GET IN THE RING!

 すでに中山康樹氏が書いているように、先日amazon.co.jpから今回の輸入盤に関する法改正に反対する旨のアナウンスがなされ、ついにやってくれた、と快哉を叫んでいたのだが、こんどは日本のタワー・レコードから別な意味で「ついにやってくれた」と言いたくなるアナウンスがなされた。

http://www.bounce.com/news/daily.php?C=3429

 要するに彼らは今回の法改正には賛成する、と言っているのだ。
 これには激しく失望した。彼らは事実を正しく理解できていない。あるいは故意に事実から目をそらしている。彼らのアナウンスのポイントは「しかしアジア諸国からのJ-POP CDの日本への還流について、現在何らかの防止措置が必要であるということは理解しており、日本国内市場への影響の大きさを考慮すると、 その主旨には賛同致します」 という部分だが、還流盤の「日本国内市場への影響」は、実際には全体から見ればまったく取るに足らぬほど些細なものなのだということは、とっくの昔に具体的なデータとともに証明されているのだ。それでもなお影響が大きいなどと言い張るということは、つまりは日本のタワー・レコードには理解力ゼロのとんでもないバカしかいないということか、あるいは、タワーレコードに対して法改正推進派のレコード会社や日本レコード協会などから強い圧力がかかったかのどちらかであろう。
 ちなみに、HMVからもほぼ同時に今回の件に関して声明文が出ている。

http://www.hmv.co.jp/help/Main.asp

 この声明は何というか、かなり曖昧な表現に終始している。法改正に反対なのか賛成なのか、これを読むだけでははっきりとわからない。どちらかといえば反対側なのかなあ、と思えなくもない、という感じである。しかし、HMVは実はこれより前に文化庁や民主党に意見書を出していたことが判明した。そしてその内容はと言うと、これが声明文とはかなり違っているのである。

http://www.ceres.dti.ne.jp/%7Edonidoni/hmv/20031009.pdf
http://www.ceres.dti.ne.jp/%7Edonidoni/hmv/20040317.pdf

 この意見書を読めばはっきりとわかるように、彼らは、今回の件についてきわめて明確に反対を表明していたのだ。amazon.co.jpのアナウンスにも匹敵するような、実にきっぱりとした意思表示である。声明文と比べてみてほしい。いったい、この差はどこから生まれたのか。やはりこれは、法改正推進派のレコード会社や日本レコード協会などから圧力がかかったためと見るのがもっとも妥当ではないかと思うのだが。
 そう言えば、これも中山氏がすでに触れているが、ジャズ喫茶『いーぐる』にソニー・レコードの伊藤八十八氏と日本レコード協会常務理事の生野秀年氏がやってきて、後藤雅洋氏に対し反対運動をやめるよう説得をおこなったという。実に気持ち悪い。なぜ公の場所で堂々と議論せず、裏でこそこそと説得工作などをおこなうのだろう。せっかくリングが用意されているのに、そこに上がることをせず、そのかわりに試合前にこっそりと控え室の隅で八百長を持ちかけているようなものだ。そんなことをするからますます信用を失うのだということがどうしてわからないのだろう。そんなやり方が「大人のやり方」だと思っているのだとしたら大きな間違いである。表では何も議論せず、裏でじめじめべたべたと半分馴れ合いのような曖昧な説得がなされ、表に出てきたときにはすでにすべてが決まっているというのは、成熟した民主主義社会のやり方ではない。むしろ非常に幼稚な、レベルの低いやり方だと僕は思う。ほんとうの「大人のやり方」というのは、オープンかつ公正な場所で、正々堂々と自分の意見を述べ、反対意見も正面からしっかりと引き受け、反論すべきところは曖昧な感情や推測ではなく具体的なデータや実例にもとづいて論理的に反論し、自分のほうが誤っているとわかったらきちんと修正し、それを繰り返すことでよりよい着地点を求めるというやり方のことである。それができない奴はしかるべき地位につくべきではない。
 もともと日本人には、反対意見を出されるだけでももう理性的な議論ができなくなるような連中がとても多い。自分と対立する意見をちょっと言われただけで、まるで人格も含めた全存在を否定されたかのようにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるのだ。つまり、知的な、大人の人間としての話し合いが成り立たないのである。議論を肴に酒を楽しむ、なんて遊びができる人など実に少ない。酒席での議論は往々にして最後にはただの感情的な喧嘩になってしまい、場が白けることおびただしいのである。
 結局、彼らにとっては議論というものには全会一致の賛成か全否定しかなく、その中間は存在しないのだ。だから、全会一致を目指して彼らは裏でこそこそと工作をする。しかし、そのようにして獲得した全会一致の賛成にいったいどんな意味があるというのだろう。単なる見せかけのまやかしではないか。実に馬鹿馬鹿しい。
 と、少し話しがそれたが、いずれにせよ、僕が反対運動をやめないのは、推進派の連中が僕の「誤解」とやらを解いてくれる明確で具体的な根拠を何ひとつ示していないからだ。彼らが言うのはただ「信用してください」とか「ご安心ください」などといったような実体のない曖昧な言葉ばかりで、肝心な部分についての明確な定義は意識的としか思えないほど徹底的に避けられている。そんなものは口先だけの空疎な記号にすぎないのであって、たとえ八百万回繰り返したところで何の意味もありはしない。必要なのは規制の対象を明確に規定したコミットメント、そしてそれを証明する正式なwritten documentである。しかるに、彼らはそういったものを現在に至るまで一度たりとも示すことができないでいる。だいたい「信用してください」なんて言われても、すでに彼らは消費者からの信用などとっくに失っているのであって、今さら何を馬鹿なことを言っているんだと苦笑するほかない。自分たちが置かれている立場がまったくわかっていないらしい。なるほど、こんなていたらくでは売り上げも落ちるはずだ。
 僕は今まで、タワー・レコードではずいぶんたくさんのCDやDVDや洋書を買ってきたが、彼らが音楽ファンの敵だということがはっきりとわかった今、僕はもうタワー・レコードからものを買うのをいっさいやめようと本気で考えはじめている。今後は、店頭で買うときはHMV、通販で買うときはamazon.co.jpをなるべく利用させていただくようにしたいと思っている。ただ、HMVは(いや、タワー・レコードもだが)ここ数ヶ月の間にセール対象品以外の輸入盤の値段が全体にぐっと上がっているような気がして、それが気になるのだが・・・。これもまた実に気味悪い動きではある。