日本のミヤマクワガタについて知っていること
標本修理工T


 「くわがた狂の大馬鹿者達」って、ネットができる虫好きの人なら1度は見たことがあるページですよね。私もたまに書かせてもらっているんですが、いつも は採集記なんかです。今回はいつもとはちょっと趣旨を変えて、日本のミヤマクワガタについて自分が勝手に思っていることを書き出していこうかなーなんて 思ってます。ところどころ難解な部分があるかもしれませんが、「ミヤマクワガタが好きで好きでたまらない!」という人ならばついてこれるかと思います。っ てゆーか、ついてこい!



 ミヤマクワガタ属は、クワガタの中ではけっこう起源が古い属です。なんでかって言うと、北半球に隔たってますが分布が異様に広いのです。ミヤマクワガタ 属と同じような分布をする他の種群は、ルリクワガタ族(属じゃないよ)、ツヤハダクワガタ属、イッカククワガタ属(中国〜北アメリカまでいてるね)、マダ ラクワガタ族(こいつらは東南アジア、アフリカ、南アメリカにもいて、世界で一番広い分布をしてる。おそらく、クワガタ科の中で一番古い種族だろう)、マ グソクワガタ属くらいかな。どいつもこいつも、小型で起源が古いと思われている種ばっかです。北半球に隔たって分布している理由は、超大陸パンゲアがロー レシア大陸(ユーラシアと北アメリカ)とゴンドワナ大陸(アフリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極など)に分かれた後に、ミヤマクワガタ属の祖先種が ローレシア大陸で発達したと思われるんだな。パンゲアは2億年前くらいに分裂をはじめたらしいので、その頃にはクワガタを形作る昆虫の祖先種が生まれてい たと思われます(これは勝手な想像で、なんの根拠もありません!)。

 以下のような構成になっております。おヒマな方は、長ったらしい文章をじっくりお読みください。不眠症に悩まされている方には効果絶大です。
○ミヤマクワガタについて
    亜種
    
           基本型  エゾ型  フジ型  その他
    地域の特徴や傾向
           北海道  本州  四国  九州
           北海道周辺離島  伊豆諸島  佐渡島  隠岐島 
           五島列島  下甑島  黒島  

○アマミミヤマクワガタについて
○ミクラミヤマクワガタについて
○日本産ミヤマクワガタの分類的位置



ミヤマクワガタ
Lucanus maculifemoratus Motschulsky,1861

 ご存知日本を代表するクワガタの一種で、以下の亜種に分けられています。サイズはいちいち書きませんが、原名亜種で最大79mmほど、一番大きくなるのは台湾亜種で85mmくらいですな。
●ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus maculifemoratus Motschulsky,1861
     分布:北海道、本州、四国、九州、樺太南部、択捉島、国後島、奥尻島、
         飛島、佐渡島、隠岐、福江島、下甑島、黒島

●チョウセンミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus dybowskyi Parry,1873
     分布:朝鮮半島〜中国北部〜アムール地方

●チュウゴクミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus boileaui Planet,1897
     分布:中国中部〜チベット

●タカサゴミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus taiwanus Miwa,1936
     分布:台湾

●イズミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus adachii Tsukawaki,1994
     分布:伊豆諸島(大島、利島、新島、神津島、三宅島)
 日本産と外国産の圧倒的な違いは、頭部中央の突起です。これが日本産では出るけど、外国産では出ないのですな。伊豆諸島亜種では出ます。



 

 ミヤマクワガタの解説をするに外せない情報として、『型』のことを話さなければならないでしょう。ミヤマクワガタには大腮(たいさい:大あごのこと)の形状によって、次の3型が現われます。

基本型
f.maculifemoratus Motschulsky,1861

 記載時にタイプ指定された個体が、おそらくこの型をしていたと思われます(モスクワ大学の博物館に保存されているタイプ標本を見た中根博士の記述を見るかぎりでは……ですが)。北海道や東北地方の一部を除き低地には現われず、エゾ型と混生して出現します。

 基本的な形態的特徴は、次のようになります。
1.大腮先端の開きが他の2型の中間くらい
2.第1内歯は第3内歯よりやや長い
3.大腮先端をくっつけると第1内歯がやや離れる
4. 大腮先端外歯と大腮先端内歯はほぼ同じ長さ




エゾ型
f.hopei parry,1862

 北海道を基準産地としてLucanus hopeiが記載されたんですが、その後、maculifemoratusのシノニムとして処理されて、型名として残されました。北海道産はLucanus maculifemoratus var.elegansという種名で記載されたりしたこともあって、昔から特徴のある形態をしていたんだなーなんて想像しています。北海道や東北地方の一部を除き、基本的には標高の高い場所でのみ現れます。

 基本的な形態的特徴は、次のようになります、

    1.大腮先端の開きが他の2型に比べもっとも大きい
    2.第1内歯は第3内歯より短い
    3.大腮先端をくっつけると第1内歯は大きく離れる
    4. 大腮先端内歯は横に突出する





フジ型
f.nakanei kurosawa,1976

 国立科学博物館の中根博士にちなんで付けられた型名です。富士山や伊豆周辺で多く見られることから付けられた名と思われますが、北海道、本州、四国、九 州で見つかっています。標高の高い場所ではほとんど現われず、もっぱら低地でのみ出現しますが、富士山や伊豆半島などの一部の地域では標高が高くてもフジ 型となります。筆者宅には富士山の標高1400m地点で採集された72mmがいますが、しっかりとフジ型をしております。

 基本的な形態的特徴は、次のようになります。
1.大腮先端の開きが他の2型に比べもっとも小さい
2.第1内歯は第3内歯より著しく長い
3.第1内歯をくっつけると大腮先端が離れる。ただし、大型個体になるとかならずしも大腮先端が離れるわけではない
4. 大腮先端外歯より大腮先端内歯はあきらかに短い


 さて、ここまでが型の基本情報なんですが、これで終わっちゃ普通でしょう。さらに付け加えさせてください。この3型以外にも、さらに次のような個体が出現します。型名は筆者が勝手に命名しました。

エゾ基本型
大腮先端の二又部はエゾ型の特徴を持つが、第1内歯と第3内歯は基本型の特徴を持つ。よく現れる。

フジ基本型
大腮先端の二又部はフジ型の特徴を持つが、第1内歯と第3内歯は基本型の特徴を持つ。あまり現れない。

基本エゾ型
第1内歯と第3内歯の長さや大腮先端二又部が、完全にエゾ型と基本型の中間型。全体的に見るとエゾ型に近い。あまり現れない。

基本フジ型
第1内歯と第3内歯の長さや大腮先端二又部が、完全にフジ型と基本型の中間型。。あまり現れない。
 上記の各型の中間型は、エゾ基本型が一番よく現れます。というか、真の基本型よりもこちらの方が出現率が多いと思います。フジ型は一番安定した型のよう で、フジ基本型はめったに現れず、大腮先端二又部が狭い個体は、だいたいにして第1内歯も長いものが多いようです。基本エゾ型もなかなか現れません。ほと んどは基本型かエゾ基本型になってしまいます。
 次は地域の特徴や傾向などを紹介していきましょう。


地域の特徴や傾向

北海道産
 基本的にはエゾ型が大勢を占めますが、基本型がやや混じり、南部ではフジ型が見られるようになってきています。以前は見られなかったフジ型が見られるよ うになったのは、どう考えても温暖化の影響と見て間違いないでしょう(かもしれない……)。北海道では東北地方では見られないような大型個体が得られるこ とがあり、あまり情報が入らなかった当時は「寒いから長い時間をかけて幼虫が育つ結果だろう」などと考えていましたが、どうもそういうものではないようで す。遺伝子的に、大型が出やすいのであろうと推測しています。





本州
 青森県から山口県までをひとつと考えることはできないです。
 聞いている話では、東北地方ではあまり大型の個体は現れないようで、70mmを超えるとかなり大型のようです。
 関東地方でも同じような傾向があり、72〜73mmくらいが採集できる最大で、75mmを超えるような個体はほとんど採れていないようです(採れてはい るようだけど、かなり稀ということ)。ただし、昨年くらいに関東産の大型個体(75mm超え)が多数採れ、しかも安く販売されていたというような話もある ので、よくわかりませんな。
 近畿〜関西地方になると特大個体の出現率が跳ね上がります。これは、低地に多数の個体がいるためと思われています。幼虫時に長くエサを摂ればいいっても んじゃなくて、いかに効率良くエサを摂れるかがカギなんですねぇ。冬場も幼虫がエサを摂取できる温度が保たれているのではないでしょうか?
 中国地方は、今ちょこっと注目されていますね。ミヤマの大型個体は、最近では中国地方からもたらされることが多いのです。これはひとえに、それだけ自然が残っているということの現れでしょう。
 総括としては、本州内での形態的地域変異はなさそうです。基本、エゾ、フジの3型が、標高によって普通に現れます。





四国
 あまり情報がありません。特大型が採れたという話も聞いたことがなく、どんなもんなんでしょう? 基本とフジは見たことがありますが、四国産のエゾ型は見たことがありません。




九州
 フジ型から基本型までは見たことがありますが、エゾ型を見たことがありません。いるとは思うんですけど、私は持ってないし見てないです。




北海道周辺離島
 択捉島、国後島には分布しているようですが、形態はわかりません。たぶん、エゾ型でしょう。奥尻島にも分布していて、ここのは基本とエゾみたいです。残念ながら、私はこのエリアの標本を持ってないです。


東京都伊豆諸島
 いわゆるイズイヤマです。形態はすべてフジ型で、基本型やエゾ型は出現しません。飼育によって基本型などが出現する可能性は秘めていますが、まだ誰も やっていませんね。個人的には、御蔵島には分布していると予想しています。あの島は、まだ未知数な部分が多すぎます。
 よく議論に上る?のですが、「伊豆半島南部のミヤマはもしかしてイズミヤマなのでは?」と考えている人もいます。ここで証拠となる標本を出しておきま しょう。画像左端は伊豆半島南部の下田市吉佐美での採集個体で、波の音が聞こえるような場所で採集しました。標高は50mないと思います。隣にならぶイズ ミヤマと比べてみれば一目瞭然で、普通のフジ型ミヤマですな。





新潟県佐渡島
 うーん、昨年売りに出されていたんですけど、ウカウカしていたら買いそびれてしまいました。基本型をしていたような気がするんだけど、よく覚えてないです。スマン! そのうち採りに(行けたら)行ってみます。


島根県隠岐島
 基本型が分布していて、エゾ基本型も出現します。真フジ型、真エゾ型は見たことがありません。




長崎県五島列島
 基本型が分布していて、フジ基本型も出現します。フジはいるかもしれませんが、真エゾ型はいないと予想されます。




鹿児島県下甑島
 現在までに見つかっている個体数はまだ10頭もいないでしょう。大型個体が得られていません。やや大型の頭部写真を見たけど、基本型だったと思う。上甑 島からは見つかっていませんが、たぶんいると思います。私は下甑島でミヤマを採りましたけど、2♀でした(泣)。



鹿児島県黒島
 基本型しかいません。最高標高が600mくらいしかない島ですが、低地には出現しません(伊豆諸島では、ど平地でもミヤマがいるこたいる)。黒島は成立 が古い島のようですが、この島にいて屋久島にいないのが不思議でなりません。黒島の個体には多少の変異が見られて、上翅部はやや寸詰まり、付節がやや長 い、脚部の黄色部が明瞭、第1内歯と第2内歯の間がやや離れる傾向がある、などの形態的違いが認めらます。



 ミヤマクワガタに関しては以上でーす。ちょーっと物足りないかなー?


アマミミヤマクワガタ
Lucanus ferriei Planet,1898


 
 奄美大島のみに分布する小型のミヤマクワガタの一種。
 南西諸島唯一のミヤマクワガタで、L.maculifemoratusとはまったく別系統の種類。系統的には、台湾に分布するタイワンミヤマL.formosanusと同じものに入ります。

 奄美大島内では北部の龍郷町長雲峠から、南部の瀬戸内町油井岳まで分布していて、奄美の中央山塊にもずーっと連続して分布しているようです。だいたい、標高300mくらいより上に多いみたいですな。湯井岳でも、あるラインから上で採れるってな感じだったし。

 南部の個体に比べると、北部の個体はやや細身な感じがしますが、個体変異の範囲内に収まるものでしょう。ギネス個体は長雲峠で採集されていますが、大型個体の割合は、どちらかというと中央林道あたりの方が高いような気がします。

 発生は8月中旬がピークで、知る限りでは6月に♀が採集されたことがあります。7月ではほとん採れず、8月の1週目を過ぎたあたりから急激に個体数が増 えます。9月に入るとどんどん個体数が減り、10月にはほとんど見られなくなるようです。でも、10月にアマミミヤマ狙いで採集した人なんていないだろう な。

 生態ですが、夜間によく開けた場所にある木の高い所に静止している♂がよく見つかります。自分で採集した感じでは、よく開けているとか開けていないとか だけじゃなく、確実によく集まる木が存在しています。この木には毎晩いる!という木があるのです。また、大型がよく付く木というものあります。もちろん、 例外も多々あるのですけど。目立つ場所にある木ならなんでも良いようで、電柱の高所に付いている個体がよく採集されています。樹液がどうとかは関係ないみ たいです。

 なんでこんな所に付いているのかというと、♀を待っているという説が有力ですね。私もそう思います。しかし、♂を採集中に同時に♀を採ったことは、非常 に少なかったです。ほとんどは♂のみ。100♂に対して、♀の採れる数は5頭くらいといったところかもしれません。樹液などにまったく集まらないかという とそうでもないようで、1度だけですが、スダジイの樹液を吸う♂を採集したことがあります。

 ライトトラップにはほとんど来ないようで、「ライトトラップなら♀も採れるだろう!」なんて思った人達は、ほぼ玉砕しているみたいです。一応ながら、♀を複数採集している人もいるようです。なんか方法があるんでしょうね。


ミクラミヤマクワガタ
Lucanus gamunus Sawada et Watanabe,1960


 日本が世界に誇れるクワガタの一種かもしれません。あまりに特異なその分布に、昆虫界は悩まされっぱなしです。その悩みのタネは、この種が伊豆諸島の御 蔵島と神津島にしかいないという点です。なぜこの島なのか? 伊豆諸島は基本的に火山でできています。しかし、御蔵島は有史以来、火山噴火をしたという記 録がありません。じゃあ神津島はどうなのかというと、高処山の方は火山なのですが、もう一方の焼山方面は火山活動をしていないようです。火山活動が活発か どうかが、この種が生き残ったカギなんじゃないかと考えています。
 じゃあ日本本土にいたミクラミヤマ祖先種はどうなったのでしょうか? 「私は虫ではないのでよくわかりません」なーんて書くとミもフタもないので、仮説だけ書いておきますね。
 日本列島に入ったミクラミヤマの祖先種ですが、飛ぶこと自体はあまり得意じゃなかったんだろうなと思われます。「なんで?」と聞かれると理由はなく、た だの直感なんですけどね。現在、日本本土には地上歩行性のクワガタはいません。というか、歩くのが遅い、飛べない、林床が生息域という条件を満たした甲虫 は、ツチハンミョウくらいしかいないんじゃないでしょうか?
 ツチハンミョウは体に毒を持つことで、外敵から身を守れたのでしょう。ところが、クワガタ科の昆虫で毒を持った種は発見されていません。きっと、クワガ タには毒を持つという概念がまったく必要ではなかったのでしょう。とゆーことで、飛んで逃げることができなくて歩くのが遅いミクラミヤマの祖先は、そうい う生物が大好きなイタチなどの哺乳類や鳥類によって食べつくされたのではないかというのが筆者の持論です。ヒキガエルによって絶滅したという説もあります が、筆者は支持しません。あいつらもノロイですもん。

 maculifemoratusの型のような形態的な型分けではありませんが、ミクラミヤマには色彩的型分けがなされています。大きくは以下の5つ。
1.全身黒色(基本型)
2.上翅が黄色く色づく型(黄紋型)
3.頭部と前胸が赤褐色になる型(頭部前胸赤褐色型)
4.2と3の混合型(頭部前胸赤褐色黄紋型)
5.全身が赤褐色になる型(赤褐色型).1個体のみ見つかっている
 上記の色彩的型分けは♀にも見られるもので、5の型以外は♀でも発見されています。また上翅の黄紋は変異が多く、うっすらから上翅全部黄色!までいま す。黄色の面積が多いものほど珍重され、上翅全部黄色の通称「超黄紋型」は、まだ1個体しか見つかってしません。また、♀の黄紋型も非常に珍しく、まとも な黄紋型は1個体しか存在していません。うっすら程度でさえ、若干得られているだけです。
 御蔵島と神津島では若干の違いがあって、御蔵島産に比べると神津島産は、平均体長がちょっと大きい、頭部・前胸部、上翅の光沢がやや強い、頭部耳状突起 の発達がすこーしだけ良い、などといった特徴が見られます。しかし、いずれも軽微な特徴のため、とくに亜種分けなどはされていません。こういう部分まで亜 種分けするようになったら、「日本人はクレージーだ」なんて言われかねないッス。また、神津島では御蔵島ほど上翅黄紋が発達した個体を見たことがありませ ん。


日本産Lucanus属の分類
 Lucanus属の分布に関してです。「Lucanus属 の起源はヒマラヤ〜ベトナムを中心とした地域」と書きましたが、それはなぜなんでしょうか? 理由は簡単です。もっとも種類数が多いからです。起源が古い 地域ほど種分化が激しくなっていると見て間違いないでしょう。さらに言うならば、ヒマラヤのグラキリスミヤマやミャンマーのデンテクラトゥスミヤマなど は、かなり祖先的な形質を保った種類だと思います。デンテクラトゥスのような種類が生き残っていること自体が不思議でたまりません。♀の形態は確かにLucanus属に近いものですが、そのままLucanus属に当てはめるのもなんだかなぁという気持ちでいっぱいです。ぜひとも、クワガタ科にも『亜属』という概念を導入して欲しいと思います。

 「亜属ってなにー?」という方もいらっしゃるかもしれませんので、ちょっと補足説明をしておきましょう。たとえばミヤマクワガタを分類体系的に見ると、 昆虫類甲虫目クワガタムシ科ミヤマクワガタ族ミヤマクワガタ属ミヤマクワガタという記述になります。しかし、分類体系はこれだけではおさまらないのです。 同じ仲間の中であっても、また細かい分類をすることが可能なのです。その細かい分類を導入すると、昆虫類甲虫目カブトムシ亜目コガネムシ上科クワガタムシ 科クワガタムシ亜科ミヤマクワガタ族ミヤマクワガタ属ミヤマクワガタとなります。亜目、上科、亜科といったものが入ってきました。

 昆虫類は誰でもわかるかと思います。甲虫目とは……と、こんな解説は読んでいる方もつまらないと思うので省きましょう。ここでミヤマクワガタの話です。ミヤマクワガタ族Lucaniniの中にどんな属が含まれるのかというと、LucanusEolucanusPseudlucanusNoseolucanusなどですね(Neolucanusは似た属名ですが、これはツヤクワガタ族Odontlabiniです)。これも研究者によって扱いが変わるのですが、日本ではこれらをすべてLucanus属として扱っています。
 しかし、「そう簡単に全部一緒の属にしちゃっていいんか?」という研究者もいるわけで、そういう人達のために亜属という分類単位を設けている昆虫もいま す。カミキリなどはこれらが盛んですね。日本のクワガタ研究者で亜属を使っている人はまだ少ないですね。筆者は全開で使いたいと思っている1人なのです が、これまたそう簡単なものでもないのです。まだあまり、どれとどれが同じ亜属に含めたら良いのか? という、根本的問題が山積みだからです。それらが整 理されれば、Lucanus亜属、Eolucanus亜属、Pseudlucanus亜属、Noseolucanus亜属などが創設されて、さらに細かい分類がなされていくでしょう。

 さて、ここまで読んで理解してくれている人がどの程度いるのか検討もつきませんが、付いてきてくれている人はさらに読み進んでください。「なにが書いて あるのかアッチョンブリケです」という人は、これ以上読まないのが得策です。ってゆーか、ホントに何人読んでくれているのだろうか?

 じゃ、自己満足で続けていきますね。筆者的には、この亜属を日本のミヤマクワガタに適用したらどうなるのか分類してみたいのですね。で、勝手に考えてみました。世界のミヤマクワガタと日本のミヤマクワガタの関係を、です。
 日本のミヤマを勝手に分類する前に、世界のミヤマはどんなところで分けるべきなのか、ちょこっと考えて見ましょう。
1.前脚剄節外棘が鋸歯状になる群
2.前脚剄節外棘が鋸歯状にならない群
3.体上面に毛がある群
4.体上面に毛がない、もしくはほとんどない群
5.大腮形状が似通った群
6.頭盾が二又に分かれる群
7.頭盾が二又に分かれない群
8.大腮、体型がその他すべてのミヤマと違う群
 上記に挙げた分類をミヤマクワガタに適用したらどうなるんでしょう。もちろん、すべてがきれいに分類分けできるはずもなく、「これってどの群に入るのか わからん!」という種類も多数います。しかし、わかりやすい群もいるので、どんなものがいるか勝手に抜き出してみましょう。
ミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
タイワンミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
ミクラミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
ヨーロッパミヤマクワガタ群(ヨーロッパミヤマ、イベリクス、テトラオドンなど)
ヒメミヤマクワガタ群(“ヒメ”って付いているミヤマ一般)
ハヤシミヤマクワガタ群(ハヤシミヤマ、ノセミヤマ、マナミヤマなど)
フライミヤマクワガタ群(ビロススミヤマ、チベットミヤマ、フライミヤマなど)
ルニフェルミヤマクワガタ群
グラキリスミヤマクワガタ群(グラキリスミヤマ、レスネミヤマなど)
デンテクラトゥスミヤマクワガタ群(デンテクラトゥスミヤマ1種のみ)
 
 とりあえず、わかりやすいところを抜き出してみました。実物の標本を見てみれば、さらにいろいろと抜き出すことができるでしょうが、残念ながら、筆者は 世界のミヤマをぜーんぜん持っていないので、これらは大図鑑やその後の資料を見たかぎりで考えたものです。個人的に、ホントにわけわかめな種類は以下のと おり。

●メアレーミヤマ
     体表面の光沢具合なんかは、グラキリスミヤマやレスネミヤマなんかに
     通じるところがあるんだけど、前脛節外縁は鋸歯状じゃないしなぁ……。
●カンターミヤマ
     ヒメミヤマの親分みたいなイメージを持ってるけど、どこに入るんだろか?
●セリケウスとフライの関係
     ビロスス、チベット、フライは同じ種群で良いと思うんだけど、セリケウスが入ってくる
     となんだかわからん。
     頭楯形状って、どこまで祖先種の形質を継承するもんなんだろ?
●エラフスミヤマ
     なんでこんなのが北アメリカにいるんじゃー!
     とゆーか、北アメリカに分布してるミヤマって、どういう位置づけなのかぜんぜん
     わからん。それぞれが近縁なのかっていうと、そうでもないみたいな感じですな。

 まずミヤマクワガタです。こいつは世界のミヤマクワガタの中では、どういう分類的位置にいるのでしょうか? ミヤマクワガタに近縁と思われる種を独断と偏見で挙げてみましょう。
ミヤマクワガタLucanus maculifemoratus Motschulsky,1861
クリイロミヤマクワガタLucanus kanoi Y. Kurosawa, 1966(台湾)
クロアシミヤマクワガタLucanus ogakii Imanishi, 1990(台湾)
 「なんでこいつらは近縁なの?」という、ストレートなご質問にはお答えしかねます。だって、独断と偏見だもん。分類考証がしっかりできているならば、 ちゃんとした紙面に発表しても遜色ないほどの内容なんですが、なぜそれをしないかというと、分類考証がしっかりなされていないからです。ネット上で「独断 と偏見です」とはっきり書いてあれば、誰も“参考文献”にゃ使えまい(笑)。

 次に、アマミミヤマに近縁な種類を挙げてみましょう。同じく独断と偏見です。
アマミミヤマクワガタLucanus ferriei Planet, 1898
タイワンミヤマクワガタLucanus formosanus Planet, 1899
ヘルマンミヤマクワガタLucanus hermani DeLisle, 1973
プラネットミヤマクワガタLucanus planeti Planet, 1899
 筆者の中では、タイワン、ヘルマン、プラネットは別種ではなく亜種関係くらいが妥当だと思っています。別種にするほどの形態的な違いはないでしょう。アマミミヤマだけはだいぶ違うので、別種でいいと思います。

 最後にミクラミヤマに近縁な種類です。これはけっこう有名なので、知っている人もいるんじゃないでしょうか。
ミクラミヤマクワガタLucanus gamunus Sawada et Watanabe, 1960
パリーミヤマクワガタLucanus parryi Boileau, 1899
ラエトゥスミヤマクワガタLucanus laetus Arrow, 1943
 この3種類をひとくくりとして、ミクラミヤマ群というグループに分けたのは、かの有名な黒澤博士です。しかし、ホントにこの3種類でひとつのグループに なるんでしょうか? ラエトゥスミヤマをミクラミヤマ群に含めるならば、ラエトゥスミヤマに似ているグループもここに含めなければなりません。外形態から 似た種を探してみると、ヒメミヤマクワガタのグループにラエトゥスミヤマは含まれるんじゃないかなーなんて思ったりして……。

とまぁ、こんなわけわっかんねーなことをよく考えているのです。支離滅裂な部分もいっぱいあるかもしれないけど、筆者はミヤマ属はあんまり知らないので、これでカンベン!



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