HONEY CALL





「真田先生はいつも何時頃まで起きてみえますか?」
南先生の突然の質問に一瞬時間が止まった。普段の彼女はあんまり私生活を
詮索…詮索なんてそんな大層なモンじゃないけど、とにかくそういう事は
聞かない。別に大したことないしおれとしては答える事に抵抗も何もないから、
別にいいんだけどさ。急にどうしたんだろうって思ってしまう。
「え?…あ、別にそんなに夜更かしばっかりしてる訳じゃないよ?おれだって
早く寝る時はちゃんと寝てるし」
ちょうどあくびをかみ殺した後だったから、てっきり夜更かしはしない方がいいって
言われるのかと思ったら、南先生が苦笑いをした。あ、あれ…おれ、もしかして
墓穴掘ったとか…。

「いえ、私も夜更かししてますから。深夜のお笑い番組とかテレビ通販とか
何故か見てしまうんですよ」
「あー、そうだよね!うんうん、わかる、わかる。おれもさー、昨日3時頃まで
見ちゃってさ、お陰で眠いのなんのって」
「学校に来る予定でないのに寝不足をおしてまで、斑目くんの様子を見に来て
下さってありがとうございます」
「え?あ、あはは、そんな大層なモンじゃないから気にしないでよ」

つーか実際気になったのは斑目もそうだけど、アイツが補習をすっぽかして
南先生が一人で困ってたらって事だったんだけどな。珍しい事に約束の時間から
5分遅れでやって来たって言うんだから随分進歩したもんだって思う。ちょっと前の
アイツだったら絶対ないもんな。…あーでもおれへの態度は相変わらずだったけど。
おれを見た途端『……なんで…子犬…?…シッシ…』なんて言うし。あーもう、
思い出したらムカついてきた。たまに喋ったと思ったこれだ。

「…真田先生?」
「あ、ご、ごめん!」
朝の斑目との事を思い出して怒っていたおれを不思議そうに見つめる南先生に笑い
ながら誤魔化す。…っていうか、あのさ?そんな風に見られたら恥ずかしいんだけど。
ヤバ、自分でもわかるくらい顔が赤くなってそう。落ち着けー平常心、平常心だ。
「でも、別の意味でも嬉しいです」
「え、何が?」
真っすぐおれを見る彼女の笑顔にうわー、やっぱり可愛いよなぁなんて思いながら
言葉の続きを促した。
「だって職員室や語学準備室に一人でぽつんと居たら寂しいじゃないですか。
だから真田先生がいらしてくれたから寂しくなくて嬉しいなって」
「そ、そう?」
こんな事言われて嬉しくない奴なんて居ないよ。どーしよ。おれ、今すっごく嬉しい。
大体南先生とこんな風に2人で話す機会もあるようでなかったもんな。いいなー、
南先生みたいな彼女いたら毎日薔薇色だよなぁ。
「…あの、真田先生?」
「え?あ、いや、何でもない!何でもないから!!」

あー、今日はいい日だ。暑い中、学校に来た甲斐があるってもんだよ。
…なんて考えながら家に帰ってぼーっとテレビを眺めていたら、あっという間に
時間は過ぎてた。

「あ、あれ?もう12時近いじゃん」
夕飯食ってから何やってたっけ、おれ。うわ、もしかして…ずっとぼーっとしてた?
とりあえず風呂でも入らなきゃ。そう思って立ち上がったところで携帯のメール
着信音が鳴り響いた。
「こんな時間に…あー、また葛城さんがメールしてきたんじゃないだろうな。
あの人、メールしてきたと思ったら、いっつも…って…ええ!?」
携帯の液晶を覗き込んだら、あり得ない差し出し人に思わず大声をあげた。いや、だって
そりゃ、驚くよ。だって液晶にある差し出し人の名前は何度見直しても南先生だ。
「う、うわ、な、何!?」
震える指でメールを開封したら、自動再生されるメロディと一緒に可愛いキャラクターが
『Happy Birthday!!』なんて言ってる。驚いて壁に掛かってる時計とカレンダーを見たら、
確かに7月25日で、おれの誕生日になってた。
「え…み、南先生!?」
じわじわと嬉しさが込み上げてきて一人だっていうのに笑い出しちゃうよ。だって、
南先生がおれの誕生日覚えててくれて、日付が変わった途端にメールくれたんだよ。
これが笑わずにいられるかって。

『真田先生、誕生日おめでとうございます』

こんな一文にもおれは浮かれちゃえる訳で、浮かれすぎて手は勝手にアドレス帳を
開いて通話ボタンを押してるわけで…って、通話ボタンはマズいだろ。
あー、呼び出し音が聞こえちゃってるよ。いくら何でもこんな時間に電話って
マズいよな。あーでも、一回鳴らしちゃったものを切るのも変だし…
あーもう、南先生ごめん。

「あ、あの!もしもし、南先生!?」
「さ、真田先生?」
慌てたおれの声に戸惑ったような声が聞こえてくる。そりゃ、そうだよね。まさか
電話がかかってくるだなんて思ってなかっただろうし。
「お、おれ…あ、あの…」
「すみません、メール着信音で起こしてしまいましたか?」
「ええ!?あ、違う!違う!そうじゃなくて!!あ、あの、ありがとう!!」

嬉しくって真っ先に伝えられたのはそんな普通の言葉だった。
いや、一番言いたいことだからいいんだけど、もっとこう、気の利いた言葉とかさ。
…おれにそれを望むのは我ながら無理だと思うけど。

「あー、うー…えっと…ごほん!…そう言えば、おれの誕生日何で知ってたの?」
「あ、二階堂先生にお聞きしたんです」

嘘!マジ!?あー、二階堂先輩!ありがとうございます!!やっぱ、おれ、先輩に
一生ついて行きます!!先輩のお陰で、今すっげー幸せです!!
ホント、今度先輩に何かお礼しないとな。そんな事言ったら、きっと先輩はいつもの
ポーカーフェイスで『そんな事はいいから、いい加減先輩でなくて先生と呼べないのですか』
なんて言われちゃうんだろうけどな。あー、そういうクールなところが恰好良いんだよなぁ。

「そっか、うん、ホントありがとう!何か嬉しいね。こういうの」
「ふふ、良かったです。そんなに喜んでいただけて」
「うん、すっげー嬉しいよ!南先生がおれの誕生日を気にかけてくれたことも嬉しいけど
誰より一番に祝ってくれたのが、すっげー嬉しい!」

あ、あれ?
何か電話の向こうの南先生の反応が変だ。
おれ、変な事言った?

「南先生?」
「…な、何でもない…、です」
「?」

何か地雷踏んじゃった、とか?
う、うわ、どうしよう!?二階堂先輩ー、こういう時ってどうすればいいですかっ!?

「…あ、あの!真田先生?」
「え?あ、何!?」
「その…あんまり大げさなものでもないんですけど、その…プレゼントあるんです。
それで、その…」

え!?嘘、南先生がおれにプレゼントって言った!?
マジで!?やっぱ、今年の25日が大安だから?…って大安は関係ないか。

「次に学校にいらっしゃるの…いつですか…?」
「いつって…すぐでも!」
「え?」
「南先生が次に学校に行く時におれも行くよ!!」
「え、で、でも…本当にその大げさなものじゃ…」
「そんなの関係ないよ!南先生から貰えるって事だけでも十分嬉しいし!
…そ、それに…さ?」
「…?」
「…それを理由に会えるのが嬉しいなー…なんて思っちゃったりしてます」

う、うわ…今、おれすっげー恥ずかしい事言ってない?
つーか、マジ顔が熱いんですけどっ!?

「…え…えっと…明日…あ、もう今日ですけど…斑目くんの補習用のプリントを
作りに学校へ行こうかな…と思ってます…」
「じゃあ、おれも行くよ!」
「…は、はい……その、あんまり期待し過ぎないで下さい…ね?」

あー、もう何か南先生、いつもよりすっげー可愛くない?
いつもだったら、ホラ、もっとハキハキ喋ってて、ちょっとお姉さんみたいになる
時もあるじゃん?それが今の南先生ってどうなの。何か、女の子なんだなーって感じで
すっげー可愛い!

この後、しどろもどろな南先生と何時に学校に行くか話して、もう後少しで
電話切らなきゃなーって思ってたら、爆弾を投下されて、おれ的には数分動けなく
なった訳で…。あーもう、今年のおれ、ツキすぎかも!

「…でー」
「…真田くん、君は一体いつまでその話を繰り返すつもりですか」
「えー、繰り返してなんかないですよ!それより、もー聞いてくださいよ!!」

南先生の生Happy Birthday聞いて、最高にテンションが上がったおれは3時頃まで
二階堂先輩に電話して話を聞いてもらった。…当然、先輩は呆れてたけど。

あー、でもホント、今年はサイコー!!



<あとがき>
ギリギリ間に合わなかったのですが、愛はこもってますよ。ええ、無駄に。
(現在2007/7/26 0:25)
B6達が卒業した後ならラブラブもありだとおもいますが(当然真田EDルートで)
やっぱりラブラブじゃない青いところが真田でしょ。…ということでB6在籍時の
お話になりました。まぁ、そんなこと言っても全然彼らは出てこないんですけどね。

真田は葛城と同じく最初から好意があるのでこれぐらいの時期でも十分
こんな風に青春してるといいなぁ(笑)