ホントのキモチ
待ち合わせは11時。そして今の時間は10時45分。待ち合わせ場所は 駅前広場の噴水の前だ。こうやって彼女と外で待ち合わせするのは 初めてなのだが、とにかく気持ちが落ち着かなくて随分早くに 自宅を出た。実は待ち合わせ場所に着いたのは今より30分も前である。 「…何でこんなに落ち着かないんだろ」 ため息をついたその瞬間、慌てたような彼女の声が聞こえてくる。 今日の待ち合わせ相手、後輩のの声だ。 「す、すみません!私、遅くなっちゃって…」 「あー、そんなに走らなくても大丈夫だよ。まだ待ち合わせの時間より 10分も前だから」 「ほ、本当ですか?」 「うん、本当だよ」 良かったと笑って見せるの手を取ると歩き出す。こういう時は 普通に対応出来る。先輩としての自分の仮面は上手く被れるが 本当に本音を言いたい自分はいつだって奥の方でタイミングを 掴み損ねていた。 手を繋いだり、優しくするのは簡単な事だ。 今までだってどんな女の子にも表面的な優しさだったらあげられたから。 だけど、彼女には違った。それだけじゃない、もっと本気なんだと わかって欲しかった。きっと今日だって軽い気持ちで誘ったと 思われているんだろう。きっと調子のいい先輩だと思われているに 違いない。 「清純先輩?」 「あ、メンゴメンゴ。えーっと先に映画に行く?軽くご飯を 食べてから行ってもいいよね」 不思議そうな彼女の視線に慌てて取り繕う。 「先輩はどうしたいですか?私はどっちでもいいです」 「うーん、俺もどっちでもいいんだけど…そうだなぁ、 早いお昼を食べてから映画に行こうか」 「はいっ!」 寒さの所為でピンク色の染まった頬が妙に可愛い。彼女の 笑顔にはいつも励まされてきた。 試合で負けた後、一心不乱に壁打ちをしていた自分を見ても 笑わなかった。格好悪いと思っている自分を見られた時は本当に 恥ずかしくて何とか誤魔化さなきゃと思った。なのにそれは全然 格好悪くないって言ってくれる。 俺は狡くってこの子が何で自分によくしてくれるのかは分かってた。 俺に好意を持ってくれてたから真剣にそうやって言ってくれたんだって。 だから、それをちょっと利用してた。卑怯で狡い奴だって自分でも わかってるけど、だけどそうしなきゃいつもの自分で居られなかった。 そしてあれから半年も経った今、俺は逆にこの子の…ちゃんへの 気持ちに気付いてしまった。気付いてからの俺は何とも格好悪く じたばたともがいているだけ。 「清純先輩、どうしたんですか?具合悪いなら帰って休んだ方が…」 心配そうに覗き込むに力なく微笑んだ。 「顔色悪いですよ?ね、やっぱり帰りましょう」 「嫌だ」 「え?先輩?」 もういいや。この子なら大丈夫。きっとありのままの俺を受け 入れてくれる。きっと大丈夫だ…。 「今日はちゃんと居ると決めたんだ。だから嫌だよ」 「せ、先輩?」 「あのね、ちゃん。俺ね、すごく言いたいことあるんだ。 言っても…いいかな?」 「…はい?」 「ちゃんが大好きだよ」 ああ、言えた。たったこれだけの事にどれだけかかったんだろう? ねぇ、 ちゃん。俺ね、ずっと君に言わなかった分、言ってもいいかな。 すごく、すごく、君が好きだよ。 格好悪い俺も含めて受け入れてくれる君が好きだ。 だからね、今日ずっと一緒に居てくれる? |