僕のシアワセ
毎日ここに足を運ぶのは先生の顔を見たいから。 ここにいるとすごく安心する。 僕がこんな風に笑えるようになったのも、先生のお陰だ。 「お前、また来てるのか」 そう言って語学準備室に入ってきたのは、僕が会いに来ている先生の一人。 僕が会いに来てる先生は一人じゃない。 実は南先生だけじゃなくて、この人にも会いたくてここに来ていたりする。 南先生に会いに来る理由は単純明解。先生のことがとても好きだからだ。 じゃあ、この人は?…真田先生に会いに来るのは…もちろん先生が好きなことも 理由だけどそれだけじゃない。 「大学生は暇そうでいいよなー。…ってそう言えばお前、ちゃんと授業出てるのか?」 「…出てるよ」 「本当かー?その割にここにばっか来てるじゃんか」 「ここに、いない時は大学に行ってるよ。僕、これでも大学生」 「当たり前だろ。高等部から進学したんだからさ。…ま、お前の場合、授業なんて 簡単過ぎて面倒かもしれないけど…でも、大学は勉強するだけの場所じゃないんだぞ? その辺、ちゃんとわかってる?」 「…ん、でも…面倒…」 「こら、そんなこと言ってると友達増えないだろ?周りから浮くぞ?」 席に着いた真田先生はそう言うと大体なぁと言って自分の昔話を始める。 …僕、この話何回も聞いたから知ってる。このままだと真田先生、また 二階堂先生の話を延々とし出すし…どうやって話題替えようかな。 「そうだ…これ、先生にあげる」 そう言って机に置いたのは真田先生が毎日飲むくらい大好きな乳酸菌入り健康飲料。 これを差し出せば、昔話どころじゃなくなるのを僕はよく知ってる。次の台詞が どんなものなのかも、行動も全て予測済み。 「こらー、斑目!何でいっつもおれにこれを寄越すんだ!!」 「…だって、先生…毎日飲んでる」 「そんなの理由になるかーっ!つーか、何でこれを持ち歩いてるんだよっ! おれをからかうためだろ!な、そーだろ!白状しろーー!!」 やっぱり真田先生は一字一句間違えることなく僕の予想した台詞を叫ぶ。僕が この飲み物を用意してるのは当然真田先生をからかう為。でも考えてみれば 簡単なのに全然気付かないのは真田先生ならではだと思う。だって、わざわざ 用意してるのに。それがどういうことか考えれば簡単なのに。 先生と一緒に笑いたいからだけなんだけどな。…あ。でも笑ってるのは僕だけか。 「…先生、大きい声出すと、また二階堂先生に叱られるよ」 「誰のせいで大声出してると思ってるんだ!?」 「…んー…僕?」 「何で疑問系なんだ!お前しかいないだろっ!」 僕の楽しみ、そして幸せ。一年前の僕はこうじゃなかった。 真田先生が話しに来ても口を閉ざして、真正面から話をすることなんてなかった。 だけど、今の僕は違う。 先生に会いたいから、こうして高等部に来てる。 一年前の僕だったら、きっとどうやって真田先生に会わないようにするか考えてた。 僕が変わったのは担任だった南先生と過ごした一年があったから。 だから、こうして笑っていられる。 「真田先生、廊下まで声が聞こえてますけど…あ、瑞希君やっぱり居たのね」 「…うん」 「あ、み、南先生!」 あ、南先生が来た途端に真田先生が真っ赤になった。…本当にわかりやすい。 そう、僕が毎日ここに来るのは2人に会いたいからという理由と…。 南先生と真田先生の邪魔をするためでもある。 嫉妬からの邪魔じゃない。僕の単なる愛情表現。 僕が南先生を慕う気持ちと僕が真田先生が好きだ…というか気に入っていると思う 気持ちは種類が違ってるってだけのこと。 「それにしても瑞希君は本当によく会いに来てくれるのね」 「…邪魔?」 「ううん、そんなことないわ」 「…おれ的には邪魔なんだけど…?」 「真田先生、何か言いました?」 「え?ああ、いや、何でもない!」 南先生を独り占めしようだなんて、簡単には許してあげない。 僕だって南先生が好きだから。 もちろん、真田先生も好きだから、葛城先生にあげるよりはずっといいけれど。 あげる、あげないなんて言ったらきっと当事者の南先生は怒ってしまうだろうけど、 僕には重要。まだまだ、南先生には僕の先生で居て欲しいから。 ほら、トゲーだってそう言ってる。 「クケー!」 「おわっ!な、何だよ、トゲー。いきなり」 「トゲー、邪魔者扱いしないでって言ってる」 「あら、誰もそんなこと言ってないのに。おかしなトゲーね」 笑いながらトゲーを撫でている南先生に見つからないように小さく笑う。 目と目が合った真田先生は見事な膨れっ面で僕はもっと楽しい気分になる。 僕、少しだけ知ってる。南先生、鈍いけど、最近少し…本当にほんの少しだけど 真田先生を意識してるんだ。このことを言ってあげたら、きっと真田先生は 子犬みたいに尻尾を振って喜ぶんだろうけど…喜ぶから教えてあげない。 だって、僕のシアワセは2人とトゲーと一緒にいる事なんだもの。 <あとがき> 何か、微妙なものを書き上げてしまった感じがします。 ははは、多分瑞希は真田のことを結構気に入っているということを 書きたかったんだと思います、はい。カップリングものとして瑞希は 先生と組ませることはないと思いますが(と言いますか私に真田以外と 組ませる気がないだけ)真田と会話させるのは好きです。多分、これからも 出て来てはかき回すいじめっ子になるかと(笑) |