『人名の世界地図』批判 Ver.0.91

佐藤和美

 この文書は文藝春秋から発行されている文春新書の21世紀研究会編『人名の世界地図』の間違い・疑問点をまとめたものである。(松茸さん、青蛙さん、ビーバさん、いばらさんからの情報も含まれています。)以下、特に断らない限りは第11刷(2002年1月20日発行)を指す。


全体に対して。

著者名が書かれていない。文責不明である。

全体的に推敲不足の文章である。特に大索引の推敲不足が目立つ。

「「○○」と「XX」という二つの意味をあわせもつ」という文章がよく出てくるが、日本語として不適。

「イスラム教」は「イスラーム」がよい。同じ著者の『イスラームの世界地図』のようにである。『人名の世界地図』などの他の著作は「イスラーム」に変更しないのか。

最近では「オスマントルコ」は「オスマン帝国」と表記する。これも『イスラームの世界地図』では「オスマン帝国」を使っている。変更しないのか。

『世界史事典』(旺文社)
「これまでオスマン-トルコ帝国と記述されることが多かった。しかし近年の研究で、君主(スルタン)がトルコ人でイスラーム国家だが、多民族と多宗教を包摂し、高級官僚も民族・宗教の別なく登用したところから、単にオスマン帝国と記述されるようになった。」


P15
1刷「ペテロPetero」
1刷「イエスは彼に、「汝の名はペテロ(岩)なり、その岩の上にわが教会を建てよ」と言ったという。」

「Petero」は削除すべきだろう。
イエスはギリシア語を話していたのか。

梅田修『ヨーロッパ人名語源事典』(大修館書店)P100
「英語名ピーター(Peter)はギリシャ語Petros(石、岩)が語源である。(中略)イエスはシモンにケパ(Kepa:岩)という名を与えた。このケパをギリシャ語に翻訳したのがペトロである。」

11刷「ペトロPetros」
11刷「イエスは彼に、「汝の名はペトロ(岩)なり、その岩の上にわが教会を建てよ」と言ったという。」

イエスはギリシア語を話していたのか。

P293
1刷「ピーターPeter(中略)ペテロはヘブライ語で「石、岩」。」

「ペテロ」は「ヘブライ語」ではないだろう。

11刷「ピーターPeter(中略)ペトロはギリシア語で「石、岩」という意味。」

P295
1刷「ペーターPeter 新約の十二使徒の一人ペテロ(ヘブライ語で「石、岩」)のドイツ語形。」

「ペテロ」は「ヘブライ語」ではないだろう。

11刷「ペーターPeter 新約の十二使徒の一人ペトロ(ギリシア語で「石、岩」)のドイツ語形。」

P22
1刷「Anglro-Saxon」

「Anglo」の間違い。

11刷「Anglo-Saxon」

P29
1刷「ちなみに、ラッセルの正式な名称は、バートランド・アーサー・ウィリアム三世・アール・ラッセル Bertrand Arthur William 3rd Earl Russel である。」

「Russell」である。。
「バートランド・アーサー・ウィリアム三世・アール・ラッセル」ではなく、「第三代ラッセル伯爵バートランド・アーサー・ウィリアム」である。

11刷「ちなみに、ラッセルの正式な名称は、Bertrand Arthur William 3rd Earl Russell である。」

P55
1刷「ポール・マッカトニー」

一般的には「ポール・マッカートニー」。

11刷「ポール・マッカートニー」

P61
「ニューイングランドに入植したオランダ人をイギリス人がからかってよんだヤンキーYankee(オランダ野郎)は、転じてアメリカ北部の住民を、さらにはアメリカ人全体をさす俗称となった。」

この「アメリカ北部」とはどこを指すのか。「アメリカ合衆国北部」か、「北アメリカ大陸北部」か。どちらかわかるように書くこと。「アメリカ合衆国北部」のことなら、アメリカ合衆国の成立前の話なので書き方に注意が必要である。

P66
「ギリシア神話では、ペガサスやケンタウロスなど、」

「ペガサス」(英語Pegasus)ではなく「ペガソス」(ギリシア語Pegasos)がいいだろう。

P66
「イスラス・フェリペナ(フェリペの島々)」

『地名の世界地図』14刷 P271
Islas Filipinas「フェリペの島々」

「フェリペナ」と「Filipinas」で矛盾している。

P75
1刷「[ドイツ]ヨハン Johaann」

「Johaann」は疑問。

11刷「[ドイツ]ヨハン Johann」

P80
「口の割礼を受け、うまく話すことのできなかったモーセ」

モーセの「口の割礼」の根拠はなにか。

新共同訳『出エジプト記』6-12
「モーセは主に訴えた。「御覧のとおり、イスラエルの人々でさえわたしに聞こうとしないのに、どうしてファラオが唇に割礼のないわたしの言うことを聞くでしょうか。」」

P96 図
1刷「前133年頃までのローマ帝国」

「前133年頃までのローマ」の範囲と違う。
前133年のローマは帝政ではない。

11刷「ローマ帝国の最大版図」

P96
「インド・ヨーロッパ語族は、基本的には、一つの個人名しかもっていなかった。」

「一つの個人名」とはなにか。

P115
1刷「シェイクスピアの作品では、『ユダヤの商人』も、」

シェイクスピアの有名な作品名を間違えている。

11刷「シェイクスピアの作品では、『ヴェニスの商人』も、」

P115
「高利貸し」

死語だろう。

P115
1刷「コルデリア」

英語で「コルデリア」はないだろう。

11刷「コーデリア」

P128
「エカテリーナ二世は、「啓蒙君主」としての理想をいくつかの施策に実現させたものの、フランス革命に接してからは圧政に転じ、農奴制を強化して「貴族の黄金時代」をつくりあげた。一方、巧みな外交でロシアの版図を拡大するなど、良くも悪しくもその非凡な才能を発揮した。」

「フランス革命に接してから」というのは疑問。

『大辞林』
エカテリーナ[Ekaterina]
(2)(二世)(1729-1796) ロシアの女帝(在位 1762-1796)。ピョートル三世の妃で、夫を廃して即位。啓蒙専制君主を自認したが、プガチョフの乱(1773-1775)以後、農奴制を拡大し専制を強化。オスマン帝国を破り黒海に進出、ポーランド分割により領土を拡張。〔英語名キャサリン〕

P128
1刷「スカンディナヴィア語」

「スカンディナヴィア語」とはなにか

11刷「デンマーク語」

P131
1刷「ゴルゴダ」

正しくは「ゴルゴタ」

11刷「ゴルゴタ」

P132
1刷「デボラ・カーDebrah Kerr」

正しくは「Deborah Kerr」

11刷「デボラ・カーDeborah Kerr」

P133
1刷「死んだ前妻レベッカの影がすべてを支配するヒッチコックの映画「レベッカ」は、この語意をふまえてのものだったとすると、さらに不気味である。」

映画はダフネ・デュ・モーリアの小説を映画化したもの。「レベッカ」という題名はヒッチコックが決めたものではない。

11刷「死んだ前妻レベッカの影がすべてを支配するヒッチコックの映画「レベッカ」は、原作がこの語意をふまえてのものだったとすると、さらに不気味である。」

P133
「サラSarahは、アブラハムの妻サライが神から与えられた名前で、」

「アブラハム」は「アブラム」が神から与えられた名前。「アブラハムの妻サライ」という表現は不適。「アブラムの妻サライ」か「アブラハムの妻サラ」という表現を使うべきだろう。185ページでも「サライ」が多用されているが、これも「サラ」がいいだろう。

P134
1刷「ダイアナDianaはローマ神話の処女神で、」

「ダイアナ」は英語読みである。

11刷「ディアナDianaはローマ神話の処女神で、」

P135
「語源は「尊厳な」を意味する」

「尊厳な」は日本語として不適。

P136
「オーガストは、いかにもドイツ的といった堅い感じのする名前だが、」

疑問である。

P138
1刷「「石斧」を意味するケルトという名称は、アルプスの北、ヨーロッパとイベリア半島に住んでいた異民族を、古代ギリシアの地理学者が「ケルトイ」とよんだことによる。」

「celt」は「石斧」という意味があるが、「Celt」(ケルトイが語源)とは語源が違う。
「アルプスの北、ヨーロッパとイベリア半島に住んでいた異民族を、」は推敲を要する。

11刷「ケルトという名称は、アルプスの北、ヨーロッパとイベリア半島に住んでいた異民族を、古代ギリシアの地理学者が「ケルトイ」とよんだことによる。」

「アルプスの北、ヨーロッパとイベリア半島に住んでいた異民族を、」は推敲を要する。
(著者はアルプスの南をヨーロッパと思ってないのか。)
(著者はイベリア半島をヨーロッパと思ってないのか。)
ヘロドトスの『歴史』に「ケルトイ」が出てくるが、ヘロドトスは「地理学者」か。

『大辞林』
ヘロドトス [Hērodotos]
(前484頃-?) 古代ギリシャの歴史家。オリエント各地を旅行し、その間に得た見聞を織り込みながらペルシャ戦争を「歴史」に記述。「歴史の父」と称される。

P140
1刷「そのため、ケルト的な人名はもっぱらブリテン島で受けつがれてきたともいえる。」

アイルランドがぬけている。

11刷「そのため、ケルト的な人名はもっぱらブリテン島とアイルランドで受けつがれてきたともいえる。」

P146
1刷「「鳩」を意味するラテン語コルンバColumba」

「columba」だろう。

11刷「「鳩」を意味するラテン語コルンバcolumba」

P148
1刷「ドナルドDonaldは「世界」と「支配者」を意味するケルト語に由来する。」

推敲を要する。

11刷「ドナルドDonaldは「世界」と「支配者」の意味をあわせもつケルト語に由来する。」

「大索引」でもそうだが、なぜ「「○○」と「XX」の意味をあわせもつ」などと書くのか。
この場合では、なぜ「世界の支配者」としないで「「世界」と「支配者」の意味をあわせもつ」などと書くのか。

P150
1刷「ウォルト・ディズニーの本名ウォルター・イライアス・ディズニーWalter Elias Disneyは、アイルランドで空前のジャガイモ飢饉がおこるほんの十年ほど前、アメリカへ移住した「先見の明」のある曾祖父をもっていたのである。しかし、その祖父も生粋のアイルランド人ではなかったようである。というのも、ディズニーという姓はフランスのカルヴァドス県のイズグニー(イジーナの地所)出身という意味だからだ。家族はその後、アイルランドへ移住し、一六三〇年代(ピューリタン大移住の時代)にアメリカへ移ってきている。」

『世界史辞典』(旺文社)
「ジャガイモ飢饉 アイルランドで1845年9月から49年5月まで続いた大飢饉」

アメリカへ移住したのは、ジャガイモ飢饉の前、一六三〇年代のどちらなのか。
「曾祖父」、「祖父」どちらなのか。
推敲を要する。

11刷「ウォルト・ディズニーの本名ウォルター・イライアス・ディズニーWalter Elias Disneyは、アイルランドで空前のジャガイモ飢饉がおこるほんの十年ほど前、アメリカへ移住した「先見の明」のある曾祖父をもっていたのである。しかし、その曾祖父も生粋のアイルランド人ではなかったようである。というのも、ディズニーという姓はフランスのカルヴァドス県のイズグニー(イジーナの地所)出身という意味だからだ。」

伝言板のいばらさん(2002/08/26 02:58)の書き込みより

はて、なぜ「イズグニー出身」が「ディズニー」なのかな?とちょっと疑問に思ったのですが、
もしかしてこのイズグニーってIsignyのことなのではと思います。
だとしたら発音は「イズニー」になります。
フランス語のgnはnの右に長いしっぽの付いたような発音記号で表される音ですので。
イズニー出身の(d'Isigny)で発音はディズニー。これならなるほど、と思うのですが。
執筆した方は自分で書いていて「?」と思わなかったのでしょうか…

P150
「ウォルター自身はシカゴ生まれのミズーリ育ちである。」

「XXXは水戸(市町村名)生まれの神奈川(都道府県名)育ちである。」という言い方もいいのか。

P153
「西ゴート族(中略)415〜711年、西ゴート王国を建国。」

『大辞林』
けんこく【建国】
新しく国家をつくりあげること。

なぜ「新しい国家をつくりあげ」たのが、「415〜711年」なのか。「建国」を使えるのはこの場合415年だけだろう。

P153
「ヴァンダル族(中略)429〜534年、ヴァンダル王国を建国。(中略)東ローマ帝国をおこす」

「建国」は不適。

『世界史辞典』(旺文社)
「東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスにより滅亡させられた。」

P153
「ブルグント族(中略)443〜534年、ブルグント王国を建国。(中略)フランク王国をおこす」

「建国」は不適。

『世界史辞典』(旺文社)
「フランク王国と交戦し、534年征服された。」

P153
「アングル族・サクソン族(中略)449〜1066年、イングランド王国を建国。」

『世界史年表・地図』(吉川弘文館)
「449 アングロ・サクソン族のブリタニア侵入」

449年は建国の年か疑問。「建国」と「侵入」は違う。

「建国」は不適。

P153
「フランク族(中略)481〜843年、フランク王国を建国。」

「建国」は不適。

P153
「東ゴート族(中略)493〜555年、東ゴート王国を建国。」

「建国」は不適。

P153
「ロンバルド族(中略)568〜774年、ロンバルド王国を建国。のち、フランク王国をおこす」

「建国」は不適。

『世界史辞典』(旺文社)
「フランク王国のカール1世(大帝)に敗れて、774年併合された」

『地名の世界地図』P51に同様の間違いあり

P154
「また北ゲルマンの諸族も、スウェーデン、ノルウェー、デンマークをかたちづくったが、その勢力の一部は、九、十世紀に南下して、イングランドにデーン公領、フランスにノルマンディー公領を築いて、」

「スウェーデン、ノルウェー、デンマーク」から見て、「イングランド、フランス」は「南」か。

P156
1刷「エドウィンEdwy」
「エドウィ」だろう。

11刷「エドウィEdwy」

P156
「エドEdというのは」

「ed」だろう。

P157
1刷「アルフレッドAlfred の名は Alf-(自然を司る神エルフ)と、-red(指導者)を意味する言葉を組み合わせたものだ。」

P158
1刷「アルフレッド Alfred のアルフ alf とはこの妖精を意味する名前なので、これに「王」を意味するエドedがついてアルフレッドは「妖精王」のいうことになる。」

P275
1刷「アルフレッドAlfred 「妖精、超自然的存在」と「王」の二つの意味をあわせもつ。」

「エルフ」の説明に矛盾がある。
「エドed」は「レッドred」の間違い。

P157
11刷「アルフレッドAlfred の名は Alf-(自然を司る神エルフ)と、-red(王)を意味する言葉を組み合わせたものだ。」

P158
11刷「アルフレッド Alfred のアルフ alf とはこの妖精を意味する名前なので、これに「王」を意味するレッドredがついてアルフレッドは「妖精王」のいうことになる。」

P275
11刷「アルフレッドAlfred 「妖精、超自然的存在」と「王」の二つの意味をあわせもつ。」

「エルフ」の説明に矛盾がある。

P159
「フランク人」

「フランク族」だろう。

P159
「パリにローマ文化を引き入れた。」

すでにローマ文化は存在したのではないか。

http://www.britannica.co.jp/search/item?m=0+1+7&rgid=093993002319
パリ
「前 52年,カエサルのローマ軍に征服されてその植民都市ルテチアとなり,市街地はセーヌ川左岸の現ラテン区に発展。」

P160
1刷「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンLudwig von Beethoven」

正しくは「Ludwig van Beethoven」

11刷「ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェンLudwig van Beethoven」

「ヴァン」がなぜか「ファン」に変更されている。

P162
「大陸のすべてのゲルマン民族がフランク王国の支配下に入ったのは、カール大帝の時代からである。」

P164
「カール大帝の時代から、スカンディナヴィアの北ゲルマン人がヨーロッパ各地に進出しはじめていた。」

「スカンディナヴィア」は「大陸」には含まれないのか。「大陸」の指す範囲はどこまでなのか。

P166
「OF<L」

一般的には「ME<OF<L」などのように書く。(MEは中期英語)

P169
「エラリー・クイーン Erary Queen(本名フレデリック・ダニーとマンフレッド・B・リー)のように二人で一つの筆名という作家もいる。」

正しくは「Ellery」。
「ダニー(ダネイ)」、「リー」も本名ではない。

http://members.tripod.co.jp/tanteisakka/ku.html
クイーン,エラリー(Ellery Queen)
1905年(明38)にアメリカのブルックリンに生まれた二人の従兄弟マンフレッド・リー(本名マンフォード・レボフスキー)とフレデリック・ダネイ(本名ダニエル・ネイサン)の合同筆名。

P169
「シャーロットの妹エミリーと、姉のアンも」

シャーロットは長女、エミリーは次女、アンは三女。

『大辞林』
ブロンテ [Brontë]
(1)〔Charlotte B.〕(1816-1855) イギリスの小説家。ブロンテ三姉妹の長姉。独立心をもち、自我に目覚めた女性の情熱的な生活を描いた。代表作「ジェーン=エア」
(2)〔Emily B.〕(1818-1848) イギリスの小説家。ブロンテ三姉妹の中姉。ヨークシャーの荒涼とした丘陵地帯を舞台に、人間の情熱の極限の姿を描いた「嵐が丘」により、イギリス文学史上特異な位置を占める。

P173-174
「八世紀頃にカナダから移住してきたイヌイットが住んでいた島を十世紀に「発見」して、「緑の土地(グリーンランド)」とよんだのは、「赤毛のエリック」とよばれたスカンディナヴィア人である。」

「八世紀」に根拠はあるのか?
「カナダ」という国は存在しない時代なので、「アメリカ大陸」または「北アメリカ大陸」などとするのがよい。
「イヌイット」ではなく「カラーリット」とすべきではないのか。

P174
1刷「一八四〇年にヴィクトリア女王がドイツの王子アルバートと結婚したことによって、」

一八四〇年に「ドイツ」としてよいのか。
「アルバート」は「アルベルト」がよいのではないか。

11刷「一八四〇年にヴィクトリア女王がザクセンの王子アルバートと結婚したことによって、」

「アルバート」は「アルベルト」がよいのではないか。

P175
1刷「フレデリックFrederickは「平和」「支配者」を意味するゲルマン語の名前だ。」

推敲を要する。

11刷「フレデリックFrederickは「平和」と「支配者」を意味するゲルマン語の名前だ。」

推敲を要する。

P178
「レナードLeonardのレオLeoはラテン語でライオンのことだが、」

「leo」だろう。

P178
1刷「Berntein」

正しくは「Bernstein」

11刷「Bernstein」

P185
「しかしユダヤの神は、イシュマエルを見捨てることなく、彼もまた大きな国民の父となることを預言する。」

「預言」と「予言」の区別がついていないようである。

『大辞林』
よげん【予言】
未来の出来事や未知の事柄をあらかじめいうこと。また、その言葉。「将来を―する」

よげん【預言】
神や死霊の意志を媒介し、人々に伝えること。また、その言葉。とくに、超越神によって示された世界の意味・救済の意味などを人々に述べ伝えることをいう。

P186
「アブラハム(イブラーヒーム)までは共通の先祖なのである。」

推敲を要する。

P186
「三大宗教の聖人である二人が、」

ここでいう「三大宗教」とは、キリスト教・イスラーム・ユダヤ教のことのようだが、なぜユダヤ教が三大宗教に入っているのか。
イシュマエルは三宗教ともに聖人なのか。

P189
1刷「ディアスポラ(大離散)」

「離散」でよい。

11刷「ディアスポラ(離散)」

P191
「ローマ帝国滅亡後の中世でも、」

「西ローマ帝国」だろう。

『大辞林』
ちゅうせい【中世】
(1)歴史の時代区分の一。古代に続き、近代に先行する時期で、封建制を基礎とする。西洋史では、五世紀の西ローマ帝国滅亡から、一四〜一六世紀のルネサンス・宗教改革までの時期をさす。かつては暗黒時代とも呼ばれた。日本史では封建制の時期を前期と後期に分け、後期は近世と呼び、前期のみを中世と呼んで、鎌倉・室町時代をこれに当てる。

P214
「秦は三代で滅び、」

始皇帝の次が二世皇帝で、三世皇帝はいないのだが。子嬰を含めて数えていいのか。

P215
「小狗児(シャオゴー)(子犬)」

「小」xiao
「狗」gou
「児」は発音しないのか。
「児」(er)は接尾辞の場合、「r」だけは発音するようだが。

P219
「党中央」

「共産党中央」とすべきだろう。

P219
1刷「陳凱歌(チェンガイコー)」

P220
1刷「ただ、凱歌と皚鴿は字こそ違うが同音なのである。」

中国語(普通話)のピンイン
凱kai
歌ge
皚ai
鴿ge

「凱歌」は「ガイコー」ではない。
「凱」と「皚」は同じ発音ではない。

11刷「陳凱歌(チェンカイコー)」
11刷「凱歌と皚鴿は字こそ違うが発音が似ているのである。」

P222
「香港人にとっても、複雑な漢字の名前より、英語の名前のほうが覚えやすいという。」

事実なのか。

P222
「大陸で使う普通語(標準中国語)と香港で使う広東語では、同じ名前であっても発音が違うが、イングリッシュ・ネームであれば、そんな混乱もおこらない。イングリッシュ・ネームは、まさに多言語地域における国際化の象徴といえるかもしれない。」

香港は大陸ではないのか。「大陸」とはイギリス植民地時代の言い方ではないのか。
普通話は何のためにあると思っているのか。
英語の名前を使っていれば国際化かなのか。

P224
「この国では昔から」

「昔」などというあいまいな言葉は使わないでほしい。

P224
1刷「扶余(ぷよ)」

ルビは片仮名の「プヨ」だろう。

11刷「扶余(プヨ)」

P224-225
「新羅の始祖は、天から光に包まれて降ってきたカボチャのように大きい卵から生まれたと言う伝説から、カボチャ(パク)を意味する「朴(パク)」」

カボチャはアメリカ大陸原産で、アジアに来たのは大航海時代になってから。新羅の頃に「カボチャのように大きい卵」という言い方はない。

P227
「韓国人の場合だと、同じ姓、同じ本貫同士が出会っても、まずお互いを兄妹としか思えず、異性としての感情はわかないという。」

事実なのか。

P228
「行列字は、何年かに一度、」

P229
「(祖父)東吉−(父)仁煕−(子)在寿−(孫)成鉉−(曾孫)泰元」

「何年かに一度」で「五代」分決めるのか?

P230
「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)では、一九四九年以降、「日本植民地時代の残滓」である漢字表記を廃止したため、」

漢字は日本の植民地になるはるか以前から使われている。

P242
「トウルシノ(垢だらけ)」

正しくは「トゥルシノ」

P244
「第二次世界大戦のインパール作戦、そして映画「ビルマの竪琴」などで、ミャンマーは、日本人にはなじみの深い国だ。」

『地名の世界地図』P114「日本では、韓国の首都というと、いまだに「京城」というイメージが強く残っている。」

古い感覚の文章である。

P245
1刷「自分の名前に込められた曜日と方向に向かって礼拝する。」

「曜日と」は不要だろう。

11刷「自分の名前に込められた曜日の方向に向かって礼拝する。」

P251
「イスラーム世界の人名」

「アラビア語の人名」の間違いか。

P252
「また、「アラブ」というアラビア語を話し、」

どういう意味か。

P260
1刷「イスラーム世界にも少数ながらキリスト教徒はおり、」

「イスラーム世界にも」は「イスラーム圏にも」がよい。

11刷「イスラーム圏にも少数ながらキリスト教徒はおり、」

P260
「アラビア語ではPはBになる。」

本当なのか。事実だとしても、推敲すべきである。

P264
1刷「十六世紀、大航海時代がはじまって、」
1刷「十六世紀後半、大航海時代に入るとすぐにアフリカではじまった奴隷貿易は、」

大航海時代は十五世紀からである。

11刷「十五世紀、大航海時代がはじまって、」
11刷「十六世紀後半、アフリカではじまった奴隷貿易は、」

P265
「アフリカ系黒人」

「アフリカ系」でない「黒人」はいるのか。わざわざ「アフリカ系黒人」という言葉を使う意味があるのか。

P269
「ところで、白人にもアフリカ系アメリカ人にも多くみられる姓に、」

「白人」は「アメリカ合衆国の白人」の意味か。説明不足。

P270
「大航海時代、南アメリカに広大な領土を獲得したスペインは、インディオだけでなく、アフリカから大量の黒人を労働力として送り込んだ。」

推敲を要する。

P272
「なお、さまざまな名前、解釈には定説のないものも多い。お気づきの点については、さらなるご教示をいただければ幸いです。」

この一文で全てが許されるわけではない。

P273 「大索引」

ページ数を示していないので、索引ではない。

P274
1刷「ここでは英語名を中心に、日常よく聞く名前や歴史上の人物の名前について、その意味が明らかなものをあげてみた。」

「その意味が明らかなものをあげてみた」と書いておきながら、P287「セリーヌ」、「ダスティン」、P288「ダリル」などに「語彙、語源ともに不明だが、」とあるのはどうしたことか。

11刷「ここでは英語名を中心に、日常よく聞く名前や歴史上の人物の名前をあげてみた。」

P274
1刷「ゲルマン祖語に起源があるもの以外は、語源となる各国語名を記した。」

これは「大索引」の間違いの温床だろう。
言語名を記してないものが、ゲルマン祖語起源か記入もれか判断できない。
1刷P291「バスケスVazquez 「バスク地方」。」はゲルマン祖語起源だろうか?

11刷「ゲルマン諸語に起源がある名前については、とくに語源を記していない。」
11刷「バスケスVazquez ラテン語で「バスク地方」に由来。」

「ゲルマン諸語」という言い方は妥当なのか。

P300
1刷「ヤングYoung 「若い」。」
1刷「ユングYung 「若い」。」

ゲルマン祖語に起源があるものは何語か記さないと「ヤング」も「ユング」も何語かわからない。

11刷「ヤングYoung 「若い」。」
11刷「ユングYung 「若い」を意味するドイツ語名。」

「ヤングYoung」が何語か書かれていない。何語か書かれていない項目が他にも多くある。

P274
1刷「アインシュタインEinstein 「石工」。」

疑問である。

11刷「アインシュタインEinstein 「一つの石」。」

P276
1刷「ヴォルフガングWolfgang「高貴な狼」。」

「アドルフ」(高貴な狼)と混同。

11刷「ヴォルフガングWolfgang「狼の通り道」。」

P282
「ゴードン(中略)ベラルーシの」

「ベラルーシ語の」だろう。ところどころ「語」が抜けているところがある。

P282
「ザビエルXavier バスク語で「新しい家」または同じ名の地方。」

「同じ名の地方」とは何か。

P283
「ジェーンJane 新約のヨハネの英語の女性形。」

推敲の要あり。

P284
1刷「シャーロットCharlotte カールのフランス語の女性形。」
1刷「シャルロッテCharlotte カールのドイツ語の女性形。愛称にはロッテ、ロッティがある。」

「Charlotte」はフランス語では「シャルロット」である。

11刷「シャーロットCharlotte カールのフランス語の女性形。英語読みはシャーロット、ドイツ語読みはシャルロッテ。愛称にはロッテ、ロッティがある。」
11刷「シャルロッテCharlotte」項目削除。

「Charlotte」はフランス語では「シャルロット」である。

P284
「シャロン(中略)またパレスティナにある谷で「平原」」

「谷」が「平原」とはどういうことか。

P284
「ジュディ(中略)「ジュディアからの女」」

「ジュディア」とはなんなのか説明されていない。

P284
「シュトラウス(中略)「ダチョウ(=愚か)的な人」」

推敲を要する。

P285
「ジョエル(中略)「エホバは神なり」。」

「エホバ」を使用している。

P74にはこうある。
「かつては「イェホヴァYehowah」(日本語表記ではエホバ)と誤読されていた。」

P285
1刷「ジョージ(中略)ギリシア語の人名ゲオルゲス(「農民」)からの名。」

梅田修「ヨーロッパ人名語源事典」(大修館書店)P120
「英語名ジョージ(George)は、ギリシャ語ゲオルギオス(Georgios)が語源で」

11刷「ジョージ(中略)ギリシア語の人名ゲオルギオス(「農民」)からの名。」

P285
「ジレットGillette 「子山羊」または「盾(子山羊の皮を用いたからか)」と「小さな」という二つの意味をあわせもつ。」

この文章はどう理解したらいいのだろう。
「(「小さな」+「子山羊」)または(「小さな」+「盾」)」という意味なのだろうか。
推敲を要する。

P286
「シンクレアSinclair ケルト語の地名ノルマンディの「セイント・クレアの出身」。」

推敲を要する。

P286
「シンデレラCinderella フランス語の「灰」から。」

一般的には「灰かぶり」と訳す。「灰」では前半だけの訳である。

P286
1刷「スタイン(シュタイン)ベックSteinbeck ドイツ語で「石の多い川」。」

「多い」はどこからでてきたのか。

11刷「スタイン(シュタイン)ベックSteinbeck ドイツ語で「石の(多い)川」。」

P287
「ダグラスDouglas」

何語なのか。

P288
「チャールズ カールから。」

「チャールズ」は何語か。「カール」は何語か。

P289
1刷「デュークDuke 「男爵」。」

「デューク」は「公爵」。

11刷「デュークDuke 「公爵」。」

P289
1刷「ドゴールDe Gaulle フランス語で「ゴール人、ガリア人=ケルト人」。」

「人」は不要ではないのか。

11刷「ドゴールde Gaulle フランス語で「ゴール人、ガリア人=ケルト人」。」

「人」は不要ではないのか。

P293
「ヒルトンHilton 「丘の上の場所、または農場」あるいは、イングランドにある地名。」

推敲を要する。

P295
「ヘップバーンHepburn ヘップバーン「高い塚」(ノーサンバーランドとダラムにある)から来た者、また、小川に生えた野バラの側に住んでいたものなどがある。ヘボンと発音することもある。」

推敲を要する。
「ヘボン」は日本語訛りだろう。

11刷「ヘップバーンHepburn ヘップバーン「高い塚」(ノーサンバーランドとダラムにある)から来た者、また、小川に生えた野バラの側に住んでいたものなどがある。「ヘボン式ローマ字綴り」のヘボンも同じ姓。」

推敲を要する。

P296
1刷「ベートーヴェンBeethoven 「砂糖大根(ビート)農場」。」

下宮忠雄編著『ドイツ語語源小辞典』(同学社)
Beethoven
人名[Beet甜菜(てんさい)+hov園(→Hof)の人の意。Beetはオランダ語形で、そのドイツ語形Beteは主にrote Bete 赤かぶ、において用いられる]

11刷「ベートーヴェンBeethoven 「ビート農場」。」

この文章を読んで「ビート」がなにかわかる人がいるだろうか。

P296
「ヘンドリックセンHendricksen 「ヘンリーの息子」の北欧形。」

「北欧形」ではあいまいである。

P297
1刷「ホロヴィッツHorowitz 「ボヘミアのホリス=ホリッツ(山岳地方)から来た者、または山地の住民の息子」。」

カッコの使い方が不適。

11刷「ホロヴィッツHorowitz 「ボヘミアのホリス=ホリッツ(山岳地方)から来た者」、または「山地の住民の息子」。」

P297
「マクナマラMcNamara 「ナマラ(海の猟犬、追跡者)の息子」という意味。」

「海の猟犬」とは何か。

P298
「マクレーンMcLean 「レーンの息子」。レーンはギリシア語で「太陽、輝く者」またはケルト語で「聖ヨハネに帰依する人」から派生した名。」

推敲を要する。

P300
1刷「モーツァルトMozart ドイツ語で「精神」と「強い」という二つの意味をあわせもつ。」

下宮忠雄編著『ドイツ語語源小辞典』(同学社)
Mozart
オーストリアの作曲家[<Motzhart(1331)=”Schmutzfink”(不潔な人)または”sumpfiges Geho(Umlaut)lz”(沼地の茂み)]

11刷「モーツァルトMozart 一説に「精神」と「強い」という二つの意味をあわせもつドイツ語の姓。」

「一説に」とはなかなか便利な言葉である。

P302
1刷「レオナルドLeonard 「ライオン」と「勇敢、強い」という二つの意味をあわせもつ名。」
1刷「レナードLeonard レオナルドのドイツ語読み。」

ドイツ語読みというのは疑問。

11刷「レオナルド」この項削除。
11刷「レナードLeonard 「ライオン」と「勇敢、強い」という二つの意味をあわせもつ名。イタリア語ではレオナルド。」

「レナード」が何語読みなのか書いてない。(英語読みなのだが。)

P305
「ソフィヤSofya」

「ソフィヤ」は「Sofiya」だろう。

梅田修『ヨーロッパ人名語源事典』(大修館書店)P142
「ギリシア語起源の女性名Sophiaのロシア語名はソフィーヤ(София:sofiya)とかソーフャ(Софья:sof'ya)で、」

P306
「カマル 「ピンク(=蓮)」」

意味不明である。

P306
1刷「ゴータム 「至高の雄牛」。ブッダ「目覚めた人」のもとの名として知られる。」

ブッダは「ゴータマ」であり、「ゴータム」ではない。

11刷「ゴータマ 「至高の雄牛」。ブッダ「目覚めた人」のもとの名として知られる。」

P307
1刷「スジャータ 「高貴な生まれ」「素晴らしい性格」。ブッダに乳を与えた女性の名。」
「乳」ではない。

11刷「スジャータ 「高貴な生まれ」「素晴らしい性格」。ブッダに乳粥を与えた女性の名。」
P307
「ラーフラ 「月食」。この日に生まれたブッダの子。」

「ラーフラ」に「月食」という意味はあるのか。(そう主張したいのなら、せめて「ラーフ」が「月食」の意味がある、くらいにしておけばいいのに。)
「ラーフラ」が生まれた日に「月食」が起こったなどという話が存在するのか。

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/shiunji/yowa/yowa19.html
「このときゴータマがつぶやいた「ラーフラ」という言葉は、伝統的には「束縛、覆障、障碍、繋縛、捕捉者」を意味すると解されています。つまり、「ゴータマが、生まれた子供をラーフラと呼んだのは、その子が自分の出家の障碍となるもの、自分を家庭に束縛するものになると感じたからだ」というのが、伝統的な解釈です。」
「こんな解釈が生まれたのは、「ラーフラ」という言葉が、後世の仏教徒に「ラーフ」という悪魔を連想させたからだと言われています。「ラーフ」というのは、古代インドの神話で、太陽を飲み込んで日食を起こし、月を飲み込んで月食を起こすと考えられていた悪魔(アスラ)の名前です。」
「おそらくは、仏典が編集された時代には、すでに「ラーフラ」という言葉の意味が分からなくなっていたのではないかと思います。当時すでに意味不明になっていた「ラーフラ」という言葉を、「ラーフ」(悪魔)からの連想によって「束縛、障碍」などと解釈したのは後世のこじつけに違いありません。」

(2002・10・19)



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