第2回「緑ヶ丘のお散歩コース」(1995.10.1)



 緑ヶ丘という町は、僕が東京で初めて一人暮らしをした所である。大学一年から四年まで、僕はだいたい四年間をここで過ごした。ちなみに今は五年生で上用賀に住んでいる。
 住んでた部屋は狭苦しいワンルームだったけど、僕は結構この町が気に入っていた。図書館(目黒区の図書館は検索システムが整ってて便利である)や区民プール(一年中入れる温水プールで二百円)、それからおいしいお豆腐屋さん(天気の話が好きなおじさんが毎朝早くから作っていた)なんかもあって、僕のライフスタイルによく合っていたのだ。いや、もしかすると、この町に住んだおかげで読書と水泳が好きな自炊生活者になったのかもしれない。空間が人々の生活様式を規定する、なんてどこかの学者が言ってたっけ。
 まあ何にせよ、自分で自分の生活を組み立てていくのはいいものだ。引っ越したばかりの町を散歩しながら、いろんなお店や施設を発見して毎日の暮らしに取り込んでいくのは、真っ白な紙に絵を描いていくのに似た楽しさがあるように思う。
 また、緑ヶ丘って名前がつくくらいだから、この辺は割りと緑が多い。町中をぶらぶら歩いていて、思わぬところに素敵な散歩道を発見するのは嬉しいものである。
 僕のお気に入りの散歩コースは、大井町線 の緑ヶ丘駅裏手の遊歩道である(僕は大岡山駅からここの道を通り、住宅展示場に至る道のりを、「竹内真のゴールデンコース」と勝手に命名している)。駅の改札を出て左に曲がり、目蒲線の踏み切りの手前を左折するとこの道に入ることができる。
 道の両側は東工大のキャンパスで、二つのキャンパスの谷間に散歩道が伸びている。道の上にはキャンパスを繋ぐ橋、両脇には緑あふれる植え込み。夜には街灯がともり、ちょっと幻想的な雰囲気さえ醸しだす。何だかとても絵になる空間で、訪れる時の気分でいろんな顔を見せてくれる。
 道の両脇の植え込みには四季折々の花なんかも植えられていて、歩きながらそれを眺めるのも楽しい。花の名前が書かれたプレートもあるので、何度も歩いてると花の名前を覚えることもできる。道の終わりの中学校の辺りには小さな花壇もあるしね。
 ところでこの散歩道には、何故か唐突に百メートル走のコースが設けられている。この道をジョギングコースにしている人も多いようだが、それと何か関係があるのだろうか?

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp