●:試験委員、○:筆者
● 手元の図を見てください。
● 地震で甲地(所有者A)の土砂が乙地に落ちてきました。誰がどんな請求ができますか。
○ BはAに対し、乙地に落ちてきた土砂をどかすよう請求できます。
● その根拠は?
○ 乙地所有権に基づく妨害排除請求権です。
● 他には?
○ AはBに対し土砂の返還を請求できます。
● その根拠は?
○ 甲地所有権に基づく所有物返還請求権です。
● どちらも請求できるの?
○ あ、・・・。Aは請求できません。【落ちちゃった土砂を返還させるというのも変だよね・・。】
● どうして?
○ 土砂は崩れたらもう土地の一部じゃなくなってしまうからです。
● じゃあ、土地の上に建っていた石灯籠が落ちた場合も返還請求できないの?
○ う・・。その場合は、石灯籠は独立した動産として・・その前は土地に附合していたかもしれませんが・・Aの所有権の対象として返還請求できます。
● 物権的請求権って、行為請求権と考えるの?
○ はい。
● 費用負担を求める権利がなぜ物権的請求権に含まれるの?
○ 物権的請求権を実効あらしめるためです。
● でも、費用負担の請求権は債権だよね。それがどうして物権的請求権の問題に?
○ 物権的請求権を行使しても相手方が応じない場合には自らの費用でいったん除去しなければなりません。そのときのためです。
● では、AがCに対して甲地を譲渡しましたが、登記は未だAにあります。Bは誰に対してどんな請求ができますか。
○ Cに対しては妨害排除請求権を行使できます。また、Aに対しても妨害排除を請求できます。
● なぜですか。
○ はい。妨害排除請求の相手方は甲地の所有者であるCであるのが本来です。しかしBの甲地所有者を覚知する利益を保護する必要があります。また、自らのところに登記を置いておいたAは請求の相手方となっても仕方ありません。
● 理論的には?
○ はい。177条の物権の得「喪」は登記を経なければ対抗できないので、Cに登記を移していないAは所有権の無いことをBに対抗できません。
● では、AD間で土地所有権をDに移すとの虚偽表示がなされ、Dに登記が移されました。この場合はどうですか。
○ はい。AとDに対して妨害排除を請求できます。
● (Dに対する請求の)理論構成は?
○ はい。民法94条2項の類推によります。
● 94条2項?Bは94条2項の第三者なの?
○ あ、いえ。Dと取引に入ったわけではありませんから・・・。177条の第三者にBは当たるので・・。
● 177条?ホント?
○ あ、う・・。。
● 君がさっき言った理由と同じだよ。
○ はい。実質的には、Bの相手方を覚知する利益を保護する必要があります。
● 理論的には?
○ (結局分からなかった・・)。
● それでは最初に戻ります。段差ができたのがBが土地を掘り下げたことによるものだった場合、誰がどんな請求ができますか?
○ Bの請求は認められないと思います。
● なんで?(身を乗り出すように、びっくりした風で)
○ 権利濫用に当たるからです。
● どうして権利濫用?(副査は頭を抱えている。)
○ 自らの行為によって原因を造っておきながら、その結果生じた損害について賠償を求めさせるのは妥当でないからです。
● Aは?
○ うーん・・。あ、忍容請求権と考えれば・・。
● ここまで来て変える?(笑いながら)
○ あ、いえ、元のままにします。
● 考えておいてください。
(終わり)