うららかなお昼
「気持ちいいな〜」 屋上の重いドアが開いた後、そんな言葉が聞こえてきた。給水塔の裏側で のんびりしてたけど、この声を聞いて思わず立ち上がる。 だって、今の声は 先輩の声だ。 「 先輩ッスか?」 「あれ?赤也。どうしたの、こんな所で」 いつもみたいに笑う先輩に俺もにっと笑って返す。何気なく屋上に 来たんだけど、ラッキーって奴?おあつらえ向きに俺と先輩以外は 誰もいないし。 「いや、気持ち良さそうだから、昼寝」 「あ、じゃあ起こしちゃった?」 「いや、いいッスよ」 部活の時は先輩たちや部活仲間が邪魔でのんびり話せやしない。 帰りに送りたくても、先輩は同じ方向の真田副部長と帰っちゃうから、 俺の出番はなし。だから、こういう時間は貴重だ。部活の時間なら みんなのマネージャーでも今はただの 先輩だから。 「そうだよね、お昼休みもあと10分くらいだし」 「え?あと10分しかないッスか!?」 「何、気づいてなかったの?じゃあ、私が屋上に来て正解だったみたいね」 そう言って笑う先輩は風が気持ち良いのか、手を広げて、何かを 抱きしめようとしてるみたいだった。これが周りに部活仲間や先輩が居る 所ならふざけて、広げられた手の中に入ろうとしただろうけど、流石に 2人っきりの時は出来ない。だって、意識しちゃったら無理っしょ? 幾ら何でもそんな時に抱きつくような真似は出来ない。 つーか、どうせなら俺が抱きしめる側でありたいし。 「どうしたの?」 「別に何でもないッスよ」 俺の言葉を信じていないみたいに先輩は笑う。すっと手を伸ばした先は 何故か俺の頭。軽くぽんぽんとなぜると 先輩がまた笑った。 「な、何なんスか!?」 「うん?何となくしたくなったのよね」 嬉しいんだけど、嬉しくない。先輩に触られるのは正直、嬉しい。 でもさ、これって弟とか下手をすりゃペットみたいな感情の『可愛い』じゃん? ──俺はそんなの望んでない。 いつだって対等でいたい。いや、俺がリード出来るならその方がいいけど。 先輩後輩で、一年出遅れてる俺としては下に見られる事なんて 嬉しい筈がない。 「もうすぐ予鈴なるんじゃない?」 「そーッスね」 何気ない先輩の言葉に相槌をうつ。 先輩にとって何気ない会話の 一つだったんだろう。でも、俺と会話したくないのかって…そうとも とれるだろ?だから、ちょっとふてくされたように目を逸らす。 ガキっぽいってわかってるんだ。わかってるんだけど、いつもみたいに プラス思考に考えられない。何でだか知らないけど、先輩の事だけは 前向きなだけじゃいられないんだ。 やっぱ、俺が年下っていうハンデ持ってるからかな。 「次の授業は?」 「自習ッス。先輩こそ、大丈夫なんスか?」 こんなガキっぽい所はあんま見せたくなくって、今度は笑って返す。 「赤也のクラスも自習なんだ?」 「『も』って事は 先輩もッスか?」 そうなんだよって笑う先輩を見てたら、いい考えが浮かんだ。 「じゃ、ちょーどいいッスね」 「何が?」 分かってない先輩の手を取ると日差しの柔らかな給水塔の裏へと 連れて行く。 「赤也〜?」 「いーから、いーから」 屋上の床を両手で叩くと 先輩の手を引いて座らせる。 「な、何?座って何するの?」 疑問符だらけの先輩が座った隣に俺もしゃがみ込むとにっと笑って見せた。 「だから、何?」 俺はガキっぽいよ? だからさ、覚悟してて。 俺の事ばっか、考えるように仕向けるから。 ごろんと 先輩の膝の上に頭を乗せて、まっすぐ見上げる。 もちろん俺は満面の笑顔のまま。 慌てた先輩が俺を落とそうとしても駄目だよ。 ぎゅっと、しがみつくから。 「ちょ、ちょっと赤也!?」 「昼寝したいんで、 先輩に枕になってもらおうと思って」 「無断でもうしてるじゃない!」 「やったモン勝ち?」 普通に先輩の事好きだなんて言ってやらない。 先輩が俺の事を考えてばっかりになったら、こう言ってやるんだ。 『 先輩、俺の事好きでしょ?』って。 <あとがき> 勝手にお題、第二段です。何、連日赤也ばっかり書いているんでしょうねぇ。 今回のお題は『うららかなお昼』。 別に赤也で書かなくてもいいのでしょうけど、何となくまた赤也に。 今、病気だから仕方ないんだと思ってやって下さい(苦笑) |