calであそぶ


佐藤和美


 UNIXにcalというコマンドがある。このコマンドはカレンダーを表示するコマンドである。書式は次のとおりである。

cal [[month] year]
それでは西暦元年1月を表示してみよう。

cal 1 1
次のように表示される。

   January 1
 S  M Tu  W Th  F  S
                   1
 2  3  4  5  6  7  8
 9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
 西暦元年1月1日は土曜日になっている。それはなぜだろうか。

 太陽系モデルには地球中心モデルと太陽中心モデルの二つがある。地球中心モデルはプトレマイオスに代表されるいわゆる天動説、太陽中心モデルはコペルニクスに代表されるいわゆる地動説である。
 曜日というものが決まったのは、地球中心モデルの時代であった。一日は24時間である。それぞれの時間をそれぞれの星が支配しているとして、地球から遠い順に時間にあてはめていってみよう。地球中心モデルでは遠い順に土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月である。これを時間にあてはめると、0時は土星、1時は木星、2時は火星、3時は太陽、4時は金星、5時は水星、6時は月となる。7時以降はそれをくりかえすと、23時は火星になる。次の日の0時は太陽になる。これをくりかえして、0時の星がその日を代表しているとすると、次のような順番になる。土星、太陽、月、火星、水星、木星、金星である。このように曜日の順番が決まり、土曜日が曜日の出発点になったのである。

地球中心モデルの惑星の順番
土星 木星 火星 太陽 金星 水星 地球

太陽中心モデルの惑星の順番
土星 木星 火星 地球 金星 水星 太陽
           

星の時間支配
    00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
第1日目
第2日目
第3日目
第4日目
第5日目
第6日目
第7日目


 それでは1500年2月を表示してみよう。
cal 2 1500

   February 1500
 S  M Tu  W Th  F  S
                   1
 2  3  4  5  6  7  8
 9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
 この年はうるう年であることがわかる。

 次に1900年2月を表示してみよう。
cal 2 1900

   February 1900
 S  M Tu  W Th  F  S
             1  2  3
 4  5  6  7  8  9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28
 この年はうるう年でないことがわかる。

 それではうるう年はどのように決まっているのだろうか。実は1500年の表示はユリウス暦で、1900年の表示はグレゴリオ暦なのである。
 ユリウス暦はユリウス・カエサル(Julius Caesar、英語読みでジュリアス・シーザー)がエジプトから持ち帰った暦で、4年に一度うるう年にするというものである。だがこれだと実際の1年よりも1年の日数が長くなってしまう。そのことが1582年に気づかれ、ユリウス暦より400年で3日少ない新しい暦がつくられた。それがグレゴリオ暦である。バチカンのグレゴリウス十三世によりつくられたためこのような名になった。ユリウス暦のうるう日は400年で100日だが、グレゴリオ暦のうるう日は400年で97日である。実際にうるう年にするのは、ユリウス暦は4でわりきれる年、グレゴリオ暦は4でわりきれる年で、100でわりきれる年をのぞき、400でわりきれる年を加えた年である。

 グレゴリオ暦は1582年10月から導入された。この月の暦は次のようになっている。(これはcalの出力ではない)
   October 1582
 S  M Tu  W Th  F  S
    1  2  3  4 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
 ユリウス暦とグレゴリオ暦の調整のために10日間がはぶかれている。

 このようにして1500年はユリウス暦のためうるう年で、1900年はグレゴリオ暦のためうるう年でないのである。

 それでは1700年はうるう年だろうか、うるう年でないのだろうか。

cal 2 1700

   February 1700
 S  M Tu  W Th  F  S
             1  2  3
 4  5  6  7  8  9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29
 1700年はうるう年なのである。1700年はグレゴリオ暦ではうるう年ではないはずなのに、なぜこのように表示されるのだろうか。グレゴリオ暦は1582年以後カトリック系諸国では大幅に導入が遅かったのである。グレゴリオ暦がイギリスとその植民地に導入されたのは、1752年であった。calコマンドをつくったのはイギリス系の人だったのである。UNIXが創られたアメリカもイギリスの植民地だった。アメリカの独立は1776年である。

 それでは1752年の9月を見てみよう。
cal 9 1752
 短い日数なのが目にとまるだろう。

   September 1752
 S  M Tu  W Th  F  S
       1  2 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
 ここがイギリスにおけるユリウス暦からグレゴリオ暦への転換点なのである。調整のため日数が11日はぶかれている。1582年では10日であったが、その後1700年でのギャップがあったため11日になっている。

 日本に西暦が導入されたのは1873年(明治6年)からである。明治5年12月2日の次の日が明治6年1月1日だった。

 ロシアはギリシア正教(ロシア正教)だったためグレゴリオ暦の導入はさらに遅く、ロシア革命後である。ロシア革命の二月革命、十月革命というのもユリウス暦であり、グレゴリオ暦では三月革命、十一月革命となる。

(1994・6・6)

(注1)
 2000年はうるう年だろうか、うるう年でないのだろうか。ユリウス暦は4でわりきれる年なので、ユリウス歴ではうるう年である。グレゴリオ暦は4でわりきれる年で、100でわりきれる年をのぞき、400でわりきれる年を加えた年であるので、グレゴリオ暦でもうるう年になる。

(注2)
 『暦と星』でも、『calであそぶ』とは別の視点で暦をあつかっているので、参考のこと。

Copyright(C) 1994,1998 Satou Kazumi

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