●:試験委員、○:筆者
● ある被疑者の実名を報道したことを理由に民事責任を問われた場合、どのように判断しますか。
○ はい、その事実が公共の・・。
● 条文見ていいですよ(にこにこしながら)。
○ (刑法230条の2をめくる。)はい、刑法230条の2・・(同条第1項を読み上げる。)この場合、同条2項により・・。
● そのような基準が用いられた判例を知っていますか?
○ はい、確か刑事でしたが、週刊(日刊?)和歌山時事事件・・。
● それが民事なんですよ。
○ あ、はい。
● ところで、刑法の規定を民事に使っていいの?
○ はい、基準が明確になりますので。
● で、今言ったことは誰が証明するの?
○ 報道機関です。
● でも、民法の不法行為は要件事実を原告が証明するんだよね・・。逆でいいの?
○ えー、私人間だからいいかと・・。
● でも、民事の原則なんだよ?表現の自由って大事じゃなかった?
○ あ、やはり原則どおりに原告が証明しなければならないと・・。
● それも極端だねえ(笑)
○ そうですね、やはり元に戻します。
● 表現の自由は重要なんじゃないの?
○ 名誉毀損的表現は民主政の過程に資さないので、名誉やプライバシーに譲歩してもやむを得ないと考えます。
● 全ての場合に?
○ 政治家などの場合には民主政の過程に資するので、民事の原則に戻ります。
● 政治家の他には?
○ えーと、高級公務員とか・・・。
● では次に移ります。ノンフィクション「逆転」事件って知ってる?
○ はい。ある事件についての被告人の氏名を実名で載せた小説・・。
● 小説じゃなくてノンフィクションだね。
○ あ、ノンフィクションの作者がプライバシー侵害で民事責任を問われた事件です。
● 前科っていつから報道しちゃいけないの?
○ えーと、裁判が終わったら・・。
● 裁判が終わったらダメなの?
○ そうですね、えん罪の可能性などを知らせるためには必要ですね・・。服役を終えたらできないと思います。
● じゃあ、「今日、あの事件の犯人が出所」という報道はできないの?
○ いえ、それは服役終了までのできごとだからできます。
● 常にできないの?
○ あ、政治家などの場合はそれを選ぶための一材料として報道することができます。
● 政治家以外には?
○ 高級公務員とか・・。
● 高級公務員かあ(笑)。犯罪をした人が高級公務員になることあるの?
○ あ、ないですね(苦笑)。
● 他にない?
○ 社会的影響力のある宗教家とかあります。
● では、性犯罪を犯した人が近くに引っ越してきた場合にその前科を報道することは?
○ できません・・。(主査がじっとこちらを見ている。)確かに周辺の住民のことを考えると公開した方がいいかもしれませんが、出所している以上更生したはずですので・・。
● どんなに怪しそうな人でも?
○ そのような場合は今現在怪しそうな風貌であることを報道すればいいと考えます。
●(笑い)そうですか。
(終わり)