勝新演出の「座頭市物語」「新・座頭市」 勝新太郎の演出の回
池田博明
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「日曜日にはТVを消せ」No.9 PART5
2007年10月3日
"座頭市 新・座頭市"特集
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勝新演出の「座頭市物語」「新・座頭市」 池田博明 TVの『座頭市物語』は1974年の10月から翌年の4月まで放映された。 1976年秋からは、『新・座頭市』が始まった。 1974年以前の勝新監督の映画化作品は、『顔役』(1971年)、『新座頭市物語・折れた杖』(1972年)の2本のみだった。 一方、TV放映の作品では、『座頭市物語』のうち、 「祥月命日いのちの鐘」「忘れじの花」「二人座頭市」「赤ン坊喧嘩旅」「赤城おろし」「心中あいや節」の6本、『痛快!河内山宗俊』のうち、「地獄に花をつみに行く」「桜吹雪江戸の夕映え」「第23話/真っ赤に咲いた想い花」(藩文雀主演)の3本、『夫婦旅日記・さらば浪人』のうち、「暮六つの鐘が鳴る」(これは「走れメロス」のような作品だった)。 勝新演出はTVでこそ見ることができるといえよう。テレビ版・座頭市は全百話が製作され放映された。このうち勝新演出作品は20本。全体の5分の1を占める。 ジョナス・メカスの言葉 「われわれにそなわっている多くの感覚の一つ一つは、 世界とわれわれ自身に向かって開いている窓である」 勝新演出作品にふさわしい言葉である。 ★以下、「日曜日にはTVを消せ」第9号PART1とPART2から転載。PART3以降はホームページ版。 座頭市物語 フジテレビ開局20周年記念番組 毎週木曜午後8時から8時55分。フジテレビ。 スポンサーは大正製薬・ニッカウィスキー・黄桜酒造・カシオ計算機・花王石鹸 企画・久保寺生朗・角谷優 プロデューサー・西岡弘喜 真田正典 美術・太田誠一 技術・大角正夫 照明・風間博 音楽・富田勲 現像・東洋現像所 原作・子母沢寛 ◆2007年1月、とうとうTV版『座頭市物語』がDVD-BOXセットで発売された。今後、TV版の全作品100話がDVD-BOXで発売されるという。なんと素晴らしい企画。さっそく入手しました。これで見逃した作品も見られますが、なんと言っても勝新太郎監督作品が存分に見られるのが最大の喜びです。特典は『座頭市物語』と『新・座頭市』の予告編でした。 以下、太い枠の写真はそのDVD付録のパンフレットからの引用で、再見したときの付記は茶色の文字で表します。
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新・座頭市 第1シリーズ 毎週月曜午後9時から9時55分。フジテレビ。 企画・久保寺生朗・角谷優・荒井忠 プロデューサー・西岡弘喜・真田正典・市古聖智 美術・太田誠一 技術・大角正夫 照明・風間博 音楽・村井邦彦 殺陣・楠本栄一 現像・東洋現像所 原作・子母沢寛
▼ 『新・座頭市』のDVDボックスに原田芳雄が巻頭言を寄せている。この言葉がカツシン演出をよく物語っている。 “勝さんは、誰もやったことがない、誰も見たことがないものを探っていましたね。 思い起こせば、当時映画界が大きく変わっていく時代で、世の中も、もの凄い勢いで回り始めていて、今までのものをぶち壊して、 新しいものはないかという探りがものすごくあった時代で・・。自分は、ちょうどその時分に映画人と仕事をやることになりました。 黒木さんや宮川さんなど大映映画のスタッフには、すでにお世話になっていて、「竜馬暗殺」が1973年にATGで公開になり、それが縁で、勝さんから、「座頭市」に呼んでいただいた。 勝さんから「常に時代劇の定形を壊していかなければいけない」という強い気持ちを感じていましたし、 勝さん本人が先頭を切ってやっていた。そういう自分も既存のものを何とかぶちこわしたいと思っていたので、お互いに、とてもスムーズだったですね。 たとえば、座頭市撮影の朝、撮影所に入っても、カメラがなかなか回らない。通常では考えられないことなんだが、 「シナリオがあってもばきのごとくのやり方」という勝さんの手法というのは、僕の中では、全くもって違和感がなかった。 さらに、勝さんいわく、「俺は、台本を食っちゃう。シナリオを食っちゃって、飲み込んで、歯糞が残っている、その程度にせりふを言うんだ。」とよく言ってました。 だから、勝さんと会うと、「芳雄ちゃん、何しゃべる?」ということからじ始まるんですよ。 勝さんは、「俺自身もわからないんだから」などと言いながら、古典的なカテゴリーを持ってて、しかも半分壊しつつ、また先に進む・・。まさに、先進的にものを考えていましたね。 常に考えて、考えて、考えて、新しいことを考えていた勝新太郎。それは、最後の最後まで変わらなかったですね。”
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新・座頭市 第2シリーズ 記録 池田博明 毎週 月曜午後9時から9時55分。フジテレビ。 企画・久保寺生朗・角谷優(フジテレビ)・荒井忠(フジテレビ) または久保寺生朗・湯沢保雄(フジテレビ)・久坂順一朗(フジテレビ) プロデューサー・西岡弘喜・真田正典・市古聖智 (真田正典・市古聖智の二人の場合もあり) 美術・太田誠一 技術・大角正夫 照明・風間博 音楽・村井邦彦 殺陣・楠本栄一 編集・谷口斗史夫 現像・東洋現像所 原作・子母沢寛 TVの『新・座頭市』(第2シリーズ)は1978年の1月9日から1978年の5月22日まで放映された。 『新・座頭市』(第2シリーズ)19話のうち勝新演出作品は「天保元年駕籠戦争」「歌声が市を斬った」「遠い昔の日に」「冬の海」の4本。 これら勝新作品は傑作だが、他にも黒田義之監督の「忠治を売った女」や井上昭監督「女の鈴が哭いた」が傑作。 このシリーズは放映当時は見ていませんでした。以下の解説の黒字部分はDVDに同封されたパンフレットの文。茶色の文字はDVDを見ての記録。
フジテレビ系 制作:勝プロダクション、フジテレビジョン 音楽:村井邦彦 演奏:日高富明&ファイヤー 主題歌「座頭市子守唄」(作詞:いわせひろし、作曲:曽根幸明、歌:勝新太郎)
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新・座頭市 第3シリーズ 毎週 月曜午後8時から8時54分。フジテレビ。 企画・久保寺生朗・湯川保雄 プロデューサー・真田正典・市古聖智 美術・太田誠一 技術・大角正夫 編集/谷口登志夫 照明・風間博 音楽・村井邦彦 殺陣・楠本栄一 現像・東洋現像所 原作・子母沢寛 TVの『新・座頭市』(第3シリーズ)は1979年の4月16日から1979年の11月19日まで全26話放映された。 (企画・プロデューサーは上記と異なる場合がある)
他に特にクレジットはありませんが第4話で青山八郎(映画「無宿」使用曲)などの流用もあり 主題歌「座頭市子守唄」(作詞:いわせひろし、作・編曲:曽根幸明、歌:勝新太郎)
第3シリーズ「新・座頭市」のブックレット巻頭に田中徳三監督が寄稿している。 ************* ある作品の撮影の初日、セットでの会話。 勝「どうもこの脚本は面白くねえな?」 私「・・・」 勝「こんなファーストシーンはどうや」 ここで、勝新太郎の、脚本とは全然別の物語が始まる。これが中々面白い。監督の私もつい乗ってしまう。 勝「責任は俺が持つ」勝新節がつづく。 勝新太郎は、勝プロのオーナーであり、社長である。そして座頭市の主役であり、誰よりも座頭市を知っており、座頭市を愛している男である。 「これはオーナー命令である」 この一言には誰も逆らえない。 勝「ここまではこれでいける、このあとは・・」 毎日撮影は科白をつくり、シーンをその場で考え進行する。 クランクアップの前の日。 勝「どうやらこれでまとまったナ」 そこには勝新太郎よりオーナーの顔があった。 最初の脚本から残ったのは、題名とキャストの名前だけであった。 そしてこの作品は完成した。私にとって不思議な体験である。 こんなことは二度とやりたくない。 脚本家にも失礼だし、私自身とまどいながら撮影していた。 +++++++++++++++++++++++++++++++ 撮影の現場がよく分る監督の言葉である。勝新のワンマンぶりが目に見えるようだ。 芸術作品というのは恐ろしい。ひとりよがりで作った作品でも、天才の作品なら傑作だからである。
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【付記2000年/2007年】 TV版『座頭市物語』と『新・座頭市』は全作ビデオが発売されたことがある(全作ではないかも・・・)。しかし、現在は販売されていない。その後、数本が俳優中心でセット販売された。映画版の勝新監督作品『新座頭市物語・折れた杖』も1998年にようやくビデオで発売された。しかし、勝新監督の最初の傑作映画『顔役』はまだビデオ化されていない。TVシリーズ『警視−K』は1998年にVAPからビデオ化されて発売された。(池田追記、2000年)。『警視-K』ビデオはいまや品切れ絶版。2007年1月、とうとうTVシリーズの全作品100話の発売が始まった。まずは第1シリーズ26話『座頭市物語』が発売となった。 |
【付記2009年】集英社新書『時代劇は死なず!』(春日太一著,2008年)の第二章は70ページにわたって、「大映・勝プロの葛藤」と題して、大映の技術スタッフの優秀さと勝新太郎と勝プロの苦闘を描きだしている。これほど真面目に書かれたテレビ版『座頭市』論はかつて無かった。なんども感動して、読む手が止まった。 勝新太郎自身が監督した作品を手放しで持ち上げているわけではない。コストを無視した作品作りや、脚本を否定して内面に向かう孤独な作家、勝の姿を存分に伝えている。そして、「勝新太郎がわが身を削って実現させた<最高の仕事>が、<世界最高峰>の技術の拡散を防ぎ、いまに伝える礎となったのである」としめくくる。これほど評価されれば、天国の勝新も本望であろう。全篇引用したいところだが、それは著者と版元に失礼だろう。ぜひ買って読むべし。 春日太一は『天才 勝新太郎』(文春新書、2010)で映像作家・勝新を本格的に論じた。傑作! |
田中徳三監督のことば 勝新演出とは 勝ちゃんがテレビで自分で監督やって「座頭市」とか撮りだしたころですが、勝ちゃんは、出て来る俳優に全部芝居をつけちゃうんですよ。そうすると、どの俳優もキャラクターがなくなってね、みんな勝新太郎になっちゃう。そういうところは、勝ちゃんは分からない。だから小津安二郎さんもみんなそれですよ。全部小津さんになっちゃう。目の配り方や台詞なんかもね。まぁ、そのスタイルを押し通して、すごい作品を作られたわけですから、横からいろんなことを言う筋合いはないんだけど。 俳優を引き立たせたいって、当然そうですね。ただ、俳優自体の存在感というのではなしに、映画全体の中でね、そのシーンの存在感が突出して浮かび上がるように構成していく。 また勝ちゃんですが、監督やっててね、そのシーン、そのシーンは実に面白いんですよ。ところがつないでみるとね、どのシーンも勝新太郎のアイデアみたいのが出てきてね、映画ってのは山あり谷ありでしょ。そして最後にクライマックスがある、勝ちゃんの場合は、全部がクライマックスやから、逆にフラットになっちゃう。だから森田富士郎ちゃんに言わすと、「勝新太郎は、監督という麻薬をのんだ」ってね(笑)。あれは大失敗やったと、はっきり言ってました。 『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より |
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