破産法 平成7年度第1問

問  題

 破産者が破産債権者にした弁済の効力について、弁済が破産宣告を前にされた場合と破産宣告後にされた場合とに分けて、それぞれ論ぜよ。

答  案
(本試験再現、評価A)


一 破産宣告前の弁済の効力について
1 破産宣告前は破産者はその所有財産について自由な管理処分権能を有し(6条及び7条の反対解釈)、また破産債権者も自由に個別権利行使が可能である(16条の反対解釈)。
  したがって、破産宣告前に破産者が破産債権者にした弁済は原則として有効となる。

2 しかし破産宣告前であっても破産者が財産上実質的に危殆時期にある場合には、破産者の財産を債権者館で公平に分配する必要が生じており、特定の債権者が抜け駆け的に弁済を得ることは、財産の公平な分配を害するものといえる。
  そこで、破産管財人は、このような弁済が支払停止又は破産申立の後になされたものである場合には、債権者間の公平を害する行為として否認権行使の対象としうる(七二条二号、危機否認)。
  ただ、破産宣告前は本来的には破産者が財産管理処分権能を有していることから弁済受領者の利益も考慮し、弁済受領者が受領当時支払停止又は破産申立の事実について悪意である場合にはじめて否認権行使の対象となる(七二条二号)。

3 弁済を受領した破産債権者が破産者の親族又は同居者である場合には破産申立又は支払停止のいずれについても善意であったことを弁済受領者が証明しなければならない(七三条三号)。弁済が義務なくして、即ち条件未成就や履行期でなかったにもかかわらず行われたものである場合には支払停止又は破産申立の事実についての善意を弁済受領者が証明しなければならないほか、支払停止又は破産申立前三十日内になされたものも否認の対象となる(七二条四号)。

4 ではさらに前の弁済を否認できないか。故意否認(七二条一号)の可否が問題となる。
  この点、故意否認にいう「破産債権者ヲ害スル」行為(七二条一号)とは破産者の総財産を法的に減少させる行為(詐害行為)をいうものと解すると、弁済は財産も減少する分債務も減少するので法的財産状態には変化がない以上故意否認の対象とならないこととなる。
  しかし故意否認の対象となる行為に時期的制限が設けられていないのは、破産者が破産債権者を故意に害する意図でなした行為は悪性が強いと考えられるからである。
  とすれば七二条一号にいう「破産債権者ヲ害」する行為とは詐害行為のみならず破産債権者間の公平を害する行為(偏頗行為)も含まれると解する。
  よって弁済も故意否認の対象となる(七二条一号)。

5 弁済が否認されると弁済は破産財団との関係では効力を失い、破産管財人は弁済受領者に対して弁済額を返還するよう請求できる(七七条)。

二 破産宣告後の弁済について
1 破産宣告により破産宣告の当時破産者の有していた財産は原則として破産財団に属し(六条)、その管理処分権は破産管財人に属する(七条)。その結果、破産者は当該財産についての管理処分権を失う。
  また、破産債権者は破産手続外での個別的権利行使を禁止される。
  したがって、破産者が破産財団所属財産を用いてなした弁済は処分権なき者による弁済であり破産財団に対する関係では無効となる。したがって破産債権者は返還しなければならない。

2 それでは、破産者が自由財産を用いて破産債権者に弁済することはどうか。
  自由財産については破産者が管理処分権能を有している以上個々から弁済することは自由であり、またこれを認めても破産財団所属財産の減少を障さず、かえって財団から支払われるべき債権額が減って配当率が高まるのでよいようにも思える。
  しかしこれを認めると破産債権者が破産者に対し自由財産からの支払を求め圧力をかけるようになり、自由財産による破産者の更生を害する。また、破産債権者が争って自由財産からの弁済を求めるようになり、破産手続による公平な財産の分配は実効性を失う。
  したがって、破産債権者はあくまで破産手続内でのみ権利行使を行うべきであり(一六条)、自由財産による破産債権者への弁済は無効になると解する。

以 上


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