止画」などあらゆるメディアを有機的に統合して、意味のある情報媒体として有効に利用する技術を一般的に指します。(財)マルチメディア振興協会では、、マルチメディアを@ネットワ−ク、Aインタラクティブ、Bデジタルの3つの要素からそのイメ−ジをまとめています。それに遠藤薫氏が若干の修正を加えたイメ−ジ図が図1です。外周が広義のマルチメディアで内周が狭義のマルチメディアを示し、中心に近いほどそれぞれの要素の傾向が強いのです。

図1 マルチメディア概念のイメ−ジ図

            インタラクティブ

 


 

              TVゲ-

              (ロムカセット)

      ISDNカラオケ       電子ブック

      ホ-ムバンキング      LDアクティブ        

ネット     ダイヤルQ2      CD-1

ワ−ク        パソコン通信

   地上波TV    インタ-ネット  仮想現実  

        キャプテン  グル-プウエア  CD-ROM  

    BS/CSTV  オンラインDB    CG          

     CATV  ナビゲ-ション   デジタルブック  音楽用CD

     HDTV  移動体通信 デジタル編集機器                           

           携帯電話 パソコン CD-G     デジタル

             PDA CD-V

         LAN  SNG

「マルチメディアの社会的影響−電子ネットワ-クの「仮想共同体」−」遠藤薫著より                        

今まさにマルチメディアのブ−ムの渦中にありますが、10年程前にもニュ−メディア・ブ−ムがありました。CATVなどをはじめ、新しい高度情報通信システムが次々と開発されたが、しだいにブ−ムは下火になりました。その原因は次の3つの理由によると思われます。

1、主導者はユ−ザ−かメ−カ−か

ユ−ザ−のニ−ズに沿わないシステムが生産者中心から生活者中心への転換という時代の流れから、ユ−ザ−のニ−ズにメ−カ−が応えてきた。

2、ハ−ド主導かソフト主導か

3、一方的か双方向的か

 情報交換は発信者と受信者から成り立ちます。発信者が企業や政府であり、受信者は一般の生活者です。マルチメディアは、双方向の受発信が可能となり、一人一人がコミュニケ−ションの主役となれます。

情報通信関連技術の急速な進歩がマルチメディア社会を作り出したのですが、日本経済は高度経済成長期が終わると、物からサ−ビス重視の経済へ構造変化していきました。生活者は物欲から心の豊かさを求めるようになり、情報サ−ビスや情報産業というように情報自体が物やサ−ビスに代わる第3の価値になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二、マルチメディアのキ−ワ−ド

1、デジタル技術(反対語:アナログ技術)

音声や映像などを数値として表現する技術をいいます。コンピュ−タは数値処理を得意とするため、デジタル化された音声・映像は高度の加工が可能になり、文字・音声・映像などのメディアをすべて数値として統一的に処理することが可能です。情報伝達の点からは、デジタル化された情報は、ノイズ(雑音)の影響を受けにくく、情報を圧縮して効率的に伝送したり、情報の誤りを補正したり、情報を暗号化してセキュリティを確保する技術があります。

2、インタラクティブ(対話性)

従来のテレビ放送では、利用者は一方的に送られてくる映像を受け取るだけでしたが、マルチメディアによる映像は能動的です。利用者の働きかけにより、映像の内容が変化していきます。例えば、デジタル技術を使ったテレビ・ゲ−ムとアナログのビデオとの違いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三、マルチメディアと情報ス−パ−ハイウエイ

マルチメディアでもたらされる情報の伝送に注目すると、ネットワ−ク系・パッケ−ジ系と分類されます。

ネットワ−ク系では、通信回線を利用して大容量の情報を効率的に伝送し、オンラインで情報のやりとりをします。電話回線、CATV(ケ−ブルテレビ)、衛星通信などです。

パッケ−ジ系とは、ビデオ・テ−プのように、情報を一つのパッケ−ジに詰め込み、伝送は通常の物流ル−トを利用して行うものである。CD−ROMがマルチメディアのパッケ−ジとして代表的なものです。

1992年のアメリカの大統領選挙の際にゴア副大統領が推進役となって、情報ス−パ−ハイウエイ構想(NIINational Information Infrastructure)を掲げました。これは2015年までに、家庭や企業、教育・研究機関、図書館、医療機関などを結ぶ光ファイバ−などを使った全米規模の高度情報通信ネットワ−クを整備しようとするもので、米国の国際競争力の強化、雇用の創出などが主な目的です。

その後、NIIとして、ネットワ−クだけでなく、ソフト、デ−タベ−ス、テレビや電話などの情報機器、専門家育成などを含んだ大きな意味での情報基盤の整備促進を図るためにNIIに関する行動指針(アジェンダ)をまとめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四、情報革命?第3次産業革命?

 いま、第3次産業革命といわれています。第1次、第2次ときてその延長に第3次産業革命があるのではなく、新しい形の産業革命になるのではないでしょうか。情報革命とか情報技術革命によって、人間の知的能力が大きく増幅される時代になるのではないのでしょうか。

よくいわれてる第3次産業革命というのは、蒸気機関と工場生産を持って第1次産業革命とし、モ−タ−と内燃機関と大量生産様式の工場をもって第2次産業革命とするいう時代の流れの延長線上に、現在の情報革命を位置づけています。つまり今までの工業化社会、産業社会の枠内の変化としてとらえる考えかたです。そうではなくもっと大きく、農業革命(紀元前8000年前に始まった狩猟・採集経済から穀物の栽培、家畜の飼育を行う農業社会への移行)、産業革命(イギリスで18世紀に綿工業の興隆から始まり、農業文明社会から工業文明社会へと脱皮)、情報革命と同列に並べるくらいの劇的な変化が起きてると考えるられています。

今のインタ−ネットの流行がコンピュ−タ産業を引っ張っているという状況が、この大変化の象徴です。パソコンを購入するのは、パソコン自体を所有したいのではなく、インタ−ネットの世界を体験するための道具として購入しています。言い換えればパソコンを買うために金を払っているというよりインタ−ネットの中にある、未体験の情報空間を買うために金を払っています。これからますます情報空間内における、情報の生産、流通、消費が経済の中心になり、そのための道具の生産などというものは、産業革命以後の農業が、繊維産業の原料生産といった副次的役割しか果たさなくなったように、経済の脇役におしのけられてしまうのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

五、インタ−ネット

インタ−ネットはネットワ−クのネットワ−クと言われます。マスコミ上のインタ−ネットとは1969年米国防総省のパケット交換用の実験ネットワ−クとして始まった国際的なコンピュ−タネットワ−クを指しているようです。このネットワ−クはNSF(全米科学財団)の支援を受けて、全米のコンピュ−タ研究者のためのネットワ−クとして発展し、今や世界で1億人、日本で1000万人の大台に達したと見られる世界的なネットワ−クに成長しています。

インタ−ネットに接続するホスト数(世界)は1997年1月に1615万台であったが1998年1月には2967万台(Network Wizards調査)とほぼ2倍に膨れ上がっています。米国の「Nua Internet Surveys」が1998年4月に発表した調査結果では、世界で1億1900万人がインタ−ネットを利用しているとあります。日経BP社の「日経マ−ケット・アクセス」が1998年3月末に実施した電話による聞き取り調査では、日本国内のインタ−ネット利用数は970万人に達したとあります。

インタ−ネットの運営は単一の組織で運営されているのではありません。

各ネットワ−クに代表者はいますが全体の責任者はいないのです。最終的な責任はインタ−ネットに関する団体であるISOC(インタ−ネット・ソサエティ)によって支えられていますが、ISOCはインタ−ネット技術を通じてく広範囲な情報交換を促進するボランティア団体です。

インタ−ネットで何が出来るかは日々進化していますが、次のようなものがあげられます。

@e−mail(電子メ−ル)...特定の個人同士のやりとり

Awww(world wide web) …クモの巣状に広がったネットワ−クで情報の発信がなされます。ネットワ−クを介したハイパ−テキストが出来るほか、画像や音声を含んだマルチメディアデ−タの提供が出来ます。通信プロトコルはHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)です。プロトコルとは言語のことです。

Bネット・ニュ−ス

Cチャット… 不特定多数の利用者によるリアルタイムの文字による会話

DCU−SeeMe…テレビ電話

など

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六、コミュニケ−ションの変化 

 マルチメディアによって、従来からのコミュニケ−ションの手段が変わるという点から見るとマルチメディアは活版印刷やラジオ放送に匹敵する知的革命であります。コミュニケ−ションの手段は一番はじめは、直接対話や手紙などで、個人対個人から、活版印刷術やラジオ放送という手段によって、個人対大衆、一部の者から大衆へのコミュニケ−ション、マスコミュニケ−ションが可能になりました。

情報ネットワ−ク手段のさまざまな技術革新により、多くの個人が大衆への情報発信が可能となってきています。いままでは情報の受け手であった個人が、発信者となる「パブリックコミュニケ−ション」への変化が生じつつあるのです。ネットワ−ク上で自由に情報交換するネティズン(ネットワ−クのシティズン(市民))という人々が現れています。

こうしたコミュニケ−ション上の構造変化は広く経済・社会・政治システムにおいて、革命的な変化を将来にわたってもたらします。

生活のあらゆる側面にパブリック・コミュニケ−ションが浸透するにつれ、プライバシ−やセキュリティ−の問題も極めて重要にとなってきます。さらにマルチメディアのなかのネットワ−クコミュニティ−が重要になる一方で、近隣住区のコミュニティ−などの重要性とのバランスも必要になってきます。

 しかし、その反面として、インターネットを使えないなどの情報リテラシーの差異に起因する問題が大きく浮上してきます。

 

 

 

 

 

 

 

七、情報リテラシ−

情報リテラシ−とは狭い意味で「情報機器の操作」などに関する立場から定義します。それに対し、大きくは操作能力に加えて、情報を取り扱う上での理解、さらには情報及び情報手段を主体的に選択し、収集活用するための能力と意欲まで加える場合があります。通信白書においては「デジタルネットワ−ク社会」に適応するために必要な能力という観点から、広義に使用しています。

その使用できる機器のレベルに応じて、@情報基礎リテラシ−APCリテラシ−(PC活用能力)Bネットワ−クリテラシ−(ネットワ−ク活用能力)の3層としてとらえています。

 図 情報リテラシ−概念図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


情報基礎リテラシ−の8項目、PCリテラシ−の7項目、ネットワ−クリテラシ−の3項目について、各1点とし、ネットワ−クリテラシ−の項目は、PCリテラシ−に内包されるので、15点満点として、日米で比較すると、平均点は日本が8.29点で米国は8.97点、得点分布の最多層は日本が7〜10点で米国は10〜13点であります。得点13点以上を高リテラシ−者、得点4点以下を低リテラシ−者として日米の平均像は次の表のようになります。

表 高・低リテラシ−者の平均像

属性

低リテラシ−者

高リテラシ−者

日本

性別

女性

 男性

年齢

60代

20代

居住地区

地方都市

大都市

学歴

短大卒以下

大卒以上

年収

300万円未満

700万円以上

米国

性別

大差なし

大差なし

年齢

60代

20から40代

居住地区

地方都市

大差なし

学歴

短大卒以下

大卒以上

年収

2万ドル未満

大差なし

郵政省資料より

 

次にアンケ−ト内容を示しますので、ご自分の情報リテラシ−度をチェックしてみてはいかがでしょうか。

情報リテラシ−に関するアンケ−ト概要

調査期間 9年12月16日から10年1月15日

対象地域 日本 大都市 東京23区 大阪市内 名古屋市内

           地 方 人口5万人未満の全市町村

        米国 大都市 合衆国行政予算管理局総合大都市統計地     

               区の最大都市(ニュ−ヨ−クなど)

           地 方 大都市統計地区以外の地域

大都市と地方の比率はおおむね等分

調査方法 電話によるアンケ−ト調査 

         年齢、年収、学歴に関する質問を除きyes/no方式

回答人数 日本 600人(男性300人、女性300人)

         米国 600人(男性300人、女性300人)

年齢比率 1519歳は50人、20から60代は各110人

情報リテラシ−に関する質問(#は質問番号)

@     情報基礎リテラシ−に関する質問(8問)

#4 あなたは定期的に雑誌を読みますか

#7 あなたはほしい情報はお金を払ってでも入手するのが当然だと思いますか

#8 あなたはビデオの番組予約をご自分で出来ますか

#9 あなたは金融機関のATMを使用できますか

10 あなたはキャッシュカ−ド等の暗証番号を他人に分からないように工夫していますか。

11 あなたはご自分で留守番電話の留守録の設定と再生が出来ますか

12 あなたはファクシミリで書類等の送信が出来ますか

13 あなたは図書館でほしい本の検索ができますか

A     PCリテラシ−に関する質問(7)

15 あなたはワ−プロまたはパソコンを使って文章を作成できますか。

16 あなたは無理なくキ−ボ−ドで入力が出来ますか

17 あなたはパソコンを使ってグラフを作成できますか

18 あなたはソフトウエアをコピ−して使っていますか

19 あなたはインタ−ネットを利用したことがありますか

20 あなたは電子メ−ルを送ったことがありますか

21 あなたはご自分のホ−ムペ−ジを作成したことがありますか

B     ネットワ−クリテラシ−に関する質問(3問)

PCリテラシ−に関する質問の#19、#20、#21

点数化の方法

   #18以外は「yes」を1点、#18は「no」を1点として測定する。○  その他の質問

   情報リテラシ−との関係を見るため以下の質問を実施

@       意欲の程度に関する質問(2問)

#5 人より早く情報を得たいと思いますか

#6 情報は出来るだけ多く入手したいと思いますか

A       相談相手の有無に関する質問(1問)

14 あなたは身近に情報機器(ビデオ、ファクシミリ、パソコ     ンなど)について尋ねることができる人はいますか

B       その他(2問)

22 あなたの年収について以下からお答え下さい。     

1、 300万円未満 2、300以上500万円未満 

2、 500以上700万円未満 4、700万円以上

23 あなたの最終学歴を教えていただけますか。

 

 このような質問項目に対しての判定結果から情報基礎リテラシ−においては日米間で顕著な格差は見られないのですが、PCリテラシ−、ネットワ−クリテラシ−においては米国優位となっています。PCリテラシ−についてキ−ボ−ドの操作能力の有無が考えられますが、このことは米国には従来からタイプライタ−が普及しており、日本にワ−プロが普及しているとはいえ、その格差は開いています。家庭へのインタ−ネットの普及率が日本では6.4%なのに、米国は28.4%と4倍以上となっていて、公立学校におけるインタ−ネット持続率が日本では9.8%(9年)で、米国は78.0%(9年)にまで達していることが年齢別で10代で日本が劣っているのはこのとと関係しています。

今後の取るべき情報リテラシ−政策として、学校教育における情報リテラシ−教育にインタ−ネットの接続率向上と指導できる教員の確保が必要です。また、高齢者に対しては郵便局、公民館等の施設においての情報機器に接触する機会を増やし相談相手たる関係職員の情報リテラシ−の向上も不可欠であります。女性に対しては家庭におけるネットワ−ク持続率を高めることによりショッピング等の女性利用者向けアプリケ−ションの充実が望まれます。

「電子情報化・マルチメディア化の進展が国民生活に与える影響に関する調査報告書」が経済企画庁国民生活局から出ていますので、その中からコンピュ−タリテラシ−レベルによるクロス分析を見てみたいと思います。リテラシ−度が高い人ほど、マルチメディア化の進展が経済・社会に全般的に及ぼす影響を肯定的に捉えています。情報化の進展やコンピュ−タ教育により、マルチメディア化による影響を肯定的に捉える人が増えるということです。「よくコンピュ−タを知らない人、実際に使っていない人」は、「自分が知らないので損をするのではないか、脱落するのではないか」と漠然とした不安があります。このことがマルチメディアの普及が社会的公平性に悪い影響を与えると考えるのではないでしょうか。社会的公平性に関して、行政サ−ビスの受益の観点から見るとリテラシ−の低い人ほど、受益格差が生じるとする意見が強いようです。一方、企業活動の面から見ると、リテラシ−の高い人ほどマルチメディアの活用能力によって企業格差が一段と拡大するという意見が強くなっています。

対人関係についてはリテラシ−の低い人ほど「下手な人が増加」すると悲観的に考えますが、リテラシ−に高い人やインタ−ネットの加入者についてはネットワ−ク化により、多様な人間関係が形成されるとの積極的な意見が強くなります。コンピュ−タリテラシ−については、リテラシ−度の高い人ほど「誰でも容易に使いこなせるようになる」としている反面、リテラシ−度の低い人は、約7割が格差拡大やテクノストレスといった悪影響を懸念しています。これは致し方ないのかもしれません。

クリック・ダブルクリック・ドラッグ

コンピュ−タの習熟は自動車の運転の教習と同じような時間との関係があり、20代の人では20時間、50代の人では70時間からと習熟時間に差が生じます。習熟度の面から見ればどうしょうもないのですが、情報の活用という面から考えれば、1時間ほどのマウス操作の教習で十分に威力を発揮します。Windowsなら、クリック、ダブルクリック、ドラッグの3要素と「最小化」、「元に戻す」、「閉じる」の3つのボタン操作だけで無難にこなすことができます。

マルチメディアの普及に伴う副作用はコンピュ−タネットワ−クを利用した犯罪の多発およびプライバシ−流出による人権侵害可能性については、個人リテラシ−度の高い人において「そう思う」という回答の割合が、大きいことが注目されます。

リテラシ−の高い人は、規制緩和及び通信料金の負担軽減に対する行政の役割を望んでいますが、リテラシ−の低い人は、コンピュ−タ教育の充実に対する要望が強くなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八、情報化社会

情報化社会とは情報社会への過渡期を指します。こういった「XX化」はある段階で幾何級数的に加速していきます。日本は「情報化」、「高齢化」、「国際化」の3つの「化」を迎えていますが、特に情報化の速度を示すのに「ドッグイヤ−(通常数年間で起こる変化が1年間で起こる。)」と共に「ウエッブイヤ−」が使われることが多いのです。インタ−ネットのWWW(ワ−ルドワイドウエッブ」からきていて、ウエッブ上の1年は現実世界の3年分も速いといわれるのです。パソコン機器では3ヶ月サイクルでの新製品発売が常態化しています。このスピ−ド感がメディア社会ではきわめて重要です。 

国民生活の立場から見ると、情報化社会への動きは、多機能電話、パソコンの急速な普及、ゲ−ム等の娯楽分野の拡大などマルチメディアの利用を通じて医療、教育、余暇活動、文化・芸術活動の分野において急激な進展をもたらしています。

マルチメディアに期待されている分野は

@医療分野

A勤務環境(勤務時間、在宅勤務、雇用形態等)

B教育分野

C娯楽分野(ビデオ・オン・デマンドなど)

D余暇活動(社会参加、文化・芸術活動など)

E買い物等

F高齢者・障害者への配慮

G行政分野です。

 例えば、マルチメディアの画像伝送と双方向通信機能を利用することにより、@遠隔医療などA高齢者・障害者の社会参加B距離を感じさせないレベルの高い同質の双方向の教育C職場や自宅に居ながらの地域社会とのコミュニケ−ションなどに大きな影響を与えます。

 

 

九、家庭への情報化の普及状況

 家庭における新しい情報化の普及状況を見るため、郵政省の「平成9年度通信利用動向調査(世帯調査)」(9年10月、以下「動向調査(世帯)」という)等に基づき見てみます。

この調査の目的は郵便、電気通信、放送サ−ビス利用の諸実態とその動向及びメディア間の相互関係を把握し、郵便サ−ビスの改善、各種メディアの普及促進、情報通信の発展諸施策の基礎資料を得るためのものです。企業ネットワ−クの状況については平成5年度から調査を実施しています。

調査方法は下記の通りです。

調査種類

 通信の利用状況

企業ネットワ−クの状況

調査客体

世帯対象調査

事業所対象調査

企業対象調査

調査対象

全国の世帯主年齢

20歳以上の世帯

全国の従業員数5人以上の事業所

全国の従業員数300人以上の企業

抽出数

6,400世帯

5,600事業所

2,400企業

有効回答数

4,443世帯

4,352事業所

1,989企業

(率)

(69.4%)

(77.7%)

(82.9%)

抽出方法

層化二段抽出法

系統抽出法

系統抽出法

調査方法

郵送調査

調査時期

平成9年10月

 

情報通信機器(ワ−プロ、パソコン、ファクシミリ、ビデオカメラ、カ−ナビゲ−ション、情報端末)の保有率について見ると、各機器とも増加傾向にあります。9年においては、ワープロが50.0%(対前年比8.3ポイント増)、パソコンが28.8%(同6.5ポイント増)、ファクシミリが26.4%(同5.7ポイント増)となっていて、特に伸びが大きくなっています。反面でビデオカメラは33.6%で5年と比べて4年間で8.0ポイント増と伸びが鈍っています。

 表:情報機器保有率の推移           (単位:%)                                                         

ワ−プロ

  42.6

   41.7

   50.0

パソコン

   16.3

   22.3

   26.4

ファクシミリ

  13.0

  13.7

   16.1

   20.7

   26.4

ビデオカメラ

  25.6

  29.9 

   31.3

   32.3  

   33.6

「通信利用動向調査(世帯調査)」と「消費動向調査」から  

   

情報通信ネットワーク(BS放送(NHK)、ケ−ブルテレビ、CS放送、パソコン通信、携帯電話、PHS、インタ−ネット)の加入率について見ると、各ネットワークともほぼ加入が伸びてきています。9年においては、携帯電話が46.0%(対前年比21.1ポイント増)、PHSが15.3%(同7.5ポイント増)、インターネットが6.4%(同3.1ポイント増)となっており、特に急激な伸びとなっています。反面、BS放送、ケ−ブルテレビ、CS放送は5年と比べて4年間での伸びに目立ったものはありません。

 

 情報通信ネットワークの加入率の推移       (単位:%)

S放送(NHK) 

   26.5

    22.5

     29.8

    31.6

    35.4

ケ−ブルテレビ

    6.8

     8.7

      8.6

    11.4

    10.1

CS放送

    2.2

     1.5

      2.3

     1.6

     2.7

パソコン通信

   -

   -

     2.6

     4.6

     5.7

携帯電話

    3.2

    5.8

    10.6

    24.9

    46.0

PHS

   -

   -

     0.3

     7.8

    15.3

インタ−ネット

   -

   -

    -

     3.3

     6.4

「通信利用動向調査(世帯調査)」より作成     

 

 

十、情報通信メディアの普及予測

郵政省が行った「インターネットビジネスに関する研究会」報告によれば、インターネットの利用者数は、9年(1997年)には1,155万人に達しました。また、利用世帯数は287万世帯(世帯普及率6.4%)となっています。

また、2005年における利用者数、利用世帯数について見ると、利用者数は4,136万人と、97年の3.6倍に拡大するほか、利用世帯数は1,929万世帯(世帯普及率41.8%)と、現在の携帯・自動車電話並みに、半数近い世帯でインターネットが導入されると予測している。このように見ると半数近くで伸びが上限に迫ることを意味するのでしょうか。普及率についてはその時の人口の推計値に対してであります。

インタ−ネットは急速に拡大しているオ−プンなネットワ−クのために通常の調査方法では統計的な把握が困難で、郵政省郵政研究所では日本のインタ−ネットの現状を把握するために、東京大学の協力のもと、統計用ロボット型サ−チエンジン(名称「Loki」を開発し、インタ−ネットの実態把握に努めています。

 

    表 情報通信メディアの普及予測

 

 

1997

2005

  2010

インタ−ネット普及

利用者数

 1,155

4,136

  4,459

利用世帯数

  287

1,929

  2,755

世帯普及率

  6.4%

  41.8%

   54.9%

地上放送

世帯普及率

   100%

   -

     100%

衛星放送

世帯普及率

      -

   -

      85%

ケ−ブルテレビ

世帯普及率

   10.1%

   -

 41%60%   

携帯・自動車電話

普及率

   46.0%

   -

46.951.9%

PHS

普及率

   15.3%

   -

21.925.9%

郵政省資料等から作成

 

十一、 生活の変化と情報通信メディア利用

情報通信の利用により、生活がどのように変化したのかについて生活時間及び家計支出の面から検証します。日本人の全般的な生活の変化をとらえ、さらに情報通信メディアの利用による変化について検討します。

初めに本人の生活の変化は日本人の生活時間の状況が、昭和61年から8年の10年間で、どのように変化してきたのかを、総務庁の「社会生活基本調査」を基に見てみます。

行動の種類別生活時間は

1次活動(睡眠、食事など生理的に必要な活動)、

2次活動(仕事、火事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動)、

3次活動(余暇活動など)に分けられます。

1日の生活時間のうち、仕事等の義務的な性格の強い活動にかける2次活動の時間は減少し、各人が自由に使える3次活動の時間が増大する傾向にあります。ゆとりのある生活となっています。

 同調査により、生活時間の全般的変化をより詳細に見ると、食事等の1次活動は微量ながら増加傾向にあり、週全体では1日10時間25分から10時間35分、比較的伸びの大きい土曜日では10時間22分から10時間43分に増加しています。仕事等の2次活動は労働時間の短縮及び週休2日制の普及に伴って、全体的に減少傾向であり、週全体では1日7時間48分から7時間13分、土曜日では7時間32分から6時間1分へと減少しています。自由時間である3次活動は増加傾向にあり、週全体では1日5時間47分から6時間12分、土曜日では特に増加しており、6時間7分から7時間16分になっています。

                         (単位:時間.分)

  年

  61年

  3年 

   8年

 1次活動

10.25

  10.25

 10.35

 2次活動

  7.48

   7.39

  8.27

 3次活動

  5.47

   5.56

  6.12

 3次活動の中では在宅型余暇活動の「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」が1日2時間18分から2時間33分へと拡大していて、8年では、3次活動の約41%を占めています。また、積極型余暇活動の「趣味・娯楽」が31分から36分、「スポーツ」が10分から13分へと増加しています。

次に家計支出の変化を見てみます。日本人の家計支出の構成比が、昭和62年から9年の10年間で、どのように変化しているのか。総務庁の「家計調査年報」では、教養娯楽や交通・通信に対する支出の占める割合が増加しています。

 家計支出に占める各項目の割合をよく見ると、構成比が増大しているのは、主に教養娯楽費(9.3%から10.3%)、交通・通信費(9.4%から10.5%)、住居費(5.0%から6.7%)、保健医療費(2.6%から3.3%)です。

さらに、昭和62年から9年について、教養娯楽費の内訳を見ると、テレビの占める割合が3.2%から2.0%へと減少しているのに対して、パソコン・ワープロが1.5%から3.0%へと増大している。同様に、交通・通信費については、通信機器が構成比自体は小さいが、0.48%から0.70%へと大きく拡大しています。                   (単位:%)

62

食料

     28.3

     27.0

     25.8

住居

      5.0

      5.5

      6.7

光熱・水道

      5.8

      5.5

      6.3

家具・家事用品

      4.5

      4.2

      3.9

被服及び履き物

      7.5

      7.4

      6.2

保健医療

      2.6

      2.8

      3.3

交通・通信

      9.4

      9.4

     10.5

教育

      4.3

      4.6

      4.6

教育娯楽

      9.3

     10.2

     10.3

その他

     23.2

     23.4

     22.4

                            [家計調査年報](総務庁)より作成

十二、仕事分野における情報通信メディア

 インターネットとは世界規模のコンピュータネットワークで、世界中のLAN等を共通のプロトコル(TCP/IP)で接続した「ネットワークのネットワーク」です。1969年に米国防総省が国防省と複数の大学のコンピュ−タとの間にネットワ−クを構築したARPAnet(ア−パネットと呼び、国防省の管轄下にあるAdvanced Research Projects Administration)が最初です。設立当初はカリフォルニア州に3台、ユタ州に1台のあわせて4台でした。1990年代に入り利用目的を限定しない商用インターネットが登場し、世界各国に広がったのです。特に1993年秋に開発された画像情報等も扱える「Mosaic」(モザイク)の普及をきっかけに爆発的にユ−ザ−が増え、1998年1月現在、全世界で約 2,967万台のホストコンピュータがインターネットに接続されていると予測されています。[Mosaic]は広く出回ったグラフィカルなWebブラウザの第1号です。いまではNetscape(ネットスケ−プ)やInternet Explorer (インタ−ネット エクズプロ−ラ)などさまざまなブラウザが登場しています。Netscape(正しくはNetscape Navigator)はMosaic を作成したのと同じグル−プに所属する何人かのメンバ−が作ったものです。彼らは、Mosaic を生んだイリノイ大学のNCSA(National Center for Supercomputing Applications)を去り、主にWebブラウザとWebサ−バ−の開発を行うNetscape Communications社を設立しました。

従来は、有線電話やオフトーク通信が、その同報性、速報性によって、地域コミュニティ内の情報共有化に寄与していました。近年、インターネットホームページや電子メールを活用し、情報提供やコミュニティ内の情報共有を行う新しいコミュニティが現れつつあります。一気に進んだ技術の使い道を開発できるのは私たちユ−ザ−自身なのです。

一時期、インタ−ネットが普及するとパソコン通信が廃るといわれました。ところが実際は逆でした。インタ−ネットの普及とともに、電子メ−ル等ネットワ−クコミュニケ−ションへの関心が高まったことから、パソコン通信は利用者数を急激に伸ばしたのです。これはアメリカでも同様であります。インタ−ネットとパソコン通信はそれぞれに一長一短があります。インタ−ネットは世界中に通信できるばかりか、画像等が扱えるのでホ−ムペ−ジが活用できます。一方、パソコン通信はある程度の管理がされているので、プライバシ−が守られ、メ−ル等が確実に届きます。また各種の同好フォ−ラムに参加しやすいように工夫されています。最近、これらが融合されるようになってきました。従来のパソ通の利用ができ、インタ−ネットプロバイダ−でもあり、さらに電子ショッピング等もできる融合サ−ビスのネットワ−クが展開されてきました。

 ここでは少し郵政省の「平成9年度通信利用動向調査(企業調査)」(9年10月、以下「動向調査(企業)」という)等に基づき見てみましょう。

 企業編におけるパソコン通信サービスの利用率は56.4%で、そのうち「全社的に利用」は6.1%とわずかであります。企業の属性別にみると、産業では「建設業」が72.3%(全社的には9.2%で一部利用は63.1%)で最も多く、従業者規模別にみると、大規模企業ほど利用率が高く、2,000人以上の企業では利用率が8割(81.3)を超えるが、全社的には9.4%に留まります。

       表:パソコン通信サ−ビスの利用状況       (単位:%)

 

全社的に利用

一部で利用

予定あり

未定

合計

      6.1

    50.3

    4.3

   39.3

産業別:建設業

      9.2

    63.1

    1.6

   26.1

産業別:サ-ビス業他

      9.8

    42.9

    4.7

   42.6

規模別:300-499

      4.3

    43.3

    5.9

   46.5

規模別:2000人以上

      9.4

    71.9

    1.5

   82.8

              「通信利用動向調査」(郵政省)より作成  

企業の属性別にみると、産業では「金融・保険業」が81.9%で最も多いのですが、全社的にはサ−ビス業や製造業の方が高いのです。従業者規模別ではやはり大規模企業ほど利用率が高く、2,000人以上の企業では9割(91.9)を超え、そのうち3分の1が全社的に利用しています。このようなちぐはぐな導入実績は情報通信の発達が異常な速度で進んでいて、当面必要な部署への機器等の整備を優先した結果でないかと思われます。

一方で、インターネットの利用率は68.2%で、7年は11.7%から8年は38.8%と大きく17.8ポイント増加しています。そのうち、「全社的に利用」 は14.2%と情報化が着々と進んでいます。

         表:インタ−ネットの利用状況の推移       (単位:%)

 

全社的に利用

一部で利用

予定あり

未定

平成7年

      2.1

     9.6

   19.4

   68.9

平成8年

      5.8

    44.7

   17.4

   32.1

平成9年

     14.2

    54.0

    7.9

   23.9

このような急激な普及の中にもインターネットの利用の点で不満があります。そのうちのトップは54.6%が「ウイルスの感染を心配」とあります。次いで「セキュリティに心配」が43.8%で、「情報検索に手間がかかる」が35.2%と続いています。その内容は従業者規模に関係なく、ウイルスの感染が心配と回答した企業が多いようです。「セキュリティに心配・ 情報検索に手間がかかる」は従業者規模が大きくなるほど不満が高く、「通信料金が高い」は従業者規模が小さくなるほど不満が高いようです。

情報共有化の道具である電子メールの利用率は62.7%で、前年調査と比較すると15.8ポイント増加しています。「自社内のみで利用」は 17.3(前年調査18.8)で、1.5ポイントの減少となっています。しかし、「社内外で利用している」は45.4(同 28.1)で、17.3ポイントの大幅な増加となっています。

         表:電子メ−ルの利用状況の推移       (単位:%)

 

自社内のみ利用

社内外で利用

利用予定あり

未定

平成7年

      14.0

    11.8

     23.9

   50.3

平成8年

      18.8

    28.1

     22.2

   30.9

平成9年

      17.3

    45.4

     15.1

   77.8

                           「通信利用動向調査」(郵政省)より作成

電子メールの採用システムは、「自社に設置したシステムを利用」が64.9%で多く、次いで「インタ−ネットを利用」が56.6%、「外部パソコン通信ネットワークを利用」が24.7%と続いています。前年調査と比較すると、「インターネットを利用している」以外はすべて減少しており、電子メールの採用システムにインターネットを採用する企業が増加しています。このことはインタ−ネットが身近になった原因でしょう。電子メール利用上の不満点は、「相手先に届いたかどうか不安」が34.5%で最も多く、次いで「送信された添付ファイルが使用できない」が33.5%、「相手先が電子メールを利用していない」が26.5%と続いています。これはパソコン通信とインタ−ネットの双方の弱点が指摘されていることになります。現在は多くの通信ソフトでこの問題点が改善されつつある。

関連して、VANサービスについて見てみます。VANサービスを利用している企業は43.3%で、そのうち「全社的に利用」が11.4%。企業属性別にみると、産業では「製造業」が55.9%、「卸売・小売業、飲食店」が52.2%と高く、従業者規模別では大規模企業ほど利用率が高いという調査結果です。

VAN(Value added network)は回線提供者から回線を借り高度な通信処理機能など付加価値を付けて販売するサ−ビスをいいます。日本では1982年10月に中小企業VANが認められ、1985年4月には電気通信事業法の施行によって自由化されました。1987年9月からはITU−T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)の勧告で規制されていた日米間での国際VAN事業も解禁になり、現在に至っています。

VANにおける付加価値は一般に「通信処理」です。

通信処理には

1、プロトコル変換

2、フォ−マット 

3、コ−ド変換 

4、メディア変換 

5、メ−ルボックス機能

などがあります。

このほか電話、テレックスを含めてあらゆる通信サ−ビスがどんな企業でも自由に提供可能です。そのために通信量や通信処理量の多いユ−ザ−企業自体がVANを申請するケ−スが相次ぎました。

 VAN本来の意味は、電話やテレックスといった通信そのもののサ−ビスは含まず、デ−タ通信機能における付加価値通信サ−ビスを指していましたが、現在は公共的な電話、デ−タ通信、ペ−ジャ(ポケットベル)通信、テレックスなどの通信サ−ビスを提供する業者を意味するコモン・キャリアとしての色彩が強くなりつつあります。インタ−ネット・サ−ビスもVANサ−ビスの一つと言えます。

企業におけるVANサービスの利用用途は、「受注発注システムに利用」が50.5%で多く、「EDIに利用」が36.0%で「外部デ−タベ−スへの接続」、「専用回線で広域内線電話網」、「LAN間の接続」と続いています。

EDI(electronic data interchange)とは電子デ−タ交換のことで、コンピュ−タ・ネットワ−クを介して電子的に、受発注、輸送、決済などのビジネス文書のやりとりをすることです。1980年代中盤以後、欧米を中心に情報ネットワ−クのインフラストラクチャ(社会・経済活動の維持・発展を支える基盤)の一つとして大きく注目されるようになってきました。

日本では電子発注システム(EOS)などの受発注デ−タの交換が多かったのですが、決済や物流情報まで適用範囲が広がりつつあります。1993年秋に花王とジャスコが販売、納品、決済などの取引を全面的にEDIに移行したのをはじめ、ワコ−ルなども取引先とEDIの導入を進めています。また、鉄鋼メ−カ−が商社、船会社と出荷、決済デ−タをEDIで交換しています。

EDIを利用するためにはプロトコル(言語)の標準化が必要です。米欧は1986年3月に国連の欧州経済委員会(UN/ECE)で標準化を強調して進めることに合意しました。その後、1988年4月にプロトコルの名称をUN/EDIFACTとすることを決議し、同7月にはISO9375としてシンタックス・ル−ルを登録、国際規格として公開しました。このシンタックス・ル−ルに基づいた標準メッセ−ジの開発が続けられています。

現状の日本では独自プロトコルを用いた業界VANや通産省が制定したCIIシンタックス・ル−ルのサブセットを用いる業界などが個別にEDI化を進めています。これらを調整するために「EDI推進協議会」があります。1997年には流通システムセンタ−がEDIFACTに準拠した流通業向け標準EDI「JEDICOS」を策定しています。

 EDI規約の構成は下記の通りです。

レベル

規約名

具体例

第4レベル

取引基本規約

EDI取引に関する基本的取り決め

一般的に個別取り決め

EDI取引規約書の形で決める野が一般的

第3レベル

業務運用規約

業務運用、システム運用の取り決め

一般的に個別取り取り決め

EIAJ運用ガイドなどの簡単なガイドラインもある

第2レベル

情報表現規約

ビジネス・プロトコルのこと

メッセ−ジ・フォ−マットの取り決め

チェ−ンストア協会フォ−マット、CII標準、ANSIX12、UN/EDIFACT

第1レベル

情報伝達規約

通信プロトコル(システム)の取り決め

J手順、全銀手順、F手順、H手順、TCP/CP

企業におけるEDIの利用状況を見てみると、EDIの利用率は38.0%で、前年調査と比較すると1.8ポイント減少しています。

企業属性別にみると、産業別では「製造業」が46.7%で最も多く、次いで「卸売・小売業、飲食店」 45.0%で、「運輸・通信業」、「金融・保険業」、「サ−ビス業」、「建設業」と続いています。従業者規模別では大規模企業ほど利用率が高く、2,000人以上の企業では60.5%ですが、300から499人の企業では29.0%に留まっています。

EDIとインターネットの関係では「コンピュータの種類が異なっても利用できる」が39.4%で最も多く、「通信コストが安い」が39.3%、「国際間での業務のやり取りが簡単にできる」が22.3%と言う理由からEDIをインタ−ネットで利用している企業は16.0%となっています。また、接続企業数  は1〜4社が37.1%で最も多く、20社未満で65.5%となり、50社未満の割合は約8割 (78.9)を超えています。

 情報表現規約EDI利用企業において、情報表現規約として最も多く利用されているのは、「全銀手順」61.5%であり、「JCA標準」41.2%、「EIAJ標準」19.2%と続いています。データ交換する業務は受注が61.0%と最も多く、発注が43.3%、出荷が37.6%、入出金、請求、納品と続いています。

 動向調査を参考に見てくると仕事分野における情報通信メディアはユ−ザ−自身が使いだしたらどんどん工夫するという世界で始まります。その方向性として、重要なポイントは3つあると思います。一つは、グル−プウエア+SOHOMO(スモ−ル・オフィス、ホ−ム・オフィス、モバイル・オフィス)。例えば、グル−プウエアのためのLAN(企業内統合通信網)を導入しているオフィスであれば、夜でも休日でも、家でちょっとした仕事をするとき、リモ−トアクセスということで会社のコンピュ−タ−にアクセスできます。時間的制約がない点でビジネスマンにとって必須のものになります。二つめのポイントは、インタ−ネットを通じたEDI(エレクトロニック・デ−タ・インタ−チェンジ)、つまり電子的なデ−タ交換です。企業間で、見積もり、受発注、請求などをコンピュ−タ同士の直接のデ−タ交換で行います。ある企業は電話やファックスでの受発注が4日かかっていたのが、半日ですむになり、8倍も速くなったのです。3つめのポイントはEC(エレクトリック・コマ−ス)、電子商取引です。一般的には企業間で電子決済することをいいますが、今挙げたSOHOMOも、EDIも電子商取引なのです。違いは電子マネ−が動いているかいないかです。

「動向調査」の企業編から通信ネットワ−クを見てみます。LAN(Local area network:構内ネットワ−ク)を構築している企業の割合は平成9年調査では一部での構築を含め75.2%となり、平成7年調査からの時系列で比較すると53.2%66.6%と年々増加しています。従業者規模別みると、大規模企業ほど構築率は高く、1,000人以上の企業では9割を超えるのですが、300499人規模では64.2%と3社に2社程度です。

         表:LANの構築状況の推移       (単位:%)

 

全社的に構築

一部で構築

構築予定あり

  未定

平成7年

     30.1

    23.1

   17.8

    29.0

平成8年

     35.3

    31.3

   13.1

    20.3

平成9年

     38.2

    37.0

   37.0

    83.3

        表:パソコン通信サ−ビスの利用状況       (単位:%)

 

全社的に構築

一部で構築

予定あり

未定

合計

  38.2

   37.0 

   8.0

   16.8

規模別:300-499

    25.1

   39.1

  11.2

   24.6

規模別:500-999

    43.3

   35.7

   6.4

   14.6

規模別:1000-1999

    52.4

   38.2

   4.3

    5.1

規模別:2000人以上

    63.2

   30.1

   3.9

    2.8

          「通信利用動向調査」(郵政省)より作成

イントラネット(Intranet:LANにインタ−ネットの技術を取り入れてWWWや電子メ−ルを利用して社内の文書等を共有する)を構築している企業の割合は21.4%(全社10.1%一部11.3%)で、8年調査から15.0ポイントと急増しています。従業者規模別にみると、大規模企業ほど構築率が高く、従業者規模が2,000人以上の企業で46.6%となっていて、具体的な構築予定ありを含めると71.1%となります。利用形態はどんどん発展して、LAN・イントラネットの構築企業での外出先等から携帯端末等を利用して、企業内通信網への接続状況は、LAN構築企業では24.0%、イントラネット構築企業では34.1%となります。今後の接続予定ある34.0%を含めると68.1%となり、モバイル時代がすぐそこに迫った状況がわかります。利用頻度の面からはLANやイントラネット接続端末の1台当たりの使用人数は、5人以上で使用が28.5%で最も多く、次いで2人で使用が22.1%、3人で使用が18.0%と続いています。1人で1台使用している割合を産業別にみると、サービス業、その他が28.3%で多く、次いで建設業が15.6%、製造業が15.3%と続いています。LANやイントラネット構築企業及び構築予定企業での構築目的は業務情報やデータの共有化が7割(77.6)を超えます。ついで電子メールサービスの実現が30.0%で、グループウェアやワークフローの実現が22.6%と続いています。急激な普及の裏では「運用・管理者の人材不足」が57.2%で多く、「セキュリティ対策の確立が難しい」が52.8%、「運用・管理、人材育成の費用が増大」が35.9%などと問題点も指摘されています。

エクストラネット(extra net:イントラネット構築企業でその対象を企業間にまで広げた)の利用割合は13.2%です。それでも、「具体的利用予定がある」企業は28.3%で将来的には41.5%の企業で利用が見込まれます。構造的には企業にまたがるだけに、セキュリティ技術やEDI(電子デ−タ交換)などの適用が不可欠になります。

エクストラネットとイントラネットの違いをまとめてみました。

 

エクストラネット

イントラネット

情報の扱い

企業間での情報共有とデ−タ交換

部門間(企業内)での情報共有

アプリケ−ションの扱い

企業間でアプリケ−ションを共有する新しいシステム

既存システムを補うまたは代替する

サポ−ト業務

企業から個人を横断する業務

企業単位から個人業務、企業の意志決定

付加技術

VPN(セキュリティ技術など)、EDIなど

グル−プウエアなど

トヨタ自動車はグル−プ企業約1000者を結ぶ「トヨタ情報ハイウエイ」を構築しています。日産自動車は、国内の部品メ−カ−約250社とエクストラネットで情報交換や受発注を始める計画で、三井物産は、国内外の連結対象会社約1200社との取引にエクストラネットを利用します。大阪ガス、関西電力、北陸電力なども、エクストラネットを構築中です。

このような情報通信技術の取り組みから企業は新しい雇用形態を生み出しているので、個々に見ていきます。

テレワーク

テレワークとは、通勤地獄、手狭な住環境、過疎・過密問題の現状から公共主導により、1970年代に出現した新しい労働形態です。「パソコン等の情報通信機器等を利用し、遠く離れたところ(tele)で仕事を行う(work)」ことをいいます。

英国のTCAのTHE TELEWORKING HANDBOOK によると、テレワ−クとは、「賃金や代金を支払う人から離れたところ、すなわち自宅や(セ−ルス等の)仕事先、あるいは地域に設置されたセンタ−等で働くことで、テレワ−カ−は、電子メ−ル、電話、ファクシミリ等を使って、雇い主や顧客と連絡をとる」と定義しており、広範な働き方を指しています。

一方、我が国の「テレワ−ク推進会議」では、「雇用労働者が業務上の上司から離れた場所(サテライトオフィス、自宅等)で情報通信を活用しつつ、終日(1労働日単位で)勤務することであって、企業内の制度にのっとって行われるもの(頻度に関しては、全労働日において行う場合から、週1日程度や月1回程度の不定期に行う場合まで含む)」と、対象を雇用者に限定した定義となっている。

ここでは、テレワークを行う場所に着目して、

@自宅等で行うものを「ホームオフィス」、

A企業の支社等で行うものを「テレコミュート」、

B外部で行うものを「モバイルワーク」

に分けて、それぞれについてみてみます。

 テレワークの現状は、高度情報化の進展や勤労者意識・企業の経営環境の変化等を背景に生まれた新たな労働形態であり、「テレワーク人口調査」(社団法人日本サテライトオフィス協会)によると、我が国では、80.9万人(テレコミュート人口のみ)(8年現在)が従事していると推計されています。

 テレワークに適した業務は、個人単位で行うことができる業務が中心です。簡単なのものは企画書や報告書の作成から洋服等のデザインや設計・翻訳などです。最近はパソコン等によるデータ入力や集計、調査研究があると考えられている。

将来像として、通勤しなくてもよい通勤レス社会が生まれ、高齢者・障害者の通勤負担が軽くなります。女性の就労を支援し、地方での新たな雇用の創出とオフィス・スペ−ス縮小による経費削減効果があります。郵政省は2000年への到達イメ−ジとしては上場企業の殆ど全てにおいてテレワ−クの導入が開始され、350万人のテレワ−カ−がいて、ソフト制作、翻訳、研究職では在宅勤務が一般的なものとなり始めている。2010年における展望ではあらゆる職種で、現在の業務をサテライト・オフィスや自宅、外出先でも行える環境が整備されていると描いています。

 

 ホームオフィス

 ホームオフィスは、労働に従事する者により、@自営業者が行う「SOHO」(Small Office Home Office)、A契約社員(期間限定の雇用契約を結んでいる者)などが行う「テレホームワーク」、B正社員が自宅で行う「テレコミュート」に分類されます。

 SOHOとは、Small Office Home Office の略語で、自営業者が、小さな貸し部屋や自宅で「独立して」事業を営むことです。

 

 テレコミュート

 テレコミュートの例として、郵政省が実施している試行があります。 

郵政省では、平成9年10月末から国家公務員として我が国では初めて、情報通信を活用して自宅又はその近辺のオフィスで勤務するテレワークを試行し、郵政事業におけるテレワークの有用性と課題の検証を行っているところです。試行開始から約半年経過してから、テレワークを行った職員に対するアンケート結果などを基に、下記のとおり試行状況を中間的に取りまとめましたら、次のようになります。テレワークセンター勤務は本省、郵政研究所、関東郵政局の合計285人が、立川市及び横浜市に設置したテレワークセンター(17ブ−ス)において交代でテレワークセンター勤務を実施し、在宅勤務は本省職員2名が、週1回程度の在宅勤務をしています。

テレワークセンター勤務の場合、業務能率の向上度合では「能率が向上した」と考える職員は75%で、平均の業務能率向上度合は23%でした。メリットとして、「業務に集中でき、仕事の能率が上がる」が47%、マイペースで仕事ができる」が34%とした反面で、「情報・資料が不足する」と考える職員は72%に上ります。その理由は持ち込める資料に限界があり、資料・情報等で電子化されていないものが多数あることやベースオフィスと同環境のソフトが一部不足していることであり、いずれ解消されるものです。

業務確保の状況においては、「当日予定していた業務ができた」と考える職員は90%です。テレワークの仕事の出来具合について、その上司の91%が「ベースオフィスと変わりなく業務処理ができている」と評価しています。上司の84%がベースオフィスの業務に支障がないと判断しています。反面で、自分がテレワークを行うことによって「同僚・部下に電話の取次、FAXの送信等の作業が発生した」とする職員が28%います。

勤務時間管理棟の状況については勤務の始終業、休憩時間の開始・終了などの勤務時間管理及び業務の進ちょく状況の報告は、電子メール、電話、テレビ会議システムにより行われています。

表:テレワ−クのメリット・デメリット

 

    メリット

    デメリット

社会 

◯交通混雑の削減

◯エネルギ−削減、大気汚染の改

 善により地球環境に貢献     

◯雇用拡大・失業対策

◯地域活性化・国土の均衡ある

 発展への寄与

◯社会構造・インフラ整備の見

 直し

企業

◯生産性の向上

◯優秀な人材の獲得・定着

◯社会的弱者の雇用

◯オフィスコストの削減

◯競争力の維持

早いサ−ビスと低いコスト

顧客ニ−ズに対応した素早い

事業展開

◯海外賃金格差・時差の活用

異なる地域・時差を利用した

ビジネス

◯オフィス分散化による災害時の 

 リスク回避

◯人事管理方法の変更

◯テレワ−カ−への動機づけ

◯孤独感や企業文化の喪失から

起こるダメ−ジ回避方策の検

労働者

◯仕事への満足度

◯通勤時間の削減

◯引越し後の雇用の継続

◯仕事と家事の両立

◯遠隔地での仕事の受注

◯障害者の就業

◯疎外感、孤独感

自己管理の必要、同僚から隔

離されるストレス

◯私生活の圧迫

仕事と家庭の混交、居住スペ

−スの圧迫

            各種資料より三和総合研究所作成     

肉体的・精神的疲労度合いの変化では、肉体的・精神的疲労度合とも約6割の職員が「軽減された」と感じています。その理由は・通勤時間の短縮された職員の平均往復短縮時間は73分であり、また通勤混雑度合も減少していてテレワークを行う日は、1人1日平均で約2時間30分早く帰宅できていることや電話対応の雑務が少なくマイペースで仕事ができることです。でも、39%の職員が「孤独感・疎外感」を感じています。

 余暇時間の活用では職員は、余暇時間を「家族だんらん(34%)」、「リラックス(29%)」、「趣味(18%)」などに活用し、家族との関係では、「家族と十分なコミュニケーションを持てる時間ができた(31%)」、「家族一緒の食事(29%)」、「家事・育児の援助(11%)」とプラスの変化があります。

在宅勤務もおおむね同様です。

 現在のところ、「通勤時間が短くなった」「時間外労働が減少した」「家族と一緒に食事ができる」などがテレワークのメリットとして挙げられており、肉体的・精神的な疲労の軽減についても効果があると好評です。

 郵政省では、このテレワーク試行を11年3月まで実施して、業務能率向上の度合い、勤務時間管理や服務管理の状況についても検証を行うこととしています。

 モバイルワーク

得意先、外出先やふだんとは別のオフィス、自宅からネットワ−クを通じて、自分のオフィスの情報システムを利用することをモバイル・コンピュ−ティングあるいはリモ−ト・コンピュ−ティングといいます。

データ通信に適したデジタル移動体通信網の整備、ISDN公衆電話の増加などの通信基盤の充実を受け、モバイルワークが急増しています。また、移動体通信では、9年の春からPHS事業者が32kbpsのデータ通信サービスを開始しました。今後は、携帯電話でも大容量のデータが送れるCDMA(符号分割多元接続)技術による高速データ通信サービス(64kbps)が、開始される予定です。モバイルワークの環境は、ますます整備されつつあります。

このような利用形態は、いまだに実験段階あるいは研究段階であります。デ−タベ−ス白書によると1996年10月時点で「導入済み」と回答した企業・団体は6.6%、97年10月でも18.5%にすぎません。普及が進まないのは、技術的な問題があるというよりも、モバイル/リモ−ト・コンピュ−ティングの効果を企業がまだ見極めていないからだと思われます。

モバイルワークに適するのは、労働の場所・時間が固定的でない営業等の職種です。こうした職種では、いつでもどこでも、音声、データなどによって会社との連絡可能な携帯電話・携帯端末などへの強い願望があると思われます。

  今後、モバイルワークが企業に根付いていくためには、ハード面では、連続稼働時間が問題となります。バッテリー容量が小さいために携帯用のミニノートの連続稼働時間は、2、3時間に限定されています。かなりの重量のある予備バッテリーを常に持ち歩かねばならないため、モバイルワーカーの負担が大きくなります。

 また、ソフト面では、情報の電子化や職場で発生する各種情報の共有化システムの構築が必要となります。

このように見てくると、SOHO関連の技術とモバイル関連の技術が雇用形態を変えることは確実です。すなわちパソコンの低価格・高機能化はもちろんインタ−ネットの普及と家庭向け通信回線の大容量化が進みます。家に居ながらでも、また、近所の小さいオフィスからでも、会社の仕事が出来たり、あるいは世界を相手に仕事が出来るのです。それがSOHOです。また、携帯情報端末の進歩と移動通信の高速化によって、どこにいても仕事が出来、移動時間を有効に使えるのです。これが、モバイル・コンピュ−ティングです。企業内教育もWBT(Web Based Training)になり、ネットワ−クを使って、自宅や出先で受けることになります。雇用形態も当然変わり、オフィスに所属しないテレワ−カ−が増え、独立した個人事業者が雇用契約でなく委託契約のもとに働く機会も増えるでしょう。主婦、高齢者、障害者の就業機会も増え、意欲を持ちながら機会に恵まれなかった人材が活躍できるようになるといわれています。

 

 

 

 

図:テレワ−クシステム概念図

 

 

 

 

 


    サテライトオフィス            ホ−ムオフィス 

 

 

 

 

 

 

 

 


               ベ−スオフィス

 

 

 

 


                          ビジネスセンタ−

                           

   モバイルオフィス                   

 

  資料)労務行政研究所「労政時報第3328号」199711月  

 

 

 

表 テレワ−クのアイデア

・翻訳、編集、校正

・テ−プ起こし、口述筆記、書類

作成

・簿記、会計サ−ビス

・コンピュ−タ・プログラミング、

 ソフト・サポ−ト

・会議事務局サ−ビス

・デ−タ変換

・コ−ルセンタ−

 テレマ−ケティング

・ホテルやレンタカ−などの予約

・コンピュ−タの技術サポ−トセン

 タ−

・電話による輸入商品の販売、

 海外への販売

・消費者相談センタ−

・マ−ケット・リサ−チ

・デ−タ加工・管理

・要約

・保険点数計算

・銀行取引管理

・財務分析

・会員の管理

・健康診断証明書・税務処理

・在庫管理

・器材レンタルサ−ビス

 レンタル管理

・作物出荷管理

・ファクシミリ、コピ−サ−ビス

・企業情報提供

・予約代行、旅行情報、一般情報提

供・インタ−ネット・ベ−スド・

サ−ビス

・地元企業の取引情報提供

・オフィス・サ−ビス(電話受付・

 事務室、会議室等)

・出版、マルチメディア・デザイン

・サテライト・オフィス

・スキャナ−

・人材登録

・テレショピング・サ−ビス

・トレ−ニング(IT教育等)

・翻訳

・デスク・トップ・パブリッシング

・ホ−ムペ−ジ作成、開設

資料)TCA THE TELEWORKING HANDOOOK 1998

 

 

 

 

 

十三、 趣味・娯楽の情報通信メディア

生活時間の変化

NHK放送文化研究所の「生活時間の時系列変化」によると、人間の行動を、睡眠や食事の「生活必需行動」、仕事や学校、家事等の「社会生活行動」、レジャーやテレビ視聴等の「自由時間行動」の三つのタイプに分けた場合、自由時間行動に費やす時間は一貫して増加傾向にあります。

図 曜日別に見た1日の時間配分(国民全体・全員平均時間)

 

     必需時間     拘束時間      自由時間

平日   10時間09分   8.58     4.29

 

土曜日  10.32     6.55     6.07

 

日曜日  11.04     5.21     7.06

 

週    10.20     8.10     5.05

 

図を見ても分かるように、常識的には1日の時間配分の鍵を握っているのは、拘束時間の長さではないかと見られています。

図 1日の時間配分の変化(全員平均時間)

     必需時間     拘束時間      自由時間

平日

1970年 10時間34分   9.42     3.36

平日

1995 10.20     9.02     4.23

 

この時期には大きな経済変化がありました。1970年から1975年の間にはオイル・ショックがあり、1990年から1995年の間にはバブルの崩壊です。このことが国民の勤労意欲に大きな影響を与えました。平日はもとより土曜日と日曜日の仕事時間の現象に結びついているのです。1980年代からの週休2日制の実施や1992年からは学校週5日制も開始されました。土曜の学業時間の減少傾向にあります。

 晩婚化や少子化などの社会環境の変化により、家事時間も減少の一途をたどっています。

     必需時間     拘束時間      自由時間

土曜日

1970年 10時間33分    9.09     4.08

土曜日

1995 10.48     6.47     5.57

日曜

1970年 11.17     6.38     5.49

日曜

1995 11.21     5.13     6.56

 

 総理府の「国民生活に関する世論調査」(平成9年5月調査)によると、生活の様々な分野の中で、「今後、生活の、どのような面に力を入れたいか」と聞いたところ、「レジャー・余暇生活」に力を入れたいとする者が、36.2%と高い割合を占めています。

また、「レジャー白書'97」によると、7年調査と比較して、8年調査で参加人口が大きく伸びたレジャーは、外食、国内旅行、ドライブ、園芸・庭いじり、テレビゲームであり、逆に大きく減ったのは映画、海水浴でありました。現在の傾向として、キャンプなどの野外活動に対する関心の高まりと、テレビゲームやパソコンなど電子メディアを用いた娯楽の増加が特徴的です。

平成9年のレジャ−業界においては、「協業化」「複合化」「情報化」「交流化」という”アライアンス(連携)、ネットワ−ク化”の動きが顕著に見られます。

(1)   協業化

第1は、同業種のアライアンスとしての協業化です。

旅館・ホテル業界や会員制リゾ−トクラブ業界では、他の同業施設と提携したり、相互利用できる制度を導入しています。遊園地やテ−マパ−クの業界では共通チケットを発売したり、協議会を組織したり、する動きがあります。競馬の業界でも、中央競馬と地方競馬で相互馬券発売や交流レ−スをしたり、首都圏の地方競馬場では相互に場外発売をしたり、共同で電話投票システムを導入したりと、協業化を進めています。

(2)   複合化

 第2は、異業種の提携・協力としての複合化の動きがあります。

 大規模商業施設に、ホテル、劇場映画館、ゲ−ムセンタ−、ボウリング場、レストラン、カラオケル−ムなどを複合化したまちづくりが活発に進められています。スキ−のリフト券と交通費、ホテル、昼食、プ−ル利用等を組み合わせたパック商品がコンビニで販売され、利用が定着しています。

(3)   情報化

第3は、業界と顧客を直接ネットワ−クするという意味での情報化が進んでいます。

インタ−ネットやコンビニエンス・ストアによる情報提供や予約システムの導入は、旅館・ホテル、旅行業、鑑賞レジャ−チケットをはじめ多くのレジャ−業界に広がっています。競輪の専用チャンネルがCSデジタル放送で視聴可能となり、電話投票の売上が急増しています。

(4)   交流化

第4は、顧客同士の交流・コミュニケ−ションを促進するネットワ−ク化です。

携帯ゲ−ム・ポケモンは、集めたキャラクタ−を友達と交換できる点が受けて、またプリント倶楽部は、写真シ−ルを仲間内と交換し収集できることが人気を呼んで、大ブ−ムとなりました。カルチャ−センタ−では、講師も受講者も運営者も住民という住民主導の講座運営が一部で見られました。インタ−ネットゲ−ムは、遠隔地の見知らぬプレイヤ−と同時に楽しめることで注目され、発売時には長蛇の列が出来ました。

 

放送番組の中の多様化

 NHK放送文化研究所の「生活時間の時系列変化」によると、自由時間のうちテレビ視聴時間が大きな割合を占めています。テレビ視聴が余暇時間の過ごし方として非常に大きな存在となっています。

 一方、放送番組の中での娯楽番組の位置づけを見てみると、日本民間放送連盟の「番組統計」によると、娯楽分野の放送番組は、一貫して40%前後と放送番組中で高い割合を占めている。

テレビ放送は、従来は地上波放送だけでしたが、CATV(ケーブルテレビ)、BS放送、さらにはCS放送の普及により、視聴可能なテレビ放送チャンネルは、百チャンネルを超え、視聴の選択の幅が増大しています。また、チャンネルの多様化により、従来はなかったスポーツ、映画、音楽等の趣味・娯楽などの専門チャンネルが出現して、より選択の幅が広がりました。

 

多チャンネル化の進展

地上放送を中心とする放送には、視聴可能なチャンネル数には限りが  あります。CATVや衛星放送により多チャンネル化が進展してきましたが、衛星デジタル多チャンネル放送はチャンネル数を飛躍的に増大させることとなります。放送の多チャンネル化は、デジタル化と国際化という世界的潮流によって、CATVや衛星放送を中心に、今後も一層進展していくことが想定されます。

 

多チャンネル化の意義

多チャンネル化の意義は視聴者の立場から見た場合は、多様な分野・内容の番組により、視聴者の色々な嗜好を充足させることです。一方、放送の送り手の立場から見た場合は、放送の送り手が多様化し、より多くの国民が放送による表現活動を行うことを可能とすることです。そして、社会全体として見た場合は、多様な情報の提供により、国民の社会的活動における行動選択等を適切に行うことを可能とすることでしょう。

多チャンネル化の問題点

多チャンネルの問題点は番組の幅が広がる中で、質の低い番組も増加するおそれがあります。放送の経験がない分野の者が送り手となると、番組の編集責任に対する認識が希薄化し、他人の権利を侵害する放送が増加するおそれがあります。また、情報の飛躍的増加や有料放送の増加の中で、視聴者の情報選択能力や経済力の差が、新たな情報格差をもたらします。番組の専門化・細分化により、社会において欠かせない情報の共有が希薄化します。

ケ−ブルテレビ(CATV:cable television)とは有線テレビジョン放送施設のことです。本来は共同受信アンテナ・テレビジョンの意味で、難視聴地域の補償施設や農村での共聴施設として、地上波の再送信という役目で登場しました。

現在では多チャンネル放送が出来る都市型CATVが次世代インフラとして注目を集めていることからケ−ブルテレビの略として読み替えていることが多いようです。

      表:CATVの加入世帯数

 

1996年度

 

1997年度

自主放送を行うもの

 

   5,000,579

(39.6%)  <37.5%>

      6,719,744

(46.4%)  <34.4%>

再送信のみを行う

共聴施設

     7,628,859

(60.4%)  <3.6%>

      7,762,563

(53.6%)  <1.8%>

 合計

  12,629,438

(100%)  <14.8%>

    14,428,307

(100%)  <14.7%>    

(出所)郵政省「ケ−ブルテレビの現状」1998年4月,11月より

 注:表中の(   )は構成比 <   >は対前年増加率

CATVの加入世帯数が2年連続で対前年増加率が30%を超えるという急激な伸びを示した原因は新規開局、エリア拡張が進んだこととインタ−ネット接続サ−ビスなどにより、ユ−ザ−が魅力を感じたことが考えられます。また、CSディジタル放送の普及にともない、多チャンネル放送が一般化してきたこともあります。

1994年以降、CATVによるインタ−ネット接続や電話サ−ビス、PHSの実験、VOD(ビデオ・オン・デマンド)、遠隔検針、遠隔教育、遠隔医療など新たなサ−ビスの事業化が検討されています。実際に、CATV電話、インタ−ネット接続サ−ビスが提供されたり、テレビを使った遠隔授業などのアプリケ−ションが運用されています。このようにCATVはマルチメディア時代の主要なインフラと期待されています。

 

衛星放送(direct broadcasting by satellite)とは静止衛星を利用したテレビジョンやラジオの放送です。地上の放送中継局からいったん衛生に向けて電波を送り、衛星から再び地球に向けて電波を送り返します。その電波を各家庭に取り付けた受信アンテナで受けます。日本では放送衛星(BS:broadcasting satellite)を利用した「放送」に限っていましたが、92年からは通信衛星(CS:communication satellite)を利用した衛星放送も始まりました。

 

 地上放送のデジタル化の意義

デジタル技術の特徴を活かした放送システムの実現により、国民各層に次のようなメリット・意義をもたらします。

視聴者にとってのメリット

1、高品質な映像・音声サービスの享受

2、チャンネルの多様化の実現

3、テレビ視聴の高度化が可能 

4、高齢者・障害者にやさしいサービスの充実

5、安定した移動受信サービスが可能 

放送事業者にとってのメリット

1、多彩な放送サービスの提供によるビジネスチャンスの拡大

2、番組制作の多様化・効率化の実現

3、省エネルギー化の実現

4、放送番組ソフトのマルチユース化への寄与       

5、視聴者との一体化 

機器製造業者・放送番組ソフト制作業者にとってのメリット

1、デジタル受信機市場の拡大

2、LSI、液晶、プラズマディスプレイ

3、放送番組制作需要の増大

4、放送番組の国際市場進出機会拡大等新デバイスの需要拡大

 

          ワイドな画面ではっきりくっきり

            (高画質・高音質)

            チャンネル数は3倍に

 

 


  高齢者・障害者に     地上放送の        番組制作の

  優しさ−ビス       デシタル化        効率化

 

 


          地域番組の発信による地域の振興

                   出所:郵政省HP

 社会的意義                               

1、視聴者主権を確立し、新たな放送文化の創造に貢献

     受動的な視聴スタイルから視聴者自らが番組・情報を選択する

     能動的な視聴スタイルの時代が到来。

2、経済構造改革に貢献 

    新産業の創出や雇用の拡大を実現。国際競争力を維持・強化。       

 3、国際的な相互理解と相互信頼の増進に貢献

    放送番組の国際的な交換・流通が容易。

4、高度情報通信社会におけるトータルデジタルネットワークの完成

   通信とのシームレスなトータルデジタルネットワークが実現する

   ことによる多彩なサービス。

5、電波の有効利用の促進に貢献

 

デジタル化による放送革命

 

 


1、地上放送

  2000年以前にデジタル

  放送が開始できるよう         1、マスメディア集中排除

  制度整備等を進める            原則のあり方の検討

2、CATV               2、柔軟な免許制度の検討

  1997年度中にデジタル         3、ハ−ド・ソフト分離

  CATV放送を開始            の検討

3、衛星放送                         等

 ・CS放送:今後チャンネル

       拡大

 ・BS放送:2000年頃放送開始予

       定のBS−4後発機

       によりデジタル放送

       を開始       出所:情報通信21世紀ビジョン

 

このような観点から、アナログからデジタル化への転換が図られています。

 

情報通信メディアの利用実態

 趣味・娯楽分野におけるCS放送とケーブルテレビの利用者属性を見ると、CS放送では30代、40代の年齢層や男性の割合が高く、ケーブルテレビでは50代、60代の年齢層や女性、特に主婦の割合が高くなっています。

 実際の視聴状況については、CS放送視聴者の64.4%、ケーブルテレビ視聴者の83.8%が、視聴可能なチャンネル数は11チャンネル以上あるとしています。

 一方、視聴頻度については、CS放送とケーブルテレビともよく利用している人は6割弱で、ときどき利用している人は約3割と、合わせて約9割の人が視聴しています。

また、NHK放送、衛星放送及びケーブルテレビの1か月の料金の支払額の平均は7年が1,551円、8年が1,669円、9年が2,233円と初めて2,000

円を超えました(「動向調査(世帯)」)。

 2010年における通信料金水準(情報通信21世紀ビジョンより)

<現在>                <2010年>

通信サ−ビスの            20Mbpsの回線

世帯平均支出額             7,800円程度/月

 約7,400円/月

(移動通信料金を除く)         (国内均一定額料金)

 

これらの結果から判断すると、従来総合編成されていた放送と異なり、専門チャンネルを各自の趣向に合わせて選択するスタイルが出現しています。また、テレビの視聴スタイルとしては、従来の受動的な視聴に加えて、比較的能動的な視聴が増加してくると考えられます。

 CS放送とケーブルテレビについて、「自分の趣味に合う番組の視聴」に関しての期待と効果について見ると、「期待し、その効果があった」又は「期待しなかったが、効果があった」はそれぞれ高い割合を占めています。番組の内容については、趣味・娯楽の充実を図るという目的に合致し、満足している人の多いことが分かります。

また、視聴分野では、CS放送、ケーブルテレビとも趣味・娯楽分野が多いです。ケーブルテレビでは、ニュースや天気予報といった地域と密接に関係のある番組がよく視聴されています。

今後求めるサービスはケーブルテレビは光ファイバの導入による大容量・高品質化や、通信サービスの提供などにより地域の総合的な情報通信インフラとしての発展が期待され、利用者サービスの向上が期待されています。新サービスの利用意向については、「ビデオ・オン・デマンド」が62.9%、「インターネット接続サービス」が36.4%、「電話サービス」が13.6%となっています。

 

 インターネット、パソコン通信の利用実態

 趣味・娯楽分野におけるインターネットとパソコン通信の利用者属性は他のメディアと比較して、操作手続きが複雑なために女性が少なく、60歳以上の利用者では極端に少なくなっています。

 インターネットを利用している場所は「自宅」が77.3%と、大半を占めています。また、インターネットの利用頻度は「毎日」が35.6%、「1週間に数回」が46.3%となっており、よく利用されていることが分かります。テレホ−ダイのように電話料金が夜間の一定時間は一定金額で利用できる制度があるために利用時間帯では「23時〜8時」の深夜の利用が4割占めています。

 インターネットで提供されている情報は多岐の及びますが、そのうちでユーザーの接触率が高い分野は、「趣味・娯楽」、「ニュース」、「企業」であります。インターネットは趣味・娯楽分野から急速に浸透してきています。

 「趣味・娯楽」に関して効果があったかどうかについては、インターネットで63.0%が、パソコン通信で63.2%が効果があったとして、概ね満足しているようです。

その反面で

・映像が送られてくるのが遅い
・利用料金が高い
・代金支払の時にクレジットカード番号を送信するのが不安
・プライバシーの侵害やいやがらせが不安
など利用環境やセキュリティプライバシー保護に問題があるとしています。

 一般個人ユーザーの中にもホームページを作成している人が増えていますが、「生活調査」によると、現在公開中又は過去にホームページを作成したことのあるユーザーは40.6%、今後作成したいと考えているユーザーは36.3%にのぼっています。多くのユ−ザ−はインタ−ネットの基本機能である情報発信を望んでいることになります。このことを受けて、色々なプロバイダ−が簡単にホ−ムペ−ジにアクセスした状態でホ−ムペ−ジが作成できるサ−ビスを提供しています。例えばniftyなら、「さくさく君」とか、「さくさく兄貴君」です。

しかし、ホームページを公開する上で気がかりなことは、

・自分の名前や住所などを勝手に使われる
・電子メールなどで嫌がらせを受ける
・ページの更新に手間がかかる
となっています。、ペ−ジの更新に手間がかかるに対してはFTPソフトなどが日々改善されてきているので、問題は解消されつつありますが、ないのですが、プライバシー保護の問題は大きな問題です。

 今後の利用意向については、65.0%が「非常におもしろくこれからも続けたい」としており、今後も様々な分野で普及・活用されることが予想されます。

このように、CS放送、ケーブルテレビでは、コンテント不足や料金などの課題があり、インターネットではセキュリティ・プライバシー保護、通信料金及び伝送速度などの課題があります。ハ−ド面での改善は日進月歩ですが、コンテンツ面では特効薬がないようです。

十四、消費(ショピング)

  国民生活の多様化は、消費者の消費形態にも変革を及ぼしています。

  通信販売は、女性利用者が市場拡大の中心となっています。また、インターネットを利用した通信販売の形態であるインターネットショッピングは、端末と回線があれば、いつでも、どこからでも商品やサービスを購入できるので、女性だけでなく広く国民生活の中に浸透していくでしょう。

EC(Electronic Commerce

EC(エレクトリック・コマ−ス)が急激な普及を続けています。自宅にいながら買い物が出来るのです。インタ−ネットのオンラインショピングが代表的です。電子商取引と訳します。本来はネットワ−ク上での電子化された商取引を指す言葉ですが、インタ−ネットの一般家庭への急激な普及のために、インタ−ネット上でのオンラインショピングを指すことが多くなりました。

消費者がインタ−ネット上のバ−チャルショップ中の気に入った品物をホ−ムペ−ジ上や電子メ−ルで注文することにより、商品が発送されます。他のどんなメディアよりも簡単にスピ−ディに注文が出来ます。代金の支払方法は「クレジットカ−ド」、「銀行振込」、「代金引替」などがあります。

オンラインショピングの概要

 実社会での  EC環境   商取引の   構築者    運営者

 呼称     での呼称   責任者

 商店街           モ−ル  モ−ル      モ−ル

 デパ−ト    モ−ル   運営者  構築者 (広義) 運用者

 市場                         

 店舗                          ショップ

 営業所     ショップ  出店者   コンテンツ   運用者

(サ−ビス)等              プロバイダ

 商品     コンテンツ    −   (狭義)   

(含サ−ビス) 

 

語句

定義

コンテンツ

実社会における商品やサービスを電子的に表現したもの。

ショップ

実社会における店舗や営業所を電子的に表現したもので、コンテンツを集合的に取り扱う場所。

モール

実社会における商店街、デパート、市場を電子的に表現したもの。ショップの集合体。

出店者

ショップの商取引上の責任者*

モール運営者

モールの商取引上の責任者*

コンテンツプロバイダ

(広義)出店者やモール運営者の依頼を受けて、ショップ、モール、コンテンツを構築する者。出店者やモール運営者自身であることもある。

(狭義)出店者の依頼を受けて、ショップやコンテンツを電子的に構築する者。出店者自身であることもある。

モール構築者

モール運営者の依頼を受けて、モールを構築する者。モール運営者自身であることもある。また、広義のコンテンツプロバイダと言うこともある。

ショップ運用者

出店者の依頼を受けて、ショップを稼動させる運用責任者。出店者自身やコンテンツプロバイダ自身であることもある。

モール運用者

モール運営者の依頼を受けて、モールを稼動させる運用責任者*

モール運営者自身、コンテンツプロバイダ自身、モール構築者自身であることもある。

   出所:電子商取引実証推進協議会ホ−ムペ−ジより

 

 電子マネ−

 電子マネ−とは現実に流通している貨幣価値に裏付けられた電子的な価値情報であって、支払手段として利用できるものをいいます。

広義の「電子現金」を「決済の電子化」「貨幣価値の電子化」と定義し、これらに該当する「VISAキャッシュ」、「ス−パ−キャッシュ」「インタ−ネットキャッシュ」「デビットカ−ド」サ−ビスについて見てみます。

表:主な電子現金実験

グル−プ名

 ビザ

ビザ

JCB

プロジェクト名

スマ-トコマ-スジャパン

渋谷スマ-トカ-ドソサエティ

エレクトロニックマ-ケットプレ-

ICカ−ド名

 VISAキャッシュ

VISAキャッシュ

JCBスマ-トキャッシュ

場所

  神戸

  渋谷

三鷹

利用者数

  3万

  13万

  5,224

実験期間

1997/10-1998/10

1998/7-1999/10

1997/4-1998/2

 

グル−プ名

 郵政省 

-バ-ビジネス協議会 

 NTT

プロジェクト名

    −

   −

-パ-キャッシュ共同実験

ICカ−ド名

郵貯ICカ−ド

インタ-ネットキャッシュ

-パ-キャッシュ

場所

  大宮

 ネットワ−ク上

新宿

ネットワ-ク上

利用者数

7万から10万

Step1: 1,000

Step2: 1万

  10万

実験期間

1998/2-1999/3

1998/9-1999/3

1999/4-2000/5

  出所:日経流通新聞(1998/9/15)に鰹報通信総合研究所が加筆

「VISAキャッシュ」とは、カ−ドに搭載されたICチップに、事前にお金の価値デ−タをロ−ドし、買い物の際に金額分をそこから引き落とすことによって支払いを済ませる方法で、いわば汎用型のプリペイドカ−ドです。

「ス−パ−キャッシュ」は、NTTの開発した電子現金を採用し、都銀・地銀・代に地銀・長信銀・信託24行とNTTが推進しています。

小田急百貨店、高島屋、エ−エム・ピ−エム、ファミリ−マ−ト、紀ノ国屋書店などの現実の店舗での「リアル実験」とG−Square、BIGLOBEなどのインタ−ネット上の店舗での「バ−チャル実験」が行われます。

表:デビットカ−ドの運用

企業・団体名

日本デビット

カ−ド協議会

きょうと情報

カ−ドシステム

シティバンク

運用地域

全国

京都

海外

1999/1〜国内も

運用開始時期

1999/1

1998/9/1

1998/8/10

利用できる

キャッシュカ-ド

郵貯ほか918

行庫(調整中)

京都銀行、京都中央信用金庫、京都信用金庫、京都みやこ信用金庫

シティカ−ド

加盟者、加盟店

100社(調整中)

10商店街、2業種組合の600

世界約170万店

出所:日経流通新聞(1998/9/15)に鰹報通信総合研究所が加筆

 

デビットカ−ドは、金融機関のキャッシュカ−ドに小売店店頭での支払機能を持たせたキャッシュレスショピングを提供するサ−ビスです。クレジットカ−ドとは違い、与信機能を持たないが、新たに特別なカ−ドを発行する必要がない点が大きなメリットとなっています。利用店頭の端末にカ−ドを読み込ませて、口座の暗証番号を入力すると、ユ−ザ−の銀行口座残高を調べて代金を小売店の口座へ移動します。

電子現金が普及するための3条件

電子現金が普及するためには第一に、生活上の利便性向上、メリットがあることです。第2は小売業者が納得できる手数料かどうかです。デビットカ−ドの加盟店手数料は売上高の1%程度と想定されています。セブン・イレブン・ジャパンとイト−ヨ−カ堂は導入すると報道されています。第3は利用環境の充実です。消費者が日常生活の中で電子現金を利用するためには24時間いつでも使えることが最低条件となります。

 

日米電子商取引規模

通産省とアンダ−センコンサルティングは、共同で平成10年11月から11年3月にかけて、米国と対比した日本の電子商取引の市場規模に関する調査を実施しました。2003年までの今後5年間の予測を行っています。

ここでの電子商取引とは「商取引(=経済主体間での財の商業的移転に関わる、受発注者間の物品、サ−ビス、情報、金銭の交換)を、インタ−ネット技術を利用し電子的媒体を通して行うこと」とします。

         日米電子商取引規模比較

 

 

    日本

    米国

 

1998年

2003年

1998年

2003年

B−C

企業−消費者間

650億円

(0.02%)

.16兆円

(1%)

.25兆円

(0.4%)

21.3兆円

(3.2%)

 

B−B

企業−企業

.62兆円

(1.5%)

68.4兆円

(11.2%)

19.5兆円

(2.5%)

165.3兆円

(19.1%)

 注:1ドル=120円で換算します。( )は電子商取引化率

 現在の日本における企業−消費者間(B to C)電子商取引市場規模は約650億円程度と見られている。商品・サ−ビスセグメント別は、PC(パソコン)およびその関連製品が250億円(電子商取引立化率1.77%)と突出しています。以下、旅行が80億円、衣類・アクセサリ−が73億円、書籍・CD、趣味・雑貨・家具と続きます。

企業−消費者間(B to C)の電子商取引市場は、今後5年間で650億円の50倍の3兆1600億円にまで増加すると見込まれています。全家計消費支出に占める電子商取引支出の割合(電子商取引化率)も0.02%から1%近くまで増加すると予測されています。

2003年の電子商取引市場規模(3兆1600億円)の内訳を見ると、旅行の市場規模が9100億円となり、自動車の4900億円、PCの3700億円と続きます。

米国との比較では、現状では日本は金額で約35分の1、年数ではおよそ4〜5年程度遅れています。2003年にはこの差はやや詰まり、それぞれ7分の1、3年強の遅れとなります。

B to Cの電子商取引の成長期への移行は、、米国では1998年〜1999年、日本においては2001年以降と見られます。従って、それまでにインフラやコンテンツを整備しておく必要があります。これを怠れば、B to C市場は失速する恐れも十分あります。

米国のインタ−ネットでのサ−バ−ビジネスでは、売上高の急増や株価上昇など新ビジネスのサクセススト−リ−は数えきれません。

インタ−ネットでの書籍販売のベンチャ−ビジネスである amazon.com

(アマゾン.コム)は、売上が、1997年の1億4790万ドルから1998年は6億1000万ドルへと4倍以上に拡大しています。米国でのB to  Cの電子商取引を成功に導く最大の要因は、サ−バ−・ショップのマ−ケティング力にあるようです。

図:B to C ECの成功分野

B to C EC

一、 商品販売(有形)

  1、オンラインショップ販売−書籍(amazon.com)CD(CD-now)

                ギフト(1-1800-Flowers)

    2、代理店販売−自動車(Auto-by-tel) 不動産(Home Adviser)

    3、新たな販売形態−オ−クションン(Onsale)会費制モ−ル(Netmarket)

            個人売買オ−クション(e-bay)

二、 情報及びサ−ビスの販売(無形)

  1、サ−ビス提供−予約販売(Travelocity)金融関連(e-trade)

    2、情報提供−時事ニュ−ス(Wall Street Journal)

,    3、ディジタルコンテンツ販売−ソフトウエア(Cyberian Outpost)

                                  音楽(Music Boule vard)

     出所:情報通信アウトルック’99より

 インターネットショッピングで購入したい商品はいずれの調査においても、「航空・鉄道乗車券」、「ホテルの予約」及び「コンサート・演劇等のチケット」等の予約系サービスへの利用が高くなっています。

  インターネットショッピングが、今後普及していくためには、一般消費者では「パソコンやインターネット等の操作能力」「パソコンの価格の低廉化」導入入り口の問題ですが、既に利用している者では「信頼できる決済手段」や「プライバシー保護」を挙げる割合が高いです。また、両者とも「通信料金の低廉化」を挙げています。

  インターネットショッピングの安全性、信頼性に対して、利用者は問題にしていますが、事業者側では、このことを十分に認識していないといえます。

  インターネットショッピングは、女性層の利用意向が高いこととあいまって、今後着実に拡大を続けています。消費者にとって場所や時間に関する制約が解消され、安価な商品の購入が可能になるなど、利用者に大きなメリットをもたらすものと期待されています。

今後、インターネットショッピングが普及していくために、まず必要となるのはパソコンやインターネットの操作能力(情報リテラシ−)の向上であります。さらに決済手段の信頼性の確保、プライバシー保護などの、利用のための環境整備が求められています。

 

高度情報通信社会の構築に向けた「分野別のアプリケ−ションの2000年までの到達イメ−ジと2010年における将来展望」が郵政省より発表されています。生活分野は以下の通りです。

消費

 

○ [典型アプリケーション] オンライン・ショッピング

 [現状] ライフスタイルの変化により、買い物タイムの24時間化の中、先端的な企業が事業化ノウハウ蓄積のために、実験的にオンライン・ショッピングを実施(しかしながら、品数が限定、静止画中心)

[将来像] 思い立った時、自宅で気軽にショッピング(従来のカタログ販売と同様に、画面を見て楽しみながらショッピングが行えるようにする)/外国からでも容易にショッピング

[構築に必要なアプリケーションインフラ]

 認証、どこでも利用できるサービス

 

 

 

[2000年までの到達イメージ]

  通常の販売形態(店舗販売、電話・郵便による通信販売等)と並行して、インターネットを通じた直販等、オンライン・ショッピングサービスの実施が進む(流通形態の変化)

 

[2010年における展望]

・自宅でオンデマンド、動画、シミュレーション

   学習的な機能を用いたオンライン・ショッピングが楽しめる

・オンライン・ショッピングの売り上げが電話、

  郵便による通信販売の売り上げを上回るようになる

・欲しい商品や予算等を指示すると候補を選んで

   提示したり、過去のデータから必需品を割り出して自動的に補充する
  
など、オンラインショッピングのインテリジェント化が進む

 

 

■ [関連アプリケーション] オンライン予約

  [現状] 列車や飛行機のチケットをオンラインで予約

[将来像] 自宅から野球、サッカー、映画、コンサートのチケットの
    
オンライン予約ばかりでなく、個人経営の美容院や歯医者の空き
    状況が一目でわかり、オンライン予約できる

 

■ [関連アプリケーション]インタラクティブ・オンライン・ショッピング

 [現状] オンライン・ショッピングにおいては、カタログショッピング
  の域を出ず、消費者のニーズに基づく商品選定、体型・体質に合った
  商品選定がしにくい

[将来像] 消費者ニーズを反映させた商品選択・検索が可能なインタラ
  クティブ・オンライン・ショッピングが行えるようにする

 

■ [関連アプリケーション] 消費者保護オンライン・システム

 [現状] 家電機器等の高機能化に伴なう取扱いミスによる事故の発生
  /故障時のサービスコールが平日昼間につながりにくい

[将来像]取扱いマニュアルのオンライン・ビデオ配信サービスやオン
 ライン・インタラクティブ・サービスによる対処方法の指導が受けられる

 

 

決済

 

◯ [典型アプリケーション] 電子決済システム、電子現金

 [現状] グローバルな商取引の普遍化と、個人のライフスタイルの変化
  により、商品購入・決済が24時間化。オンラインショッピング等に
  おける小口の決済については、一部のパソコン通信において、クレジ
  ットカード会社を通じた電子決済を行っている例がある他、オープン
  なネットワークであるインターネットにおいても、カードによる取引
  が始まっている(セキュリティ上の問題から、ファクシミリ、電話な
  ど在来的な通信手段で別途決済するのが一般)/ICカードを利用し
  た電子現金については、既に英国において実証実験が実施されている
  /ベンチャー企業、海外の金融機関等が電子決済用の新システムの実
  験を発表、実用評価はこれからの段階

[将来像] 自宅や店で、端末やICカードを用いて、送金や支払いが可
  能となる(キャッシュレス決済)/個人間の商取引を促進

 [構築に必要なアプリケーションインフラ] 認証、ICカード

 

[2000年までの到達イメージ]

 ・電子決済システムの要となる認証機関・サービスに関する実証システ
  
ムが構築されるとともに、実用化に際しての枠組みが整備される

 ・利用商店、取扱金額、対象品目などに制限条件の付いた電子現金シス
  
テムが一部実用化される

 ・電子決済の事故に対する、消費者救済の制度が存在する

 ・電子取引における消費者保護に関する標準ルールが施行されている
 
(クーリングオフなど)

 ・セキュリティ、認証システムの進化により、オープンなネットワーク
 
上においても、既存のクレジットカード決済程度の安全性の高いシステ
 
ム(カード偽造等の事故率0.15%(現在の世界通用レベルのクレジ
 
ットカードの事故率))が、家庭の端末から利用できる

 

[2010年における展望]

・GIIの構成ネットワークとしてのBISDN(156〜622Mb
 ps)が全家庭まで引かれ、現在のインターネットに比べてセキュリテ
 ィが格段に向上し、オンライン上での各種商取引の電子決済と電子現金
 が一般化し、日常生活においても、通常の貨幣と同様に電子現金が用い
 られるようになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十五、学習分野

 情報通信基盤の急速な技術歩は、初等中等教育、高等教育機関といった学校を中心とした教育の分野にも及んでいます。パソコンやインタ−ネットを活用した新たな学習形態を生み出し、色々な変化をもたらしています。また、学校教育以外の各種教育で幅広い年代や地域の人々に生涯学習の機会を提供することにも大きな役割を果たしています。

教育分野へのマルチメディアの導入

教育分野へのマルチメディアの導入は、小学校へのパソコン導入、大学及び研究機関等のインタ−ネット利用などを通じて急速に普及しつつあります。これには
(1)大勢の教室でも個々の理解度に応じたきめの細かい指導を行えること、(2)臨場感のあるものが実感でき理解度の向上に資すること、
(3)生徒に学習に興味を持たせる上で有効な手段であること
など高い支持があります。この意味から、画一性より個性を重視した教育を一層進め、創造性を養うことも重要です。教育へのマルチメディアの導入は、個々人の進度に応じた授業が可能となり、この意味でもより個性を伸ばす指導も容易になるでしょう。

一方において、現状を見れば、

(1)ソフトの不十分なこと
(2)教師・生徒間のコミュニケ−ションが疎遠にある恐れがあること
(3)教師・生徒ともに使い方に習熟するために時間がかかることや知識の
  不足、
(4)機器の陳腐化が早く予算の制約が多い
ことなどの問題が指摘されています。

人材の育成、再教育

情報化・マルチメディア化が進展した社会において情報化から取り残される者が現れないよう情報教育を進め、個々人の情報活用能力の向上を図る必要があります。情報化に対応するためには、個々人がマルチメディア関連の機器を取り扱う能力を高めるだけでなく、多量の情報の中から、自分に必要な情報を適切に選択出来ることや情報発信能力を高めることも必要になってきます。また、マルチメディア化の推進には、情報関連の技術者・研究者の育成も不可欠であります。

そのためには、初等・中等教育の現場への教育用コンピュ−タの導入、教育用ソフト・情報化教育要員の充実などのほか、大学・専門学校におけるスペシャリストの育成や職場・地域社会での再教育が必要になります。

教育制度

情報化・マルチメディア化の進展により大学等の授業のあり方が変化すれば、入学を容易にし単位取得・卒業を厳しくしたり、大学よりも、個々の教授の授業内容により選択することも可能となります。それは現在の入試システムの変化につながるとともに、マルチメディアを利用した遠隔講座等の実施による在宅学習の機会を拡大されます。学習機会についての情報提供の充実により、生涯を通じた学習機会の拡大にもつながると考えられます。

 学校における教育分野の情報化については、文部省を中心に様々な取組が行われています。

 初等中等教育分野においては、文部省が6年度からおおむね6年間の、11年度までを目標として、公立学校における教育用コンピュ−タの整備目標を設定しています。小学校に22台(児童の2人に1台)、中学校で42台(生徒の1人に1台)、普通科高等学校に42台(生徒の1人に1台)、特殊教育諸学校に8台(児童・生徒の1人に1台)として実施しています。また、学校のインターネット接続に関しては、2001年までにすべての中学校、高等学校を、2003年までにすべての小学校をインターネットに接続できるような計画が進められています。

大学等の高等教育分野においては、文部省が8年7月に出した「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方に関する懇談会」報告書や9年12月の大学審議会答申「「遠隔授業」の大学設置基準における取扱い等について」などにより、@基盤となるハード(ネットワーク)の整備、A制度の見直しなど、高等教育におけるマルチメディア活用のための提言がなされました。これを受けて、学内LAN等の整備や、遠隔授業実施のための設備等の整備が進められています。

情報化に対応する教育の充実

各種審議会・懇談会でのマルチメディアへの対応が示されていますので、各分野別に見ていきたいと思います。

 初等中等教育

 初等中等教育では、将来の高度情報通信社会に生きる児童生徒に必要な資質を養うとともに、コンピュータ等の情報手段の活用による学校教育の活性化を図るという観点に立って、以下の施策に取り組んでいます。

・情報活用能力の育成など指導内容の充実

・公立小・中・高等・特殊教育学校への教育用コンピュータの計画的整備

・私立高等学校等へのマルチメディアコンピュータ等の整備に対する補助

・学習用ソフトウェア整備・研究開発

・インタ−ネット、光ファイバ-、衛星通信等を活用した新しい教育方法の開発

・教員養成・研修の充実

・情報教育の推進等に関する調査研究の実施  など

また、文部省では、NTT等の企業、団体からなる「こねっと・プラン推進協議会」が、全国の小・中・高等学校等1000校にインターネット環境の整備を支援する「こねっと・プラン」へ協力しています。

 高等教育

 高等教育では、高度情報通信社会の発展を支える先端的科学技術の研究開発を進めつつ、次代を担う優れた研究者や技術者を養成するとともに、すべての学生が情報処理・活用能力を身に付けることができるようにするという観点から、以下の施策に取り組んでいます。

・情報関係の大学院、学部等教育研究組織・体制の整備・充実

・情報関連機器の整備やネットワーク環境の整備

・衛星通信を利用した国立大学等間の情報通信ネットワークの整備

(スペース・コラボレーション・システム事業)等新しいメディアを活用した教育方法の研究開発とその推進

・学生に対する一般情報処理教育の充実

・大学医療情報ネットワークによる大学病院の医療関係者が共通に必要と
 している最新情報や知識の提供 など

 社会教育

 人々の学習ニーズの高度化・多様化・個別化に対応し、各々の効果的な学習を可能にするため、マルチメディア機器や情報通信ネットワークを活用していくという観点に立って、以下の施策に取り組んでいます。

・学習機会に関する情報等を提供する生涯学習情報提供システムの整備

・学習活動への多様な新しいメディアの活用方法の研究・開発

・地域における情報関連の学習機会の充実 など

 

生涯学習分野については、教育委員会、公民館、カルチャーセンター等における生涯学習講座の学級・講座数が昭和61年より徐々に増加していて、特にカルチャーセンターでは、7年度中の学級・講座数は86,135件に達しています。

 また、大学における公開講座等の実施も毎年増加する傾向にあり、8年度には、実施講座数が9,299件(実施大学525大学)、受講者数は649,027人に達していて、生涯学習に対するニーズの高まりが見られます。

2010年における将来展望

高度情報通信社会の構築に向けた「分野別のアプリケ−ションの2000年までの到達イメ−ジと2010年における将来展望」が郵政省より発表されています。生涯学習分野は以下の通りです。

生涯学習(教育機会の多様化)

 

(1)[典型アプリケーション] 遠隔教育、在宅教育

  [現状] 教員の少ない過疎地域や、高等教育機関から遠隔の地など、教

育の不均衡が存在/アプリケーションを支えるソフトウェアの整備も途

上(但し、中学でのパソコン普及率自体は94年度文部省調べによると

99.4%、小学校では77.7%程度)

[将来像] 社会人、定評ある教育者による開かれた教育の場が現出し、

生徒が主体となった学習が可能となる(例:宇宙からの授業、人気教

授のゼミなど)/学校間での学習交流の促進/教育の国際化/生涯学

習受講機会の拡大(ネットワーク教育体制の整備)

[構築に必要なアプリケーションインフラ] どこでも利用できるサービス

[2000年までの到達イメージ]

・全国各地の社会教育・企業教育機関内に、構内 LANの整備の他、

 双方向型のリアルタイムでの 遠隔授業が可能な施設が整備されている

 ・長期入院中の社会人・学生のために遠隔教育のシステムが普及する

 ・高等教育機関でのホームページ保有は100%

[2010年における展望]

    全ての学校・大規模病院において、遠隔教育が行える施設が整備されている

    自宅で遠隔教育が受けられるコースが豊富にあり(今のカルチャー

  センター、教養講座等の講座数程度)、海外居住者を含めた全国民

  が自宅の端末から受講可能

 

 

(2)[典型アプリケーション] 電子図書館

[現状] 図書館へ出かけて行かなければ、図書館が所蔵する情報を入手

    することは困難

     図書館情報ネットワークシステムが全自治体中237自治体に

    導入済(944月現在)

[将来像] 誰でも、いつでも、図書館まで出かけることなく端末機から

   図書館が所蔵する情報を検索し、入手することができる

[構築に必要なアプリケーションインフラ]

電子キオスク、共用データベース、データベース間の相互運用性

 

[2000年までの到達イメージ]

    いくつかの自治体において、公共施設を結ぶネ ットワークにより、

  公共施設に設置される端末機から以下のサービスが提供可能

 ○当該自治体の図書館(県立、市立、町立等)が所蔵する文献等に関す

る書誌情報提供サー ビス

 ○パブリックドメインに該当する文献等について、コンテントがデジタ

 ル化され、データベ ース化されているものの閲覧サービス

 ・また、オンラインネットを通じた図書館の間での蔵書の相互賃貸により、効率的に書物にアクセスが可能になる

[2010年における展望]

・自宅の端末から以下のサービスが受けられる

○各地の図書館(県立、市立、町立等)が所蔵する文献等に関する書

  誌情報提供サービス

○パブリックドメインに該当する文献等について、コンテントがデジタ

  ル化され、タベース化されているものの閲覧サービス

 

(3)[典型アプリケーション] 電子博物館、電子美術館

  [現状] 博物館や美術館へ出かけて行かなければ、それらの所蔵品を

    鑑賞することができない。一部、インターネットにより博物館や美

    術館の所蔵品の映像等を提供するシステムが登場している

[将来像] 誰でも、いつでも、博物館や美術館まで出かけることなく
  端末機から所蔵品の映像等を鑑賞することができる

  [構築に必要なアプリケーションインフラ] 電子キオスク、共用データ
   
ベース、どこでも利用できるサービス、高度映像伝送

[2000年までの到達イメージ]

 ・いくつかの自治体において、公共施設を結ぶネットワークにより、公
  
共施設に設置される端末機 から以下のサービスが受けられる

  ○当該自治体の博物館や美術館(県立、市立、町立等)の所蔵品等に
   
関する情報提供サービス

  ○当該自治体の博物館や美術館の展示案内サービス

  ○当該自治体の博物館や美術館の所蔵品について、コンテントがデジ
  タル化され、データベ−ス化されているものの鑑賞サービス

[2010年における展望]

・自宅の端末から以下のサービスが受けられる

  ○各地の博物館や美術館(県立、市立、町立等)の所蔵品等に関
   する情報提供サービス

○各地の博物館や美術館の展示案内サービス

○各地の博物館や美術館の所蔵品について、コンテントがデジタル化
 され、データベース化されているものの鑑賞サービス

 

[関連アプリケーション] マルチメディア学習データベース

[現状] 自分の学びたい情報がどこにあるか分からない。他方、学校教
 育支援情報システムが全自治体中51自治体に、生涯学習支援情報シ
 ステムが123自治体に導入済(いずれも94年4月現在)

[将来像] 学童でも、忙しい社会人でも、VODにより、時間を選ば
  ず興味に応じてマルチメディア教材にアクセスして学習可能/多彩
  な画面を使い、分かりやすい教材を用いた学習環境が整えられてい
  る(自立的に楽しみながら学習)

 

■ [関連アプリケーション] エデュテイメント

  [現状] 学校のカリキュラム教育の理解を助ける手段としてCA
   I(Computer Aided Instruction)が導入されている

 [将来像] インタラクティブ性(双方向、参加型)と仮想現実性を
    
利用して、あたかもテレビゲームのキャラクターを操り冒険ス
   
トーリーを展開しながら、自己の現実では体験できないような仮
   
想シーンや経験を可能にし、ゲーム感覚で楽しみながら理解し、

    問題意識を高めていくことができる

 

 

 

  「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方について」の内容について少し見てみます。

マルチメディアの活用に関する基本的な考え方

高等教育を取り巻く状況の変化、進学率の上昇に見られる高等教育の大衆化、学術研究の進展、国際化・情報化等の社会の変化、生涯学習ニーズの高まりなど、近年、高等教育を取り巻く状況は大きく変化しています。とりわけ、社会経済状況が大きく変化し、我が国が、これまでの欧米キャッチアップ型から、先導性・独創性を展開し、世界に積極的に貢献することが求められていることを踏まえ、創造性豊かで主体的に判断・行動できる人材の養成が必要となっています。

そこで、つぎのような視点から高等教育の改革が進められています。

 1.教育機能の強化

   社会や国民の要請に応え、創造性豊かで時代の変化に柔軟に対応でき
   る人材を養成するため、各大学がそれぞれの個性・特色を発揮しなが

   ら、教育内容・方法を見直し、教育機能の充実に努めること

   2.世界的水準の教育研究の推進

     世界をリードするような研究を推進するとともに、優れた研究者や高

   度の専門的能力を持った職業人を養成するための拠点として、大学院

   を充実強化すること

   3.豊富な生涯学習機会の提供

      生涯を通じて、高度で体系的かつ継続的な学習機会を提供していくこ

   とができるよう、高等教育を社会に開かれたものとしていくこと

 マルチメディアの活用の可能性

 マルチメディア技術の進展や、インターネットによる世界的なネットワークの普及により、誰もが、双方向で、文字・音声・映像等の情報を交換することが可能になってきました。そのため、コミュニケーションの在り方に関する社会的な変革が、地球的規模で生じています。

一般に、マルチメディアとは、技術の進展により、文字・音声・静止画・動画等をデジタル処理し、一体的に扱うことができる状態を指していて、 同時性 、双方向性 、表現の多様性 、情報の蓄積・検索能力の向上、という特徴を有します。

 メディアを活用した遠隔教育の実施

各種メディアを活用して、映像や音声を伴う遠隔教育への取組が行われています。

通信制の大学

  通信制の大学である放送大学が、関東地方を中心に、放送授業等による教育活動を行っていて、将来の衛星放送を利用した全国化に向けて準備を進めています。また、メディアの発展を踏まえた効果的な教育方法の改善・充実に関する検討も進められています。

  放送大学以外の通信制の大学においても、ラジオを活用した通信教育や、通信衛星等による同時・双方向の授業を行うなどの取組が見られます。

  同時・双方向の遠隔教育

  同時・双方向による映像・音声のやりとりが可能になってきたことを利用して、複数の高等教育機関の間や同一の高等教育機関の中の分散キャンパスの間 などで、遠隔教育の実施を試行的に行うところが見られるようになってきました。

  各高等教育機関においては、遠隔教育により、次のような取組が進められようとしています。

  全学共通科目のような学部横断的な授業の実施

  離れたところにある他学部の専門科目を受講

  理工系の大学と法文系の大学が、それぞれの専門分野の交換授業を実施

  高等専門学校の学生が大学の授業を受講

  通信衛星の利用による社会人のリフレッシュ教育

  海外の高等教育機関と授業等の交流

文部省では、国立大学や高等専門学校等を結ぶ、衛星通信大学間ネットワーク構築事業(スペース・コラボレーション・システム事業)を開始しました。一部の私立大学からも、このネットワークへの参加の希望が出ています。

 マルチメディアを活用するメリット

 マルチメディアの活用により、誰でも、どこからでも世界中の高度な学習に接したり、学習者の興味・関心等に応じた学習の実施が可能となります。

マルチメディアを活用することにより、高等教育に、どのようなメリットが生じるのか整理すると、以下のようになります。

メディアを活用した遠隔教育の実施

地理的・時間的な制約等から、特定のキャンパスに通うことが困難な

  者に対する学習機会の提供が可能になります。(社会人のリフレッシ

  ュ教育、へき地・離島の者や、障害者のための学習機会の提供等)

    各高等教育機関が連携することにより、カリキュラムの充実が図ら  れ、学生の学習の選択肢が増えます。

    高等教育機関の間での、教育研究情報の交換や、教員・学生の交流が

  促進されます。これにより、各高等教育機関が持つ知的資源について

  の、他との共有化が進み、各高等教育機関の教育水準の向上が期待で

  きます。

    知識習得型の学習が適した分野においては、まとまって授業を実施す

  ることによるスケールメリットがあります。

    地方公共団体や産業界と連携して事業を実施することにより、地域に

  開かれた高等教育が推進できます。

    海外の高等教育機関との教育交流が活発になり、国際的な視野を持つ

  人材育成に資することができます。

ネットワークを活用した情報の収集や発信

    知的交流の拡大による創造性の育成の可能性が広ががります。

    特定分野に関する情報を世界中から収集することにより、専門分野の

   深化につながります。

マルチメディアを活用した探索力・表現力・発信力等の、いわゆるマ
  ルチメディア・リテラシーの習得に資することができます。

学生の個人学習や自主的な判断に基づく、主体的な学習を支援する
  ことができます。

マルチメディア教材の活用

    学生の関心、能力に応じた個人学習を助け、自発的な学習意欲を喚起

できます。

疑似環境やシミュレーション・プログラムにより、理解が促進されます。

様々なメディアを活用して表現する能力が身につきます。

マルチメディアを活用した高等教育の特色

世界的な規模のネットワークにより、誰でも、どこからでも、既存の
  枠組みを超えて、高度な学習の機会を得ることができるとともに、情
  報の収集・発信が容易となります。

学習者の興味・関心や能力に応じた学習機会の提供が可能となり、学
  習者が主体的に学習に取り組むことによって、問題発見・解決能力を
  高めることができます。

このように、マルチメディアを活用することにより、高等教育が、多様な学習者に対して広く開かれることになるとともに、柔軟な学習形態の実施が可能となります。

  情報化の現状

  初等中等教育分野における情報化の現状

 8年度の初等中等教育における公立学校の教育用コンピュータの設置状況は、設置率だけを見れば小学校で全体の90.7%、中学校で99.8%、高等学校で100.0%、盲・聾・養護学校を含む特殊教育諸学校で98.7%となっていて、9割を超える数値が出ています。

 これに対し、指導面からは8年度において、公立学校の教員のうち、コンピュータを操作できる教員は全教員の46.5%ですが、コンピュータで生徒を指導できる教員は全体の約19.7%にとどまっていて、早急な育成が望まれます。

インターネット接続状況は、9年5月現在において公立学校の9.8%と全体の1割未満となっていて、コンピュータの設置は進んできていますが、ネットワーク接続されずに使われることが多い実態にあります。インターネット接続率を学校の種別ごとに見ると、小学校で7.3%、中学校で12.5%、高等学校で17.3%となっており、上位の学校になるほどインターネットに接続している学校の割合は高くなっていますが、早急な対応が必要です。

また、米国の場合を見ると、公立学校では、6年から9年にかけて、毎年約15%の伸びでインターネット接続率が上昇していて、9年時点での接続率は78.0%と高率になっています。日本では9年の時点で接続率は9.8%であり、インターネット接続の点では、政府の対応の違いからか日米で大きな格差が生じています。

 高等教育分野における情報化の現状

 大学教育を始めとする高等教育においては、先端技術の採用により、通信衛星によるネットワークの整備、学術情報ネットワークの充実、学内LANの構築といった基盤となるネットワークの整備が行われています。また、学生全員にEメ−ルの付与するなどを通じて、意見交換や情報収集にインターネット等のネットワークを活用する動きが活発になってきています。さらに、画像伝送技術の進歩により、複数の高等教育機関間、同一の高等教育機関の中の分散キャンパス間において、テレビ会議システム、通信衛星及びISDN回線を利用した遠隔授業が実施されるようになりました。それに伴い、文部省でも単位数の取扱いなど必要な制度の整備が行われています。

 生涯学習分野における情報化の現状

 生涯学習分野での情報化の大きな動きの一つに、放送大学の全国化の推進があります。放送大学は、テレビ・ラジオを通じて広く学習の機会を提供することを目的に昭和58年度に設置されました。以来、生涯学習機関として、「生活科学」、「産業・社会」、「人文・自然」に関して、社会人に身近な大学教育の機会を提供してきました。従来は、地上波テレビジョン、ラジオ放送により実施されていたので、関東地方に放送エリアが限定されていました。 生涯学習へのニーズの高まりから、10年1月から、CSデジタル放送での放送が開始され、全国での一斉受信が可能となりました。

また、8年6月からサービスが開始されたCSデジタル放送における、教育・資格関連のチャンネル数は7チャンネルであり、全チャンネル数の7.1%となっており、今後も増加の傾向です。

先端事例紹介

帝塚山大の無料公開授業、教育の場ネットが開拓

偏差値やイメージではなく、大学の本当の実力を知ってほしい――。

奈良県の帝塚山大学がインターネットを利用した公開教育を19998年夏に始めてからもうすぐ10カ月になります。中高生や他大学の学生、社会人など、インターネットの接続環境さえあればだれもが無料で参加できるとあって、ホームページのヒット数は累計で一万七千件以上に上ります。ネット上の体験入学で、同大学の「教育の輪」は着実に広がっています。

 「TIES(帝塚山インターネット教育サービス)」。公開教育のホームページは、表計算ソフトのエクセルやワードなどをインターネット上で活用できるざん新なシステムが売り物です。例えば、好きな数値を入力するとエクセルとTIESが連動、画面のグラフが変化するといったシミュレーションも簡単に行え、難解な経済理論も体験的に理解できます。インターネット環境のため、電子メールなどで質問したり、最新データを利用することも可能です。

体験者からは「大学に進学したかったのですが、いろいろな事情から進学できなかった。ここにきて、やっと大学で勉強ができそうです」(サラリーマン)と評判は上々。「面白い試み。あらゆる枠を超えた学びと語らいと遊びの場になってほしい」と期待する声も多いようです。

開発は1997年春に始まりました。経済学部の中嶋航一教授が「シミュレーションで体験的に学習できるコンピューター教材を」と訴えたのが発端でした。しかし、CD―ROMなどにソフトを載せると、内容を更新する度にCD―ROMを作る必要がある。

「ならばインターネットで」と提案したのは同大学情報教育研究センターの堀真寿美さんでした。インターネットならシステムが固定されず、世界中の最新情報も利用可能です。一年の開発期間を経て、1998年春から学内授業で利用し始めました。

インターネットの利点は、世界のだれもが利用できることです。昨夏からは一般にも公開しました。奈良の山奥でも、インターネットなら時間や場所を問わず入学できます。教材の開発環境も公開し、あらゆる教育関係者がTIESを舞台に活躍できるようにしました。

帝塚山大では現在、「TIES2」の開発が大詰めを迎えています。学習成果を個人記録として残せ、継続学習ができるというのが新たな機能ですが、最大の改良点は「教材/授業」と概念を分け、開発負担を軽減したことです。

新バージョンでは、制作者は個別テーマごとにコンテンツを作ります。例えば、経済統計の授業なら「最小二乗法」「集合」などの教材を好きな順番で作ります。いくつか作った時点で流れ図の上に教材を配置、「授業」とするわけです。一から積み上げる従来方式に比べ、開発負担は大幅に減ります。

 (出所:日本経済新聞夕刊1999.4.26

 図書館の情報化の必要性とその推進方策について

高度情報通信社会の進展に伴い,公立図書館のサービスは,新たな展開を求められています。

図書館についても、例えば,コンピュータネットワークを通じて,自宅にいながら図書館の提供する情報を得ることや,図書館において館の内外の

 様々な情報を得ることが可能になるなど,今後図書館の提供するサービスは多様化・高度化することが予想されます。

  資料の電子化の動向

 近年、図書館資料の電子化の試みが各地で始まっています。文部省においては、平成9年度から、図書館が所蔵する古文書・古絵図等の郷土資料、郷土が生んだ偉人関係資料等をマルチメディアデータベース化し、これらをインターネットを介して社会教育施設や学校において共有・活用するための研究開発事業を全国5ヶ所で実施しています。

 学術情報センターにおいては、平成9年度から,電子図書館サービスの提供を行っています。同サービスでは、学協会の発行する学術雑誌の各ページの画像データと書誌情報の文字データをデータベースとして蓄積し、インターネットを介して、キーワード等から論文を検索し、論文を表示、印刷できる機能を提供しています。

  筑波大学、京都大学、奈良先端科学技術大学院大学など、各大学においても、電子図書館の取り組みが行われています。

  国立国会図書館においては、独自に電子図書館構想を策定しています。また,通商産業省所管の情報処理振興事業協会(IPA)と共同でパイロット電子図書館プロジェクトを行っています。同プロジェクトにおいては、印刷物やマイクロフィルムに記録された情報をデータベース化し、ネットワークを介して検索や閲覧を可能とするモデル電子図書館システムを試験的に構築し、将来的に電子図書館を実現するための様々な実験を行っています。

  一方、民間においては、出版社のほか、多様な製作者が出版物や音楽・映像情報をインターネットで配信したりするなど、各種のコンテンツ(情報の内容)を提供、利用する動きが始まっています。また、有名作家等がその著作物を直接インターネット上で公開する例も見られます。

  さらに、米国をはじめ諸外国においては、電子化された多様な情報の発信源が急速に拡大発展しており、インターネットによって接続利用できる世界的な「サイバースペース」が実現しつつあります。

 情報通信技術を利用した新しい図書館サービス

生涯学習局学習情報課の行った調査によれば、平成10年8月1日現在の全国の公立図書館の情報通信技術を利用した新しいサービスに関する状況は次のとおりであります。

1、コンピュータ等の導入状況

    都道府県立98.3%(平均台数27.6台)、市(区)立90.4%(同10.7台)、町村立77.5%(同3.9台)であり、大半は業務用として使用されています。

2、有料のオンラインデータべースの利用

    代行検索として有料データベースを導入している例はまだ少ない状況
  です。

3、インターネット接続コンピュータの利用者への開放

    図書館全体でみるとその比率は,3.5%である。館種別では、町村
  立(6.0%)が市(区)立(2.0%)を上回っているが、町村立
  においては、複合施設での共用という例が見られます。

4、自館からの情報発信(ホームページ上で所蔵情報の検索が可能な館)

    インターネット上にホームページを作り、所蔵情報が検索できるのは、
  道府県立21.7%、市(区)立4.7%、町村立0.5%です。

5、新しい情報サービスに対する職員の研修

   新しい情報サービスに対して研修を実施している館は、都道府県立56

  .6%、市(区)立31.0%、町村立18.3%です。

 

 図書館の新しい役割

 今日の高度情報化通信社会において、発信者側から発信される情報量は日々爆発的に増大しつつあります。受信者側は、その膨大な情報量の中から必要な情報を的確に取り出さなければなりません。

  しかし、今日の高度な情報環境の中で、その情報活用能力については、年齢別、性別等で顕著な格差が見られます。このような格差によって社会生活における平等が損なわれる恐れは、高度情報通信社会の進展にとっての重大な問題として指摘されています。 老齢者、障害者等の弱者に対する情報バリアフリ−の問題です。

 図書館を設置する目的は、地域住民の教養、調査研究、レクリエーション等に供するためです。また、図書、記録その他必要な資料を収集・蓄積し、求められた資料や情報は誰にでも公平に利用する機会を与える役割を担ってきました。

  今後の高度情報通信社会においても、図書館は、電子化された情報に対しても適切に対応していくことが求められます。資料や情報の提供というサービスを通して、人々の様々な活動を支援してきた図書館は、地域の情報拠点として、電子化された情報を含めた幅広い情報を提供するとともに、人々の情報活用能力(情報リテラシ−)を高めるための支援体制も整備する必要があります。

 情報通信基盤の整備

近年、科学技術の発達により、新しいメディアが開発され、急速に普及しつつあります。図書館の望まれる機能を果たすため、これらのメディアを選択的に導入し、その情報通信基盤の整備を図っていく必要があります。なお、基盤整備に当たっては、高齢者や障害者等に対する配慮が必要です。

1、コンピュータの設置

  パソコンは、いわゆるスタンドアロンでの使用でも応用範囲は広いので、初歩的な情報活用能力育成のためには、住民が自由に利用できるコンピュータの設置が望まれます。

2、インターネット等の利用

 パソコンのインターネットへの接続により、図書館の地理的環境や規模に関係なく、世界中の情報を自由に取り出すことが可能となります。利用可能なコンテンツは多種多様で、従来の図書館において充分な対応が難しかった最新の行政情報や学習活動に関する情報などの幅広い情報も含まれます。ただし、最新の情報が手に入る反面、信頼性が低い情報や誤った情報も混在しているなで注意する必要があります。

3、CD−ROM等の活用

 CD−ROMなどのパッケージ系ソフトウェアについては、インターネットなどと比較すると、情報の即時性では及ばないものの、映像の水準や内容の安定性や信頼性で優れています。また、商用のオンラインデータベースの多くが接続時間などに応じて使用料が課金されるのに対して、パッケージ系のデータベースは使用時間に拘束されないといった長所があります。最新の情報に接するためにはインタ−ネットが有利です。

4、衛星通信システムの活用

  衛星通信システムを利用するば、全国各地で多人数が質の高い研修や講座を同時に受講でき、一つの教室内で授業を受けているようなの質疑応答が可能になります。例えば、文部省においては,平成10年度の新任図書館長研修を、東京の主会場のほか、全国8ヶ所の副会場においても衛星通信を通じて同時に受講する形態で実施しました。

 平成10年度補正予算で整備される文部省の衛星通信を利用した教育情報通信ネットワークの一環として、全国各地の公立図書館等で受信環境の整備が進められています。

5、TV会議システムの活用

TV会議システムは、各種講座等を分館や公民館等へも送信することができるなど、手軽にリアルタイムでの館外との交流を可能にします。また、協力関係にある複数の館で外国人サービスの担当を分担したり、衛星通信システムと組み合わせ、講師への質問等に用いたりするなど様々な活用方法が考えられます。

資料の電子化の利点とその活用

  従来の紙媒体を中心とした資料を電子化するメリットは、一般的には、

  ・ 必要な情報を広い範囲から選択することができる(検索性の向上)

  ・ 音声や画像などと組み合わせて編集したものを自ら発信・提供する

      ことが容易にできる(再編集性の向上)

  ・ 一つしかない資料でも,数多くの人々が同時に利用できる

  ・ 画質等の劣化を招くことなく,複製することができる

  などの点です。

 さらに、電子化された資料をインターネット等を通じて、利用に供することは、時間帯や場所に関係なく、その情報を入手することができることを意味します。

 図書館に行かなくても、自宅等から自由に図書館の機能を利用できれば、特に高齢者や障害者等へのサービス提供としても有効です。人々が、生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができる生涯学習社会をつくる上で、学習資源としての所蔵資料の電子化は、重要課題です。

 また、地域において、電子媒体を用いて発表されている非商業ベースの作品・資料等の中には、地域の文化的資産として収集・保存する価値の高いものも見られます。これらについても、公立図書館の取り扱うべき資料として視野に入れていく必要があります。

  現在、21世紀を担う子どもたちに情報活用能力や国際性を養うため、中学校、高等学校、特殊教育諸学校については平成13年度までに、小学校については平成15年度までに、全ての学校をインターネットに接続する計画が進められています。同時に、情報通信ネットワークを利用した学習システムが、より効果的に活用されるためには、電子化された教育情報(コンテンツ)の充実が必要です。図書館の所蔵資料は、こうした教育情報として重要なものの一つです。 

 司書等の研修及び住民の情報活用能力育成

司書の情報活用能力育成については、住民の情報活用能力育成を支援できる司書の養成とカリキュラムの作成が重要です。

一方、住民の情報活用能力育成については、目的やレベルに合わせた住民向けの講座等の開催が望まれるます。住民に対する支援については、地域の司書有資格者やコンピュータ操作能力を有する者から、基礎的なコンピュータの操作等の支援に従事する「情報ボランティア」を募り、協力してもらうことも考えられます。

 地域電子図書館構想

 米国の議会図書館は、民間団体と協力しつつ、自らが保有する文献・地図・写真・手稿・録音・映像資料などを含む米国の貴重な歴史的資料を電子化して蓄積し、利用に供する電子図書館構想を推進しています。「アメリカン・メモリー」と称する電子化コレクションは、その重要な構成要素であり、教育関係者の利用を支援する観点から、教育関係者向けの学習用ページを開設し、学校の授業での活用事例等を提供しています。

  古い歴史的文書・地図・写真・手稿などの資料は、直接利用することは困難な場合が多いが、電子化することで、人々が自由に見ることができます。これらの資料の電子化が進めやすいのは、多くの場合、公表や複製に伴う著作権などが既に消滅していたり、その処理が容易であったりするためです。このことから、地域の図書館においては、郷土の歴史的資料を教育利用の観点から体系的に電子化し、活用していくことが期待されます。

 また、歴史的資料のほか、地域の生活にかかわる各種の新しい情報についても、他の公的及び私的機関との連携協力を含め、可能なものから電子化していくことが望まれます。

  なお、ここで「地域電子図書館」として構想されているものは、資料の全てを電子化する図書館ではなく、従来の図書館資料や既存の電子化された資料の提供に加え、適当と考えられる資料を自ら電子化し、提供する事業をも推進する図書館です。

 

インターネット接続に係る通信料金等の負担の軽減

 インターネットは、利用者にとって、地理的に離れた場所にある情報を統合的に利用できる効果的なメディアで、図書館での積極的な利用が求められています。しかし、インターネットの利用において、通信料金が米国等と比較して割高であり、これが図書館のインターネット利用の障害となっているという指摘があります。

 米国においては、連邦通信委員会(FCC)が、学校や図書館に対して、電気通信事業者から徴収する資金により、地域の貧困の度合いに応じて、インターネット等への接続に必要な設備の整備費,通信料を20%から90%の範囲で割引する制度(一般にE−rateと呼ばれている。)を1997年5月に開始しています。

 我が国においても、通信料金の割引や時間を気にせず自由に利用できる定額料金制度など、図書館を含めた教育施設に対する通信料金の負担の軽減措置について早期の実現を期待されています。

 情報リテラシー向上による「情報バリアフリー」環境の整備

 郵政省では、高度情報通信社会を実現する上での喫緊の課題である国民の情報リテラシー向上及び「情報バリアフリー」環境の整備を図ることを目的として、高齢者が遠隔地で容易に情報通信活用能力を身につけることが可能なテレラーニングシステムの実証実験を、平成10年度末に金沢市で実施することにしました。

   高齢者情報リテラシー向上支援モデルシステム(テレラーニングシステム)の実証実験

  講師側講義室                高齢者向け

                       インタ−ネット教室

                                                                                 

 

            

 


       

                    制御装置 

 

 

 テレラ−ニングシステム

四角形吹き出し: ・移動の困難な高齢者が遠隔の講師から情報通信の利用方法を学ぶ
 ことが可能
・「アイコン等の記号的情報への注意力が弱い」等高齢者の様々な特
 性に配慮
・開発した教材等は各地の高齢者向けラ−ニングセンタ等で利用可能
・システムの主な特徴は
 講師は受講者の端末の遠隔操作、ポインティングが可能
 受講者は直前の講義をリアルタイムで再生可能
 様々な特性を持つ高齢者が容易に学べる教材を作成、利用
 

 

 

 

 


            出所:郵政省HP

 

 他の学習分野における活用事例

大手予備校では、本校の有名講師による授業を、授業風景そのままに撮影実験の内容は移動の困難な高齢者が、遠隔地にいる講師からインターネットの利用方法等を容易かつ効果的に学ぶことが可能なテレラーニングシステムの実証実験です。このことにより各地で、高齢者の情報リテラシーを育成・向上するラーニングセンターを設置・運営する際、本実証実験で得られる教材、システム、リソースブックを利活用することが可能になります。

通信衛星を利用して、地方の教室や高等学校に向けて毎日配信しています。臨場感をもって授業を受けられるほか、電話回線を利用して講師に質問することもできるので、地方においても内容の充実した授業が受講でき、また、授業の選択の幅も広がると好評です。

 また、予備校によっては、本校の授業を直接撮影するのではなく、地方の教室等向けの授業を別途収録して配信し、地方の教室等において1日複数回使用している例もあります。

 学習分野での情報化の効用

 授業にコンピュータを利用したり、遠隔授業を行うことによって、学習における選択肢の多様化、ネットワークを介した学習機会の増大がもたらされます。また、初等中等教育におけるインターネットを活用した授業は、情報リテラシーの向上とともに、へき地、離島等地域に関わりなく、様々な情報を活用した充実した教育を受けることを可能にします。

 学習分野での情報化の課題

 回線速度の高速化、回線の信頼性の確保、回線使用料の低廉化等が必要です。初等中等教育では、インターネット利用の際の有害情報の排除が重要な課題となっています。

 

 

 

 

 

 

参考資料:1998年文部省調査結果

1、日米の学校におけるインタ−ネット/コンピュ−タの整備状況

 

項目

日本

米国

インタ−ネット

学校への接続率

小学校

中学校

高等学校

 18.7%

13.6

22.7

37.4

 78%

75

89

接続の計画

(目標)

2001年までにすべての中高等学校・特殊教育学校

2003年までにすべての小学校

2000年までにすべての教室

コンピュ−タ

学校当たり台数小学校

中学校

高等学校

 21.9台/校

 10.4

 28.1

 71.1

  72台/校

  60

 112

学校当たり台数小学校

中学校

高等学校

21.1人/台

43.2

16.1

11.4

10.0人/台

11.3

9.9

8.7

2,日本の公立学校における教員の情報化の実態 (単位:人、%)

 

教員

(A)

PC操作できる教員

 (B)  (B/A)

PC指導できる教員

 (C) (C/A)

小学校

 406,058

  170,401

  42.0%

 87,917

 21.7%

中学校

  249,161

  129,114

  51.8%

  57,734

 23.2%

高等学校

  208,875

  129,986

  62.2%

  51,048

 24.4%

特殊教育等

   51,388

   19,189

  37.3%

   7,045

 13.7%

合計

  915,482

  448,690

  49.0%

 203,744

 22.3%

 

 

十六、医療・福祉分野

 一般的動向

 少子化・高齢化

近年、世界でも稀に見るハイペ−スで超高齢社会に突入した我が国は65歳以上の高齢者人口が、1998年に2000万人を突破、これは総人口の16.2%に当たります。また、高齢者の一人暮らし世帯が急増していて、2020年には全体の3分の1に達する見通しです。老齢人口の増加と出生率の低下による少子化高齢社会の到来は、21世紀を目前にした日本社会に様々な波紋を投げかけています。その一つが医療問題です。

 

 過疎地域の医療

「医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地域であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区」を「無医地区」といいますが、過疎地域における無医地区数や無医地区を有する市町村数は減少しているものの、過疎地域における無医地区はまだ多いのです。

 医療と情報通信メディア

 医療・福祉に対する住民のニーズ

郵政省の「動向調査(世帯)」によると、将来、自宅で利用したい情報通信新サービスについて、「画面を通じて医師に健康相談したり診断を受けたりできる」が40.8%と最も多く、50から59歳で43.7%、60歳以上では55.3%と50%を超しています。ちなみに、「ビデオ・オン・デマンド(視聴者が要望する映画・放送番組の提供)」が28.3%、「申請・届出などの行政サ−ビスや公的施設の予約などの手続き」が26.7%と続きます。

 また、総理府の「暮らしと情報通信に関する世論調査」(7年1月)によると、21世紀のマルチメディア時代に向けたサービスの利用について、「在宅医療支援システム」が45.6%と最も高く、以下、「ビデオ・オン・デマンド」(24.6%)、「電子新聞」(19.6%)となっています。さらに、日常生活において不足している情報については、「健康・医療」が25.7%、「地元地域」が15.6%、「政治・行政」が14.7%となっていて、医療に対する関心が高いことが分かります。

 遠隔医療

 医療の地域間格差等を是正するために、情報通信を活用した遠隔医療の実験が昭和40年代から行われてきました。厚生省の遠隔医療研究班が9年3月に取りまとめた「総括班最終報告書」によると、遠隔医療とは「映像を含む患者情報の伝送に基づいて遠隔地から診断、指示などの医療行為及び医療に関連する行為を行うこと」と定義されています。このことは画像伝送に重点が置かれています。そして、近年の情報通信の発達により、伝送速度の高速化、映像の高精細化が可能となり、レントゲン写真やCT画像等の伝送が簡単になり、大学病院や総合病院の専門医が離れた地域の患者を診察できるようになると期待されています。例えば、脳外科の専門医のいない病院は必要な画像を伝送し、中央の病院の専門医から所見や助言を受けています。今後、一般の電話回線より大量の情報伝達が可能な光ファイバ−が整備されれば、鮮明な画像や動画を送ることが可能になり、より精度の高い診断が可能になることが予想されます。また、9年12月、厚生省では、「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」という通達を出し、遠隔医療についての基本的な考えを示しています。それによると、「遠隔診療はあくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。」としています。

 在宅医療

 在宅医療は、テレビ電話や専用の端末を用いて、血圧、脈拍、心電、体重等の測定を行い、そのデータを通信を用いて伝送することにより、これらのデータを基にして健康相談を受けたり、退院後の患者の在宅での療養の支援を行っています。主として患者宅において適切な医療提供を行い、可能な限り患者の精神的・肉体的な自立を支援し、患者とその家族の生活の質の向上を図ることを目的としています。4年には医師法において在宅医療が法律上明らかにされ、6年には健康保険法において在宅医療が療養の給付として法律上位置づけられるなど、在宅医療について施策が講じられてきました。

 表:遠隔医療の実施事例数(1998年7月23日現在)

 

進行中(含休止中)

未確認

実験終了

  計

テレパソロジ−

    20

   1

   8

 29

テレラジオロジ−

    73

  10

  14

 97

在宅医療・ケア

    24

   3

  13

 40

眼科的領域

     5

   −

   1

  6

歯科的医療

     3

   −

   −

  3

医用画像(一般)

    22

   4

  18

 44

その他

     3

   2

   5

 10

   計

   150

  20

  59

229

  (出所:遠隔医療研究班「遠隔医療事例調査」)

 

山形県米沢市における地域イントラネット実証実験

 CATVインターネットを活用した地域イントラネットは、「安く」「容易に」「魅力的な」公共分野の情報サービスを提供可能で、地域情報化の有効な手段であることが明らかになりました。                         

 郵政省は、平成10年(1998年)1月からCATVインターネット(高速・常時接続のLAN環境の実現が可能であるCATV網と、インターネットの技術を組み合せたもの)を使った「地域イントラネット」の有用性と課題を検証するため、地域マルチメディア・ハイウェイ実験協議会と連携しつつ、山形県米沢市において実証実験を実施してきました。

 ◇実験アプリケーションと主な利用技術

「教育」「医療」「生涯学習」「行政」「地域防災」の5つの分野を対象として、以下に示す8つの公共アプリケーションを実験アプリケーションとして設定しました。

  各アプリケーションで用いた主な技術は以下のとおりです。

    図表 1 実験アプリケーションと主な利用技術

 

分野   

実験アプリケーション  

主な利用技術

教育分野

遠隔共同授業

テレビ会議

合同電子文化祭

ビデオ・オン・デマンド、

電子メール、WWW

マルチメディア学校間交流システム

テレビ会議、電子メール

医療分野

病院・診療所連携システム

電子メール

遠隔医療相談サービス

テレビ会議、電子メール

生涯学習分野

サイバー市民大学

ビデオ・オン・デマンド

行政情報分野

オンライン市民情報交流館

ビデオ・オン・デマンド、                                      ストリーム音声、バーチ                                                  ャルリアリティ、電子書類、WWW 

地域防災分野

地域防災情報サービス

ストリーム動画

 

 実験内容及び実験結果

アプリケーション別の実験内容と実験結果の概要を以下に示す。

教育分野

実験アプリケーション   

実験内容

実験結果の概要

遠隔共同授業

南部小学校と広幡小学校の2校間をテレビ会議システムで結び、国語科の学習に位置づけ、両校の4年生と教員が学校紹介や自己紹介を内容とする遠隔交流授業を行った。

アンケート調査結果をみると、回答のあった教員の9割近くが実験システムの実用性を認めている。性能や機能に一定の限界があり、動画の品質についての改善意見も一部にみられたが、総じて実用性に関しては、教育現場の高い評価を得た。

合同電子文化祭

米沢市内の各小学校・中学校の児童・生徒と教員自身がコンテント作成に参加し、地域イントラネットのホームページ上で学芸会、合唱コンクール、スキー記録会などの各種イベントをビデオ・オン・デマンドで提供したほか、絵画の優秀作品等を静止画で提供した。また、各校が工夫をこらし学校紹介等のホームページを作成・提供した。

児童・生徒、教員が、自らコンテント制作に取り組み、合唱コンクールなどの動画をビデオ・オン・デマンドで提供したり、読書感想画展などの優秀作品の静止画をホームページ上で提供した。CATVインターネットを活用することで、高精細な静止画を数多く提供したり、動画を提供することが可能となり、ネットワーク上で複数の小中学校が参加し仮想的に文化祭を開催することができた。

マルチメディア学校間交流システム

米沢市内の各小学校・中学校および教育委員会をネットワーク化し、テレビ会議システムと電子メールを利用して、教科担当教員間の意見交換、生徒会役員の意見交換、イベント開催時の各種連絡、パソコンクラブ間の交流、英語指導助手と生徒間の交流など、双方向の様々な情報交換を行った。

アンケート調査結果によると、テレビ会議システムについては、端末側のパソコンの性能の問題もあり、実用に耐えられないとする回答も少数あったが、ほとんどの教員は実用性を認めている。電子メールについては、すべての回答者が、実用性を認めている。

医療分野

実験アプリケーション

実験内容

実験結果の概要

病院・診療所連携システム

米沢市内の各診療所(10施設)と総合病院(3施設)をCATV網で結び、電子メールを利用して、診療所から総合病院に対して、医師がレントゲンフィルム画像、内視鏡画像などの画像を添付した紹介状を送信する実験を行った。

アンケート調査結果によると、紹介状の送受信に関しては、回答のあった医師の約9割が実用性を認めている。また、X線写真(添付画像)の送受信、読影については、回答のあった医師の3分の2が実用に耐えられるとしており、実用性が確認された。

遠隔医療相談サービス

診療所と老人福祉施設、また診療所と小学校保健室をテレビ会議システムで結び、診療所と老人福祉施設の医師間で検査所見の意見交換等を行ったほか、診療所の医師(学校医)と児童間で遠隔医療相談を行った。また、電子メールの医療相談での利用についても実験した。

今回の使用ソフト等では、患者を直に診て正確な所見をとることは難しいが、医療相談として情報交換を行うことには問題はないことが明らかとなった。また「電子メールによる医療相談」については、アンケート調査結果をみると、回答のあったすべての医師が実用に耐えられるとしており、高い評価が得られた。

  

生涯学習分野

実験アプリケーション

実験内容

実験結果の概要

サイバー市民大学

CATV局と各一般家庭を結ぶCATV網を活用し、CATV局が制作した生涯学習関連番組(英会話番組)や小中学校等の保有する関連ビデオを二次利用し、地域イントラネットのホームページ上で一般家庭(実験モニター)に対して、生涯学習をテーマとする動画をビデオ・オン・デマンドで提供した。

ホームページ上で提供した実験用コンテントの中でも、この動画コンテントは利用頻度、関心度、サービスの有効性のいずれも上位に挙げられており、CATVインターネットの特性である高速・広帯域性を活用した、動画による生涯学習情報の提供は、その有用性が実証された。

行政情報分野

実験アプリケーション

実験内容

実験結果の概要

オンライン市民情報交流館

オンライン市民情報交流館市役所と一般家庭をCATV網で結び、ビデオ・オン・デマンド、ストリーム音声、バーチャルリアリティ、電子書類といった最新のインターネット技術を利用し、生活ガイドブック、市広報誌など既存の資源も活用しながら、市民の暮らしに関する情報、観光情報、市政に関する情報など様々な市民生活にかかわる情報を米沢市役所から一般家庭(実験モニター)に向けて地域イントラネットのホームページ上でマルチメディアサービスとして提供した。

バーチャルリアリティとして提供したスキー場の360度パノラマ画像については、非常に関心度が高かった。ストリーム音声として提供した市の広報誌の音声版は、音質、音声も品質上問題なく、高い満足度が得られた。電子書類として提供した市広報誌などについては、印刷物に近いイメージで見ることができる点や、縮小・拡大機能などの点が評価されたほか、検索機能についても満足度は高かった。また、ビデオ・オン・デマンドで提供した市長あいさつなどの動画コンテントは、実験期間中のアクセス回数が多く、実験モニターによく利用された。

地域防災分野

実験アプリケーション 

実験内容

実験結果の概要

地域防災情報サービス

積雪の多い国道13号線栗子峠に設置された監視カメラから送信される道路状況の動画をCATV局に設置したエンコーダ及びサーバでストリーム動画として変換・送出し、 CATV網を活用してリアルタイムで一般家庭(実験モニター)に配信した。

アンケート調査結果をみると、この動画コンテントは利用頻度、関心度、サービスの有効性のいずれも第1位であり、高い評価を得た。また、サービスの満足度についても高い評価を得た。リアルタイムで提供される動画の魅力や、地域住民の生活に密着したコンテントの提供が要因として挙げられる。

 今回の実験では、高速性、常時接続性を有するCATVインターネットを活用して「低廉なコスト」で「容易」に公共分野の実験サービスを実現することができました。

 実験サービスの内容評価については、前でアプリケーション別にまとめたように、実験結果から各実験システムの有用性が確認されました。

 今回の実験結果を総合的にみて、高速、常時接続が可能なCATVインターネットを活用し地域イントラネットを構築し、安価あるいは無償のインターネット用のソフトウェアを使って、「安く」「容易に」「魅力的な」公共分野の情報サービスを提供することが可能です。CATVインターネットを活用した地域イントラネットが地域情報化を推進するための有効な手段となり得ることが実証されました。

 今回の実験を通して、CATVインターネットを活用した地域イントラネットの構築・運用に当たっての課題として以下が挙げられます。

○地域イントラネットの推進体制整備

○情報提供を行う公的機関の内部体制の整備及びワークフローの確立

○利用者ニーズの掘り下げと利用者参加型の地域イントラネット整備

○地域イントラネット利用者の情報リテラシーの向上と利用者が容易に操作できる環境の提供

○端末(パソコン)の性能向上

○ネットワーク・サービスの料金体系の配慮

○地域イントラネットの段階的な構築・導入

 

高度情報通信社会の構築に向けた「分野別のアプリケ−ションの2000年までの到達イメ−ジと2010年における将来展望」が郵政省より発表されています。保険・医療・福祉分野は以下の通りです。

保険・医療・福祉(生活支援と医療・福祉体制の整備)

 

(1) [典型アプリケーション] 電子カルテ

  [現状] 各人の健康情報が、保健・医療機関ごとにバラバラに保有されている(保健医療情報システム:全自治体中119自治体導入済(94年4月現在)、(参考)医療用途ICカード:約40自治体で実験プロジェクト実施中)

[将来像] 出生以来の健康・医療データが蓄積され、これによる最適な治療・アドバイスを受けられる(生涯健康管理)/検査浸け状況の大幅な是正/各自がICカード等の電子カードにより、病歴、アレルギー等を記した個人医療記録を携帯するようになる/医療費削減

[構築に必要なアプリケーションインフラ] 守秘、アクセス制御、ICカード、機器相互間の干渉防止

 

[2000年までの到達イメージ]

  統一的な電子カルテ体系(記入手順、患者コード等)が実用化し、個別の病院/福祉施設が希望すれば導入可能となっている

 

[2010年における展望]

 電子カルテ利用が一般的になり、病院・診療所等の医療機関だけでなく、福祉機関等で、患者の病歴・検査記録等を、どこの施設で受診しても共通利用できる

 

(2) [典型アプリケーション] 遠隔診断、遠隔健康相談

 [現状] 町村部や離島など専門医の足りない地域では各種の専門的診断が受けづらい/在宅健康チェックシステムは全国の先進的地域(例:釜石市、五色町、大月町(予定)等)で取り組まれているが、有効性・可能性の検証が緒についたところである/船上においては、電話、FAXにより医療機関からの投薬指示等の助言程度

[将来像] 全国に散らばる専門医や先端医療機器などと町村部、離島の施設・患者宅や船上とをネットワーク化し、専門医の足りない地域等での診療の高度化を実現し、地域間での医療環境格差を是正/救急医療の充実/おかしいと思ったらその場で相談/症状に応じて相談者の希望を汲みながらアドバイス/映像と音声で会話することにより、高齢者の孤独感や不安感     を解消

[構築に必要なアプリケーションインフラ] どこでも利用できるサービス、高度映像伝送

 

[2000年までの到達イメージ]

 ・過疎地域等の住民が、都市部の医療機関に出向くことなしに、居住地域内の医療・福祉施設で高度医療サービスを受けることが可能(自宅におい

 ても可能な先進的試みも具体化)

 ・24時間オンラインで医療・健康相談に応じる医療・福祉機関があり、個人でアクセスできる

 ・バイタルデータ(血圧値、脈拍値等)の送信を含めた自動的な健康チェックシステムが、希望すれば利用できる世帯が全世帯の一割程度

 ・各種の有効性・可能性の実証システムの検証が進む

 

[2010年における展望]

・過疎地域等の住民が、都市部の医療機関に出向くことなしに、自宅に居ながらにして高度医療サービスを受けることが可能

・患者家庭には、在宅医療用の端末が普及し、遠隔健康相談が一般化する

・自宅や職場でバイタルデータの送信を含めた自動的な健康チェックができるとともに各種疾病の早期発見・早期治療が進められる環境が整う

・国内だけでなく、国外との間で遠隔診断が可能となり、より高度な治療が途上国の医療機関でも受けられる

・海外への旅行者や赴任者が、言葉の壁なく、日本のかかりつけの医師の診療が受けられる

 

■ [関連アプリケーション] テレラジオロジー(遠隔放射線画像診断支援)、

   テレパソロジー(遠隔病理診断)

 [現状] テレラジオロジー:レントゲン、CT、MRI等のモノクロ静止画像を一般公衆回線INS64や衛星回線で伝送し、専門医が読影、結果をフィードバックする(全国で50ネットワーク、150施設以上で実験あるいは運用中)テレパソロジー:病理組織の顕微鏡画像(カラー画像)をINS64やINS1500(又は専用回線)で伝送し、大学病院等の病理専門医が診断、結果をフィードバックする(全国で14ネットワーク、25施設以上で実験あるいは運用中)

[将来像] 全国に散らばる専門医や先端医療機器などと町村部、離島の施設・患者宅や船上とをネットワーク化し、専門医の足りない地域での診療の高度化を実現する

 

■ [関連アプリケーション] 医用画像データベース

 [現状] レントゲン、CT、MRI等の医用画像はフィルムをそのまま保管し、必要な時にそれを探して目視する

[将来像] 撮影後直ちに画像データベース化され、患者の診断、症例研究などの際にはコンピュータを利用してCRT画面上に映して使用する

■ [関連アプリケーション] 在宅介護支援システム

 [現状] 介護に関する様々な情報は、自治体や福祉団体等によりばらばらに提供されており、必要な時に必要な情報が入手できない

[将来像] 情報提供サービスのオンライン化、一元化により、ヘルパーや介護用品等の情報がいつでも入手可能/TV電話等により、自宅に居ながらにして専門医による介護指導が受けられ、介護の高度化と効率化が図られるとともに、家族等介護者の負担を軽減

■ [関連アプリケーション] 医療・福祉施設予約システム

 [現状] 病院のたらい回し、長い待ち時間(3時間待ち、3分診療)といった現状の一方で、大学病院など一部の総合病院で、外来の予約システムも研究試用段階にある

[将来像] 全国どこでも、24時間、待たずに医療・健康の相談・予約が行える(待たない医療 ・福祉)/ベッドの空き状況を個別に問い合わせていた手間が大幅に省ける/夜間緊急治療 の予約も可能

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2章 電子申告時代がやってくる

 一、税務行政のあらまし

情報通信技術の加速度的な進展と規制緩和の大波が税理士業界への大きな衝撃を与えつつあります。

現在、アメリカ、カナダ、オ−ストラリアなどで電子申告がなされています。いままでの書類による税務書類に代わって、情報通信手段を使った画期的な申告手段です。1980年代では考えられなかったことが私たちの身近なところから可能になるのです。

昭和40年代には税理士事務所での税務申告の書類はカ−ボン紙を挟んでこつこつとなされていましたが、国の行政機関では昭和34年の気象庁の電子計算機の導入に始まった、いわゆる導入期で主として、試験研究・統計業務業務等の計算処理に利用され、高速演算処理機能による事務処理の迅速化・効率化が目的でした。そのころ、東京国税局を皮切りに大阪、名古屋、関東信越国税局でADP(Automatic Data Processing:コンピュ−タを利用してデ−タを処理すること)システムと呼ばれるコンピュ−タによるデ−タの収集が開始されました。このような状況は税理士事務所へも電子化の波が押し寄せてきていました。

その後、ほとんどの省庁ではコンピュ−タの導入が進み、運転免許。社会保険などの膨大なデ−タの蓄積に利用されていきました。税理士事務所の事務作業はコピ−機の出現により、複写物の作成が瞬時に容易に安価に行われるようになり、50年代の後半にはFAXなるものが決算時の数字の照合などを通して事務所と顧問先の強い絆作りに威力を発揮するようになったころには全国の国税局でADPシステムのオンライン化が進み、そのデ−タを検索・分析・加工し必要なデ−タの提供で税務行政の効率化を計っていました。

60年代に入り、ワ−プロ・パソコン・ファクシミリ等のOA機器の導入により、一般的な行政処理の機械化が進んできて、昭和63年に全国国税局でのADP化が完了しました。さらに社会情勢の変化に対応すべく、より、高度なADP化の必要性と最新技術を駆使した全く新しいADPシステム(国税総合管理(KSK)システム)の開発・実地が必要とのことで昭和63年7月から国税庁内プロジェクトで検討し、その検討結果で平成元年においてKSKシステム基本設計書を作成されました。その目的の一つは幅広い事務を一貫したシステムで総合的に機械化すること、二つ目は統一的な処理環境を提供し利用者にとって使いやすいシステムとすること、三つ目は今後多様化する行政需要に柔軟に対応できるような構造とすることなどでした。

税理士事務所は早くからそれも40年代からコンピュ−タに触れる機会がありました。会計専用機というほとんどの税理士事務所が導入していたオフコン(OFFICE COMPUTER)です。このコンピュ−タが税理士業界に現在の危機を招いた一因となっています。会計専用機は税理士事務所の「三種の神器」と呼ばれるほど業務処理には無くてはならないすばらしいオフコンでした。仕訳デ−タの入力のすばらしさ、複合仕訳、諸口、など経理の奥の奥までを知り尽くし、テンキ−ボ−ドのコ−ド入力を最大限利用した機能は税理士を魅了するもので、慣れれば慣れるほど手放したくないものでした。しかし、このことが情報化への大きな立ち後れを招く一因となったのです。 

昭和50年代の半ばには、コンピュ−タで日本語処理の出来るようになり、ワ−プロ機能で文書作成が可能となりました。文書作成で事務所になくてはならなかった和文タイプライタ−はCD−ROMの出現で一気に姿を消したナガオカのレコ−ド針と同様に粗大ゴミと化したのです。50年代後半にはIBM5550のようなパソコンが登場することになり、オフコンによる一般企業の業務務処理は徐々に低価格のパソコンの販売管理、仕入管理、給与計算などへと取って代わるようになってきました。

幸か不幸か税理士業界は毎年のように行われる税制改正に対応する必要があり、基本的にサポ−ト体制のないパソコンの汎用ソフトに移行するにはあまりにも危険が大きかったために、その大波をひたすら身を低くして通り過ぎてるのを待っていました。

☆ パソコン化の波

 その大きな波が、いまをときめくビル・ゲイツ率いるマイクロソフト社マルチプランという表計算ソフトや一太郎が代表するワ−プロソフトによって、一般企業の業務処理は数段の進歩と遂げている間も、ただひたすら会計専用機の改良に望みを繋いでいる状態でした。年号も変わった平成元年のNEC98ノ−トを代表する持ち運びの可能なパソコンなどの登場とそれに平行して訪れてきたバブルの崩壊はコンピュ−タのダウンサイジングを加速させ、業界へもそのような安閑とした状況を許す雰囲気ではなくなりました。

マイクロソフト社のMS−DOS(マイクロソフト−ディスク・オペレイティング・システム)はパソコン用会計ソフトや税務申告ソフトの作成を容易にさせ、かつ安価で提供することを可能にしましたが、会計専用機の牙城を脅かすこととはなりませんでした。

平成6年頃から情報通信の代表格となりつつあるパソコン通信・インタ−ネットの芽が芽生えてきました。平成7年初頭の阪神淡路大震災は近畿地区の住民にとっては未曾有の災難ですが、情報通信にとってはその威力を十二分に発揮することとなりました。震災地域からは悲惨な状況が画像とともにインタ−ネットを通じて全世界に発信され、多くの救援の手が差し伸べられたことは記憶に新しいことと思います。

技術革新は留まることを知らずにOA化の進展はいまではコピ−する人が付いてなくても自動的にコピ−されるコピ−機とFAXが一体となった機器が事務所の一角を占めるまでになり、パソコンを通じて資料の送付や受領が出来るまでになりました。平成8年末のパソコンOSソフトのWINDOWS95の出現はいままでの常識を払拭するほどの業務改善効果を企業にもたらしています。LAN(local area network:構内ネットワ−ク)・イントラネット(www技術を使ったLAN)・エクストラネット(企業間の情報共有)とインタ−ネットの爆発的な進歩は税理士業界を取り囲む企業群との共存を強制することとなっています。

国税庁はKSK(国税総合管理)システムと電子申告制度の関係について「諸外国の(アメリカ、カナダ、フランス等)における電子申告制度の仕組みや導入状況等につき調査・研究を進めるとともに、制度を導入する場合の問題点等を含め、我が国における導入の可能性等について勉強を行っているところであり、現時点においては、電子申告制度を直ちに導入する具体的な計画はなく、電子申告制度の導入を前提をしたものではない」と説明しています。

情報通信システムの技術的な環境はダウンサイジング、ネットワ−ク化、マルチメディア化と言われるように急速な変化をしています。企業においてはその情報通信システムの導入が企業経営の中核となってきていて、パソコンやパソコン通信・インタ−ネットなどが国民生活にも普及し、情報化が浸透してきています。

このような進展する情報通信環境に行政の総合力・対応力の向上と国民の立場に立った行政サ−ビスの向上等の要請に応えて、政府全体が高度な情報化を目指していく行くべきであるとの観点から、第3次臨時行政改革推進審議会は、その最終答申(平成5年10月27日)の中で「著しく立ち後れている我が国の行政の情報化について、個人情報の保護に万全を期しながら、一層積極的かつ戦略的に推進する」必要があるとして、情報化推進計画の策定、情報の総合的利用、国民への行政サ−ビス、情報化の進展に応じた執務システムの変革を提言しました。

平成6年2月には「情報・通信技術の進展に対応し、行政の情報化の積極的な推進を図るため、各省庁を通じ政府として中期的・計画的にこれに取り組むための推進計画を策定することとし、本格的は検討を進める」ことを閣議決定しました。これを受けて、平成6年12月25日、「当面の行政改革の推進方策について」において、平成7年度(1995年度)を初年度とする5か年間の政府全体としての情報化推進計画である「行政情報化推進基本計画」を閣議決定しました。計画目標は国の行政機関を「情報システムの利用を行政の組織活動に不可欠なものとして定着させる」ことにより、行政を従来の「紙による情報の処理」から「通信ネットワ−クによる電子化された情報処理」へ移行することです。

この基本計画により、各省庁間の情報通信基盤は目覚ましく進展したが、、この間の、インタ−ネットの急速な普及、申請・届出等手続きの電子化等による国民負担軽減への要請など、社会的な状況が大きく変化しました。そこで、新しい情報化の流れに合わせた計画の全面的な見直しを行い、平成9年12月に「行政情報化推進基本計画の改訂について」を閣議決定しました。

改定の状況変化は4点に整理できます。その一つ目は、各省庁でパソコンの普及が平成7年度当初の2.8人に1台から平成9年度末(1998年3月)で1.06人に1台と普及し、全省庁のLAN整備と全省庁LANを結ぶ霞ヶ関WANの接続完了で行政運営の高度化あるいは行政サ−ビスの向上につながる施策展開が可能となりました。二つ目に、インタ−ネットの急激な進展で行政機関においてもインタ−ネットを行政運営のツ−ルとして積極的に活用する必要が出てきたことです。三つ目は、企業等における情報化の進展とともに申請・届出等を紙から電子化にあらためて申請負担の軽減を計る「電子化に対応した申請・届出等手続きの見直し指針」(平成8年9月)を一層推進し、「申請負担軽減対策」として「国・地方を通じた窓口の一元化、ワンストップサ−ビスを早期に実現する」ことになったことです。4つ目は、国際的な取り組みへの対応です。

改定計画は当初計画(7年度から11年度)の5か年を3年で見直し、新たに平成10年度から平成14年度としましたが、考え方は当初計画を踏襲していますが、「21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目標としました。推進すべき行政情報化施策を官民接点の情報化施策として、行政情報の提供と申請・届出等の手続きの電子化、ワンストップサ−ビスの実施等による行政サ−ビスの向上としています。日々公表される報道発表資料などのインタ−ネットホ−ムペ−ジで提供する。白書・年次報告書等の行政の現況を知らせることを目的とした情報はインタ−ネットあるいはCD−ROM等で提供する。インタ−ネットホ−ムペ−ジへのアクセス手段を持たない国民が多数を占めている現状に鑑み、郵便局等での利用を確保する。電子化に対応した申請・届出等の手続きの見直しを11年度を待たずに可能なものから早期に実施に移す。このことは申請・届出等手続(7,375手続)について、10年度末までに2,567件について電子的手段・媒体での申請を容認する規定改正が行われて、添付書類の原本性の確保等当面実施が困難な課題がある手続き3,925を除く3,450手続きのうち、74%が平成10年度末までに電子化の容認が図られます。

税務行政の急ピッチの進展状況を示す99年1月22日付けの朝日新聞ニュ−ス速報を見てみます。「 還付申告にコンピューター導入,全国に1260台」

今年の所得税の確定申告(2月16日―3月15日)から、税金の還付申告が税務署に設置されたコンピュータの端末で手軽にできるようになります。国税庁は今年初めて全国の大半の税務署に導入し、「税額が自動的に計算されて便利なので、利用してほしい」と呼びかけています。

このコンピュータ端末は、銀行の現金自動預入払出機(ATM)と同様のタッチパネル方式で、手を触れると申告に必要な金額などを入力できます。昨年、名古屋国税局管内の一部の税務署で導入したところ、検算の必要がないことなどが好評だったため、国税庁が約九億円かけて全国的に設置することにしました。

今回、コンピュータを利用できるのは、10万円以上の高額の医療費を払った人の還付申告と、中途退職して年末調整をしていない人の確定申告です。医療費の還付申告では、源泉徴収票に記載された所得金額や、1年間にかかった医療費などをパネルの指示通りに入力していけば、自動的に税額が計算されます。提出用の申告書も作成され、そのまま税務署に提出できます。

全国524税務署の大半や、東京駅や大阪駅前ビルなど29カ所に臨時設置される還付申告センターのほとんどに計1260台が設置されます。

また、法務省の方でも急ピッチで同じく平成11123日付け朝日新聞では、「インターネットで登記簿閲覧 法務省、来年4月から有料で提供」

自宅やオフィスに居ながらにして、パソコンで登記簿の閲覧が可能になります。インターネットのホームページを通じて登記情報を有料で提供するシステムを法務省が開発し、来年四月からサービスを開始することになりました。閲覧が可能になるのは、コンピュータ入力が終わっている登記情報(不動産登記は全体の3割、商業登記で2割)からだが、データの入力は急ピッチで進んでおり、2004年度中には、全国すべての不動産登記がパソコンで閲覧できるようになります。現地の法務局に行く手間が省けるうえ、混雑する都市部の法務局で待つイライラも、パソコン一台で解消できそうです。

新制度では、ユーザーはあらかじめ利用登録を済ませたうえで閲覧申請用のホームページにアクセスし、画面上で希望する登記の閲覧申請を入力します。検索は短時間で終了し、間もなくパソコンの画面に情報が表示されるという手順です。

紙に印字して活用するのも自由です。ただし、偽造されることを防ぐため内容を書き換えると印字ができなくなる仕組みにするとのことです。

手数料は毎月一回、個人ならクレジットカードで、法人なら銀行口座からの自動引き落としで決済されます。手数料は未定だが、申請内容に応じて一件あたり千円から−500円程度が考えられています。「手軽に利用できるので、不動産取引の活性化の一助になる」と法務省は期待しています。

このように見てくるとKSKの全国展開の目途が付いたとき、添付書類の原本性の確保のないものからの電子申告が現実味を帯びてきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二、KSK(国税総合管理システム)

国税庁のADP化のあゆみ

国税庁では、大量のデ−タを迅速かつ的確に処理し、国税事務を合理的・効率化することを目的にコンピュ−タ化を進めてきました。

コンピュ−タ技術の第3世代のICが開発された昭和40年以後、東京国税局にバッチ処理方式のADPシステムを導入しました。ADPとはAutomatic Data Processing の略で、コンピュ−タを利用してデ−タを処理することです。その後、都市局にバッチ処理方式のADPシステムを順次導入してきました。バッチ処理方式とは収集したデ−タ等を1日分、1週間分、1ヶ月分などにまとめておいて処理する方式をいいます。

コンピュ−タは昭和40年代後半から第3.5世代のLSIと50年代後半の第4世代の超LSIの時代になり、56年から都市局に源泉所得税オンライン・システムの本格的導入が開始されました。59年には都市局以外の国税局に総合オンライン・システムを順次導入され、昭和の終わりの63年には全国のADP化を完了しました。オンライン処理方式とはホスト・コンピュ−タ(システムの中心となるコンピュ−タ)と端末機とを通信回線でつないでデ−タを処理する方式をいいます。

平成元年の消費税の創設に伴い、消費税のオンライン・システムが導入された頃にはコンピュ−タは第5世代の超々LSIの時代を迎え、コンピュ−タの小型化の進展が始まった平成3年に地価税のOAシステムが整備されるようになりました。

税務行政を取り巻く環境は、納税者数の増加、経済取引の複雑・広域化、情報化の急速な進展などにより、ますます厳しく、情報を的確に管理し効果的に活用できる情報処理システムを構築するなどにより、納税相談や調査などの各種施策ををより充実し、税務行政をより高度化していく必要がありました。しかしながら、その当時のADPシステムは都市局とその他の国税局で異なったシステムとなっており、また、業務ごとに構築され相互の結びつきが行われていないことから情報の効果的な活用のためのシステム改善や再構築を行う場合には、多大なコストを要する問題がありました。このほか、システムを構築して以来年月を経過しており、もはやその改善の積み重ねでは、情報技術の急速な進歩への対応が困難となっていました。

並列汎用コンピュ−タの実用化がなされ、インタ−ネットの普及がされてきた平成7年に国税庁は最新の情報技術を活用して、発展性のある新しいADP基盤システムを構築し、全国の全業務を総合的に管理するKSK(国税総合管理)システムを東京局の京橋署と川崎北署に導入しました。 

 

KSKシステムの導入スケジュ−ル

 


             11年11月

          9年11月 大阪局83署

       8年11月 東京局の63署     11年度以降

    7年12月 東京局の19署        順次拡大予定

 7年1月  仙台局の福島署、白河署

   東京局の京橋署、川崎北署

 現在:東京局84署、仙台局2署、大阪局83署の計169署

 

KSKの処理内容

KSKの処理内容の詳細については、国税庁より、公表されているものはないが、国税庁の「日本における税務行政」によれば、コンピュ−タの処理の概要はおおむね次のようになる。

イ、申告所得税事務
 申告所得税事務のうち、定型的な内部事務をコンピュ−タ処理して
 いる。具体的には納税者の申告事績等の基本デ−タにより、1、納
 税者に送付する申告書用紙への宛名、予定納税額の記入、2、申告
 額の検算・集計、3,高額納税者の公示者名簿、納税者名簿等の作
 成がある。

ロ、法人税事務

    法人税事務のうち、定型的な内部事務をコンピュ−タ処理して
    いる。具体的には法人の申告事績等の基本デ−タにより、1、申告 

    期限が到来した法人の抽出及び当該法人に送付付する申告書用紙へ

    の宛名、中間申告分の法人税額の記入、2、申告額の検算・集計、

   3、申告督促書、高額所得法人の公示表、地域別・決算期別の法人

   名簿等の作成がある。

ハ、源泉所得税事務

   源泉所得税事務のうち、定型的な内部事務をコンピュ−タ処理して
   いる。具体的には源泉徴収義務者の移動項目、納付事績等の基本デ

   −タにより、1、源泉徴収義務者に納付する徴収高計算書への宛名 

   記入、2、納付事績の検算・集計、3、加算税賦課決定決議書、未

   納催告状、源泉徴収義務者名簿等の作成がある。

二、 消費税事務

    消費税事務のうち、定型的な内部事務をコンピュ−タ処理している。
    具体的には納税者の届出項目、申告事績等の基本デ−タにより、1、

    納税者義務者に送付する申告書用紙への宛名、中間納付税額の記入、
    2、申告額の検算・集計、3、申告督促書、納税義務者名簿等の作
    成がある。

ホ、債権管理事務

    債権管理事務のうち、定型的な内部事務をコンピュ−タ処理してい

    る。具体的には納税者の申告及び納付事績等の基本デ−タにより、

1、 納税者に送付する納付書用紙への宛名等の記入、2、納付事績

の検算・集計、3、督促状、滞納処分等の作成がある。

へ、 資料情報事務

    コンピュ−タにより、商品の取引情報、利息の支払等に係る資料情
    報等の名寄せを行い、税務調査を支援するための資料を作成してい
    る。

 ト、 職員給与計算事務等

    国税庁全職員の給与計算、源泉所得税の年末調整等一連の事務を
    コンピュ−タ処理し、毎月の個人別給与支給明細書、年1回の所
    得税源泉徴収票を作成している。このほか、職員の厚生関係の事
    務についてもコンピュ−タ処理を行っている。

 このように、全国の全業務を総合的に管理することにより、各種施策において、他業務や他局署で収集した情報の活用が容易になるので、情報の多角的な分析と随時の活用が出来るようになります。申告・決算事績などの各種情報を蓄積・管理することにより、業種、所得金額、利益率等の注出条件を入力して調査対象の絞り込みを行うことも出来るようになります。

 納税者に対しては証明年分などを入力すると、納税証明書(所得証明を含む)が作成することが出来るので、従来よりも納税証明書を迅速に出来るようになります。また、税務相談を行う場合でも、判例や相談事例を検索できるシステムを活用することができるので、従来よりも充実した相談ができるようになります。

 デ−タ保護

KSKシステムは、全国を一元的に結ぶオンライン・システムですから、多数の職員がデ−タにアクセスすることになります。デ−タ保護のためにシステムを利用するときには利用者のID番号と暗証番号を組み合わせることにより、厳重にチェックされています。

国税庁はコンピュ−タにより管理するファイルとファイル記録項目の範囲については、国税事務の遂行に必要なものに限っています。また、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」(いわゆる「個人情報保護法」)に基づき、個人情報ファイル簿を閲覧に供するとともに、そのファイル簿に係る個人情報について本人から請求があった場合には、その情報を開示することとしています。

 これからはKSKで収集した情報と電子申告での収集情報との連動に事務効率化の期待が注がれています。

三、電子デ−タの保存

 高度情報化・ペーパーレス化が進む現在、帳簿書類の電子データによる保存は、税務においても時代の要請というべきものであリます。 紙の保存コスト削減等により納税者の負担の軽減にもつながるものです。

他方、帳簿書類は申告納税制度の基礎となるものであり、電子データによる保存が行われる場合においては、適正・公平な税負担の確保等の観点からの条件整備も必要であります。そのことから、国税庁の国税審議官の私的研究会として、「帳簿書類の保存等の在り方に関する研究会」が設けられ、この点についての検討がなされました。検討内容は真実性、可視性、証拠能力・証明力の観点から、電子データによる保存に必要な条件等についてであります。

 我が国においては、製造部門を皮切りに販売部門を通して、会計業務をコンピュータ処理する企業が大幅に増加しています。また、業務の効率化、迅速化とともに、ペーバーレス化も進みつつあります。

 現行の税制においては、帳簿書類は紙による保存が前提とされており、紙の保存コスト削減のほか省資源の観点から、税法上保存義務がある帳簿書類についても電子データによる保存を望む声が多くなっています。

 米国をはじめ世界の主要国においては、税法上の帳簿書類について、電子データによる保存を行うための諸制度を既に整備しているところがあります。

 例えば、米国、ドイツにおいては、法令等で詳細に条件を規定しており、英国、フランスでは、税務調査に際してコンピュータにアクセス可能であること等税務調査時の権限を中心に簡潔に規定整備を行っています。

 このような現状から、高度情報化・ペーパーレス化が進む現在、帳簿書類の電子データによる保存は、税務においても時代の要請というベきものであり、紙の保存コスト削滅等により納税者の負担の軽減にもつながるものなので、法律の制定となりました。

 他方、帳簿書類の電子データによる保存が行われる場合には、税務執行面における税負担の公平確保の要請についての配慮が必要がです。従って、改ざん、消去が容易である等の電子データの特性を十分考慮し、電子データによる保存については、真実性、可視性、証拠能力・証明力の観点から十分に検討を行う必要があります。その場合には、納税者の実態に即したものとするとともに、情報化の進展を阻害することなく、また、納税者にとって多大な負担とならないよう配慮することが適当です。

 どんな帳簿書類が電子保存を認められるのでしょうか。一般的に会計システムでは、取引記録となる領収書、請求書などの証憑類をコンピュータ入力し、仕訳帳、決算書類、請求書などの会計帳簿類を作成しています。今回の改正では、各種の会計帳簿書類のうち、自己がコンピュータを使用して作成した仕訳帳、決算書類、相手方に交付する請求書の控えなどに対して電子保存が認められることとなりました。対象外となるのは、上記帳簿書類を手書きで作成した場合、相手方から受け取る請求書などです。

 電子保存を行う場合の基本的考え方

コンピュータ会計の場合は、遡及して容易に改ざん、消去等を行うことが可能です。しかも何らの痕跡も残さず行うことができます。そのため処理の適否について肉眼で確認することが不可能であるという特性を有しています。そのことからデータ内容や処理過程が適正であることが確認可能とする必要があります。また、税務調査の際の可視性の確保についても配慮しなければなりません。

 電子保存を行う場合の要件

 帳簿書類(仕訳帳・総勘定元帳など)を電子保存する場合には,真実性と可視性の確保が強く要求されることになります。

真実性の確保は訂正加除の履歴の確保と帳簿間の関連性の確保からなります。削除訂正については、いわゆる反対仕訳で処理し、追加訂正については、個々の記録への入力日や一連番号などを付けることにより処理します。一定期間経過後の電子保存の段階では加除訂正ができないのが一般的となるでしょう。帳簿間の関連性の確保はある帳簿に記録されている事項が、他の帳簿に記録されている場合には、帳簿間で相互に関連性を確認できる必要があります。そのためには、一連の番号を付けることになります。電子保存の認可を受けるために、なぜこういった真実性の確保が要求されるのかは、電子データは、紙に比べて、改ざんした跡が残りにくいことや、従来は、手作業による記帳時代の業務が前提になっていることによります。

 可視性の確保は見読装置の備え付けと検索性の確保がポイントになります。

ディスプレイやプリンターなどに、電子保存された帳簿書類を、画面や書面に整然と明瞭かつ速やかに出力できるようにしておく必要があります。検索性の確保は帳簿書類の主要な項目を検索条件とし、条件の組み合わにより、電子保存された帳簿書類の内容を検索できる機能を確保しておきます。これらを実現するためには、次の二通りの方法が考えられます。その1つ目は、会計システム単独で確保する場合です。パソコン会計ソフトを利用し、そのソフトが帳簿保存法に対応して販売しているときなどが該当します。二つ目は、大型汎用機などで会計システムを運用している場合,たとえば大型汎用機で帳簿書類のデータを保存すると、膨大なデ−タの中に同居するために、可視・検索性が低くなるため、パソコンなどの安価で可視・検索性が高いシステムで帳簿書類を保存し,可視性を確保するケースです。

法定帳簿の電子保存化の申請については、平成10年7月1日から開始され、電子保存の備え付けを開始する日の3月前(平成11年6月30日までの間においては5月前)までの日に提出する必要があります。電子保存する帳簿書類は,企業ごとでの選択が可能です。

 (財)日本情報処理開発協会は、平成6年、上場企業231社を対象にアンケートを行い、上場2,138社全体の「紙」による帳簿書類のコスト負担を812億円と推計しています。その内訳は、倉庫などのスペース賃貸料が492億円、保存委託費用が128億円、紙への出力費用が192億円でありました。 

 

 

 

 

1、情報化時代の会計処理

◯ 手作業会計処理による帳簿書類の作成・保存

証憑書類

取引記録

請求書等

伝票

 

帳簿

仕訳帳

総勘定元帳

 

税務

申告書

 

 
 

 

 

 

 

 


◯ コンピュ−タ会計処理による帳簿書類の作成・保存

 ・経理部門でデ−タ入力する場合

         コンピュ-タ処理 

       input     output

証憑書類

取引記録

請求書等

伝票

 

仕訳ファイル

 

帳票集計

ファイル

 

 

税務

申告書

 

 
 

 

 

 

 

 

 


 ・各業務システムから自動仕訳される場合

         コンピュ-タ処理 

       input     output

証憑書類

取引記録

請求書等

 

取引ファイル

自動仕訳

仕訳ファイル

帳票集計

ファイル

 

 

税務

申告書

 

 
 

 

 

 

 

 


2、帳簿書類の電子デ−タによる保存について

企業を取り巻く環境は次のように変化しています。

 

 ・コンピュ−タの普及

 ・高度情報化・ペ−パ−レス化の進展

 ・コンピュ−タ会計やコンピュ−タを利用した帳簿書類の作成の普及

 

このような背景から、

帳簿書類の電子デ−タの保存容認が求められてきました。

 

 コンピュ−タ作成の帳簿書類

  仕訳帳、総勘定元帳等の各種帳簿

  損益計算書、貸借対照表等の決算関係書類

 コンピュ−タで作成し相手方に紙で交付する領収書等の控え

  レジペ−パ−控え

  ATM取引記録

 

 

このことが納税者の負担軽減につながります。

 

 必要な条件整備として、

 

 「可視性」 アウトプット機器の設置等

 「真実性」 訂正・加除履歴の確保、ブラックボックス化の防止等

 「証拠力」 原始証憑の紙による保存

 

 

3、帳簿書類の電子デ−タによる保存の容認に係る負担軽減効果(試算)

 

企業

保存量

保存

スペ−ス

年間保存

コスト

負担軽減効果

--

会計帳簿等   約5千箱

証憑書類    約2千箱

外部倉庫等

約4百坪

約3千万円

保存量

71%減

--

会計帳簿等  約12千箱

証憑書類   約56千箱

外部倉庫等

約8百坪

約5千万円

保存量

18%減

-パ-

会計帳簿等   約7千箱

証憑書類  約122千箱

 ・レジ記録紙 約90千箱

  ・納品書   約32千箱

外部倉庫等

約3千坪

約1〜

1.5億円

保存量

75%減

(注)1、会計帳簿とは、仕訳帳、総勘定元帳等の各首長簿、損益計算書、

     貸借対照表の決算関係書類をいう。

   2、保存コストとは、外部倉庫等の保管料、用紙代、出力費用の合計

   3、「負担軽減効果」欄は、アンダ−ラインを付した会計帳簿等、証

     憑書類を電子デ−タ保存するものと仮定して、保存量の減少割合

     を試算。(企業からのヒアリングによる)「政府税調提出資料より」  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四、行政情報化基本計画の改定について

紙から電子化への強力な推進役は行政情報化基本計画ですので、中身について少し見てみます。

行政の情報化については、「当面の行政改革の推進方策について」(平成61225日閣議決定 )の行政情報化推進基本計画に基づき、平成7年度を初年度として、総合的・計画的に推進していました。その計画が進行中にも、ネットワークを始めとする情報通信基盤の整備は大きく進展してきています。これを活用し、より一層の事務・事業の効率化・高度化、国民サービスの質的向上につなげる具体的な施策の展開を図るべき状況にあります。

また、行政の情報化を取り巻く環境は、インターネットの急速な普及、電子商取引の実用化の動き等の社会の情報化の進展、申請・届出等手続に係る国民負担軽減に対する要請の顕在化などを始めとして、大きな変化をみせてきています。また一方では、行政を含む公共分野の情報化について、高度情報通信社会の構築に当たって、先導的役割を果たすことが求められているとともに、行政の情報化に関するG7共同プロジェクトへの参画等国際的な取組への対応も必要となっています。

このような状況を踏まえ、行政情報化をより一層強力に推進するため、「行政情報化推進基本計画」を改定しました。行政情報化推進基本計画の目的は、第一に情報通信技術の成果を行政のあらゆる分野に活用し、併せてこれ までの制度慣行も見直して、行政サービスの飛躍的な向上と行政運営の簡素化・迅速化を目指すものであります。このことが行政改革を推進していくための重要な手段なのです。

当初は平成7年度からの5か年計画を策定しました。その後、中央省庁の職員一人一台パソコンの配備、各省庁LAN(庁舎内ネットワーク)、霞 が関WAN(省庁間ネットワーク)等基盤整備が大きく進展しました。我が国社会において、パソコンとそれを結ぶインターネットの普及とともに、電子商取引等の動きが具体化しました。また、申請手続等の電子化による国民負担の軽減や行政部門の情報化が社会全体の情報化の先導的役割を担うことへの期待の高まりなどに対応するために現行計画を全面的に見直しました。改定計画は平成10(1998)年度から14(2002)年度までの5か年となります。

計画目標は行政の情報化により、事務・事業及び組織の改革を推進するとともに、セキュリティの確保等に留意しつつ、「紙」による情報の管理からネットワークを駆使した電子化された情報の管理へ移行 し、21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目指すことです。

計画改定の主な内容は、第一に申請手続等の電子化の推進、ワンストップサービスの段階的実施、インターネッ ト等による行政情報の提供の推進です。二つ目は総合的文書管理システム、公文書の交換システムなどLAN、霞が関WANを高 度に活用する各種システムの整備です。第三番目は霞が関WANの活用による地方公共団体、特殊法人等を結ぶ総合的・広域的ネッ トワークの整備です。最後に情報通信ネットワークの高度利用に不可欠な電子文書の原本性、受発信者の認証の仕組み、手数料等の納付方法などの共通課題の早期解決です。 

行政情報化推進の基本方針は前回の計画改定を踏まえて、社会の情報化の進展に対応した行政情報化の推進を心がけています。

ポイントは情報通信技術による広範な行政情報の提供と行政手続きに係る国民負担の軽減です。具体的には日々公表される報道発表資料、国民生活に必要な各種の行政情報などについて、広範にインター ネット・ホームページを活用しオンラインによる提供を進めるとともに、提供内容の充実、タイム リーな提供を一層推進します。また、国民からの意見、要望、問い合わせの受付等にインターネットを活用します。白書・年次報告書等の行政の現況を国民に知らせることを目的とした行政情報について、インタ ーネット、CD−ROM等の電子的な手段・媒体による提供を一層推進します。各種の統計情報等社会的利用価値の高い行政情報について、国民のニーズに応じたデ−タの標準化等を行いつつ、電子的な手段・媒体による提供を推進します。地理情報システム(GIS)の効率的な整備、相互利用の促進及びその利活用分野の拡充を図ります。国民に提供可能な行政情報の所在案内について、「行政情報の社会的活用のためのクリアリング(所在案内)システムの統一的な仕様について」(平成8618日行政情報システム各省庁連絡会議了承)に基づき、平成11年度(1999年度)までに総合案内クリアリングシステム及び各省庁クリ アリングシステムを整備するとともに、当該システムの内容の充実、タイムリーな掲載等を推進します。また、総合案内クリアリングシステムの一環として、各省庁がインターネット・ホームページで提供する行政情報の検索、案内サービスを行い、アクセスの利便性の向上を図ります。

負担の軽減では申請・届出等手続の電子化とワンストップサ−ビスの実地です。申請・届出等手続について、「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」(平成89 2日行政情報システム各省庁連絡会議了承、9718日改定)に基づき、原則として平成10年度(1 998年度)末までに可能なものから早期に電子化を行います。また、手続のオンライン化に当たり本人 確認等の課題の解決を要する手続については、早期にその課題の解決を図りオンライン化を実施します。電子化に当たっては、自動受付等による受付処理時間の延長・24時間化の推進や、システムのネ ットワーク化等による申請地制限の緩和、アクセスポイントの拡大の推進などの利便性の向上を図ります。

最後はワンストップサービスの実施です。国民生活、企業活動等に必要な行政手続、行政情報の提供等について、地方公共団体等との連携・協力を図りつつ、情報通信技術を活用した手続の案内・教示、必要な行政情報の提供、各種施設 の利用案内・予約、申請・届出等の受付、結果の交付等の行政サービスを総合的・複合的に提供する、いわゆる「ワンストップサービス」を制度的、技術的課題の解決を図りつつ段階的に実施します

国民に対して、インターネットを活用し、一つの画面で各種の行政手続、行政情報の提供等のサービスを提供する総合行政サ−ビスシステムを整備します。また、電子的なアクセス手段を持たない国民に対しては、身近な場所で、例えば、郵便局などに於いて上記システムと同様のサービ スの提供が可能となるよう必要な方策を講じられています。

 

 図 総合行政サ−ビスシステムのイメ−ジ

 

A 省

 

C 公団

 

D 自治体

 
 

 

 

 

 


  国の行政機関等の横断ネットワ−ク(霞ヶ関WANの活用)

  

 

 

 


   ネットワ−ク上の総合行政サ−ビスシステム

 

 

 

 


        インタ−ネット

 

 

 

 

 


   企業       家庭      既存施設・窓口

                   (インタ-ネットにアクセスできない人)

                 「行政情報化白書より」

五、アメリカの電子行政革命

 情報処理技術の高度な発達は企業や組織の執行体制に大きな変換を求めています。財務戦略の最高責任者がCFOであるように、ある組織の情報戦略の立案と実施に責任をもつのがCIOです。いずれも企業業績をあげるために、アメリカの民間企業で発達した職責です。クリントン政権は、行財政改革を進めるため、公共部門にもこの両者を導入し、大きな成果をあげています。野村総研レポ−トを参考に見てみます。

 1996年に成立した「IT管理改革法」に基づき、同年夏には27省庁でCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)が誕生しています。官庁CIOに求められる資質やCIOの機能についても、まだ現実と理想に乖離がみられるものの、CIO制度そのものは定着したようです。一方、各省庁のCIOが参加・協力する「CIO協議会」は、行政府全体の情報化を促進するうえで、予想以上の成果をあげているようです。アメリカと同様に、日本でも行政の業績が厳しく問われる時代を迎えています。省庁再編を機に、わが国でもCIO制とCIO協議会の発想を導入し、情報技術の戦略的利用を通じて、早急に公共部門全体の効率と透明性を高める工夫をすべき時期にさしかかったといえましょう。

 CIOの任務は、各組織のトップレベルでIT戦略を立案し、その実施を統括することです。大手金融機関やフェデラル・エクスプレス、ウォルマートなど、ITの活用いかんで競争力に差がつきやすい業界を中心に90年代初頭に普及し、現在では多くの米国企業がこのCIO職を設けています。民間企業で定着したCIO職を政府機関にも設置するという米国政府のユニークな施策は、行政府・立法府の双方が約3年間にわたって、IT管理のあるべき姿を模索してきた結果です。

 クリントン政権は、93年の政権発足直後から、ゴア副大統領のリーダーシップの下で、「国家業績評価」(NPR:National Performance Review)と銘打った包括的な行政改革を開始しました。その一環で94年5月に『ITを通じたリエンジニアリング』(Reengineering through Information Technology)という報告書を発表しました。「行政サービスの合理化と生産性拡大に向けて、ITを積極的に活用し、そのためのリーダーシップと支援体制(インフラ、調達制度、職員教育など)を確立する」という目標が明記されています。

 この報告書に盛られた提案の中で、とくに興味深いのは、行政情報化のリーダーシップを担うべき機関として、ホワイトハウスのような単一の機関ではなく、省庁横断型の柔組織ともいうべき「情報インフラ・タスクフォース」(IITF:Information Infrastructure Task Force)を掲げたことです。IITFは、情報スーパーハイウェイ構想(NII)に沿った政策立案機構として、連邦政府の幅広い省庁から、局長・次官の幹部級の人材を集め,94年初めに発足しました。その主な役割は、ITおよび市場の発達を促進するために、多様な観点から情報政策のあり方を協議することにありました。

 政権トップからの一方的押し付けではなく、広範な問題点の発掘と討議をめざしていた。IITFのこうした特質は、後にCIO協議会の基本的な枠組みにも受け継がれていきました。

 一方、連邦議会でも94年5月に,CIO職設置のきっかけとなるもうひとつの重要な報告書が発行されました。議会付属の会計検査院(GAO:General Accounting Office)がまとめた『戦略的情報管理と技術を通じた事業成果の改善』がそれです。

 このレポートは、ITを効果的に活用して効率と競争力を高めた民間企業の事例を紹介し、翻って、連邦政府のIT利用の不十分な実態を強く批判した。それは、当時の多くの官公庁が、利用価値のなくなったコンピュータや非効率的なシステムに予算を投じて国税を浪費していたうえに、どれだけの金額がITに投じられているのかという実態さえ正確に把握していなかったからです。GAOは、「かかる事態を看過するなら、連邦政府は納税者である国民に申し開きができない」と、公共部門のIT管理改革の必要性を強く訴えました。

 各省庁にCIOをおくというアイデアは、ITを戦略的に活用して競争力を高めてきた民間企業だけでなく、行政改革の一環として一足先に主要省庁に設置されたCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)の活躍からもヒントを得たものです。同じく連邦議会の命によって90年に誕生したCFO職は、各省庁予算の透明度や管理方法を改善するうえで、着実に成果を上げつつありました。これに意を強くしたコーエン議員らは,ITマネジメントの分野においても同様の効果を引き出そうと考えたのです。

CIOの役割は省庁内のあらゆる情報リソース(技術、システム、データ)の総合的な管理です。

CIOに求められる資質は産業界における経験、技術・経営の両面にわたる造詣の深さと省庁トップとIT部門をスムーズに橋渡しできる政治力です。CIOの個人的資質だけでなく、CIO職の組織的位置づけが重要です。

 該当する省庁は、CIO探しを開始したものの、現実には、多くの省庁にとって先にあげた条件をすべて満たすような人材を迎えることは至難の業でありました。大統領府の行政管理予算局は98年2月の大統領予算教書を皮切りに始まる99年度予算(9810月〜99年9月)審議の期間中に、各省庁のCIOの実態を詳細に見直す意向を表明しています。しかし、見直し後の具体的な対策は、まだ明らかになっていません。

 一方、法的にCIO職設置を義務づけられたこれらの省庁以外でも、CIOの採用が相次いでいます。内国歳入庁(IRS)のCIOであるアーサー・グロス氏は、ニューヨーク州の課税当局から登用され、いまIRSの巨大システムの再構築に取り組んでいます。97年秋にIRSの新長官に就任したチャールズ・ロゾッティ氏にいたっては、システム・コンサルティング会社AMS社の創業社長から転じた人物であり、まさにCIOの素養をもった長官ということになります。

米国政府が取り組んでいる包括的な行財政改革を母体に生まれたCIOは、行政府におけるIT活用と管理のあり方を大きく変えようとしています。そのユニークな仕組みや活動方針は日本にとっても大いに参考になるはずです。

野口義之、「アメリカの電子行政革命」、『野村総研レポート』、1998.1.28

 六、電子署名

電子申告が導入される前提として、送付されてきた申告書が真実本人のものであるかどうかが問題となります。誰かがあなたになりすまして、商品の購入をしたり、建物の移転登記の申請をしたり、所得税の申告をインタ−ネットを使って行うことが可能です。その申請や申告が申請者等の本人からのものであることを担保するために電子署名が問題となってきます。

情報機器及び通信手段の急速な発展及び普及に伴い、売買契約の申込み、承諾の意志表示等取引に関する情報を電子的に交換して行う「電子取引」や公的機関等への申請や届出を電子的に行う「電子申請」が既に一部で実施されています。今後もさらに活発化することが予想されて法務省民事局に於いて、「電子取引法制に関する研究会」が平成8年7月22日に第1回の会合を持ち、10年4月に報告書を提出していますので、その報告書を参考に電子署名について現状を見てみます。

電子取引や電子申請においては、取引の当事者が面前に相対したり、申請者等が公的機関等へ出頭して行うものではありません。取引の相手方又は申請者がだれであるかを確認するための制度の整備が重要です。

特に、電子取引においては、特定企業間における取引に加え、不特定企業間又は企業と一般消費者間の電子取引が活発化することが予想されます。このようなあらかじめ当事者を特定できないいわゆるオープンな取引においては、事前に取引当事者間で取引相手の情報を収集し、それぞれの当事者に特有のパスワード等を付与し、これを用いて取引の相手を確認することができません。そのため、取引の相手を確認するための制度の必要性が高くなります。

一方、公的機関への申請、届出等についても、平成9年2月に閣議決定された「申請負担軽減対策について」によれば、窓口サ−ビスの向上を図るため、今世紀中を目処に、公的機関への申請、届出等の電子化を実現すべきこととされています。申請する者が司法書士・行政書士等の特定の資格等を有する者に限られるような場合を除き、申請者等をあらかじめ登録することができません。今後、一般申請者等からの電子申請を実現し、普及させるためには、申請者等を特定し、その同一性等を確認するための制度の整備が不可欠となります。

また、電子化された情報は、容易に改変される恐れがあることから、取引に関する情報や申請等の内容が改変されることを防止するための制度も必要になります。さらに,取引に関する情報や申請等の内容が他に漏れることがないようにするための手段も講じる必要があります。

法務省民事局では、電子取引に関して生じる種々の問題について,民事基本法である民法,商法等の立場から検討を加え,法的整備の必要性等について研究するとともに,公証人制度,商業登記制度等,既存の関連する制度の変革のために必要な手当てについて検討することとしました。電子取引法制研究会の委員は、法律学者及び法律実務家に加え、暗号学者,通信技術者その他電子取引に関連する学識を有する者としました。

研究会は、検討課題を二つに分けて小委員会を設けました。一つは取引の相手方や申請人の同一性等を証明する制度等について検討する制度小委員会です。もう一つは電子取引に関する実体法制上の問題点、法的整備の必要性等について検討する実体法小委員会です。

電子取引や電子申請が安全かつ確実に行われるためには、取引の相手方や申請者がだれであるかを特定した上、現実に取引や申請に係る情報を作成した者が、本当にその特定された者であるのかについて,その証明権限を有する者から証明してもらう制度が必要になります。このような制度を「電子認証制度」といいます。また、電子的に作成された契約書、申請書等については、後にその作成に関与した者が本当に契約書等に記載された者であったのか、また、契約を締結する権限を有していたのかということが争われることがあります。特に、電子的な情報は、改変されやすい上、その痕跡が残らないため、改変の内容の特定が困難な場合もあります。そこで、電子的に作成された契約書、申請書等について、公けに証明する権限を有する者から、それらが真正に成立し、内容的にも問題がないことを証明してもらい、また、確定日附の付与を受けて契約の成立時期等を明確にしてもらうための制度が必要になります。また、電子的に作成された契約書や申請書の内容が後に問題となった場合に備えて、これを保存してもらい、必要に応じて、その内容等を証明してもらうための制度が必要になる。このような制度を「電子公証制度」といいます。

 電子認証・公証制度に期待される役割の重要なものは,不特定の相手方に電子情報の作成者が特定の者であることを証明すること及び電子情報の内容が改ざんされていないことを証明することです。また、電子取引の当事者間又はこれらの者と電子認証・公証を行う機関との間の電子情報の伝達に際しては、その内容を特定の相手方以外に秘匿することが必要になります。電子認証・公証制度に、このような機能を持たせるための方法としては、暗号技術の活用が有益であると考えられます。

暗号には,情報内容を秘匿する守秘機能と情報の作成者又は情報の内容の同一性を証明する認証機能とがあります。守秘機能に着目していえば、だれにでも判読可能な文章(平文)を、特定の知識を用いて初めて判読できる文章(暗号文)に変換することを「暗号化」、暗号文を平文に変換することを「復号」といいます。暗号化のために必要な特定の知識を「暗号化鍵」といい、復号のために必要な特定の知識を「復号鍵」といいます。一方、認証機能に着目していえば、平文を、特定の知識を用いて、文章の作成者の同一性又は改ざんの有無の検査が可能な文章(認証文)に変換することを「認証文の生成」、認証文を平文に変換することを「復号」といいます。この場合には、認証文の生成に必要な特定の知識を「認証文生成鍵」、認証文の検査又は復号のために必要な特定の知識を「検査・復号鍵」と呼んでいます。

現在、実用化されている暗号の方式としては,暗号化鍵又は認証文生成鍵と復号鍵又は検査・復号鍵が共通である「共通鍵方式」と暗号化鍵又は認証文生成鍵と復号鍵又は検査・復号鍵が異なる「公開鍵方式」とがあります。いずれの方式においても、情報の秘匿や情報の作成者又は内容の認証が可能であるが,両者には,次のような差異があります。

「共通鍵方式」については、高速な処理が可能であり、実用の場面では、電子情報の本体の暗号化は、この方式を利用して行われるのが一般です。

「公開鍵方式」については、共通鍵方式に比較すると、処理の速度が落ちるが、この方式によるときは、相手方に対して認証文生成鍵(「秘密鍵」とも呼ばれる。)を開示することなく、この秘密鍵保有者でなければ認証文を作成できません。また、このようにして作成された認証文につき、相手方は、開示されても差し支えのない検査・復号鍵(「公開鍵」とも呼ばれる。)により、検査又は復号をすることができます。このように平文に対して、作成者以外でも検査ができる認証文を付けることにより、作成者に固有な署名と同等の機能を持たせることができるため、これを「電子署名」と呼んでいます。

   図1 共通鍵暗号方式

 

「本日は晴天なり〜」 暗号化  「たちぬるよ〜」  復号

 

                  (通信)

       Aさん                     Bさん

 

 


      秘密の共通鍵         「本日は晴天なり〜」

 

                     出所:日本経済新聞より

現在、電子情報の作成者の同一性を確認したり、内容の改ざんを防止する認証又は作成情報を秘匿する守秘方法として、公開鍵方式の有用性が主張されていますが、この方式による認証及び守秘の基本的な仕組みは,次のとおりです。

・不特定の相手に作成者の同一性を証明する方法(作成者の認証)

  Aは,自分が作成した電子情報を自分だけが有している秘密鍵で変換します。Aの秘密鍵で変換したものは、この秘密鍵に対応するAの公開鍵で復号

  図2 公開鍵暗号方式

「暗号化する鍵と複合化する鍵が違う」のがみそ

        Aさん用    Bさん用     Cさん用

公開され  

ている鍵       

 

 

 

「本日は     暗号化 「たちぬるよ〜」 復号   本日は

  晴天なり〜」                    晴天なり〜」

 

    Aさん       (通信)          Bさん

                  

  公開されているBさんの       Bさんしか持っていない

  公開鍵で暗号化           秘密鍵で複号

 

することができます。逆に言うと、Aの公開鍵で復号できるものは、Aの秘密鍵で変換したものであり、したがって、Aが作成したものであることが明らかになります。そこで、認証機関が,特定の鍵がAの公開鍵であることを証明することによって、電子情報の作成者が間違いなくAであることが証明されることになります。これが、電子認証の最も基本的な仕組みです。

 ・内容が改ざんされていないことを証明する方法(内容の認証)

 ここでは,電子署名(デジタル署名)という方法が用いられます。

この方法の一例として、電子情報に、これをハッシュ関数で圧縮した上でAの秘密鍵で変換した署名情報を付加して送信する方法があります。圧縮された情報は、二度と元に戻らないため、これをAの公開鍵で変換前の情報である平文に戻して改ざんを加えることはできません。そこで、電子情報を送られた者は、平文を圧縮した情報と署名情報を公開鍵で元に戻した圧縮された情報とを照合することにより、平文が改ざんされていないことを確認することができるという仕組みです。ここでも、Aの署名情報を元に戻すために、その公開鍵を使用しますが、その公開鍵が有効であることを証明する認証機関が必要になります。

・電子情報を特定の相手以外に秘匿する方法(守秘)

 この場合、Bは、Aの公開鍵で電子情報を暗号化して、これをAに送信します。Aの公開鍵で鍵をかけられたものは、Aの秘密鍵でしか開けられないため、これをA以外の者が見ることはできなく、送信された情報の秘密性が確保されます。

図3 デジタル署名の実現方式

 

「本日は     暗号化 「たちぬる〜」 復号    ハッシュ化

  晴天なり〜」  

 

 


 ハッシュ化                                        照合

 

 

 


         暗号化 「PQRST〜」 復号   <結果>

                         ・改ざんの有無

MD(メッセ−ジ                 ・送信相手の確認

 ダイジェスト)      (通信)         

         Aさん         Bさん

 

  Aさんしか持っていない       公開されているAさんの

  秘密鍵で暗号化           公開鍵で複号

 電子認証の意義

電子取引及び電子申請においては、取引又は申請の相手方を確認するための認証をいかにして行うかが問題となります。このような認証の手段としては幾つかの方法があります。その中でも特に注目を集めているのが、既に実用化されている公開鍵暗号方式を利用したデジタル署名です。電子認証を実現するために電子的なデータに施される一定の情報処理の結果を総称して「電子署名」といい、このうち公開鍵暗号方式を利用するものを「デジタル署名」ということです。

 こうしたデジタル署名においては、デジタル署名のなされた電子的なデータの作成者がだれであるかを知るためには、そのデジタル署名を検証するために用いられるのが公開鍵ですが、だれが使用すべき秘密鍵に対応するものであるかを知る必要があります。このような公開鍵と特定の者とを結び付ける情報を取得する方法として、オープンなネットワークにおいて不特定の者との間でデジタル署名を用いた通信を行う際には、認証機関の存在が必要となります。

認証機関の役割は、例えば、次のようなものになります。データの送信者は、あらかじめ、自らがデジタル署名を作成するために用いる秘密鍵に対応する公開鍵を認証機関に登録します。次に認証機関のデジタル署名が付された電子的なデータ(以下「電子証明書」という。)を認証機関から取得して、自らのデジタル署名が付されたデータを電子証明書ととともに、通信の相手方に送信します。データの受信者は、電子証明書に記載された公開鍵によってデータの送信者のデジタル署名を検証して、データの送信者が電子証明書に名前等が記載された者本人であるか、署名後にその内容が改変されていないかを確認します。このような認証機関は、既に幾つかの国において設立されており、わが国においても、幾つかの民間企業が認証機関としての業務を開始しています。

米国のカリフォルニア州のシリコンバレ−にベリサイン社があります。

 

  商業登記制度に基礎を置く電子認証制度

電子認証は、電子的なデータの伝送において、通信の相手方を確認するための方法ですが、このような相手方の確認は、電子取引及び電子申請だけでなく、従来の取引や官公庁への申請においても行われています。相手方の同一性を確認する方法の中でも、商業登記情報に基づき発行される登記簿謄抄本、資格証明書及び印鑑証明書は、相手方の実在、代表権の存在及び代表者の同一性を確認するための手段として広く利用されています。そこで、電子取引においてもこうした商業登記情報を活用した信頼性の高い電子認証制度を構築することが望ましいと、平成12年から稼働される予定です。

公証人制度に基礎を置く電子公証制度

  従来の書面による取引においては、その安全を確保するために、商業登記制度と並んで、公証人制度が利用されています。公証人は、確定日付の付与、私署証書の認証といった業務を行うことにより、ある書面が一定の時期に存在したこと、その書面が真正に成立したこと等を明らかにするほか、一定の法的効力を有する証書である公正証書を作成しています。こうした公証人制度は、ある事実の存在を公に証明することにより、当該事実の存否について後日紛争が生じることを未然に防止する等の役割を果たすものであり、実際の取引において広く利用されています。しかし、現在の公証人制度においては、その対象は書面に限られており、電子的なデータについての公証サービスは提供されていません。現在の公証事務を電子的なデータについても実施することが必要であると準備中です。

 電子署名に関する法的整備

デジタル署名を含む電子署名は、その名前が示すとおり、署名又は押印と同様の機能を果たし得るものとみなされます。そこで、電子署名に現行法上署名又は押印に認められている効力と同様の法的効力を認めることができないかが問題となります。また、オープンなネットワークにおける電子署名の利用において重要な役割を果たす認証機関について、何らかの法的枠組みを設ける必要がないかという問題も存在します。さらには、電子取引の当事者間の関係や、認証機関と電子取引の当事者との間の私法的関係について、何らかの法的手当てが必要かどうかという問題も存在します。こうした問題に対応するため、米国の諸州、ドイツをはじめとする諸外国では、いわゆる電子署名法を制定し、電子署名に一定の法的効力を認め,又は認証機関に関する一定の公法的又は私法的な枠組みを設ける取組みがみられます。

 ドイツで中央電子認証局が始動する。

  日経産業新聞によれば、ドイツで法的有効性をもつ電子署名の利用が近く本格的に始まる見通しです。このほど通信郵便規制監督庁がマインツに配置された中央電子認証局の運営を開始しました。これにより民間企業などが認証局(TC)を開設する基盤が確立しました。TCの事業認可を申請していたドイツテレコムは平成10年10月末前後のTCサービス開始を見込んでいます。

 中央電子認証局はTC事業の認可と事業監督の役割を担います。同国でTC第一号となるドイツテレコムによると、TCは電子署名に必要な「公開カギ」と「秘密カギ」を作成します。秘密カギはTCと本人だけの保有で、利用者に秘密カギ情報を備えたICカードを発行し、電子署名された文書が本物であるかどうかを確認するソフトを提供します。

  またTCは公開カギが秘密カギと一対であることを認証し、認証済み公開カギのリストをCD―ROMなどで利用者に定期的に配布します。文書の差出人は秘密カギで本人情報を加えると同時に文書を暗号化します。受取人は公開カギで文書を復号化(解読)し、TC提供の確認用ソフトでこの文書が本物であることを確認する仕組みです。ドイツでは電子署名の法的有効性を認めるマルチメディア法が平成9年8月に発効しています。

 オンライン登記情報提供制度の概要

  平成11年1月に法務省民事局からオンライン登記情報提供制度の概要が公表されました。オンライン登記情報提供制度は、登記事務を電子情報処理組織によって取り扱う登記所の登記簿に記録された情報(以下「登記情報」という。)を、インターネット回線を利用して一般利用者が自宅又は事務所のパソコンで閲覧することができるようにする制度です。一般利用者は、これまでは、登記所まで出向かなければ登記情報を入手することができませんでした。オンライン登記情報提供制度が実現すると、これを利用することにより、居ながらにして登記情報を閲覧することができるようになります。登記情報を閲覧するための時間と手間が大幅に縮減されることになるのです。 

  なお、本制度については,政府の規制緩和推進三か年計画(平成10年3月閣議決定)において、平成11年度中に法改正等の措置を講ずることとされており、通常国会において「電気通信回線による登記情報の提供に関する法律案」(仮称)を提出する予定である。

図:いまでは

 


  一般家庭

 


                           登記所

                          

        お金を  銀行           受付

        借りたい

                             登記事項

                             証明書発行

           司法書士    申請        

           土地家屋調査士  &         

                   閲覧        

 

 


                              閲覧

   家を買いたい  建設                 

           不動産会社

                        「法務省民事局より」

提供する情報は不動産登記、商業・法人登記の登記簿に記録された事項の全部についての情報です。

利用方法と手順については次のとおりです。オンライン登記情報提供制度を利用しようとする者は、あらかじめ指定法人に利用者の登録をします。登録利用者は、自宅又は事務所のパソコンからインターネットを利用して、指定法人に対し、登記情報の提供を請求します。指定法人は、登録利用者の請求に基づき、専用回線を利用して、登記所のコンピュータ・システムに対し、登記情報の提供を請求します。登記所のコンピュータ・システムは、指定法人に対し、請求に係る登記情報を送信し、送信された登記情報はインターネットを利用して、登録利用者に送信されます。登録利用者は、送信された登記情報をパソコンの画面に表示し、又は印刷して、その内容を確認します。指定法人は、指定法人は,毎月一定日に、登録録利用者からクレジット決済などで利用料を徴収し、国に対して登記手数料を納付します。

 図:これからは いつでも・どこからでも登記簿の閲覧が可能

               

  一般家庭          指定法人       登記情報

         オフィス・」               システム

         自宅から   ファイア・

 司法書士    閲覧申請   ウオ−ル  検索

土地家屋調査士

          インタ-                登記情報        

          ネット         専用線    統合DB 

  銀行

          登記 

          事項          

  不動産会社   表示          登記事項転送 

  建設                    

                       「法務省民事局より」

七、納税者番号制度

 電子申告が導入される前提条件として、技術的な問題は情報通信技術の画期的な進歩により、解決されています。それ以外の問題として、電子申告されてきた裏付けに納税者番号制度の導入が避けられません。

 納税者番号制度については、国際的な資金移動の活発化など経済取引のグローバル化の進展や、今後の電子商取引の発達による経済取引の一層の多様化、複雑化等の経済社会情勢の急速な変化に対応した課税の適正化の観点から、当然必要になってきます。税制調査会の基本枠組ワーキング・グループの中間とりまとめにおいても、各種カードの普及に伴う番号利用の一般化、行政による全国一連の番号の整備の状況等を踏まえながら、納税者番号制度の具体的なケースを想定して、その得失について検討を進める必要があるのではないかとの論点や、タックス・コンプライアンス(税制への信頼と納税過程における法令遵守)という納税者や源泉徴収義務者の立場に立った観点も必要ではないかとの論点などが示されています。

 納税者番号制度は、国民のプライバシーに関する感情や社会生活のあり方にも関わるものであり、その導入のためには、国民の十分な理解を得ることが必要です。これまでも税務行政の機械化・適正化、利子・株式等譲渡益課税の総合課税化、相続税等の資産課税の適正化などの諸類型ごとに具体的なイメージを示しつつ、検討を行ってきています。

また、経済取引のグローバル化、多様化、複雑化等を踏まえれば、適正・公平な課税の実現の観点から、税務執行において資料や情報の充実が重要になってきており、これらの活用を図るために納税者番号制度の役割を考えていくことも必要です。

それでは、納税者番号制度の仕組みについて、「平成7年度の税制改正に関する答申」から見てみます。

番号の付与方式については、「公的年金番号」方式と「住民基本台帳をもとにした共通番号」方式が考えられています。

納税者番号制度の目的と効果については3つに類型化してイメ−ジが公表されています。現行の支払調書やその他の法定資料に番号を付与することにより、税務行政上、名寄せ精度の向上等が図り得ると考えられます。これを、税務行政の機械化・効率化による課税の一層の適正化に向けた納税者番号の活用と位置付けることができ、法定資料の範囲を広げることにより、更なる課税の適正化も考えられます。総合課税の実施に納税者番号を利用する場合には租税特別措置法により限定されている現行の支払調書を、個人に対するもの等にも拡大していく必要があります。納税者番号を相続税等の資産課税に利用することとなる場合には、支払調書などの法定資料の範囲を資産残高等の情報にも広げることが考えられます。こうした資産残高の情報は、税務当局が間接的に事業所得等を推定する端緒になるのではないかと考えられます。

          納税者番号精度の仕組み

   番号告知

       民間企業   [各種業務]

個                          他

人   @番号付与                行 の

・            付番機関        政

法                        機

人                        関

   B            C    A番号デ-

   番号告知 取引の相手先  情報    提供

        (金融機関等) 申告書  E税務当局

   本人確認

 

 


    D番号付き納税申告書

                      番号告知と各種行政 

 


@       個人及び法人は、付番機関から番号を付与される。 

A 付番機関は、税務当局に番号、氏名等の情報を提供する。

B 個人及び法人は、各種の取引(例えば、「金融機関等への講座の開設

  債券の購入等」)を行う際、付与された番号を取引相手に告知する。

C       金融機関等は、情報申告書(支払調書等)に、納税者の氏名等と合わせ

番号を記載し、税務当局に提出する。  

D       納税者は、納税申告書等の提出書類に事故の番号を記載し、税務当局に

提出する。

E       税務当局は

イ)情報申告書を納税者毎の名寄せ

ロ)情報申告書と納税申告書の記載内容を突合(マッチング)

ハ)マッチングにより、納税申告書の内容が適正であるか否か確認

    (適正でない場合には調査等が行われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八、電子商取引

 インターネットや携帯情報端末の普及などに見られるような情報通信技術の発達に伴い、電子商取引の本格的な実用化の気運が高まっています。電子商取引は、グローバルな規模で経済の効率化に資する可能性や新たなビジネスチャンスを増やしていく可能性を有しています。我が国でも、電子商取引の健全な発展が望まれます。

 一方、電子商取引の発達によって、例えば、経済取引が複雑化・国際化し、誰が、いつ、どこで、どのような取引を、どれだけ行ったかといった、取引の実態を正確に把握することが今後一層困難になる可能性があります。また、電子商取引が本質的にグローバルな性格を有していることから、様々な国際課税上の問題が発生する可能性もあります。

 したがって、電子商取引に対する課税のあり方については、国際的な検討を進めていく必要があり、OECDを中心に活発な議論が行われています。なお、1998年10月にOECD租税委員会により「電子商取引:課税の基本的枠組」と題する報告書が公表されています。

(参考) 「電子商取引:課税の基本的枠組」の骨子

・納税者サービスの向上や税務行政の効率化のために電子商取引に使用されている情報技術の積極的な活用を検討すべきである。

・電子商取引についても、公平・中立・簡素等の伝統的な課税原則が適用される。特に、電子商取引への課税について他の形態の商取引との均衡を保つ。現段階では既存の課税ルールを適用すべきである。

・税当局は、納税者の本人確認と情報アクセスの能力を維持すべきである。

・国際協力を推進する観点から、今後もOECDを中心として検討を継続すべきである。

 以上を踏まえれば、今後ともOECDにおける議論に積極的に参加していくとともに、電子商取引をめぐる課税関係についての予見可能性を高めることにより電子商取引の発展する環境を整備する観点からも、その進展状況や実態の把握に努めつつ、課税のあり方について検討していく必要があります。

九、諸外国の電子申告

  霞が関デジタル革命 

  「目指すはアマゾン・ドット・コム」。米副大統領のゴアがトップを務める米政府の横断的な行革組織が最近、こんなスローガンを掲げた。インターネットで安く、早く書籍を消費者に宅配する新興企業にならった「電子政府」の構想です。

  目玉は1億件を超える米国民の確定申告の電子化です。すでに代行業者らを通じて2割がオンラインで処理されていますが、「電子署名」の導入などで、だれでも自宅のパソコンで一切の手続きが済む日がそう遠くはない。2007年までに全体の8割を電子処理に切り替えるのです。

プロジェクトを進める米内国歳入庁(IRS)は国民向けに、電子申告を扱うソフトウエア会社の紹介までしている。もともと書類申告だと「2割で還付ミスが発生」という悪名高い役所ですが、その再生のカギを握るのはひとえに情報化です。(出所:日本経済新聞 朝刊 1999/03/20

国税庁は、KSKが導入された年の1995年10月5日に開かれた全国国税局長会議で「電子申告」制度を導入する方針を明らかにし、検討を指示しました。この電子申告は我が国の行政情報化推進基本計画の閣議決定を受けたものと思われます。

諸外国においては、電子申告を導入している国々として、アメリカ合衆国、カナダ、オ−ストラリア、シンガポ−ル、イギリス、フランス等がありますが、そのほとんどが、個人所得税を中心にしていました。その多くが、1980年代後半より、試行を開始し、1990年代に全国的な導入がなされています。

アメリカにおける電子申告は、1986年に、連邦個人所得税について試験的に導入されたのが始まりです。98年当初は、電子申告総数は25,000件程度でありました。1990年からは本格的に導入され、全国規模でIRS(内国歳入庁)への電子申告が可能となりました。その後急激に増加していき、1994年には1500万件に迫る勢いでした。

オ−ストラリアの電子申告は1988年に所得税の自主申告制度が取り入れられたのち、1990年に電子申告制度が導入されました。その当時はオ−ストラリア国税庁(Australian Taxation Office=ATO)は税務代理人(tax agent)との同意書によっていたが、1998年からペ−パ−の申告書を作成・保管する必要がなくなるなどの法的整備がなされ、普及が進みました。オ−ストラリアでは給与所得者の年末調整制度がなく、5400ドル超の収入がある者は全員申告をするために人口(1997年6月末現在1,853万人のうち1000万人を超える申告者がいます。1997年度の個人所得税の申告実績は以下の通りです。

1、タックスエ−ジェントに依頼した申告者数

  電子申告     7,112,935人    94.3%

   ペ−パ−申告     433,926人     5.7%

     小計         7,564,861人   100.0%

2、タックスエ−ジェントに依頼しない申告者数

  電子申告       319,855人    11,2%

   ペ−パ−申告   2,521,771人    88.8%

     小計         2,841,626人   100.0%

3、申告者数合計

  電子申告     7,432,790人    71.6%

   ペ−パ−申告   2,955,697人    28.4%

     合計       10,388,487人   100.0%
 4、申告結果

   還付申告となったもの        65%

    納税となったもの          25%

    プラスマイナスゼロとなったもの   10%

 

  

                

 税務代理人

アメリカにおいては、電子申告を望む納税者等は、通例、手書きの申告情報を優良でデ−タ処理・電子送達する業務を代行する「認可電子申告者(approved electronic filer)に依頼します。IRSは「電子申告者(electronic filer)」の文言を、つぎのように定義しています。

1、電子申告発信者(ERO=electronic return originators
 イ、電子申告準備者(electronic return prepapers

   ロ、電子申告収集者(electronic return collectors

 2、 ソフトウエア開発者(software developers) 
 3、 電子送達者(transmitters

認可電子申告者は1994年で83000人となっています。

 オ−ストラリアにおいては各週の税務代理人登録委員会に登録された者だけがタックスエ−ジェントとして、有料で税務書類の作成並びに税務代理ができます。その多くは会計士か弁護士です。げんざい26000人が登録していて、電子申告の代行業務を登録しているのは12500人です。そのうちの9500人が積極的に電子申告にかかわっています。

 電子申告をするメリット

 アメリカにおいて、従来からある文書の場合はIRSに提出された申告デ−タの処理に多大な労力を費やすとともに、入力ミスなどのエラ−率が統計では17%から19%に上っていた。これに対し、電子申告はIRSの事務の合理化になると同時にエラ−率がほとんどなくなる。連邦個人所得税だけでなく州個人所得税でも、、給与所得者などにも広く申告納税制度が取られていて、我が国の年末調整制度に類する制度もないので、確定申告により、還付になる納税者が多い。この点に関し、文書申告の場合の4週間から6週間に比べて、電子申告の場合は、申告後2週間程度で還付することができる。

 オ−ストラリアでは1988年から自己申告制度が導入され、それに伴い、1990年から電子申告が採用された。その時にATOは電子申告する場合の特典として、第一に、還付申告の還付がペ−パ−申告の場合は6週間から8週間なのに対し、14日ぐらいで還付すると発表した。二つ目はタックスエ−ジェントに対する優遇策として、タックスエ−ジェント経由の電子申告に限って、通常の場合は10月末だが、翌年4月末まで申告期限を延長したことです。これによって1年目で50%以上の普及率を示しました。オ−ストラリアでは、法人、個人とも毎年7月1日〜6月30日が課税期間です。

このようにできた原因はATO側にもコストの削減による人員の削減と電子申告処理サ−ビスの向上が期待されたからでしょう。

納税者憲章 (The Taxpayers’ Charter

オ−ストラリアでは1997年の7月1日から正式に発効しました。

法的拘束力はありませんが、ATOは積極的にPRをして、この憲章の事項を守ると公表しています。

あなたは法律上の権利とATOに要求できるサ−ビスの基準

納税者は、ATOに対し、以下のことを要求できます。
1、公平適切に接し、2、納税者が正直であるとし、3、ATOの行為説明、4、納税義務の理解への専門的サ−ビスと援助、5、プライバシ−尊重、6、納税者情報の守秘、7、納税者情報の本人への開示、8、決定処分の説明、9、代理人の選任、10、信頼できる情報と助言の提供、11、納税費用の最小化、12、異議・審査請求の権利保障

租税に関する納税者の重要な義務

1、ATOとは誠実に接し、2、法律に従い記録し、3、申告書作成・記録の十分な注意、4、期限内申告、5、期限内納付

が設けられています。

参考文献:

税務弘報96.9-10「電子申告・アメリカの制度と現状」朝日大学教授石村耕冶

 日本税理士会連合会「平成10年度オ−ストラリア税制視察報告書」

 

 

 

第3章   税理士事務所情報化のすすめ

情報通信21世紀ビジョン

「情報通信21世紀ビジョン−21世紀に向けて推進すべき情報通新政策と実現可能な未来像」という郵政省の電気通信審議会からの答申によると、

 横断的な省庁連携による政府の一体的な取組によるアプリケ−ション実現スケジュ−ルは下記の通りです。 

 

   1997         2000              2005                2010

 

 


遠隔医療の実証実験

 

 


  高速道路自動料金収受

 

 


     本格的ワンストップ行政の実現

 

 


      ホ-ムエデユケ-ションシステムの実現

      

 


    危機管理対応情報通信システムの構築

 

 


              自動運転システムの本格化

 

 

研究開発の内容は高度なネットワ−クインフラの整備促進が重点的・計画的な開発プロジェクトです。高度なネットワ−クインフラとは高度な光ファイバ通信基盤の構築をして、いつでもどこでも誰とでもマルチメディア利用できる信頼性の高いネットワ−クの確立によるグロ−バル通信の確立です。

これらは次世代の放送サ−ビス、マルチメディアの基本となる高度な映像利用の実現が待たれ、同時に人に優しく使いやすい情報通信システムが必要です。

情報通信の高度化は次のような新たな社会問題の発生を促しました。

1、セキュリティ問題

 2、不要な衛星等の宇宙屑の増加

 3、電磁環境問題

4、雇用

5、情報格差の発生

6、情報リテラシ−

高度情報通信社会の恩恵を享受できる環境を整備するために、現行法制度全般を見直し、電子商取引の一段の普及やプライバシ−保護を図るために「サイバ−法」も必要になります。

 

雇用構造の変化

情報通信分野の市場規模は1995年の約29兆円から市場の拡大によるおよそ244万人の雇用増大により、2010年には約125兆円が見込まれています。

今後5年間の情報化投資に伴う雇用構造の変化により職種内容の変化と各職種の人員の変化をもたらします。中間管理職は業務管理・部門調整から営業・企画等に、事務職は伝票処理・コピ−等から営業補助・研究補助等に仕事内容が変化していきます。各企業がどのように考えているかは次の表の現在から将来の中で中間管理職、事務職がそれぞれ50%、64%の企業が減員して、研究・技術職、営業職をそれぞれ40%、39%の企業が増員予定であるとの回答から読みとれます。

 

各職種の人員の変化   (数字は回答企業の割合:%)

 

職種

過去から現在

現在から将来

増員

変化なし

減員

増員

変化なし

減員

役員

82

11    

85

11

中間管理職

10

60

30

48

50

事務職

36

59

33

64

研究・技術職

24

57

19

40

50

10

営業職

16

68

16

39

51

10

生産・運輸・技能工

56

40

61

31

   (出所:郵政省の情報通信21世紀ビジョンより)

 

2010年の通信料金水準と20Mbpsの利用イメ−ジ

情報通信の高度化による一般社会への普及は現在の通信料金と双方向による軽快な利用環境の実現に負うところが大きいと思われます。

通信サ−ビスの世帯平均支出額は現在約月額7400円程度ですが、2010年には通信速度が現在の200倍に相当する20Mbps(1秒間に2000万バイト)の送信能力のある回線を利用しても国内均一定額で月額7800円程度を目指しています。

 20Mbpsはテレビ会議システムを使ってのテレワ−ク、ネットワ−クを介しての在宅学習、ビデオオンデマンドでの映画鑑賞や電子モ−ルでのショッピングが日常的に利用できる社会を実現します。

 産業経済及び国民生活に与える影響

21世紀初頭の産業経済面において、製造業ではCALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support 調達から設計、開発、生産、運用、管理、保守に至る製品のライフサイクルに関する情報を統合デ−タベ−スで一元管理し、各工程をサポ−トすること)の導入により仕様変更、調達手続きに要する時間の削減が図られます。販売、流通業においてはPOS(point of sales  販売時点情報管理)による情報収集・分析事務の効率化が図られます。サイバ−ビジネスの導入により、オフィス賃料が月額平均約51万円から約9万円に削減されると予測され、高速道路自動料金収受システムの実用化により、渋滞の35%を占めている料金所渋滞の解消が期待されています。金融業では電子マネ−の利用により、既存の金融機関の仲介なしに行う決済、金銭貸借、新たな金融商品の開発、販売等が一般化してきます。これによって、企業活動の効率化が一層進展すると期待されています。

国民生活面ではサイバ−ショピングによる買い物時間が削減され、オンデマンド型システムによる在宅学習が進みます。ICカ−ドの導入による医療費の大幅な削減や遠隔医療システムでの専門的な診断サ−ビスが提供されます。労働形態もテレワ−クによる就労機会が増加して、安心でゆとりのある国民生活が実現します。

このように見てきますと、来るべく未来社会においては情報機器の操作なくしての生活は考えられません。1990年代前半からコンピュ−タ・リテラシ−を高めるというコンピュ−タの操作能力を高めるための方策を各企業が模索してきました。その後、情報機器の操作能力にとどまらず、情報ネットワ−クを活用して必要な情報を収集・整理・加工・分析して、効率的に業務に活用し、付加価値の向上を図るようになりました。税理士業務にあてはめれば、ワ−プロ、表計算、電子メ−ルなどのパソコンの操作技術に限らず、インタ−ネット等の情報ネットワ−クからの情報収集による顧問先指導への応用ではないでしょうか。マネ−ジメント型の税理士、町医者スタイルに生き甲斐を感じる税理士など、税理士事務所の形態やその人のポストに応じた情報機器操作能力が当然求められてきますので、ワ−プロ、表計算、電子メ−ル別にその到達水準を表にまとめてみました。

 

 

 

                    

 

 

  操作能力

 習熟すべき対象者

ワ Iプロ

初級

    フロッピ−の初期化

    フロッピ−のコピ−

    簡単な文章入力

    ファイル保存

マネジメント型税理士

中級

    文字のサイズ、フォント変更

    ペ−ジレイアウト変更、印刷

一般的な税理士

上級

    表の作成

    図形の調整

    表計算との連携

町医者スタイル税理士

表計算

初級

    簡単な計算式の入力

    数式のコピ−

    表の作成

一般的な税理士

中級

    シ−ト名変更、シ−トの挿入・削除

    一般的な関数の使用

    簡単なグラフの作成、編集

町医者スタイル税理士

上級

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オ−トフィルタ(抽出)

町医者スタイル税理士

メ Iル

初級

・受信、送信

マネジメント型税理士

一般的な税理士

町医者スタイル税理士

 

 電子メ−ルが受信できれば、情報リテラシ−のスタ−トラインにつくことが出来るのです。あらゆる企業がリストラ(事業再構築)に取り組んでいる中でも情報化への経営資源の投入は避けることが出来ません。事務所形態に応じた情報化への更なる取組が21世紀を見据えた唯一の税理士事務所生き残り策だと確信して疑いません。