虫 まあ、あたしは、実は虫が大嫌いである。 しかし、なんでかしらんが、子供のころは虫が大好きだったのである。 夏になると灯火に集まるカナブンなんかをたーくさん捕まえて、半ズボンのポケットに入りきらないぐらい詰め込んで、カナブンの手足というのか爪の先というのか、それが、腿(もも)の皮膚に食い込んで「痛てててて」なんて思いながら遊んでたりしたのである。 不思議なことにどんな虫も、気持ち悪い、グロテスクだなんてことは、まるっきり感じなくて、とにかくなんでもかんでも捕まえてポケットに入れたりしてたのである。 噛み付かれようが、ハサミで挟まれようが、刺されようが、そんなこたあ、なーんにも気にならなくて、アリの巣をほじくり返して兵隊アリに噛まれてその毒で手がグローブみたいに腫れ上がったりしてたのである。 その虫もでかいほど魅力的で、トンボもシオカラトンボやムギワラトンボは魅力がなくて、ギンヤンマ、オニヤンマを捕まえたくて、近所の池の周囲をぐるぐる回るトンボを捕まえようと、網を持って終日待ち構えていたりしたのである。 もちろん、クワガタもカブトムシもメスよりオスで、大きな種類のものが魅力的であるのである。 まあ、そのころはべつにクワガタやカブトムシを店で売ってるなんてことはなくて、その種類で、値段が違うなんてこともないので、とにかく、子供的には「でかいもの」が魅力的であったのである。 蝶も、モンシロチョウなんかは魅力が無くて、やっぱりアゲハチョウであるのである。 まあ、いま考えると、キアゲハやカラスアゲハであったと思うのであるが、とにかく、それを捕まえようと、見つけるとやっきになって網持って追い掛け回していたのである。 ザリガニも小さな日本ザリガニは魅力がなくて、一匹でバケツが一杯になるような巨大で真っ赤なアメリカザリガニの住む穴を見つけて、そこに捕まえたカエルの皮を剥いたのを糸に縛って、釣り上げていたのである。 なにしろ子供であるから、カエルさんの迷惑もなにも考えず、もう、ザリガニのためにはカエルさんの皮をバリバリひん剥いて、ザリガニ釣りをしていたのである。 まだ、そのころは、東京にも生家の近所には多少水田が残っていたので、子供には魅力的な遊び場だったわけである。 そんなに虫好きであったのであるが、大人になったら、大っ嫌いになっていたのである。 その転換点がどこであったのかは定かではないのであるが、中学1年のクラブ活動は友達に誘われて意味も無く「生物クラブ」というわけのわからないクラブに入ったりしてたので、まあ、そこまでは虫が嫌いではなかったのかもしれないのである。 まあ、その「生物クラブ」の新入生の最初の仕事が虫とは関係なくて、「魚屋で鱗をもらってくる」という、あたしにとってはあまりのバカバカしさで、それっきり行かなかったのである。 |