”学習の動機付けと問題発見” 自主的な学習意欲 実践的教育では、学生の自主的な学習意欲がもっとも強い推進力になります。 学習活動においては、誰かの指令を待つという受け身の姿勢でなく、積極的にやりたくて自分から取り組もうという姿勢がきわめて重要です。自分で深い興味があって夢中でやっている時、学生は一番光っています。またその学習効果も最大になります。 実践的教育でもっとも重要な問題は、まず学習の動機付けです。学生は、本来高度な専門的学習をしたいと思って、大学に集まっています。大学では、学習することが彼等の仕事です。そう思っていても、どのように学習に取り組んでいけば良いのか、分からない学生も多く見掛けられます。 大学の教育では、どのようにして学生が自分から学習したいと思うような気持ちにさぜるか、教師はいつも考えなけれぱなりません。学習したいという白主的な気持ちを引き出すことから始めなければ、自由な雰囲気の大学では、なかなか学習活動は深く進んでいきません。 幸い私のゼミの学生は、何かやりたいと燃えて葉まっています。教師として考えることは、彼たちの渇きにどのような味の水を与えるかを考えるだけです。 学習動機付けの人参作戦 学生に対する学習の動機付けは、いろいろな手法が考えられます。 大学でもっとも墓本的なものは、しっかり学習すれば試験で単位を与える、また、一定の単位数を取得すれぱ卒業証書を与えるという方法です。 学歴社会では、大学卒業の証書が絶大な力を発揮します。守り神の神社のお札のように、卒業証書を有り難がり、それを丁に入れようと学習の動機付けが行われます。 ただし、卒業するのが比較的やさしい日本の大学では、この方法は、試験期の直前になって慌てて一夜潰けの勉強を熱心にする、というレベルの学習動機付けです。素晴らしい卒業証書の入手は、受験勉強の段階での学習動機に止まり。高度に専門的な能力の育成という面では、はとんど間題になりません。 このタイプの学生を呼び出して、“これからの実力社会では、あの紙切れは本当の紙切れですよ、さっさと学校をやめて、今やっている好きなことに本格的に取り組んだら貞いのに”。もちろん、こちらの本音のアドバイスは、“頼むからなんとかこの辺でしっかり勉強してくれよ。貴重な学費を払っている両親は、君の人生の幸せを本当に願っているんだから”。 このタイプの学生でも、大学教育の四年間が過ぎると、驚くほど成長しています。遊んで無駄ばかりしているようでも、教室以外の実践的教育などの積み重ねもあって、確かに紙切れ以上の重要な成果が認められます。 学習の動機付けの方法として、良い成績を取れば就職の時に有禾利になる、という話がしばしば聞かれます。就職氷河期に入って教室での学習態度が一変したように思われます。特に女子学生は、複数の先脊から女子就職のあまりの厳しさを、身に染みるまで間かされ続けています。彼女たちはもともと非常に真面日であるのに、さらに一生懸命勉強してよい成績を取ろうという気持ちになるようです。 教える立場の教師としては、バブルの頃のように学生が教室に来なくて一人芝居でいらいらしているよりも、就職不況に入って教室の勉強に一生懸命になってくれる方がありがたくなります。 間題は、学業成績表でよい評価を得ることに、主たる関心が行くあまり、その勉強方法が、先生の話した専門知識の理解と暗記にばかり気を使い過ぎることです。受験勉強の時と固じ点取り虫から脱皮できないのです。自分で深く考えるよりも、先生の講義内容を徹底的に記録し、暗記しようとしています。 暗記型の勉強法には、明らかに限界があります。企業では、ますます新しい発想のできる柔軟な頭脳を要求しているのに、就職を過度に心配する学生が、知識の詰め込みにますます一生懸命になるのは実に皮肉なことです。事態の本当のことを知らないことは、なんとも悲しいことです。 社会的な間題への着眼、“愛”と“目” 私の勧めている学習の動機付けは、社会的な間題に対するアイ、すなわち“愛”と“目”です。 社会は人間が集まって動いており、よほどの人間嫌いでない限り、周囲で動き回る人間への関心は、自然と備わっています。生きている人間に対する“愛”は、若い心の中のどこかで必ず育っています。将来世の中で少しでも役立つ人間になろうと決心している若者は、社会的な使命感に支えられて、主体的に周囲の社会の間題について強い関心を持ち、真剣に深く考えるようになるはずです。そこに着目するのです。 人間への“愛”があれば、若者の“アイ(目)”が動きます。人間社会には、多様な人間の動き、生き様が見られます。日常生活の身の回りの出来事やテレビ、雑誌新間で報道されるニュースなどが、若者の目のなかに飛び込んできます。いつもいろいろなタイプの本を読んでいると、人類の叡智や伝統だけでなく、社会で今生じているいろいろな間題について、様々な情報を知る機会になります。 学生は、もう少し広く高く日を上げて“洋目の姿勢(A:attension)”を取り、周囲の世界の動きや人間の生き方を観察するのです。その目の中に入ってきた光景で、ちょっと気になったものがあれば、「アテンション・プリーズ」、アイの視点をここに定めます。ここで得られた直感や感動を大切に保持していると、さらに“これは何だろう、これは何故だろう”、と新たな懐疑心が生れてきます。 自分で注目した現象の中で、“これをもっと知りたい、これはおもしろそうだ、これは好きになりそうだ”、と心の中で自分の興味や関心(I:interest)が湧いてくるものがあれば、さらに積極的にそれを良く観察し、深く調べます。 大学生の知的レベルでは、洋目一関心の過程(AI)で学習活動の動機付けが行われます。この動機付けを、アイ(Al)法と呼びます。 このような動機付けが行われると、その後の学習過程が非常に活発になります。自分で本当に興味のある問題を発見して、深く学習しようとしているために、どれだけ忙しくても、学習の努力そのものは苦痛になりません。人間は、好きなもの、関心の強いものを調べたり、いろいろ知り考えることは、それ白身大きな楽しみであり、精一杯の情熱をこれに注ぐことができます。そして、“好きこそものの上手なれ”、急速に学習の成果が上がっていきます。実践的学習の出発点は、AI方法の採用です。 関心の連鎖から問題発見へ アイによってある問題に興味が出て、調べ始めると、段々おもしろくなって、さらに関連した新しい間題に関心が移って行きます。 関心は、情報が入るにしたがって連鎖的にいろいろな間題に広がって行きます。調べるほどに、間題の大切さやおもしろさが分かってきて、次々に新しい興味が湧いてきます。きっかけの間題を切り口にして、関連情報の蓄積とともに、より重要な問題に関心が移っていきます。これを関心の連鎖(L;1inkage)過程と呼びます。 関心を拡げて調べるにしたがって、問題意識がより明確になり、間題発見が行われます。こうして学生は、研究の課題を決定して本格的な調査活動に取り組みます。いろいろな方向に関心が広がる中で、より重要な間題に研究の焦点(F;focus)が絞られます。こうして、やりたい間題を発見して本格的な研究活動に取り組むようになります。 以上のプロセスをまとめると、注目(A)、関心(I)、関心連鎖(L)、発見した間題への焦点(F)、すなわち、学習の動機付けから間題発見のプロセスは、アイルフ(AILF)の過程、と呼ぱれます。 間題発見のための基礎的な準備 目分で興味の対象を発見し、間題意識を強く持たせよう、という実践的教育は、短時日で目に見えた成果の上がるようなものではありません。人材の即席栽培は絶対不可能です。 長年受け身の学習に慣らされて来た知的に未熟な若者は、そう簡単に自分から大人の実践的な議論に入れる訳はありません。社会的間題に対する懐疑心や知的好奇心が心の中で燃え上がって、意欲的な実践活動に向かうまでには、基礎的な学習活動を繰り返すための準備時期が必要になります。 大学2年の学習では、徐々に自分の将来を視野にいれて、社会問題に対する問題意識の芽生えがあります。この頃から少し幅広い社会的関心を持つように指導しますと、新鮮な感動でいろいろな社会的間題に対して徐々に注目の幅を広げています。その結果、学生の意識は大人の伸間に入って、毎日少しの時間でも新聞の政治面、経済面、国際面に日を通し、今社会で何が起こっているか、関心と知識を広げようとしています。 講義の中で、世の中で起こっている話を取り上げると、学生は注目し、目を輝かして聞き入っています。その中で少しでも興味ある社会間題に対して、積極的に自分で調べ考えようという自主的な姿勢が出てきます。自主的に提出するレボートにも、自分独自の問題の発見と分析の喜びが感じられるものが出て来ます。 こうした準備が十分できていると、2年生になると、より興味のある間題に焦点を当てながら、貝体的な研究課題を設定し、本格的な研究調査の活動に入っていきます。 「学習の動機付けから問題発見」 注目の姿勢 ー 興味関心 ー 関心の連鎖 ー 間題点へ焦点 A I L F 参照文献「若者達のキャンパス革命」2章 |