『裏モノJAPAN』連載中
〜他人の会話は密の味〜
奈良崎コロスケの
耳をすませば

Vol.7 カードブローカー師弟対決

現在20代後半〜30代の男子ならば、誰しも子供の頃にウルトラマンの怪獣カードや仮面ライダーの怪人カードで遊んだ経験があるだろう。カードが数枚入った中身の見えない小袋を駄菓子屋や本屋で買いこんで徐々に集めていき、当たりを引くともらえるアルバムに貼っつけていく。揃っていくにつれダブリを引くことも多くなっていき、友達同士で持っていないものをトレードするのがなんといっても楽しかった。なかにはなかなか引けないプレミアカードなんてのも交じっていて、終盤戦になるとダブリまくりで、いつまでたっても買わされ続ける無限地獄にはまりこむ。もちろんメーカーの思惑通りなのはわかっているが、結局はアホみたいに買わされ続けるのがオチなのだ。だが、苦労してコンプリートにこぎつけたときの感動は子供心にこたえられないものがあった。

そのカード遊びだが、少年ジャンプの人気漫画『遊戯王』のせいで、この平成の世でもブームが加熱し、プレミアカードをめぐって東京ドームで行列ができるほどとなった。主催側の様々な不手際から暴動寸前になる騒ぎが起きたのも記憶に新しい。たかがカード一枚で……と思うなかれ、げに恐ろしきはコレクター心理なのだ。

そんなカードの世界だが、じつは奥が深い。アメリカのを発祥の地とする野球カードなどは、ブームに左右されることなく昔から一定のファンがついている蒐集ホビーのひとつだ。都内にもそういったスポーツ系のカードを取り扱う店がいくつか存在し、トレードやら販売が日夜行なわれている。じつは筆者は以前、競馬カードの取材でいくつかの店をまわったのだが、オグリキャップブーム今は昔といった感じで、衰退の一途をたどっていた。やはり根強いファンのついている野球やサッカーにはかなわないらしい。

さて、んな前口上で始まったからには今回のミミスマは当然、カードネタである。高田馬場の奈良崎の自宅から一番近くにある老舗の喫茶店、明治茶房に入ったのは4月下旬の気だるい昼下がり。完徹明けで呆けながらコーヒーを飲んでいると、ヨレヨレのスーツを着た高岡健二似の40男と、K−1の武蔵をガリガリにしたような貧相なハタチ前後のガキが俺の横に座った。二人ともかなりのチェーンスモーカーで、嫌煙派の俺はすぐに席を立とうとしたのだが、堰をきったように高岡健二似のオヤジが武蔵を怒鳴り始めたので、ちょいと退店を遅らしミミスマってみると……。どうやら二人はカードブローカーらしく、40男が情報をつかんでガキのほうが機動力をつかって売りさばく、といった形で商売をしているらしい。ただ、話の内容からはシビアな取り決めでマージンのやりとりをしている、といった風ではなかった。もう少しライトな感じで、本業とはべつにカードで小遣い稼ぎをしているってところか。

それにしてもサッカー選手のカード1枚で、本当にそんなに儲かるものなのか? 話に出ていたジュビロの田中と福西、買いにいってみようかしら。


高岡 おまえさあ、なんで人の約束反故にすんだよ。なんで来ないんだよ!
武蔵 忙しいんですよ。俺だって。
高岡 後輩連れてバカなところに遊びに行ったりしてるくせによぉ。おまえ俺が何も知らないとでも思ってんのかよ。
武蔵 あれはタカシが行きたいっていうからしかたなく……。
高岡 うそつけよ。
武蔵 高岡さんも来ればよかったんですよ。あそこ可愛いコたくさんいるんですよ(ニヤニヤ)。
高岡 俺はああいうところ嫌いなんだよ。頭の悪そうな女とまずい酒のんで大金を溶かすやつの気がしれないね。
武蔵 楽しいですって絶対。
高岡 で、何時間飲んでたんだよ、あの日は。
武蔵 いや、2回くらい延長したけで(薄ら笑い)。
高岡 そうやってさ、毎回毎回人の約束反故にしやがって。あの日だって俺んとこ来る予定だったんだろ、それをドタキャンしやがって。
武蔵 ドタキャンじゃないですよ。ちょっと行くのが遅くなるって言ったんですよ。
高岡 あ〜2時なら行ける? ふざんけんじゃないってんだよ、そんな夜中に来られたってたまったもんじゃないんだよ。
武蔵 すいません……。
高岡 どうせトッティーで儲けた金で遊んでんだろ?
武蔵 はあ、まあ……。
高岡 とにかくよ、情報流したの俺なんだからな、少しはまわしてくれないと。
武蔵 わかってますって。
高岡 わかってないじゃねーかよ。いくら儲けたんだよ、30か、40か?
武蔵 60くらい……。
高岡 カーッじゃあ、俺に2割まわせ。
武蔵 はいはい、わかりましたよ。
(ごそごそとケツのポケットをあさってバサバサと札束を取り出し、おもむろ数え始める)
高岡 素直に最初からこうすりゃよかったんだよ。
武蔵 (札束を渡しながら)いや、出すつもりでしたって。本当ですよ。
高岡 バックレるつもりだったくせに。自分からは絶対電話してこないからな、おまえ。
武蔵 いやーへへへ。で、またなんかないですか、いい情報。
高岡 ああ? まったくずうずうしいやつだな。……まあ、こりゃあまだわからんがな、ジュビロの田中と福西、これがいいぞ。
武蔵 本当っすか。田中と福西っすね!(すぐ携帯を取り出しどこかに電話)……ああ、俺ですけど。はいはい、どうもです。あの、このあいだ●●●●にあったジュビロの田中と福西、まだありますか? あ、じゃあそれとっておいてください。あ、それでトレードしてほしいんですよ。この間●●●で引いたらブレアーのジャージ姿のが出ちゃって(笑)。俺的にはいらないって感じなんですよ。でもマニアの人なら欲しい人いるでしょ?
(以後2〜3分ほど色々と交渉)
高岡 ほんと、オマエってちゃっかりしてるよなあ。
武蔵 ははは、よく言われます。
高岡 それでインターネットつなぎにいつ来てくれんだよ。
武蔵 ああ、行きますよ行きますよ。でも自分でやったほうがいいですよ、なにかと。あの中川さんだって自分でちゃんとつないだんですから。高岡さんだって自力でできるとこまでやったほうがいいですよ。自分で努力しないでとにかく高圧的に人に頼むってやりかたよくないですよ。
高岡 あのねえ、俺だって何の努力もしてないわけじゃないの。できるところまでは自分でやったんだよ。
武蔵 どこまでやったんですか?
高岡 あの分厚い説明書あるだろう? あれを最初の3ページくらいは読んだよ。そしたらもう、とにかく頭が痛くなっちゃってさあ。
武蔵 で?
高岡 いや、そこまでだよ。機械嫌いの俺が3ページも説明書読んだんだよ、これだけでも精一杯なんだよ。オマエみたいなファミコン育ちにはわからねえだろうけどな。
武蔵 わかりません……。

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