日本語の発音




「ア」+「イ」=「エ」

佐藤和美 (98/06/18 20:00)

 「入る」(はいる)を「へーる」と発音することがあります。これはなぜなんでしょうか。

 「ア」、「エ」、「イ」と発音してみてください。口がだんだん閉じてきますね。ところで「ア」、「イ」という時、口を移動させるのがめんどうですね。そういうときはどうしたらいいでしょうか。そういうときは「ア」と「イ」の中間の音「エ」で間に合わせればいいのです。「ア」+「イ」=「エ」というわけです。これで「はいる」が「へーる」になりますね。



「あ、か、さ、た、な」の順番

佐藤和美 (98/06/24 12/58)

 最初の書き込みは50音図で驚いたというのを書きましょう。

 50音図の「あ、か、さ、た、な」の順番ですが、実はあれには規則性があるのです。

 「あ、か、さ、た、な」と発音してみてください。調音点(発音のために舌、上あごなどが接触する点)が口の奥から前のほうに移動してくるのがわかると思います。50音図を考えた人はえらかったですね。

 こういうことや、「漢字と日本語」で書いた漢字の音読のルーツのこととか、日本人の常識になればいい、と思ってるんですけど、皆さんはどう思われますか?



いろは歌

佐藤義昭 (98/06/26 12/46)

いろはにほへと・・・で始まる歌があります。この歌にはちゃんとした意味があるそうですが、このなかで、[i]と[wi]、[e]と[ye]と[we]の区別はどうしているのかがわからないのです。わかる人がいたらお願いします。
また、別のいろは歌に、とりなくこえす・・・で始まるのもあるらしいのですがこちらも誰かしらないでしょうか。



いろは歌

佐藤和美 (98/06/27 09/59)

 私の「本棚の本」にある本の中でただ一冊小説があります。それが井沢元彦「猿丸幻視行」(講談社文庫)です。私はいろは歌というとこの本を思い出すのです。ポーの「黄金虫」といえば暗号解読をテーマにした推理小説です。「猿丸幻視行」も暗号解読がテーマなのですが、ただしそれはいろは歌の暗号解読なのです。いろは歌とか、日本語に興味のある人にはおすすめの一冊です。

 で、私のいろは歌の知識はこの本で読んだことしかないので、この本をもとに質問に答えたいと思います。

まずいろは歌です。

いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす


これでいうと「い」(i)と「ゐ」(wi)、「え」(e)と「ゑ」(we)は区別されています。「ye」にあたる字は出てこないので区別されてないですね。

 「いろは歌」は空海がつくったという伝説があるくらいで、平安時代の作品です。「とりなくこえす」は明治36年に万朝報という新聞で募集したものです。(坂本百次郎という人の作品)

とりなくこゑす
ゆめさませ
みよあけわたる
ひんがしを
そらいろはえて
おきつべに
ほふねむれゐぬ
もやのうち


 ところで「仮名手本忠臣蔵」というのがあります。なんで仮名手本なんでしょうか。仮名手本とは「いろは歌」のことなんです。で、「いろは歌」の一番右側の字をひろいだすと、「とかなくてしす」になります。つまり「咎(罪)なくて死す」で、「仮名手本忠臣蔵」という題名は幕府批判になってるんですね。



「e」と「ye」

佐藤和美 (98/06/28 13/11)

 きのうの追加を少しだけやります。

 「e」と「ye」の区別ですが、「いろは歌」では区別されていませんが、万葉時代に使用されていた万葉仮名(漢字を仮名的に使う。「漢字と日本語」を参考にしてください。)では区別されていたようです。そのころは「e」と「ye」を区別していたんですね。この区別はやがてなくなり、「いろは歌」の頃にはもう忘れられていたということでしょう。



日本の通貨−円

佐藤義昭 (98/06/29 12/44)

日本の通貨の単位は円です。ところで紙幣を眺めるとローマ字で「YEN」とかかれています。
通貨の単位が円になったのは明治時代からで、江戸時代は両、文だったと思います。
何故、円は「EN」でなく「YEN」なのですか?誰か教えて下さい。





がめら (98/06/30 00/09)

日本で「円」が、用いられたのは、明治5年からで、
当時、造幣の技術指導に来ていた外人技師が、
発音しやすい「YEN」をを使ったことから紙幣にも
「YEN」と書かれるようになりました。

中国の通貨の単位は「ユアン」韓国では「ウォン」ですが、
どちらも紙幣の漢字表記は「圓」です。



ye

佐藤和美 (98/06/30 12/10)

「e」よりも[ye」のほうが、欧米人には発音しやすいんでしょうか。
そういえば、「江戸」は「Yedo」だったと思うのですが、「蝦夷」(北海道)も「Yezo」だったはずです。(ブラキストン線で有名なブラキストンの本の題名に、「Yezo」が使われていたと思います。)ほかにも「え」を「ye」としているのがいろいろあるかもしれませんね。



[yi]と[ye]

佐藤義昭 (98/06/30 13/00)

がめらさん、ありがとうございました。疑問がとけました。

ところで、現在の50音表には[yi]と[ye]は乗っていません。
ならば、前はどうだったのか?
[yi]と[ye]に該当する、ひらがな・カタカナは、どのような文字なのかわかりません。
又、お願いになってしまいました。誰か教えて下さい。

ちなみに、昭和44年頃から昭和46年頃に発行されていた週間アルファ大世界百科という雑誌で、項目は忘れましたが明治時代の学校の授業風景の挿し絵が載っていてその中に50音表がありました。
[yi]は、カタカナの「ィ」をさかさまにしたのが、[ye]は、漢字の「壬」の真ん中の横棒がないのが、それぞれ載っていました。
記憶に間違いなければカタカナはこうです。残念ながらひらがなはわかりません。



「e」「ye」「we」の歴史

佐藤和美 (98/07/01 12:04)

 何日か前に万葉仮名では「e」と「ye」を区別していると書きました。
一例として、「e」は「衣」、「ye」は「江」で書かれたようです。
「e」と「ye」の区別がなくなったのは、10世紀です。
この二つは「ye」に合流しました。「え」を「ye」と発音したわけです。
これに鎌倉時代に「ゑ」(we)が加わります。これで「え、ゑ」が「ye」と発音されるようになりました。
(ちなみに1620年発行のロドリゲス「日本語小文典」(岩波文庫)でも「え」は「ye」になっています。)
その後、江戸時代に発音の変化がおこり、「ye」が「e」にかわりました。
これで現在の発音と同じに、「え、ゑ」が「e」になったわけです。
(以上、小松秀雄「日本語の音韻」中央公論社を参考にしました。)

 ところで、日本語には「yi」という発音は存在しません。当然それに該当する仮名も存在しません。
 「ye」の仮名ですが、万葉仮名の時代には発音・万葉仮名はあったわけですが、平仮名・片仮名に移行する過程で「e」、「ye」の区別がなくなってしまったわけですから、定着はしなかったようです。私の調べたかぎりでは、「e」、「ye」を区別した仮名は見つかりませんでした。

明治時代の授業で使われていたというのは、「?」ですね。



「あ、い、う、え、お」の順番

佐藤和美 (98/07/02 12:08)

 何日か前に50音図の「あ、か、さ、た、な」の順番というのをやりましたが、今日は「あ、い、う、え、お」の順番です。

 今、加藤和光「英語の語源AtoZ」(丸善ライブラリー)という本を読んでいるんですが、この本に「あ、い、う、え、お」の順番について書いてあったので紹介します。

 「あ、い、う、え、お」の順番はサンスクリット語(インドの言葉)のアルファベットの順番と同じということです。つまり「あ、い、う、え、お」の順番は、仏教とともに、インドから中国経由で日本へきたと考えられるのです。

 50音図って、縦も横も奥が深いですね。



駅名のふりがな

佐藤義昭 (98/07/06 13:00)

駅名のふりがなで、e,ye,weをどう使いわけていたのか教えて下さい。
ここに、鉄道院発行の鉄道停車場一覧(明治45年版)があります。
この中で、駅名のふりがなが今だと全て「え」となるのが3種類にわかれています。

上野
恵比寿
川越

おもな例をあげると以上です。

上野は、「うへの」となっています。
恵比寿は、「ゑびす」となっています。
川越は、「かわご@」で、@のところに入るひらがなが私には読めません。
又、私の使用しているパソコンにも該当する文字がありません。
これがyeのひらがなかな?



駅名のふりがな

佐藤和美 (98/07/07 08:20)

 以前にも書きましたが、「e」と「ye」の区別は仮名の成立期になくなっています。仮名で「e」と「ye」の区別は考えないほうがいいかと思います。

 「上」の「へ」は今では「え」と書きますが、これについては「は行音について」が参考になるかと思います。平安時代末期、語頭以外の「は」行音は「わ」行音にかわりました。その後、鎌倉時代に「え」と合流するわけですね。「へ」は「e」、[ye」と別に考えるのがいいでしょう。あくまで「は」行の「へ」です。

 「恵」の「ゑ」は「わ」行、「越」の「え」はあ行でいいと思います。

 字体が違うということですが、異体字を使っているだけなのではないでしょうか。その資料の中にあ行の「え」がでてこなければまちがいないでしょう。



駅名のふりがな

佐藤義昭 (98/07/07 12:40)

ご指摘ありがとうございました。

再度資料をみたところ、「え」を使用したのはありませんでした。
又、鉄道省発行の鉄道停車場一覧(昭和9年版)をみると、上野と恵比寿のふりがなは、そのままになっていて、川越は、「え」に変わっていました。



ひとつ教えてください。

右大臣カオル (98/10/07 13:08)

はじめまして。ひとつ質問があります。
日本語で「る」ではじまる単語が極端に少ないのはなぜですか?ルーレット、ルンバなど、たいがいは外来語ですよね。また、「ん」ではじまる単語にいたっては皆無なのも不思議です。アフリカに「ンジャメナ」という都市がありますが。
だから、しりとりで勝つコツは相手に「る」ではじまる言葉をいわせるようにすることだと思いますが。それにおわりに「ん」がついたら負けだし。



(無題)

田舎の硯学者 (98/10/08 02:39)

なぜかコンピュータの調子が悪く、なかなか接続できずご無沙汰しております。いくつか今日の伝言板について意見を。
琉球方言と日本語の母音について、
周知の通り、現代日本語(標準語)はa,e,i,o,uの5母音の体系ですが、琉球方言は基本的にa,i,uの3母音体系です。一部八重山、奄美方言では、a,e,i,uの4母音があると聞いています。そのため、本土方言のoとuはuに、iとeはiに収斂する法則が成り立ちます。例外もあるので注意は必要ですが。
中国語のkiについてですが、満州語の流入以前に口蓋化が進み既に、kiがchiになっていたことは元代、明代の辞書などから明らかです。ただ方言によってはki音を今も保持しています。(広東語、福建語など)清代に至って京劇の台本などで古代の発音を反映させるため、chi音をki由来のchi(団音)とchi由来のtsi音(尖音)に分けることが盛んになり、『十三轍』という辞書が多く作られています。
ルで始まる単語が少ない理由
ルに限らず、日本語のラ行で始まる単語は全て外来語です。これは、アルタイ語族の共通した特徴でモンゴル語、朝鮮語、満州語などでもラ行で始まる言葉はほとんどありません。朝鮮語では、たとえ外来語であっても語頭のRをN,φなどになることがあります。例:冷麺(Naeng myoeng),6(Yuk)など。また日本語でも江戸時代ロシアを゛おろしあ゛といっていたように語頭のラ行音は発音しにくいものとして避けられていました。ンで始まる言葉は方言ではありますが、標準語にはありません。アフリカのバンツー系諸言語では、ン(n,ng,m など)で始まる単語は普通に見られます。ケニヤのキリマンジャロも"Klima Njaro"「輝く山」という意味です。ではまた。



日本語はラ行音で始まらない

佐藤和美 (98/10/08 12:12)

 田舎の硯学者さんの書き込んだとおりで、特につけくわえることもありませんが。

 大和言葉(漢字流入以前の日本語)ではラ行音で始まる単語はありません。(「花のちるらむ」の「らむ」などの、若干の例外はありますが)
日本語は南方系と北方系の要素が混ざり合った言語です。ラ行音で始まらないというのは北方のアルタイ語族の特徴と言われています。日本語とアルタイ語族にはなんらかの関係があるのでしょう。
漢字の音読みはもともとは中国語です。それでは国語辞典のラ行には、外来語・音読み以外になにがあるでしょうか。多分、なにも見つからないと思います。

(韓国・朝鮮語の語頭のラ行音についても、いずれこの伝言板でふれたいと思っています。)



韓国・朝鮮語の語頭のラ行音

佐藤和美 (98/10/12 12:05)

 韓国・朝鮮語の語頭のラ行音の話を聞くと、私はすぐあの「ノドン」のことを連想してしまいます。
「ノドン」は「労働」の韓国・朝鮮語読みです。みごとにラ行音を避けてますね。

 李朝朝鮮の歴史を読むと「両班」というのが、でてきます。これは「ヤンパン」です。これもラ行音を避けてますね。

 「李」というのは韓国・朝鮮で多い姓ですが、これもラ行音を避けていて、「イ」になります。



ごろごろあわせ

TK (99/06/15 13:01)

こんにちは。ここの掲示板の主旨とあっているかどうかわかりませんが、
かねてから知りたかったことがあります。

日本語に語呂合わせ(4126 = よいフロ 、スポーツ紙の見出しのたぐい)が
発達しているのはなぜですか?やはり漢字やひらがななどの文字を併用して
いるからでしょうか。どなたか教えて下さい。



ごろあわせ

佐藤和美 (99/06/16 08:32)

TKさんwrote
>ここの掲示板の主旨とあっているかどうかわかりませんが
 この伝言板は言葉に関係したことならなんでもあり、
というスタンスでやってますので、なんでもどんどん書き込んでください。

>日本語に語呂合わせが発達しているのはなぜですか?
こういう質問て、日本語の核心をついてるんじゃないかと思うんですが。
日本語の発音の基本は50音図で表されます。
日本語の文字(カナ)は音節文字であり、発音もまた音節発音(今、思いついた言葉)です。
で、日本語の数詞の発音は、音読みにしろ訓読みにしろ1音節か2音節です。
数字だけでも50音図のかなりの部分を埋められるのではないでしょうか。
これがごろあわせしやすい秘密だと思います。
(数字で50音図、作ってみますか?)
そういえば、ケータイのEメールが今ほど発達しないころは、
ポケベルで数字だけのメール(?)を送ってたとかいう話もありましたね。

 英語の場合は「one」、「two」、「three」……「ten」で、
音読み、訓読みがあるわけでもないし、ごろあわせのしようがないですね。



XXX

TK (99/06/24 13:10)

こういう音の連続は日本語には存在しない、という明確な法則があったら
教えて下さい。
濁音の連続は日本語ではきらわれている、とか?



日本語の特徴

佐藤和美 (99/06/25 08:33)

日本語の特徴ですけど、とりあえず思いつくものをあげます。
・ラ行音が語頭にたたない。
・濁音が語頭にたたない。
・母音と子音が交互に現われる。

思いつくのはこんなとこです。
ちょっと説明がいるかも。
みんな、漢字流入以前の話です。
漢字流入で日本語もずいぶんかわりました。

青は「あを」(awo)、
顔は「かほ」(kafo)。
ね、母音と子音が交互に現われるでしょう?

本居宣長の発見した字余りの法則があります。
和歌は五、七、五、七、七ですが、
万葉集で本居宣長は字余りになる規則性を発見します。
母音と子音が交互に現われるというのは、単語の中の話です。
語がつながるときには母音が連続するときがあります。
母音が連続するときに字余りが発生します。
宣長、なかなかやりますねえ。

濁音から始まる語を日本人はいいイメージを持ってないそうです。
「どろ」、「どぶ」、あとなにがあったかな?
「美」(び)というのも、あまり美しさを感じないことば?



字余り?
TK (99/06/28 12:46)

佐藤さん、本居宣長の字余りの法則とかいうのをもう少しくわしく知りたいので、
説明していただけませんか?

濁音からはじまる単語…「げじげじ」…これは違いますか?

「山崎」「高田」を「ウチはヤマサキです」「タカタです」と主張する人って
いますよね。



字余りの法則
佐藤和美 (99/06/29 21:26)

まずは「万葉集」から、字余りの歌をひろいだします。

近江の海 夕波千鳥 汝(な)が鳴けば
心もしのに いにしへ思ほゆ
                  (柿本人麻呂)

次に字余りの部分をローマ字化します。
(ハ行の子音はとりあえず、fを使用します。)

あふみのうみ
afuminoumi

いにしへおもほゆ
inisifeomofoyu

ね、母音が連続しているところがあるでしょう?
これが字余りの法則です。
(これは私がかってにつけた名で、本居宣長がそう呼んだわけではありません。念のため。)
「万葉集」から字余りの歌をひろいだして、
いろいろためしてみてください。

(「げじげじ」も悪いイメージの言葉ですよね。)



re:字余りの法則
ペルセ (99/06/29 22:50)

二重母音として、一音で発音するからでしょうか?



なるほど。

TK (99/07/01 13:39)

字余りの法則、そういうことでしたか。

秋の田の 刈り穂の庵の 苫をあらみ ← tomawoarami

…すいません、字余りの歌っていうとこれしか思い付かないのですが、これも
あてはまってますよね。



上代特殊仮名遣い

佐藤和美 (99/07/01 16:10)

 本居宣長はいろいろなことをやった人です。
「字余り」以外にも「上代特殊仮名遣い」というのを発見しています。
万葉仮名は漢字を仮名的に使っていますが、ある特定の音で漢字が使い分けされているのを発見しました。ある特定行の「イ」段、「エ」段、「オ」が2グループに使い分けされていたのです。
 これは後に橋本進吉によって再発見されました。橋本進吉はこれは母音の違いではないかと考えました。万葉時代には母音が8あったというのです。八つの母音とは a 、i甲音、 i乙音、 u、 e甲音、 e乙音、 o甲音、 o乙音 です。
 岩波文庫に橋本進吉の「古代国語の音韻に就いて」という本があります。この経緯を書いていて、なかなかおもしろい本です。

 8母音がどのようにつくられたのか、大野晋は次のように考えました.(定説ではないと思います。)
 重母音が新しい母音を作り出してたのではないか。すなわち ui が i乙音 に、 ai が e乙音 にというように。

(このことは「知床地名行」にもちょっと書いています。)

この説だと母音の連続が消滅した理由は説明できるようですね。

さて、次は私の妄想です。
重母音が新しい母音をつくりだすことによって、単語内での母音の連続はなくなりました。
ところが単語の接続する所では、母音連続が起こってしまうときがあります。
このとき8母音がつくられたように、母音の融合が起こらなかったか?

ペルセさんwrote
>二重母音として、一音で発音するからでしょうか?

私もそんな気がするんですが……



「フツ相通」

中村威也 (99/08/16 16:10)

佐藤さん、はじめまして。
中国古代史を勉強している者です。日頃は漢文訓読という点から日本語の変遷
やいわゆる訓読語法について興味を持っています。さて、最近あるML(三国
志ML)で、「甲子」の読みが「カッシ」と「カフシ」の二通りあり、どちら
も間違いではない(慣用読みでない)ということを知りました。

「甲」は古代中国では入声をともなった「kap」という発音で、それを受容し
た日本では「カフ」(フはpuと発音されるのでかなり原音に忠実ですね)とし
て認識した。ところがその後、日本語の語法からして「リフ」と書いてあれば
「リュウ」と読むことになっていますので、「p」音系の字は、本来の発音を
残す「○ツ」という発音と、「○ウ」という誤って読んでしまった慣用音の二
つが並立することになりました。これを「フツ相通」と言います。

という説明だったのですが、後半の「日本語の語法からして」以降が僕にはよ
く理解できません。この点についてお教えいただきたく、検索サイトで探しま
くり、ここにたどり着きました。「フツ相通」について書かれた本がありまし
たら、紹介してください。
お願いばかりですが、よろしくお願いします。



フツ相通?

ビーバ (99/08/16 22:55)

 「フツ相通」という言葉は聞いたことがありませんが、だいたい次のような
ことだと思います(ここでは「立」の漢字で説明します)。

 「立」という字には二つの音読みがあります。まず、独立・確立などで用い
られる「リツ」という読み。それから、寺院の建立(コンリュウ)などという
ときに使われる「リュウ」という読みです。でも、「リュウ」の読みのほうは
使われることも少なく、変わった読み方だと思われるかもしれません。しかし、
本来の読みは「リュウ」なのです。
 「立」は、古い中国語では「lip」と読まれていました。それを日本語に取り
入れたとき「リフ」という音になりました。この「リフ」という音が弱まって
「リウ」の発音となり、その後「リュウ」となったわけです。だから、「リュウ」
が本来の読みなのです。
 また、立「lip」の語尾の「p」音は日本語の促音「ッ」に似た音であるため、
熟語のなかでは促音となりました。たとえば、立春(リッシュン)、立身(リ
ッシン)などです。一方、熟語の中で「リッ」の音を持つ漢字に「律」があり
ます(たとえば、律詩(リッシ)という熟語)。しかし、「律」の読みは「リ
フ」ではなく「リツ」です。これと混同して「立」にも「リツ」という読み方
が使われるようになったのでしょう。

 同じような例としては、雑という漢字があります。本来は「ザフ」→「ゾウ」
(雑煮)の音ですが、「ザツ」(混雑・複雑)という音が広く使われます。お
そらくは、雑記「ザッキ」、雑踏「ザットウ」などの熟語からの連想でしょう。
このようなことを「フツ相通」と言っているのだと思います。どちらにしても、
「ツ」ではなく、「フ」から生じた「ウ」のほうが本来の音だと思います。

 「甲」の場合は「カツ」という音はありませんが、熟語内で「カッ」という
音が使われるのは、古い中国語の語尾「p」音を促音で表したものです。同じよ
うな例を挙げておきます。
  「早」 サフ→ソウ  早速「サッソク」、早急「サッキュウ」
  「十」 ジフ→ジュウ 十手「ジッテ」
  「合」 ガフ→ゴウ  合併「ガッペイ」、合致「ガッチ」
  「入」 ニフ→ニュウ 入声「ニッショウ」

 文献などには当たっていないため、間違いがあるかもしれません。その場合
は、ご指摘をお願いします。



フ、ツ

佐藤和美 (99/08/17 12:17)

 「フツ相通」というのは、私も聞いたことがありません。
どうも、しろうと言語学の用語なような気がするんですが。

 以下、中田祝夫「日本の漢字(日本語の世界4)」中央公論社より引用します。(P326)
「唇内入声字の多くは、平安時代に固有の日本語の第二音節以下で起こったφu>uの変化を反映して、
 −p>−pu>−φu>u
のような変化をたどり、その結果「−ウ」と書かれるようになって、韻尾−uおよび−ngを持つ諸字との識別を失ったが、あとに無声の子音が続く場合には促音化を起こしやすかったために、そのような結合頻度の高い一部の唇内入声字は、鎌倉時代以後、促音や舌内入声と同じ「ツ」の仮名で表わされることが、多くなり、結局その字の字音として「−ツ」のかたちの方が一般化してしまったのである。」
(「ng」はフォントがないため、このようにしました。鼻にかかった「ン」です。「φu」は日本人の普通に発音する「フ」です。日本語の「フ」は「hu」じゃないんですね。)

この経緯を見ていると、「フツ相通」という言葉のでてくる要素はないですね。
「フ」と「ツ」は別に「相通」なんかしてないですよね。
この本にも「フツ相通」という言葉はでてきません。

 ちなみに、「ハッピ」は「法被」と書きます。「法」が「ハフ」だからです。



ハ行の発音をローマ字にすると?

星野豊 (99/10/17 18:30)

星野です。
現在のローマ字ではハヒフヘホをha hi fu he ho と表しますが、
現在の発音をより正確に表すとしたらどうなるでしょう?
フの子音がfではなくて、φなので、fuではなくて、phuと表すのが妥当だと思いますが、それではヒはどういう表記になるのでしょうか。



ハ行のローマ字

ビーバ (99/10/17 21:47)

 日本語の「フ」の子音は、音声記号では /φ/ と書くのですが、現代ギリシャ
語の“φ”は /f/ の音なんですよ。“ph”はギリシャ語の“φ”の転写なので、
日本語の「フ」を表すのには妥当ではないでしょう。「フ」を表すのに、私は
“hu”でいいと思いますが。
 「ヒ」のほうは、もっと難しいですね。ドイツ語の“chi”と同じ音ですけど、
「チ」と読まれてしまいそうですし、やっぱり“hi”でいいのでは?

 以前、次のようなローマ字綴りを考えたことがありましたが、あんまり面白
いものではないです。

タ ta チ tyi ツ twu テ te ト to
ハ ha ヒ hyi フ hwu ヘ he ホ ho



RE:ハ行の発音をローマ字にすると?

佐藤和美 (99/10/18 07:12)

星野さんwrote
>現在のローマ字ではハヒフヘホをha hi fu he ho と表しますが、
日本語のローマ字表記には何種類かありますが、これはヘボン式ですね。

>現在の発音をより正確に表すとしたらどうなるでしょう?
ローマ字表記は発音記号とは違います。その当たりははっきり認識すべきでしょう。
私は「ハヒフヘホ」は「ha、hi、hu、he、ho」と表記すべきだと思ってます。 中国語で「北京」を「Beijing」と表記するのはなぜなのかをよく考えるべきでしょう。

>フの子音がfではなくて、φなので、fuではなくて、phuと表すのが妥当だと思いますが、
このあたりはローマ字をいくらいじくりまわしてもしょうがないですね。
だいたい日本語の「ウ」が「u」だと思ってることじたいが幻想です。
本当の「u」は日本語の「ウ」よりも口を大きく開けます。
(このあたり、英語の時間に教えてるのかな?)
日本語の「ウ」は発音記号では[u+c]です。

>それではヒはどういう表記になるのでしょうか。
JISコードのローマ字じゃ表記できません。
「ヒ」はこうなります。
「ヒ」発音記号

もう一回書きますけど、私は「ハヒフヘホ」は「ha、hi、hu、he、ho」と表記すべきだと思ってます。ようは定義の問題でしょう。日本語の「ヒ」は「hi」、「フ」は「hu」と表記する、と定義するわけです。



“u”の音

ビーバ (99/10/18 08:59)

 ちょっとしたことですが‥‥

 音声記号の“u”は日本語の「ウ」より、唇を丸く突き出すようにして発音し
ます。音声記号の[+]は舌を前寄りにする、[(]は唇の丸めを弱くするという
なので、[u+(]で日本語の「ウ」になるわけです。

 また、「ス」「ツ」の場合は、唇の丸めがほとんどないため、“m”を180度
回転させた記号で表すことができます。

--------
 JISコードでは、音声の話をするのが大変ですね。[+][(](左半円)というの
も本当は母音の下に書かなくてはいけないのですが‥‥



「を」の発音

しろうと (99/11/29 22:41)

教えてください。わたしは三十数年「を」を『oお』と発音してきました。なのに引っ越した先の人達は『woうぉ』だというのです。最初はこの人達なまってると思っていたのですが、各地の知り合いに聞くと、半数以上は『woうぉ』だといいます。日本語にそんな二重音が許されるものなのでしょうか?



「を」について

夕日 (99/11/30 08:18)

平安中期までは「う」に近い半母音〔w〕に母音〔o〕を添えた〔wo〕でした。
しかし、現代の小学校教育では「お」〔o〕と発音するように指導しています。

二重母音について
英語の I〈私〉では,舌が[a]の構えから高母音[i]へ向かって移っていき
[i]の手前で調音を終えてしまうと言います。これは二重母音と考えられています。
一方日本語のアイでは,舌の構えは[a]から[i]に変わり2音節に数えられので
連母音(母音の連続)といっているようです。
この類なら、日本語にはたくさん認められるはずです。方言の音韻を含めれば
複雑な母音が存在すると考えています。
言葉足らずですが、参考になれば幸いです。



「を」の発音

佐藤和美 (99/11/30 17:55)

 昭和の頃に読んだ本に書いてあったことだったか、ずいぶん前なのでうろ覚えですが、ある地域、時代に学校教育で意識的に「を」の発音を「wo」だと教えていたそうです。「を」を「wo」と発音する地域、年代を調べてみるとおもしろいことがわかるかもしれませんね。
 ちなみに、私も「を」は「o」と発音してます。
(「本を読む」をローマ字で書けといわれれば「hon wo yomu」と書きますけど、発音は別です。)

 学校教育の影響は大きく、「おこなう」の送り仮名をみればある程度の年代がわかるともいいますよね。
 「行なう」、「行う」、どっちを使ってますか?



「を」のよみかた

しろうと (99/12/02 10:58)

改行せず読みにくい質問に答えていただいてありがとうございます。子供の「音読の発音が変だ」と他のお母さんに聞いたらまさにこどもは「お」と「を」の区別が つかないからわざとそう教えているのだと言うことでした。でも、他の地域出身の人はわたしとは反対に、「を」は「wo」で30年暮らしてきたと言います。
ちほうによって、「ひ」が「し」になるとか、「ぞ」が「ど」になるとかいうのは30年生きているといろいろ耳にするので知識としては知っています。
なのにあいうえおのようなまったく基本的なところで、まったく知らないことがあったのでびっくりしました。このようなホームページがあって本当に良かったです。
二重音については五十音の中で読み方を書くのに、「wo」とよむと「うぉ」となって一文字にならないのが気に入らなかったので深く考えずに書きました。すいません。
わたしは「行う」と「行なう」なら前者を取ります。
漢字変換でも一番に出てきたのでほっとしていますが、もしかして若い人は違うのでしょうか。
「上」の書き順も、わたしと子供では違いますが、書き順が変わるというのもなんだか納得行かないことです。なんだか年寄りくさいですが。



"Ye"か"E"か?

泰樹 (2000/07/12 03:53)

はじめまして、泰樹(やすき)と申します。

「言葉の世界」を知りました。私も言語に興味を持っており、このサイトは非常に面白いと思います。
ちょっと古いメールの引用からスタートさせていただきますが、よろしくお願いします。

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佐藤義昭 (98/06/29 12/44)

日本の通貨の単位は円です。ところで紙幣を眺めるとローマ字で「YEN」とかかれています。
何故、円は「EN」でなく「YEN」なのですか?誰か教えて下さい。

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「円(圓)」が明治時代に採用されたのは、多分中国(当時清)に倣ったのだと思います。その当時中国語の「円(圓)」の発音が既にローマ字で"Yuan"と表記されていたのかどうか、また当時の日本人が"Yen"と"En"の発音の違いを理解していたうえで、"Yen"と発音されていたから"Yen"を採用したのかどうかも私にはわかりません。

しかし、私には、当時の外国人、特にEnglish Speakerの耳には日本人が"Yen"と発音しているように聞こえていたと思います。現在のローマ字表記では「円」は"En"と書きますが、皆さん本当に[en]と発音していますか???

ローマ字をそのまま表記すると下記のようになります。

1円 ichi-en
2円 ni-en
3円 san-en
4円 yo-en
5円 go-en
6円 roku-en
7円 nana-en
8円 hachi-en
9円 kyu-en
10円 jyu-en

英語のYearとEarの発音の違いを聞き分けられない方には難しいかもしれませんが、1円、2円、8円は、chiのiと、enのeが二重母音となり、たびたび佐藤さん他の方々が述べられているように、日本人は昔から二重母音が不得意ですので、i+eがjeの音になっています。
9円も9の発音で既にjの音を発ししているので、舌をその位置でとどめたままeの音を発音しがちになり、その結果[e]ではなく[je]の発音になっています。4円も同様です。
私自身の発音では、5円は[en]と発音するときもあると思いますが、1円、2円、8円、9円は[jen]、その他は[en]と[jen]の中間で発音しているように思います。

ところで、私は鹿児島に祖母がいましたが、20年程前に祖母と話していて気付いたのが、祖母が「駅」を[jeki]と発音することでした。今の若い人達は標準語化されていて[jeki]とは言わないのかもしれませんが、鹿児島の方で何かお気付きの方がいらっしゃれば教えてください。

他の九州、沖縄あたりでは、「駅」をなんと発音していたのでしょうか?

また、かつて何かで読んだことがあるのですが、島根か鳥取のどこか、あるいは四国のどこかだったかもしれませんが、老人の世代では「ず」と「づ」を[zu]と[dzu]できちっと発音を違えているとのことです。現代の日本人にはCarの複数形とCardの複数形の発音を違えて行うというのは難しいですよね。



YEN

面独斎 (2000/07/16 09:06)

日本の通貨単位「円」のローマ字表記がなぜ「YEN」なのかに関して、
がめらさんの以前の書き込み (98/06/30) ですが……

> 日本で「円」が、用いられたのは、明治5年からで、
> 当時、造幣の技術指導に来ていた外人技師が、
> 発音しやすい「YEN」をを使ったことから紙幣にも
> 「YEN」と書かれるようになりました。

ウェブ上で検索してみると、どうも定説は存在しないようです。
まず、誤りを訂正しておくと、「円」が用いられたのは明治 4 年からで、
同年に定められた「新貨条例」によります。YEN というローマ字表記が初めて
用いられたのが明治 5 年で、この年、YEN の表記を使った紙幣「明治通宝」が
発行されています。

あちこちのウェブ・サイトの記述を総合すると、YEN 表記の由来に関して以下の 諸説があるようです。

(1) ローマ字表記を「EN」とした場合、英語話者はそれを「イン」に近い発音で
読んでしまうので、これを避けるために Y を付けたという説。YEN が発音しやすい
というわけではなく、EN だと「エン」とは発音されにくいということのようです。
以前、NHK テレビでも解説委員がこの説を紹介していました。

(2) 当時は「エ」を「ye」と転写することが広く一般的に行われていたため、
「円」は当然のごとく YEN になったという説。平安時代に区別がなくなったア行のエと
ヤ行のエは、ヤ行のエ (つまり [je]) に合流したと見られますが、その根拠となる資料に
キリシタン文献があり、そこではエが ye で記されています。江戸時代に入ってエの発音
は [e] に変わりましたが、ye の表記は変わらなかったということになりしょうか。
この説をとれば「江戸」が Yedo と表記されたことも無理なく説明できます。

(3) 中国の紙幣「元」札には「圓」および「YUAN」という表示があり、
この YUAN が日本で YEN に転化したという説。中国では、「圓」と「元」とは
発音が同じであるため、「元」を「圓」の俗字として用いるようです。

(4) いくつかの外国語では「en」は頻繁に使用される常用語であるため、それと
同じ綴りになるのを避けたという説。en は、たとえば、フランス語やスペイン語では
「〜の中に」という意味ですし、オランダ語では「そして」の意だそうです。

泰樹さんの説は、少々強引ですね。



YEN 表記の由来

泰樹 (2000/07/18 02:30)

面独斎へ
YEN 表記の由来に関する諸説の紹介ありがとうございます。
私の説が少々強引とのことですが、おっしゃる意味が理解できかねます。
私はあくまで”YEN 表記の由来はわからない”という立場です。
由来がなんであれ、実際はYenと発音しているのではないか?という一種の問題提起です。

皆さんが実際になんと発音されているかを知りたいと思います。ことに3円などは、誰も
[san-en]とは発音していません。もし[san]と[en]とを発音していると、普通の早さでしゃべっても[sannen]つまり"サネン"という発音になります。
普通は皆さん[sang-jen](発音記号がきちっと書けないので便宜的にこのような書き方を
しますが)と、つまり、ngのところで舌の先は上顎にくっつかず下の歯のところにとどまり、そのあとeを発音しようとすると[jen]という発音になるわけです。

面独斎のお書きの4)については、その他に、北欧語ではenは1(いち)を表します。
2)については、最近これに関する本を目にしたので後日詳細を調べてメールします。



YENの表記と発音

むげい (2000/07/20 09:49)

泰樹さんと面独斎さんの「YEN」に就いての遣り取りで、
多少思い出すところがあったので、書き込ませて頂きます。

先ず、「YEN」と云う表記の由来ですが、面独斎さんのおっしゃる
(1)と(2)に就いては、私も聞いたことがありました。これに加えて
「当時実際に[jen]と発音していた」と云う説も聞いた憶えがあります。
と云っても方言での話です。当時の官吏達には、明治維新で功績の
あった旧薩長土肥藩の出身者が多かったわけですが、確か(少なくとも
当時の)薩摩か長州の方言では「エン」は[jen]と発音されており、
通貨単位の制定にあたった役人達が「自分の発音している通りに」
書いた、と云う風な説だったと思います。

[e]と[je]の区別に就いては、面独斎さんの書かれている通り、そ
の区別は早くに消失しましたが、発音としては、語頭では[je]、
語中では[e](逆だったかも)と云うふうに、単一音素の異音と云う
形で相補分布を成していた時期があったんではありませんでしたっけ?
(余談ですが、この後「ヱ」[we]も合流してしまうので、「ヱ」が本来
ワ行にも関わらず[je]と発音され得る事態が起こった筈です。
「ヱビス」が"Yebisu"と書かれるのはそのような理由だったと思い
ます。あ、そもそも「円」自体「ゑん」ですよね。)
問題は、この単音[e]と[je]の住み分けがいつまで保存されていた
かと云うことだと思いますが、これも面独斎さんの言われる通り
[e]になったのは江戸時代だったと記憶します。しかしこれは江戸
での話(且つ、後の標準語、共通語)でしょうから、他方言において、
[je]と[e]の住み分けが保たれていた可能性はあると思います。

もっとも、薩摩や長州の方言の知識を持ち合わせていないので、
実際のところこの説が成り立ち得るのかは個人的には判断できま
せん。ご存知の方に御指摘頂ければ幸いです。

それから、「"エン"を実際のところどう発音しているか」ですが、
私の場合、内省してみると通常[jen]とは言っていないようです。
但し、「1円」など「円」の前に[i]が来る時は、多少[j]に近い渡
り音が入りがちではあるようです。

「3円」の場合、「ン」が母音に挟まれているわけですが、「ン」は
一般にこのような環境下では、鼻母音として実現する筈で、私
自身の発音もそのようになっているようです(尤も、内省を行
う前にこの分析を知っていたので、「先入観ではないか?」と
云われると反論しきれないのですが)。しかし、「3円」の場合の
鼻母音の舌位は割と[i]に近そうなので、多少[jen]に近い音色
が聞かれることはありそうです。特に、舌が完全に[e]の形を
とる前に鼻腔への通路が塞がれると、[j]のような音が入る
ことになるでしょう。泰樹さんの場合も、記述から推測するに
[-ngj-]と云うよりは、やはり鼻母音で発音しているのでは
ないかと云う気がします(勿論実際に聞いていないので断言で
きませんが)。比較的ゆっくり、或いは区切って発音すれば、
[ng](は軟口蓋鼻音ですよね?)が現れると思いますが、普通
に[sang-jen]と云ったとすると、泰樹さんの「[san-en]だと
"サネン"になる」と云う論理通り、「サギェン」または
「サンギェン」(「ギェ」は鼻濁音の拗音)となってしまうのでは
ないでしょうか?

それと最後に、
>佐藤さん
ご挨拶が遅れましたが、むげいと申します。私も言葉全般に
興味があって、このサイトはいつも楽しく拝見しております。
今後も書き込ませて頂くことがあるかも知れませんが、
どうぞ宜しくお願いします。



鹿児島方言の母音

佐藤和美 (2000/07/21 12:42)

鹿児島方言の母音ですが、
「鹿児島県のことば」(明治書院)には次のように書いてあります。

「ア、イ、ウ、オ」の音は共通語に同じ。「エ」は全域「イェ」である。ただし語中では「ウエ(上)」「マエ(前)」のように「エ」となることが多い。種子島では「オ」を「ウォ」という。また「シウォ(塩)」「イウォ(魚)」のように、語中の「オ」だけを「ウォ」というのは周辺地域に多い。



Re: YEN 表記の由来

面独斎 (2000/07/23 18:20)

まず訂正を。私の前回の書き込みの (2) において、「なりしょうか」とある
のは「なりましょうか」の間違いです。これがホントの「まぬけ」ですね。
失礼しました〜(^^;)。

それはさておき、7 月 12 日 03:53:24 付けの泰樹さんの書き込みに関して、
少々強引だと私が評した理由を、ご要望にお応えして明らかにしておきます。
泰樹さんは、

> 当時の外国人、特にEnglish Speakerの耳には日本人が"Yen"と発音して
> いるように聞こえていたと思います。

と主張し、その根拠として現代日本語の「1 円」から「10 円」までが実際に
どう発音されているかについて考察しているわけですが……

(a) 明治初期の日本語の発音と現代日本語の発音とを無条件に同一視して
しまって構わないものなのかどうか。少なくとも、当時と現代の発音の違いの
可能性に関して何らかの言及があって然るべきではないでしょうか。

(b) 考察の対象が 1 円から 10 円までなのはなぜでしょうか。他の可能性は
ないのか。とりわけ「円」が単独で発音される場合を考えないのは疑問です。
少なくとも、他の場合を考察しない理由を明示すべきではないでしょうか。

(c) 当時の日本語という観点からすれば、「7 円」を nana-en とするのは
疑問です。「しちえん」だったのではないか。「9 円」も「くえん」だった
かもしれません。なお、ついでに指摘しておくと、ヘボン式ローマ字綴りでは
「じゅ」は「jyu」ではなく「ju」です。

(d) 「日本人は昔から二重母音が不得意」とありますが、これは現代日本人
にもあてはまるでしょうか。また、そのために「i+eがjeの音になって」いる
とのことですが、もしそうだとすると、たとえば「2 円」は [njen] になって
しまいます。つまり「ニェン」ですが、これは事実に反します。

(e) 「9 円」に関して、すでに発音した [j] の舌の位置を変えずに [e] を
発音すると [je] になるとしていますが、舌の位置が同じというだけでは
[j] にはなりません。[j] は接近音に分類されるように、瞬間的に母音よりも
声道を狭めることによって産出される音です。この瞬間的な声道の狭窄がなぜ
引き起こされるかについても説明されなければとても納得できません。

ま、ざっとこんなところでしょうか。



エの音価と音素抽出

面独斎 (2000/07/23 18:24)

むげいさんの書き込みの中に、気になる記述が一点あります。

> [e]と[je]の区別に就いては、面独斎さんの書かれている通り、
> その区別は早くに消失しましたが、発音としては、語頭では[je]、
> 語中では[e](逆だったかも)と云うふうに、単一音素の異音と云う
> 形で相補分布を成していた時期があったんではありませんでしたっけ?

[e] と [je] の分布に関しては、じつは私も詳しいわけではありませんので、
何かをコメントできる立場にないのですが、ただ、[e] と [je] とを「単一
音素の異音」と見るのはどうかなという気がします。以下、エの音価が、
語頭では [je]、語中では [e] であったと仮定して話を進めます。

語頭で [je]、語中で [e] として現れる音素 /e/ を想定する場合、それが
エ以外のエ列音 (ケ、セ、テ、…) の母音としても現れることを考慮する
必要がありますが、その場合は語中なので [e] になると考えれば、
相補分布の考え方には矛盾せず、一見、何の問題もないように思われます。
しかし、[ke] や [te] という音連鎖の存在を考えた場合、これらは [je] と
ミニマルペアをなすと考えられるので、そこから音素 /j/ が抽出できます。
また、[ja]、[ju]、[jo] という音連鎖の存在からも、音素 /j/ の妥当性が
認められます。

エが語頭で [je] に、語中で [e] になるという現象は、語頭という位置に
現れた /e/ に /j/ が添加されたものであると見るべきではなかろうかという
気がします。

ついでながら、もう一点。「ヱビス」というのは商標だけの表記で、七福神の
恵比寿の「エ」はア行ないしヤ行のエではないでしょうか。



訂正 (ヱビス)

面独斎 (2000/07/24 07:30)

「ヱビス」とするのは商標の場合だけではないかと書きましたが、
『大辞林』に次のようにありました。

> 「えびす(戎・夷)」と同源の語。一般に「恵比須」と書くことが多く、
> この場合の歴史的仮名遣いは「ゑびす」

平仮名の「ゑ」も片仮名の「ヱ」も漢字「恵」に由来しますから、
「恵」を当ててそれを仮名書きする場合に限り「ゑ・ヱ」を使うということ
なんでしょうか。語源的にはア行 (ヤ行) のエであるようです。



エの音価

むげい (2000/07/26 02:29)

面独斎さんに[e]と[je]を「単一音素の異音」と捉えることがおかしい
のではないか、と云う御指摘を頂きましたが、私もこの話は受け売り
でして、細かい部分に詳しいわけではないのですけど、取り敢えず成
立はし得る分析だと思います(最適かどうかはともかく)。

> [ke] や [te] という音連鎖の存在を考えた場合、これらは [je] と
> ミニマルペアをなすと考えられるので、そこから音素 /j/ が抽出できます。
> また、[ja]、[ju]、[jo] という音連鎖の存在からも、音素 /j/ の妥当性が
> 認められます。

とおっしゃる部分に就いては、全くその通りだと思うのですが、そ
もそも音素/j/を認めることと、音素/e/の具現形として[je]を認め
ることは矛盾しないのではないでしょうか?私の持ち出した分析も
音素/j/を否定する立場に立つものではないと理解しています。

[e]と[je]が、それぞれ独立の音素か否かと云う議論の場合、寧ろ
参照すべきは[ke]-[kje]のような対照ではないかと思います。こ
れらはミニマルペアを成さず、色々と環境を変えてテストすると
最終的に相補分布が観察されると考えられますから、[e]と[je]を
単一の音素に体系付けることは可能だと思います。

但し、先述の通りこれが最適かどうかは判断しかねます。可能性から
言うと、例えば「ア」を/'a/と分析して音素/'/を認め、その異音とし
て、語頭且つ/e/の前で[j]、と云うふうな考え方もできるかも知れ
ません。私自身は余りつめて考えていないのですが、矛盾無く記述で
きるならここら辺は経済性の問題になってくるような気もします。
それ以前に、音素の問題に就いては単音の分布からだけでは必ずしも
一意に決定できるとは限りませんし、音の類似性や或いは形態レヴェ
ルの情報なども考慮する必要がありますよね。

それから「ゑびす」に就いては、面独斎さんが「大辞林」から引用されて
いるような事情を把握した上での事ではなくて、単に商標からの思い
込みでした。失礼しました。



eとyeとの区別

泰樹 (2000/07/27 02:40)

あ行のeとや行のyeとは万葉集の時代では書きわけられていた(つまり発音も違っていたと
思われる)のですが、その後平安朝以降書きわけがなくなり、同音となってしまいました。
それではどのような音になったか?これにてついて、1938年に橋本進吉博士が執筆された”
国語音韻の変遷”から以下抜粋を紹介します。

「普通常識的にe音となったと考えられているようであるが、必ずしもそうとはいえない。
古代の国語では、母音ひとつで成り立つ音が語頭以外に来ることは殆どないのであって、
eもまた語頭にのみ用いられた。つまり古代国語では、一語中に、母音と母音が直接に結合
することをきらったのである。yeは語頭にも語頭以外にも用いられたのである故、eとyeと
がすべての場合に同音に帰したとすれば、eよりもむしろyeになったとする方が自然であ
る。」「しかし、またもとのeとyeとの区別が失われて、新たに語頭にはeを用い、語頭以外
にはyeを用いるというきまりが出来たかも知れない。」「eとyeとがすべてeになったとする
説は極めて疑わしい。」
「室町末期の西洋人の羅馬字綴によれば「え」はye「お」はwoの音であたらしい。殊に
「え」は、現代の九州および東北の方言では現代標準語のエにあたるものすべてをyeと発音
するところがあるのをみれば、室町末期の西洋人がyeで写したのも当時の事実を伝えている
のであろうと思われる。」「室町時代においてはこれにあたるもの(注、e, ye, we, は行
のへを意味します)はすべてyeになっているのは、たとい、もとは語頭の場合だけeであっ
たとしても、語中には常にyeであり、しかも、その方がしばしば用いられるために、後には
語頭にもyeと発音するようになったのであろうと思われる。」

>種子島では「オ」を「ウォ」という。また「シウォ(塩)」「イウォ(魚)」のように、
>語中の「オ」だけを「ウォ」というのは周辺地域に多い。

これも室町時代と同じような発音がまだ残っているということなんでしょうか。



Re: エの音価

面独斎 (2000/07/30 16:23)

むげいさんの「音素 /j/ を認めることと音素 /e/ の具現形として [je] を
認めることは矛盾しない」という主張ですが、もちろん、そういう立場も
あろうかとは思います。しかし……

> [e]と[je]が、それぞれ独立の音素か否かと云う議論の場合、寧ろ
> 参照すべきは[ke]-[kje]のような対照ではないかと思います。こ
> れらはミニマルペアを成さず、色々と環境を変えてテストすると
> 最終的に相補分布が観察されると考えられますから、[e]と[je]を
> 単一の音素に体系付けることは可能だと思います。

「[e] と [je] がそれぞれ独立の音素か否かと云う議論」そのものが成立
しないというのが私の主張だったのですが……。ミニマルペアの考え方に
従って /j/ や /e/ という音素 (の候補) を抽出してしまえば、[je] は
/j/ + /e/ という音素連続であると分析できますから、[e]-[je] の分布は
もはや問題とはなりません。[ke]-[kje] に関して言うと、[kje] のような
音連鎖が実際に存在したのかどうか知りませんが、仮に [ke] と [kje] の
両方が存在したとすると、それは [e] と [je] とが相補分布していない
ことを意味します。それらは同一環境に生起することになるわけですから。

ところで、泰樹さんが紹介している橋本進吉「国語音韻の変遷」(『古代
国語の音韻に就いて』(岩波文庫) 所収) ですが、これまで読んだことが
なかったので読んでみました。泰樹さんの引用部分にもありますが、
ア行のエとヤ行のエが区別されなくなった後のエの音価について橋本は
次の二説を提示しています。

(A) 語頭か語頭以外かに関係なく、すべて [je] になった。
(B) 語頭では [e]、語頭以外では [je] になった。(その後 [je] に合流)

以前、むげいさんが次のようにおっしゃったのは、じつはこの (B) 説の
ことではないかという気がしますが、どうでしょうか。

> 語頭では[je]、語中では[e](逆だったかも)と云うふうに、
> 単一音素の異音と云う形で相補分布を成していた時期が
> あったんではありませんでしたっけ?

もっとも、橋本は「相補分布」とも「単一音素の異音」とも言っていない
ので、他の誰かがそのように解釈したということなのでしょう。ただこの
解釈が、語頭で [e]、語頭以外で [je] という部分だけを見て相補分布と
捉え、相補分布するのだから同一音素の異音だというふうになされたもの
であるとすれば、それは性急かつ安直な解釈であると言わざるを得ません。
(B) 説に言う語頭と語頭以外という区別は、エという音節の生起する位置
についてのものであり、音素論で言う音声環境 (単音の生起する位置) に
ついてのものではないからです。

「経済性」に関して言うと、「相補分布」にしてすでに経済性のために
適用される補助的な概念なのですから、相補分布を議論しつつ経済性を
考えないというのも、おかしな話です。




Copyright(C) 1999,2000 Satou Kazumi

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