月刊『裏モノJAPAN』連載中
〜他人の会話は密の味〜奈良崎コロスケの耳をすませば

Vol.5高橋恵子似の清楚系主婦vs瀬川瑛子似のエステババア 

筆者の地元である立川に、昨年新しい駅ビル「グランデュオ」がオープンした。立川にはすでにルミネがバーンとそびえ建っているのだが、今度の駅ビルはウインズがある南口に面して建てられており、競馬オヤジ達はウインズの近くに出口ができて非常に重宝しているようだ。

さて、グランデュオの売りは、なんといっても7Fの立川中華街だろう。横浜中華街を丸ごと移植してきたようなこのフロアには、中華の鉄人・陳健一のマーボー豆腐専門店を始めとした中華の名店がズラリと顔を揃え、なおかつ大型の中華食材店もあることから連日大賑わいである。

そんな中華街に彼女と連れ立ったのは2月上旬の日曜日。「白玉蘭」という飲茶の店で1300円の点心お試しコースをつついていると、隣に主婦らしき中年女性2名が腰掛けた。ひとりは高橋恵子をもっと清楚にしたような、40代前半の痩身美人。化粧っ気も限りなくゼロに近く、服もざっくりと赤いタートルネックを着ているだけなのに、あふれてくるような気高さを持つ人だった。あまりの美しさにしばし凝視してしまい、向かいに座っていた彼女にキッとにらまれてしまう始末だ。当年とって31という、いいオヤジのくせに、干支が同じ申年の12も年下の19の彼女にデレデレという、どちらかというとロリ野郎で熟女は苦手な俺なのだが、彼女だったらバリバリ守備範囲だ。不倫なんかしたら絶対溺れちゃうだろうな…(しばし膨らむ妄想)。

さて、もう一人のオバハンはというと、高橋恵子似清楚主婦よりはだいぶ年齢が上。恐らく50代中盤戦だろう。ぷよぷよの肉体と濃い化粧、わけのわからん派手なスーツに、濁った茶髪パーマはどっから見ても立派なババア、よく言って場末のスナックのママだ。こんなのを見てしまうと、とたんに熟女好きの気がしれなくなる。顔の肉が完全に引力に負けているその容貌は、瀬川瑛子を数回きつくぶんなぐったようだとい言ったら印象が伝わるだろうか。

二人の話題は家庭の話から始まった。なんということはない会話で気にも止めていなかったのだが、美人妻のほうが娘の失恋話を始めてから状況が一変。もともと話を聞くときに、やたらにオーバーアクションでうなずいてみせていた瀬川瑛子似のオバハンなのだが、どうやらエステの勧誘のタイミングをはかっていたようなのだ。あのわざとらしい聞き上手ぶりは、その前ふりだったのだろう。きっとマニュアルかなにかに、話の聞きかたから振り方までしっかりと書いてあるに違いない。

エステといえば、客から絞りとるだけ絞りとるやりかたで有名な商売。上客一人捕まえれば、実入りも相当いいだけに営業も必死だ。美人主婦もその辺は承知の上で、今までも適当にあしらっていたようだ。話の内容からすると、営業のオバハンのほうは、もともと何百万もエステ通いに使った口。それで、現在がこれじゃあ説得力にも欠けますがな。きっと営業成績も悪いんだろうな…。
話の端々に人生の悲哀が感じられ、生まれついての不公平というものを堪能。本当の美しさって金じゃ買えないんだよな。 


高橋恵子似の主婦(以下高橋) 娘がね、彼と別れたらしいのよ。
瀬川瑛子似の主婦(以下瀬川) あら! またどうして?
高橋 なんかね、彼のほうに好きな女の子ができちゃったらしいのよ。
瀬川 あらまあ、そーなのお(深くうなずく)。
高橋 それで娘もしばらく泣きくらして、ふさぎこんでたんだけど、最近ようやく立ち直ったみたい。
瀬川 よかったわねえ。
高橋 なにしろ大学入ってすぐに付き合いだしたから、丸3年付き合ったの。家にもよく遊びにきていたしね、てっきり結婚するものだとばかり私も思っていたのよ。
瀬川 3年もお付き合いすればねえ(深くうなずく)。
高橋 娘も当然そのつもりだったみたいだけどね。
瀬川 でもまだ若いんだから。
高橋 そうなの。まだ21なんだからね。これからいくらでも出会いはあるわけだし。社会に出てからだってね。だからあのまま卒業したらすぐ結婚みたいな形にならなくてかえってよかったんじゃないか、って私は思うのよ。
瀬川 そうよ、21、22じゃ若すぎるわよ(深くうなずく)。
高橋 でね、最近はその元の彼とも、お友達としてちゃんと仲良くしてるらしいの。同じサークルだしね。
瀬川 あら、別れても仲良くできるなんて、娘さんも大人ねえ(深くうなずく)。
高橋 そうなの。娘もちょっとは成長したのかしらって、私もその話聞いて思ったの。若いんだから失恋のひとつやふたつ経験するのは当たり前だしね。
瀬川 そーよお(うんうんとうなずく)。
高橋 でもね、最近その彼が新しいガールフレンドとうまくいってないらしくって、娘もちょっと複雑な気分みたい。
瀬川 あら、じゃあよりが戻っちゃうんじゃないの?
高橋 私もそう思って娘に訊いてみたんだけど、それは絶対にないってきっぱり言ってた。さすがに意地があるんじゃないの。ふふふ。
瀬川 あらあ、でも娘さん、ちょっとは未練があるんじゃないのかしら。
高橋 もちろんあるわよ、きっと。
瀬川 あ、ところで例の件、娘さんに訊いてくれた?
高橋 エステのこと?
瀬川 ええ、とりあえず体験だけでもどうかしら。
高橋 興味はあるみたいだけど。
瀬川 ひとりじゃあれだったら、お友達も誘ってぜひって……。
高橋 うーん、でもエステなんて若いコに必要あるのかしら。
瀬川 あら、若い内からちゃんとお手入れすることが大事なのよ。
高橋 でも、今は必要ないと思うんだけど。
瀬川 とりあえずアナタも一回だけでも体験してごらんなさいよ。
高橋 この前も言ったけど、私はいいわ。苦手なの、ああいうの。
瀬川 気持ちいいわよお。私も初めはエステなんてって抵抗あったんだけどね。私がパートに出ていた職場の先輩でね、安西さんって方がいたんだけど、自立していてとってもチャーミングな人だったの。それである日、「安西さんっておいくつなんですか?」って訊いてみたら、「いくつに見える?」って逆に訊き返されたから「55歳くらいかしら」って答えたの。そうしたら笑いながら「それに10足してぇ」なんて言うのよ。私本当にびっくりしちゃって。
高橋 65歳でそんなにおきれいなの?
瀬川 そうなのよ。それで私ハッとしたの。自分と比べちゃったの。外見を意識するって大切なんだなって。彼女はすごくがんばってるんだなって、感心したの。それで彼女もエステにやっぱり通っていたのよ。私もちょうどそのころにエステ通いしてたんだけど、この差はいったい何だろうって考えたのよ。
高橋 うんうん。
瀬川 私がエステ通いを続けていたのは、やっぱり気持ちよかったからなの。単純にそれだけの理由なの。
高橋 確かに気持ちよさそうよね。
瀬川 でも、それだけじゃやっぱりダメなのよ。それで安西さんの通っているエステに私も通うようになって目からうろこが落ちたのよ。ここは違うって。それで、この気持ちよさと効果をみんなに伝えたいって思うようになったの。だから細かいシステム教えてもらおうと思ったら、やっぱり全部は教えてくれないわけ。だったらこの会社に入っちゃえって。それがこの仕事を始めた理由。私の49歳の誕生日。その日に合流したの。そのときに私の残りの人生ここにかけるって決意したの。
高橋 ××さん、がんばってらっしゃるものね。
瀬川 だからね、○○さん、ぜひ娘さんと一回無料体験にだけでもいらしてよ。よさがわかるわよ!
高橋 うーん…でもうちは遠慮しとくわ(きっぱり)。
瀬川 あら…そう。
 
 
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