マイ・スタイル
「跡部があんなにあっさりいいって言ってくれるなんて思わなかったよ〜」 慈郎は満足げにの手作り弁当を取り出すと嬉しそうに蓋をあけた。中に入っている 色とりどりのおかずに目を輝かせながら手を合わせて食べ始める。 「う〜ん、ちゃんのお弁当はやっぱり美味C〜」 「先輩は狡いです」 突然そう呟いたの声に箸を動かす手を止めた。目の前で少し頬を染めて、むくれて いる様子が可愛くて思わず顔がにやけてしまう。それを見た彼女はますます機嫌を 損ねたようでぷいと横を向いてしまった。 「ん〜?何で俺が狡いの〜?」 「だって、私あんなお話聞いてません」 「うん、だって先にちゃんに言ったら跡部の所まで付いてきてくれないでしょ?」 「はい」 「それじゃあ跡部がうんって言ってくれないからさ〜。だから内緒にしてたんだよ」 すっかり弁当の中身を堪能し尽くすとごちそうさまと箸を置く。 「それが狡いって言ってるんです」 頬を膨らませたが眉間にしわを寄せている。とは言っても本当に怒っているのでは なく、やはりむくれているだけに過ぎない。慈郎は度々をからかっており、彼女が こんな表情をするのは日常茶飯事であった。 「え〜、ちゃんは俺と一緒に居るの嫌なの?」 「そんな事は言ってません」 「うん、良かった〜。もし嫌だって言われたらどうしようかと思ったよ」 「もう、そうやって誤魔化さないで下さい。もし一緒に居るのが嫌だったら、 こうして一緒にお昼ご飯を食べたりしませんよ。そうじゃなくて…」 目の前のは生真面目でとても優秀な文化祭運営委員だった。『だった』と 過去形を使っているのは、もう文化祭は終わっており、今は部活に所属していない 普通の中等部2年の女子生徒であるからである。 「ちゃんは可愛いなぁ」 真っ赤になって怒る彼女にそう言って笑いかけると今度は耳まで真っ赤になって 口を噤んでしまう。 「先輩!」 「あはは、怒らないでよ〜」 「怒らせてるのは先輩ですよ」 は弁当箱を手提げ袋に入れながら怒ったポーズをとると、笑ったままの慈郎の胸を ポカリと軽く拳で叩く真似をしてみせた。 「ごめんね〜。でもね、ちゃんがあんまりにも可愛いからさ」 「もう、知りませんからね」 「ちゃん〜?」 「知りません」 顔を背けられてしまうので、その度に回り込み、そしてまた背けられるを何度か繰り返す。 頑固なの行動に数秒考えると思いきって彼女の膝の上に頭の乗せてしまう。 いわゆる膝枕である。驚いて慈郎を見るに笑って見せると手を伸ばし頭をなぜた。 「だってさ〜合宿行ってる間、会えないんだよ?」 「…でも…」 「うん、我が侭言ってるんだな〜って分かってるんだけどね。ちゃんと毎日会いたいし、 それならって思ったんだ。跡部はね、ちゃんが働き者だから臨時のマネージャーに OKしてくれたんだよ。今までのミーハーな子たちと違うってちゃんと分かってるから。 テニス部のことを考えていいって言ってくれたんだよ」 「テニス部の事…?」 慈郎の言葉に疑問を感じ首を傾げる。それもその筈で話は違うところへと流れていた。 「うん、俺達3年はもう引退だからね。今度の合宿はさ、樺地や鳳、日吉達2年生や 1年生のための合宿なんだ。だから、ちゃんを臨時のマネージャーに推薦したのは レギュラーの世話をするより少しでも練習して欲しいから。ちゃんなら俺達とも 気心しれてるし手際のいい準備して貰えるでしょ?」 むくれていた筈のが大きな瞳でじっと見つめていた。真意を聞き終えると酷く 申し訳なさそうに眉を寄せている。てっきりいつものように慈郎が我が侭を いっただけだと思っていたのだ。 「だからね、俺の我が侭とテニス部の都合が上手く噛み合ったから跡部にお願い したんだよ」 「…どうして…」 「ん〜?」 泣くのを堪えていたの瞳から大粒の涙が降ってきた。ゆっくりと起き上がると 優しく抱き寄せる。よしよしとまるで小さな子どもにするように優しく背中を撫でた。 「…そんな事情なら…どうして普通に説明してくれなかったんですか」 「うーん、だってね。ちゃん案外泣き虫さんだから、もうすぐ中等部と高等部に 別れること思い出させたくなかったんだよ」 「やっぱり、先輩って狡い」 「そんなに俺って狡い?」 「はい、優しくて狡いです」 腕を解いてお互いの顔を見ると微笑みかける。 「俺、そんなに狡くないけどなぁ。これが普通だC〜」 「ふふ、悪い意味じゃないですよ。私はそんなジロー先輩が好きなんですから」 「うん、ありがと〜。俺だってそうやっていつも俺の我が侭につき合ってくれる ちゃんが大好きだよ」 からかったり、甘えたり、優しく思いやったり…それが慈郎の愛情表現。 それが彼らの日常のスタイル。 からかって、からかわれて。甘えて、世話を焼いて。 彼らはそうして毎日を積み重ねた。そして、これからも同じスタイルで 日々を重ねていくのだろう…。 <あとがき> サイト6周年記念企画より連続更新SS第五日目はテニプリからジロちゃんと 学プリのヒロインの2人のお話になりました。 今回のお題は「自らの姿勢」です。 学プリのジロちゃんとヒロインのやりとりが凄く好きでして…。ついSSでも このヒロインちゃんに登場してもらいました。からかったり、うまく甘えたり あの関係が好きなんですよね。 |