『川の名前で読み解く日本史』のアイヌ語

佐藤和美

 この文書は岡村直樹監修『川の名前で読み解く日本史』(青春出版社2002年10月15日発行第1刷)で紹介されているアイヌ語地名について、間違い・疑問点を指摘するものである。

P5
「北海道夕張郡由仁町のヤリキレナイ川(石狩川水系夕張川の支流)だ。本来はアイヌ語でヤンケナイ(魚の住まない川の意)という。」

アイヌ語「ヤンケyanke」に「魚の住まない」などという意味はない。

P45
「この「トネ」の語源には諸説がある。アイヌ語で大きな谷を意味する「トンナイ」からきたとするもの、」

「トンナイ」がなぜ「大きな谷」の意味になるのか。理解不能である。

P112-113
「四万十川の名前の由来については、上流部の支流「四万川」と「十川」の名の合体とするものや、アイヌ語で「たいへん美しい川」を意味する「シ・マムタ」「砂礫が多いところ」を意味する「シマト」からきているとするものなどさまざまだ。」

田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館
中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』草風館
萱野茂『萱野茂のアイヌ語辞典増補版』三省堂
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター
以上の辞典に「マムタ」「シマト」という単語は存在しない。

P155
「「モガミ」はアイヌ語で”静かな神”を意味する言葉。」

「カミ」(神)は日本語であって、アイヌ語ではない。

P155
「また、アイヌ語では切り立った崖を「モモ」という。」

田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館
中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』草風館
萱野茂『萱野茂のアイヌ語辞典増補版』三省堂
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター
以上の辞典に「モモ」という単語は存在しない。

P176
「道内の地名の大半はアイヌ語に由来しているといわれるが、石狩川も例外ではない。諸説はあるものの、アイヌ語で曲がりくねった川を意味する「イ・シカラ・ペツ」が語源だとする説がもっとも有力だ。」

「シカラ」ではなく「シカリ」だろう。

山田秀三『北海道の川の名』(草風館山田秀三著作集2収録)
「最近は「回流川」説がよく書かれるが、それはI-shikari(それ・廻る)とでも読んだのであろうが、」

(2003・3・9)


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