『ロック冒険記』の最終回


佐藤和美


 『ロック冒険記』は単行本化に際してラストが大幅に変更されている。『ロック冒険記』は少年クラブに1952年7月号から1954年4月号まで連載されが、そのラストはどのようなものだったのだろうか。ここで1954年4月号に掲載された最終回を見てみよう。


グォン グォン グォン 猛獣のどよめきのようなさけびをあげて 地球へおそいかかる鳥人のロケット戦隊! ああ、地球の危機
このおしまいの回は ロックの日記から あとで ぬきがきしたものである

二0XX年X月XX日
……かんししょうより 敵は地表五千マイルの点にきたと報告あり
どうやら そのあたりで あとからくるものをまって態勢をととのえるらしい
そのおかげで 一日のよゆうができた
ぼくらは そのあいだに鳥人をくいとめる手段を ひっしになって考えた

「でも地球に成層圏でたたかえるロケットがいくらある?」

「東南西北をときふせてロケットをかりよう」

「あっ ロックと大助がきたっ」
「こんちくしょうっ かたずけてしまったはずなのに……」
「ロケットをかしてください 鳥人がくるんだ」
「ばかな……!」
「あなたの会社のロケットが まだのこっているはずです」

「わかったな ロックたちがロケットへはいったら れいのてで……ばくはつさせてしまえ」

「どうも東南西北のたいどがおかしいぞ みんな はいるふりしてかくれましょう」

グワーン

「あっ! ロケットがはれつした! まえにオイル卿のロケットがはれつしたのとおなじだっ」
「きっと東南西北のしわざだ」
「ホッ ホッ ホッ ホッ ホッ ホッ ホッ ホ」
「うぬっ ではオイル卿の死もきさまの……
たくみなわるだくみだったんだな」
「オホッ うわっ」
「きさまのようなやつはなん百かいなげとばしてもあきたらん」
「ひげおやじさん暴力はいけないよ」
「つい…… かあっとしたんじゃ」

「きかせよう おれの名は……原野九郎(はらのくろう)……」
「えっ! あの日本で六十なん件もさぎをはたらいたペテン師だったのか」
「そのとおりだ おれも……ディモンのどさくさにひと仕事して ゆくゆくは大統領になるつもりだったんだ」
「ペッ あの男のためにわれわれはひきずりまわされていたわけか ペテン師めっ」

それからかれは一生をニューヨークのかんごくですごしたとか……いうことであるが……」

X月□日
地球防衛軍はけなげにも基地をとびたっていった

「地球の運命はきみたちにかかっているんだよ しっかり!」

「くそーっ 鳥人のやつめえっ」
「わあっ や やられた」
「おおっ またやられたぞ」
「鳥人はいくらでもあとからあとからあらてをおくってくるな」
「あたりまえだ あっちは うんとこさ資源があるんだからな」

X月X
地球防衛隊ついに一機もかえらず さらにこの日……
大ぜいのどれい鳥人たちが空港をおそい
……ロケットをうばって空へ逃げさる
チコもその中に……いた

「おとうさん さようなら もうあえません さようなら」

「もうだめだ 地球の人たちはまけたんだ」

X月X日
とつぜん 暴風けいほうがうなりわたった
そして各所に大じしん大暴風がおこった

X月X○日
「すごいふきぶりになったね」
「ちょうどディモンがはじめてちかづいたときとおなじだな」
「ロック君 じつに信じられないことじゃが…… きせきがおきたらしい
地球はすくわれたかもしれない」
「ええっ」
「この記録をみたまえ これがほんとなら神が地球をすくいたもうたのだ」
「大助っ 天文台へいこう すぐディモン星の視直径をしらべろ」
「それがどうしたっていうの」
「ディモンになにかおどろくべき変化がおこっているそうだ」

それはほんとだった ああ! なんというきせきだろう
X月△日ディモンは大きさがはんぶんになり……
「地球から大スピードでとおざかっていく ほら まるで逃げるように……」
「ふしぎだ…… まったくふしぎだ 地球はかったんだよ」
「うん」

月と地球がある一線へきて引力でディモンのコースをかえたのだった!

「チコ…… さよなら しあわせにくらしたまえ」

THE END

(2002・4・27)


追記 2007.1.3
『ロック冒険記』の最終回は以下に再録されている。
『手塚治虫漫画劇場 華麗なるロック・ホーム』河出文庫


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