●第4章 同人が配偶者を選ぶということ


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*4−1 結婚と同人活動の基本法則:活動基本編

 以前はゾロ目の年(22歳)は同人活動の引退の年と言ったそうであるが、今では社会人生活が久しくなっても引き続き同人誌制作に携わる例が多くなってきた。活動レベルの高かった人ほど、様々な縁から「切れにくく」なっており、何だかんだで同人空間にとどまる人が珍しくない。

 たとえ現役の活動を“引退”しても、同人同士の人間関係は引き続き維持し、即売会が開かれれば顔を出す人は少なくないように思われる。当然ながら同人関係者の平均年齢はしだいに高くなり、大量の同人が「適齢期」に突入する状況が出現しつつある。

 さて、同人関係者がそろそろ結婚を考えようかというとき、当然のことながら次のような悩みが発生する。これまで蓄積してきた同人活動の「成果」を配偶者候補となる人にどのように紹介すればいいのか、という事だ。その「成果」とは、すなわち段ボール一杯に詰め込まれた同人誌そのものであり、同人活動を通じて培われた人間関係である。 新居に同人の匂いがするものを持ち込まず、過去の同人活動は黙して語らなければ特に不都合はないであろう。また、全てを明かしたうえで、過去の青春の一断面さ、と笑い飛ばしてもいいだろう。

 だが、これは結婚を境に同人活動から「足を洗う」ことを前提にしている。相性さえ合っているなら、過去に同人活動の経験があったという理由だけで逃げてしまう配偶者候補はいないだろうから。出来るものなら、よほど記念にしたい同人誌以外は全て廃棄し、同人活動を通じて以外では付き合えない人との関係も疎くしたまま放っておいて同人の匂いを消してしまい、同人空間からきれいに「足を洗って」しまうことをお勧めする。

 ところで、自分が結婚後も同人活動に携わりたいと思っている場合は、どのようになるであろうか。お忍びで即売会会場の空気をかぎにいく位ならまだしも、同人誌を買い集めながら、それを見つからないままにしておくことは困難であろう。より高い活動レベルの、実際に原稿を描いたりサークル仲間と交際したりする位になれば、種々の郵便物が届いたり電話がかかってきたりすることは避けられないので、隠そうとして隠し通せるものではない。よって、結婚後も同人活動を続けたいと考えるときは、少なくとも同人活動に理解のある配偶者を選ぶことが必要な条件になる。この場合、配偶者にも同人経験があるのが良いであろう。

 ところで、結婚は二人の問題にとどまらず、親兄弟や親戚との付き合いがついてまわる。そういった周囲の人々に祝福されるのが、いつの時代でも変わらない理想の結婚像であるとされる。周囲の誰かが(同人活動から連想されるマイナスイメージなどで)自分か配偶者を気に入らなければ、当然二人は深刻な選択を迫られる。早い話が、祝福のない結婚に耐えられるかである。周囲の猛反対。たどり着いた北の果ての街。怒涛の貧困生活。最悪、このくらいの覚悟をもって結婚に踏み切れるか。

 祝福される場合とされない場合のパターンを図で表してみよう。
 
○:結婚後の同人活動に理解を示す    ×:理解を示さない

 本 人   配偶者  本人の家族 配偶者の家族  結 果 
× × × 破 談
× × 破 談
× × 破 談
× 破 談
× ×  駆け落ちor破談 
×  駆け落ちor破談 
×  駆け落ちor破談 
祝 福

 結婚後も同人活動を続けたいのであるから、自分は当然○だが、配偶者が理解を示さなければそれまでであり、配偶者が理解してくれても周囲の理解が得られなければ、駆け落ちでもしない限りおしまいである。ここでは8通りだが、理解対象がn人いれば 2n通りに増える。

 だが、何百通りになっても祝福されるのはただの1通りしかない(論理積回路突破の条件)。第2章で述べた通り、周囲の人は必ずしも同人活動に理解があるとは限らず、たとえ理解してくれいていても、結婚問題ともなると猛烈に世間体を気にしだすこともあり得る。結婚後もつつがなく同人活動を続けながら、なおかつ祝福されるには相当に高いハードルであると思われる。

 以上を法則としてまとめてみよう。

 ◆結婚と同人活動の法則:活動基本編(第1類)◆

 ◇同人をやめさえすれば、相性の合う誰とでも結婚出来る。

 ◇結婚後の同人活動は、その活動レベルを問わず理解者を配偶者に選ばない限り続けることは出来ない。

 ◇同人活動が知られている場合、周囲の全てから理解されない限り、祝福された結婚は望めない。
  


*4−2 隠れ同人のジレンマ:隠れ同人編


 さて、先項の法則はいわゆる公表同人を念頭においているが、実際は多かれ少なかれ同人活動を家族や周囲に隠してきた隠れ同人の方が多数派を占めるであろう。結婚後も同人活動を続けたい隠れ同人が、配偶者にはともかく、願わくば引き続き家族や周囲に対して隠れ同人のままでいたいと考えるのは実に自然な流れである。

 となると、そのための有効な策は何であろうか。 まず、配偶者候補が同人関係者である場合。この場合で喜ぶには、自分と配偶者の二人ともほぼ完璧な隠れ同人であることが前提条件となる。二人とも隠れ同人ならば共有する秘密の絆は固く、周囲には決してばれないまま隠れ同人を続けることも可能に違いない。二人とも隠れ同人である場合を*4−1の表と同様に表してみよう。

○:結婚後の同人活動に理解を示す ×:理解を示さない −:知らせない

 本 人   配偶者  本人の家族 配偶者の家族  結 果 
×  破 談 
 祝 福 

 周囲に知られない条件さえ成立すれば、*4−1の表で8通りあった組み合わせが2通りに減る。さらに、二人とも隠れ同人なら、配偶者が×の反応を示すことはまず考えられないので、事実上祝福の1通りだけになるわけだ。

 ここで、どちらかが公表同人か隠し方が甘い隠れ同人の場合はどうであろうか。この場合は、少なくとも一方の親や周囲が同人活動の多少は承知しているわけだから、親同士の会話などでいずれ隠れ同人の親や周囲にも同人情報が伝わるであろう。知られてしまうにつれて、2通りまで減っていた組み合わせはどんどん増えていき、いきついてしまえば、*4−1の表そのものが復元されてしまう。

 次に、配偶者候補が同人とは無関係の場合。この場合は、たとえ理解を示してくれても、自分の同人に関わる情報は基本的に配偶者の親に筒抜けになると思っておいた方がよい。特に配偶者候補が女性の場合は、その女親にはほぼ確実に伝わると覚悟しておいたほうがいいだろう。自分が隠れ同人であろうと公表同人であろうと、配偶者には隠し通せないので、結局は伝わってしまう。さらに、配偶者の親から自分の親に自分の同人情報が伝わる可能性も考慮しなければなるまい。おまけに、伝わる情報には世間の偏見と誤解が枝葉となって生い茂ってゆくことが多いことを留意しておかねばならない。

 もちろん、配偶者候補が深く理解してくれれば話は別だが、自分が隠れ同人であることを黙っていてくれるかどうかは言ってみない限り絶対に分からず、もし言ってダメだったらそこで全てが終わるかもしれないというリスクを伴う。破談になった上、自分の親や周囲にまで(自分が隠れ同人だったと)ばれてしまう、最悪の結果を招く可能性すらあるのだ。

 だから、これも図で表すと結局は*4−1の表そのものとなる。しかも、配偶者候補が理解してくれた上に黙っていてくれるという、よほどの幸運に恵まれない限り、隠れ同人の存続を賭けたハイリスクな戦いになってしまう。つまるところ、配偶者候補が同人と無関係の場合は、このリスクを冒してまで同人活動を続ける勇気がなければ、素直に同人活動から撤退するのがよろしかろうと思う。

 以上を法則としてまとめてみよう。

 ◆結婚と同人活動の法則:隠れ同人編(第2類)◆


 ◇自分と配偶者候補の二人ともが完璧な隠れ同人である場合に限り、結婚後も隠れ同人を続けられる。

 ◇それ以外では、いかなる組み合わせでも、隠れ同人がばれてしまうリスクが発生する。

 ◇従って、そのリスクが怖いのなら、同人活動の継続は素直に諦めなさい。
  



*4−3 同人の結婚 属性による相性編

 さて、次は同人活動と空間に関する相性について考えよう。同人誌を通じた活動をしている限りでは特に問題にはならなくても、同人空間を何よりも重視する真性同人と、他にも大切な帰属空間を持つ両立同人とでは、非常に大きな差異がある。特に、結婚観はそれぞれの持っている帰属空間との関係を抜きにしては語れないから、単にホレタハレタでくっついても、考え方や行動パターンの違いを乗り越えられなければ不幸になるだけだし、それを乗り越えたとしても、親兄弟や相互に紹介しあう人達の理解と祝福を得るという関門が待っている。

 以下の表は、特に第3章で述べたことを踏まえて作成してみた相性図である。もちろん、これは一般論であり、実際は様々な因子がからんだ例外があるだろうが、目安の一つにはなると思う。 表の左端縦は自分の属性を、上端横は配偶者の属性を表す。配偶者候補には同人関係者ばかりではなく、無関係の人(ごく普通の人であるとする。どこかの真性○○だったりする可能性はあるが、それは別の問題だ。)も考えられる。その配偶者候補が同人活動に理解を示せば同人の理解者、そうでなければ同人に理解なしと表した。


記号凡例
◎ 相性が合えば、特に問題なし。
○ 相互で納得出来るなら問題ないが、同人空間に対する認識の一致が不可欠。
△ 周囲の理解を得るために、慎重な検討が必要。
× うまくいくとは思えない組み合わせ。結婚するにしても相互に余程の覚悟が必要。
− まずあり得ない組み合わせ。


【1】結婚しても同人活動を続けたい。配偶者も続ける(もしくは理解を示す)。
下段:本人、右:配偶者  真性同人  演技両立同人  両立同人  同人の理解者 同人に理解なし
真性同人
演技両立同人 ×
両立同人 ×

◇同人と無関係の配偶者と真性同人とは、そもそも住む世界が違うのだから、出会うチャンスがない。見合いがあったとしても、相手の方から敬遠される。

◇同人と無関係の配偶者が同人活動に理解を示さなければ、両立同人といえども破談の憂き目にあう。

◇基本的に、同人同士なら相性さえ合えば問題ないが、その活動を生活の中でどのくらい重視するかでの折り合いをつけておく必要がある。



【2】結婚しても同人活動を続けたい。配偶者はやめる(若しくは関わらない)。

下段:本人、右:配偶者  真性同人  演技両立同人  両立同人  同人の理解者 同人に理解なし
真性同人 × ×
演技両立同人 × ×
両立同人 × ×
◇配偶者が真性同人なら、自分が同人活動を続けるのを横目に同人活動から遠ざかることは考えられない。

◇両立/演技両立同人で、結婚を機会に同人活動をやめる意志が固いとしたら、真性同人を結婚の対象として認識しない。従って、自分が真性同人ならば確実にふられる。



【3】結婚したら同人活動をやめたい。配偶者は続けるつもりだ。
下段:本人、右:配偶者  真性同人  演技両立同人  両立同人  同人の理解者 同人に理解なし
真性同人 × ×
演技両立同人 ×
両立同人 ×

◇真性同人は、そもそも結婚であっさり同人活動を捨てられる環境には住んでいない。

◇自分が両立/演技両立同人で、結婚を機会に同人活動をやめる意志が固いのならば、真性同人だけは配偶者に選ぶべきではない。せっかく固めた意志も骨抜きにされてしまう可能性が高い。



【4】結婚したら同人活動をやめたい。配偶者もやめる(若しくは関わらない)。
下段:本人、右:配偶者  真性同人  演技両立同人  両立同人  同人の理解者 同人に理解なし
真性同人
演技両立同人
両立同人

◇自分も配偶者も結婚を機会に同人活動から身を引こうと考えている場合、真性同人が入り込む余地はまずあり得ない。その他の組み合わせでは特に問題はないであろう。新たな世界へはばたいてゆく二人に幸多かれ。


以上を法則としてまとめてみよう。

 ◆結婚と同人活動の法則:属性による相性編(第3類)◆

 ◇自分と配偶者候補の二人ともが両立同人の場合、全く問題がない。

 ◇二人ともが真性同人の場合も、同人活動が続く限りは問題がない。

 ◇どちらかが同人活動をやめたい場合、真性同人はどちら側の組み合わせにも入れない。    
  



*4−4 まとめ

 先項の表は、当事者同士の相性図であった。(例外が多いであろうことは承知しているが、結婚に向けて真性同人が両立化する「帰属替え」などで、もはや例外ではなくなってしまう事例も多いのではないかと思う。)

 もちろん、結婚は極めて個人的な問題であるから、本人同士さえ納得し合えば、だれもケチをつけられないことは言うまでもない。ところが、本人同士だけでは済まないのが結婚というもの。特に、結婚しても同人活動を続けたい場合、親や周囲の理解が得られる見込みがなければ厳しい選択を迫られることになろう。

 もっとも、その同人活動の内容が、果たして周囲を納得させるだけの価値があるのかどうかなのだが、心当たりのある人はまさに「あなたは同人活動をとるか、それとも祝福される結婚をとるか。」と問われているのである。






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