目黄不動尊(最勝寺)

天台宗 牛宗山 明王院 最勝寺(さいしょうじ)江戸川区平井1−25−32)
御本尊 釈迦如来(伝慈覚大師作)

目黄不動尊(良弁僧都作)
関東三十六不動霊場第十九番

JR 総武線 平井駅 下車 バス 小松川高校前下車 徒歩3分
JR 総武線 平井駅下車 徒歩20分

 江戸川区の町並みに触れたくて、駅から歩くことにしました。商店街を抜け、淡々とした住宅街の中で、通りがかりの自転車のお年寄りに道を聞きました。

 『丁度いいから・・・、ついてきなされ。この辺は何もなくてなー。』
 『どうもすみません・・・。皆さん路地ごとに花を作られて、ほっとします。』
 『遠くからこなさったかね?』
 『立川の近く、村山貯水池のあるところです。しょっちゅう林の中を歩いているものですから、都会は疲れます。でも、この花を見ると、安心します。』

 『ほうー、随分遠くから・・・。花はみんな丹精していなすって・・・。アパートなんかでもやってさなる。寄ってみなさるかね・・・?』

 と案内してくださったのがこの通りみち。そこから少し行って

正面に荒川の堤が見えると最勝寺でした。

大きな石塔「元 本所表町 天台宗 最勝寺」に迎えられて
仁王門を入ると正面に本堂(本尊釈迦如来)、右脇に

目黄不動明王 関東三十六不動霊場第十九番の石柱の奥に

不動堂があります。

縁起

 先ずはお参りを済ませ、納経帳に御朱印をお願いし、住職の素晴らしく達筆な字にお礼を云って、縁起を頂戴しました。

目黄不動

 当寺に奉られる不動明王は、天平年中名僧良弁僧都が、東国を巡錫したとき、一樹の陰に宿り奇跡を感得したため、自らこれを刻んで本尊とし、一宇の堂を建立したのにはじまるもので、その後徳川氏入府よりこの不動尊を信仰する所となった。

 殊に三代将軍家光公の崇拝厚く、仏教の大意にもとずいて府内に五色不動(目青、目黄、目赤、目白、目黒)をもうけ、方位によって配置し、又、江戸に入る街道を守らしめたが、当寺に安置する不動明王は、五色不動のうち目黄不動と名付け
られ、その中の中心的な意を持つ由緒あるものである。

 現在正五九、節分、元日等に大護摩がある。』

 としています。そして、最勝寺については

 『最勝寺

 牛宝山・明王院と号し、天台宗に属する。本尊には釈迦如来(慈覚大師の作と伝えられる)及び不動明王(良弁僧都の作)を安置する。

 当寺は貞観二年庚辰(八六〇)慈覚大師(七九四〜八六四)が東国巡錫のみぎり、隅田河畔に一寺を建立したのが、そもそもの創りといわれ、良本阿闇梨(伝不詳)の開山である。もとは本所表町(現・墨田区東駒形)にあり、牛島神社(牛の御前)の別当を明治維新に至るまでつとめた。

江戸名所図絵には

 「・・・寛永年間大樹此辺御遊狩の頃、しばしば当寺え入御あらせられしにより、其頃は仮の御殿など営構なし置かれたりとなり・・・」

等と紹介され、現在も仮の御殿跡には山王権現を勧請する。現在地には大正二年(一九一二)移った。

 堂内には本尊の他に、もと牛島神社の本地仏で、慈覚大師の作の「大日如来」、渡来仏の「毘沙門天」、葛西川三十三ケ所の中二十三番の「千手観音」等々が安置され、又、大般若経六百巻、法華経等々が寺宝としてある。一方、境内には地蔵菩薩、観世音菩薩、無縁塚等々がある。』

無縁塚

 縁起に関しては、他の資料でもほぼ同様です。ただ、学生社「江戸川区史跡散歩」では、『この尊像(=不動尊)は、はじめは東栄寺(末寺)にまつられていたものであったが、廃寺になったので最勝寺へ移されたものである。』(p173)しています。東栄寺がどこにあったのか興味が湧きます。

街道守護、将軍家との関わり、牛島神社(牛の御前)の別当

 縁起を手にしてみると、最勝寺の目黄不動尊も、街道守護、将軍家との関わりが説かれていました。

 目黄不動縁起では『江戸に入る街道を守らしめたが、当寺に安置する不動明王は、五色不動のうち目黄不動と名付けられ、その中の中心的な意を持つ由緒あるものである。』として、街道守護と黄を中心に置く、四神・色説を採っています。

 最勝寺縁起では、江戸名所図会を引用して『寛永年間大樹此辺御遊狩の頃、しばしば当寺え入御あらせられしにより、仮の御殿など』が造られたとしています。さらに、最勝寺が牛島神社(牛の御前)の別当寺であったことが明らかにされています。

 牛島神社は墨田区の向島にあります。江戸切絵図では、最勝寺は隅田川の東河畔、墨田区の駒形にあったことを残して、まさに、その関連を語ります。

 それにしても、随分と距離があります。すでに、夕刻になりかかっていたので、もう一回出直して、最勝寺の旧地、「元 本所表町」へ行ってみようと気を新たにして、荒川土手を帰路につきました。

 夕づまりの荒川は帰りを急ぐ人が一斉に動いて、もの悲しい風情でした。
始めて味わいました。

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