SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第7号

アジア・共生・NGO

タイ、カンボジア、ラオス 国際教育協力の現場から

曹洞宗国際ボランティア会 編



 本書は、SVA(曹洞宗国際ボランティア会)の国際教育協力事業等について、その実質上の前身であるJSRC(曹洞宗東南アジア難民救済会議)の発足から今日に至るまでの17年の歩みを綴ったものである。SVAの各事業とそれを支える理念、思想が示された本書は、SVAその他のNGOの活動に極めて有益な参考資料を提供するものといえる。

 JSRCの発足は、カンボジア難民についての報道に接し、仏教徒として何とかしなければという気運が曹洞宗内部で盛り上がったことによる。国際協力についてのノウハウのない中、自分たちのできる協力ということで、移動図書館活動を中心とした教育、文化支援活動が開始される。「何とかしたい」という気概と相手方のために何が有意義かの綿密かつ熱心な議論、調査がなしえたワザであると感じた。

 この移動図書館事楽を手始めとして、SVAの事業は教育、文化支援を中心として展開されていく。その事業には、焼き物プロジェクト、刺繍絵本やクラフトエイドなど、相手方の文化に触れ、それを活かそうとして生み出されたものが目立つ。これは、スタッフが謙虚に相手方の現状を見つめ、相手方の能力を活性化させる「触媒」としての役割に徹することができたことの成果といえるだろう。

 また、難民支援活動を通じ、日本国内の難民の抱える問題や東南アジア各国の抱える構造的問題点についても目が向き、活動領域はタイ国内及びラオス並びにカンボジアへと広がっていく。一口に教育、文化支援といっても国や地域によって必要とされる事業やその実施のためにやらなけれぱならない作業の内容は千差方別であり、それぞれ創意工夫が要求される。本春には当時の機関誌からの抜粋が載せられているが、各地域での活動の実情やスタッフの悩み、叫びを生き生きと表していて面白い。

 一方、日本国内においても、阪神・淡路大震災に際して大規模な支援活動が行われている。加えて、日本国民が東南アジアの抱える問題を自らの問題としてとらえることが問題解決にとって重要であるとの考えから、SVAは、「地球市民教育」を推進している。これは、日本人に、タイなどの社会文化についての理解を深め南北問題を自らの問題としで捉える端緒を提供しようというものである。その際、東京からの一方的発信でなく、地域のムラ社会での自発的な動きを積極的に支援する「地域発信型NGO」の形をSVAは目指すとしている。地域文化を活かした自立を支援してきたNGOだからこそ自信を持っで出せる方向性であると感じた。

 このように多彩な事業を展開しているSVAだが、JSRCの事業は本来2年で終了の予定であったのであり、関係者の多大な工作と努力があって初めてSVAへの事業の継続がなしえたという。組織の存在は自明のことではなく人の力によっで成り立っているということを示すものとして、極めて興味深い。

 本書全体を通読して感じるのは、関係者各位の「何とかしなければ」という熱意及び現地の人の立場に立って考えることのできる想像力並びにそれを実施に移すための構想力、実行力である。また、組織は人の集まりにすぎず、カギを握るのは個々人であるということである。人間の尊厳と人権の確保というのは正にSVA活動の基盤となるものであり、組織や国家を超越して適用されるべきものと強く感じた。

 本書は濃密な内容ながら大変読みやすくできている。是非一読をお鷹めしたい一冊である。

(野村修一)


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