Fine days







──平日とは違い、土曜日や日曜日は一日部活に打ち込める日だ。

軽い高揚感を感じながら制服を着込み、玄関を出ると
…何故か部活の後輩が座り込んでいる。

「…朝から何をしている」
声をかけると携帯ゲーム機から顔を上げて、にかっと笑い立ち上がった。
鞄の中をごそごそと探り、小綺麗な紙袋を目の前に突き出すと
受け取るようにと視線で訴えてくる。

「何だ、これは。何かの謎かけか、赤也」
「んなワケないッスよ。真田副部長、何か忘れてません?」
自分の反応に少し呆れたような表情を浮かべ、ため息をつく赤也に
今度はこちらがため息をついた。
「何を忘れているというのだ」
「うわー、信じられない。フツー忘れます?そんな大事な事」
大袈裟に訴える赤也に眉を顰めた。一方赤也はそんな表情を浮かべても
気にした様子はなくブツブツと『忘れないよな、普通』等と言っている。

「大体、朝の挨拶もなしに何をしようというのだお前は」
「あれ、俺言ってませんでしたっけ?んじゃ、『おはよーございます』
っと…これでいいッスよね」
自分の指摘に首を傾げると再びにかっと笑い適当に挨拶をする。

──憎めない所はこういう所かもしれない。

どんなに適当であろうと笑いながら素直に挨拶をする相手を叱る事は出来ない。
部内きっての問題児でマイペースなこの後輩は何だかんだ言っても皆から
可愛がられていた。
「うむ、だが後から付け足したように言うな…まったく」
「細かい事はいいじゃないッスか。…ってか、いい加減コレ、貰って下さいよ」
突き出した紙袋を押し付けると楽しそうに笑って歩き出す。強引に渡された
紙袋を手に首を傾げながら、学校へと足を進め始めた。
「これは何だ?」
「中身?」
「中身もそうだが、これには何か意味があるのか?」
隣を歩く赤也を見ると不満そうに自分を見ている。先程までは機嫌
良さそうにしていたのに、それは5秒も経たない内に変化していた。
「意味があるのかって…普段の俺見てたらわかるんじゃないッスか?意味なく
人に物をあげるタイプじゃないと思うんスけど」
「まぁ、それはそうだが…。うむ…」
口を尖らせたまま視線を逸らすと頭の後ろで手を組みながら歩いている。
「…どうした、赤也」
「別に?何でもないッスよ」
明らかに拗ねたような声で明後日の方向を見ている赤也にため息をつく。
小綺麗な紙袋は依然として自分の手の中にあるが、どんな意味を持つ
贈り物なのかよくわからない。紙袋と赤也を見比べ考えてみるものの
心当たりがない状態ではやはり答えなど浮かんでくる筈もなく…。

「本当にわからないんスか?」
少し先を歩いていた赤也がちらりとこちらを振り返ると正直に頷く。
「はぁ〜…ま、いいッスけど…」
呆れたようにため息をつくと再び隣に並んで歩き出した。
「今日…」
「今日がどうした?」
ぽつりと呟いた声に聞き返すと赤也から再び大きなため息が漏れる。

「今日、何日?」
「21日だな」
「で?」
「『で?』とはどういう意味だ」
じっとこちらを見ていたかと思うと視線だけを逸らし、ぼそぼそと
赤也が言葉を発する。
「……でしょ?」
「すまん、よく聞こえなかったのだが…」
逸らしていた視線が再び自分を見上げた。そして次の瞬間赤也が
怒ったように早口にまくし立てるとその場から走り出す。

「お、おい!赤也!?」
後ろ姿に声をかけても立ち止まる気はないらしい。すっかり見えなくなって
しまった背中にため息をつくと先程の赤也の言葉を思い出す。

『だからー、今日はアンタの誕生日だっつってんの!自分の誕生日ぐらい
覚えてるのがフツーっしょ?何でアンタはそれを忘れてるんだよ!朝早起きして
副部長の家まで来て待ってたのに馬鹿みたいじゃないッスか、俺…っ!』

──誕生日だと…?

今日は5月21日。確かに自分の誕生日だ。
忘れていたのも確か。だが赤也は一言も誕生日の事に触れずに
この紙袋を渡してきた。気付けと言われても忘れていた自分が
その意味などわかる筈がない。

「誕生日プレゼントならそう言えばいいではないか…」
そう口にしつつも祝ってくれようとしていた気持ちは嬉しい。
手にしている紙袋をあけるとそこには真新しい帽子が入っていた…。


学校に着くと真っ直ぐに部室へと向かう。そして部室の前に座っている
赤也を見つけると足早に近づきながら、声をかけた。
「鍵も無いのにどうやって入ろうと思ったのだ」
「…ふん」
携帯ゲーム機の画面を見たまま、こちらを見ようともしない赤也の
様子に微かに笑みを浮かべる。
「…まったくいつまで拗ねているつもりだ」
「別に拗ねてなんか…わっ!?」
つい先程まで被っていた自分の帽子を被せてやると鍵を開け、部室へと入って行く。
「ちょ、ちょっと何なんスか、コレ!」
驚いたような顔して帽子のつばに手をかけている赤也を振り返ると頷いた。
「俺には新しい帽子があるからな。それはお前にやろう」
「はぁ!?」
少し大きいのかつばに手をかけていないと上への視界を保てないらしい。
ぎゅっとつばを握りしめたまま驚いてその場に固まってしまっている赤也を
よそに再び小さく笑みを浮かべる。

「誕生日プレゼント、有り難く使わせてもらうぞ」
そう言うと背を向け自分のロッカーを開き、着替えを始めた。
「…何だよ、今頃…」
小さくそう呟きつつ赤也もまた着替えをするべくロッカーの方へと歩き出す。
どこか嬉しそうに帽子を脱ぎ、視界の端に捉えながら着替え始めた…。



<あとがき>
誕生日にギリギリ滑り込みセーフって所ですかね。
ファースト以外のキャラの誕生日SSを書くのは珍しいです。
まぁ、多分赤也が書きたかっただけだと思うのですが…(汗)
しかしこの赤也、素直だしえらく可愛い気がします。
ちょっとやり過ぎたかな…(苦笑)

ところでこれ、私は親子SSのつもりで書いているのですが、
もしかして見方によるとあっちにもなってしまいますか?
う〜ん、境界線がよくわかりません…。